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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

結腸切除しても助けられない結腸捻転

2018-07-30 | 急性腹症

日曜日、午前中は2歳馬の喉頭形成・声帯切除の予定。

そこへ、1歳馬の外傷の依頼。

肘部の皮膚の裂創で、大怪我ではない。

「喉の手術が昼ちかくまでかかるし、午後は骨折の手術予定が入っているので、そっちでやれば?」

と訊くが、馬が凶暴で縫合できなかった、とのこと。

喉の手術の麻酔覚醒を待つ間になんとか縫合できるかと来院時刻を指定した。

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喉の手術が始まる頃、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

「鎮静剤も効かず、手がつけられないのですぐ行かせる」とのこと。

喉の手術が終わった2歳馬は覚醒室へ出した。

怪我の馬はレントゲン室へ入れてすぐに全身麻酔した。

処置時間は20分ほど。

獣医師は付いていられない。

幸い牧場から2人来ているので覚醒起立を見てもらう。

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疝痛の繁殖雌馬はPCV57%、乳酸値10mmol/l。

来院したときは馬運車で前搔きしていたが、あちこち擦りむいてひどく痛い。

もう超音波検査も直腸検査もしない、できない。

すぐに開腹する。

大結腸の外見はひどく悪くはない。

しかし、骨盤曲切開部の粘膜は完全壊死。

麻酔モニターでも血圧が低く、昇圧剤や大量輸液にも反応しない。

内容を棄てて、捻転を整復しても色調は変わらず、結腸動脈の拍動も弱い。

これでは、大結腸を温存しては助からない。

結腸動脈を3重に止血し、大結腸を盲腸結腸ヒダ付着部で亜全摘する。

背側結腸と腹側結腸を手早く吻合する。

切除部分でも粘膜は暗黒赤色だったが、筋層までは壊死していなかった。

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午後に予定していた骨折馬は時間をずらして午後3時半に来院してもらった。

3歳競走馬の中手骨外顆の骨折。別な日にというわけにはいかない。

覚醒室で結腸捻転馬が寝ている。

今年一番暑い日だった。

手術室だけにはエアコンがある。

ドアを開けておくと、覚醒室もいくらか冷える。

骨折の手術は一人でやる。

スクリューを2本入れてしっかり固定できた。

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結腸切除した馬の状態が良くない。

立つ意欲はあるが伏臥することもできない。

頭を挙げて、体を起こせず、頭を打ち付けるように倒れる。

手術中に20リットル、手術後も覚醒室で持続点滴するが、手術中も術後も排尿がない。

大量に発汗する。まわりの床がぬれるほど。

朝、8時半に疝痛を発見し、11時半から手術し、2時に手術終了し、それから3時間になるが座ることもできない。

もう苦しむだけなのであきらめることにした。

重症の結腸捻転は、結腸切除しても助けられないことはしばしばある。

忙しい日曜日だった。

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金曜日は、十勝へ馬の「疾病と対策」の講義に行ってきた。

北海道から沖縄まで、全国から集まった経験5年以内の獣医さん達。

ほとんど全員が馬に触れたことはあり、かなりの人が馬に乗ったこともある。

半数は診療区域内に馬が居て、診る可能性はある。

もうこの講習に呼んでもらうのは7年目?なのだが、気がついた。

私の話す内容はレベルが高すぎる;笑

内容をしぼって、もっと基本をていねいに、各地の獣医さんができる範囲を教えた方が好い。

外傷管理も、

馬の疝痛への対処も、

馬の分娩事故への対応も、

牛と馬の骨折治療も、

それぞれが半日から数日かかる話だ。

めん羊、山羊、ダチョウ、の話と並べて聴かされても、ね~

 

 

 


装蹄師会見学と講義

2018-07-26 | 蹄病学

きのうは、装蹄師会の生徒のみなさんが生産地研修の一箇所として来訪。

施設をお見せして、業務を紹介したあと、1時間ほどの講義。

装蹄師さんは、1年間みっちり馬の蹄について勉強して基本を身につける。

もちろん実習もある。

そして、競馬場、生産地、乗馬の世界などそれぞれ希望する業界へ就職する。

獣医師は、馬の蹄についても大きな権限を持っているのだが、さて、装蹄師さんたちと伍していける知識を持っているか?

せめて馬の獣医師になった人だけでも、蹄について真剣に勉強してもらいたい。

馬の蹄に問題があるとき、獣医師と装蹄師が協力して解決に当たることは必要不可欠なことだから。

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奥州平泉を訪ねた。

あまりに有名だが、行ったことがなかった。

金が獲れ、優秀な馬が育ったとは言え、まだ平安時代に京や鎌倉を驚かせるほど栄えたとは。

しかし、つわものどもがゆめのあと。

中央に潰されたとも言えるが、鎌倉幕府は平泉の寺社などを保護しようとしたらしい。

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山形銀山温泉へ。

台湾からのお客様でにぎわっていた。

「いわにしみいるせみのこえ」の山寺立石寺までは脚をのばさなかった。

芭蕉はよく歩いて旅したものだ。

さみだれを あつめてはやし もがみがわ

ほんとに川下りしたのだったか?

 

 


キャストは肢先まで巻く

2018-07-23 | 牛、ウシ、丑

牛の骨折のキャスト固定について、続き。

大動物の骨折をキャストで不動化するときには、いくつかの基本原則を厳格に尊重すべきだ。

蹄はかならずキャストで覆う。

キャストの近位部は骨の近位部で終わる。

<腕節の途中までキャストを巻いたり、橈骨の遠位部でキャストが終わっていたりしてはいけない、という意味だろう。

当たり前のようだが、大腿骨の遠位部までしか巻かないキャストはしばしば見かける。>

肢は通常のポジションにすべきだ。その動物が立っているときの正常な生体力学を尊重する。

不自然な肢の角度はキャストの中で望ましくない圧の高まりを作り出し、痛みがある皮膚の病変を作る可能性がある。

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蹄までキャストで覆え。ということがきちんと書かれている。

in large animals. 牛だけではなく、馬でもだ。

The foot is always included in the cast.

肢先はいつもキャストに含まれる。蹄までキャストで覆え、ということだ。

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neutral position と書かれているが、写真では、肢は牽引され伸展している。

牛が立っているような蹄や球節の角度にしろ、という意味ではない。

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宮古まで走って、そこから遠野へ抜けた。

遠野では「とおの物語の館」へ立ち寄った。

柳田國男について少しは知ることができた。

そこから花巻温泉へ。

新館へ泊まったが、湯治宿の棟も残っていて風情たっぷりだった。

洋犬は似合わないね;笑

この旅行を通じて木々や緑が目に焼きついた。

新緑ではなく、もちろん紅葉でもない。

北海道とは少し植生がちがっていて、たとえばヤマボウシが自生していて満開だったりした。

カシワ林ではなく、ブナ。

それは、道の広さや、人の密度や、集落のあり方など、人の暮らしと歴史が東北と北海道でちがうのを感じるのに似ていた。

 

 

 

 


牛のキャスト固定の対象は?

2018-07-23 | 牛、ウシ、丑

Clinics of North America のBovine Orthopedics からもう少し。

Selection of the Patients 患畜の選択

肢にキャストしようとする前に骨折した動物を注意深く検査すべきだ。

直角となる2方向(背-掌/底方向と外-内方向)のX線撮影で骨折の性状を調べる。

キャスト固定はとくに骨幹部の単純な横骨折、あるいは短斜骨折と、骨端部骨折(Salter-Harris 損傷タイプ1と2)で indicated 望ましい、推奨される、好ましい、妥当である。

骨幹部の開放骨折と長斜骨折の症例でのキャスト固定だけによる治療は、walking barによる補強や貫通ピンキャストの使用などの議論があるところだ。

そして、創外固定 external skeletal fixators として外固定 external coaptation を選択するならキャスト固定技術はより適切かもしれない。

;切開して整復して内固定 the use of open reduction and internal fixation はその骨折により良い安定性を生み出す。

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牛の骨折を何でもキャストで治そうとするのは間違いだ。

Splints and Casts の章を担当して書いている先生でも、対象の選択をきちんと述べている。

そして、ORIF;open reduction and internal fixation の優位性についても述べている。

さらには、キャストを骨格の創外固定として?創外固定までの?固定として用いるなら良いが~と書いている。

私も、日本でときどき報告があるキルシュナーワイヤーを用いた貫通ピンキャストは、キャスト固定よりわずかに固定力が増しただけで、創外固定と呼べるものではないと考えている。

あまりにstabilitiy 安定性・固定力がないからだ。

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X線撮影をして評価するのは当たり前。

それ無しではまともな骨折治療はできない。

X線撮影できない牛診療所は考えた方が良い。

(さらに続く)

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岩手の龍泉洞は行ってみたいと思っていた。

山口県の秋芳洞は高校の修学旅行で訪れたが、その当時でも整備されすぎていた。

鍾乳洞はあまり整備されていなくて、元の未知の洞窟としての迫力がある方が面白い。

タイの洞窟で救助を待っている少年達を思いながら見学した。

コウモリも飛び出してきた。

北海道はコウモリも少ないが、私の少年時代、神戸では夕方にはコウモリが乱舞して帰る時刻なのを教えてくれた。

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年間をとおして気温が安定している鍾乳洞を出ると暑い。

車で留守番をしていた相棒もヤマブドウソフトのおすそわけ。

 

 

 


牛のキャストに綿包帯は要らない

2018-07-23 | 牛、ウシ、丑

牛の骨折内固定の講習に呼ばれると、キャストの巻き方についても質問が出る。

私は、牛のキャストは、

ストッキネットを2重。

綿包帯は要らない。(巻いてはいけない)

球節、副蹄部、キャストトップだけにエバウールシート(外科用フェルト)を当てる。

グラスファイバーキャスト材を転がすように巻く。

固まる前にモールディングする。

蹄尖まで覆うように巻く。

ように答えている。

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しかし、「綿包帯を巻くように教わりました」とか、

「蹄尖は少し出してます」とか、

諸説あって収拾がついていないのが現状のように思う。

こういう基本的なことは、あ~でもない、こ~でもない、と議論する前に本や文献で調べると、

権威者や経験豊富な人が、過去の文献や研究を踏まえた上で、自分の経験をきちんと述べている。

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Bovine Orthopedics, An Issue of Veterinary Clinics of North America: Food Animal Practice, 1e (The Clinics: Veterinary Medicine)
David E. Anderson DVM MS DACVS
Elsevier

以前にも紹介した Veterinary Clinics of North America の Bovine Orthopedics。

その中に、Indication and Limitations of Splints and Casts の章がある。

副木とキャストの適応と限界

書いているのはPierre-Yves Mulon,

Canada、Quebec州の臨床の先生のようだ。

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The material needed to create a cast is very simple: surgical stockinet, protecting felt pieces, and multiple rolls of fiverglass cast material.

キャスト装着に必要な材料はとてもシンプルだ。

外科用ストッキネット、保護するためのフェルト片、そしてファイバーグラスキャスト材数巻だ。

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ね。綿包帯、は書かれていない。

to be continued つづく

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東北の震災のあと、被災地を訪れたいと思っていた。

あちこちを報道でみかけるが、どんなところで、どんな被害があって、復興はどうすすんでいるのか。

「リアス式海岸」は、小学校の社会科で習うほど有名だが、岩手の太平洋側を目にしたことはなかった。