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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

近位趾骨間関節亜脱臼

2012-02-29 | 整形外科

Calra 馬の肢はこうなってしまうことがある。

X線画像で骨だけ見るとひどいが、皮膚の上からの外貌はそれほどでもないことには注意がいるかもしれない。

第一趾骨の足底側に骨片が見えるが、第二趾骨の足蹄側突起部から腱付着部が剥がれたものだろう。

P1221725どうしてこのような亜脱臼が起こるかは、以前に紹介した馬の下肢の腱と靭帯の構成を見ていただくと良い。

足底側(前肢では掌側)に付着している浅屈腱、種子骨直靭帯、近位趾骨関節軸側足底靭帯、軸外足底靭帯などが断裂すると、近位趾骨間関節を固定できなくなって、このような亜脱臼が起こるのだろうと思う。

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これほどひどい亜脱臼が起こると馬はひどい跛行をして、ほとんど負重困難になる。

Dr.Richardsonに相談したところ、「すぐに近位趾骨間関節の固定術をした方が良い。手術をしないなら安楽殺することを勧める。でないと蹄葉炎などのひどい二次的障害が起こる。」とのことであった。

しかし事情で、手術できるとしても3ヶ月後ということになった。

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P1251735 最初は壁にもたれなければ立っていられない状態だったそうだ。

しかし、徐々に痛みは軽くなって、体重をかけると痛いが、歩くこともできるようになった。

ただし、骨と関節はX線画像のような状態なので、このままではいずれ立てなくなったり、深屈腱まで切れてしまったりするだろう。

P1271747手術は腱と靭帯を切断し、完全に脱臼させ、関節を骨癒合させるために軟骨を削り取り、Locking Compression Plate と5.5mmスクリューで固定するという大掛かりなものになる。

感染や術後の痛みも心配なのだが、関節固定術しか治す方法はない。

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Calraope4 私は今回も仰臥位で手術した。

近位趾骨間関節の側副靭帯を切って、屈曲方向へ脱臼させようとしたができなかった。

横方向は完全に切ったので、趾静脈も傷つけた。

これには注意が必要だろう。

内外の趾動脈まで切ってしまったら血行が途絶えてしまうかもしれない。Pipvasucular

亜脱臼してから日数が経つと関節を完全脱臼させられなくなるのは、周囲の靭帯や関節包が固まってしまうからのようだ。

脱臼させないと、関節軟骨の除去がやりにくく、関節を貫くスクリューが関節面に出る部位を確認できないので、ドリルの角度を決めにくい。

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Calraope5 Dr.RichardsonはLCPと5.5mmスクリュー3-4本で固定することを推奨している。

たいへん多くの経験を積んでいる先生だ。おそらく、術後にスクリューが折れた経験をしているからその本数を勧めるのだろう。

しかし、第二趾骨の遠位の幅はそれほど広くないので、スペースに余裕がない。

そしてこの手術のLCPは3穴を使うことが推奨されている。

第二趾骨は短いので、第二趾骨にプレートを留めるスクリューを2本入れることになる4穴や5穴のプレートを使うと、プレートの遠位の先が蹄関節に当たってしまうことがあるからだ。

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内固定後のX線画像をDr.Richardsonに送って評価してもらった。

(つづく)

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今日は、現役競走馬の跛行診断とx線撮影。

入院中の子馬の関節炎の治療。

今週、私は検査当番。

午後、1歳馬の肩跛行のX線撮影。

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P2281884

Staphylococcus

複数形になってStaphylococci

左はStaphylococciのコアグラーゼを簡便に検査するキット。

凝集すると血漿を凝固させる能力があるコアグラーゼ陽性Staphylococciだということになる。

Staphylococciの多くは化膿性pyogenic。

コアグラーゼ陽性だと周囲に壁を作って膿瘍を形成し治りにくい。


健全な蹄とは? そして問題がある蹄とは?

2012-02-28 | 蹄病学

You Tubeにこんなヴィデオクリップもある。

馬の健全な蹄とは?

そして、蹄の異常がわかりますか?

って感じかな。

 馬の種類もいろいろなのだろうし、飼養目的や管理方法もいろいろなので、鵜呑みにはできない。

また、それぞれの写真が詳しく説明されているわけでもないが、

いろいろ見識があってしかるべきだろう。

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YouTube: Can You Recognize Healthy Hooves?

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では、その前に、健康とは何か?

このHPから引用させていただくなら、

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。

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馬の蹄について言うなら、

健全な良い蹄とは、いま痛くないとか、これから痛くなりそうにない、さらなる運動や使役に耐えられそうというだけではなく、

見た目にも、機能的にも、そしてその馬の現在と将来の飼養目的を果たす上で問題となる要因を抱えていないこと。

ということだろうか。

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問題を抱えた蹄や、ひどい蹄を見て、

「痛くならないの?」と聞いても、

「大丈夫だね。」「なんともない。」という答えが返ってくることが多い。

しかし、問題が顕在化、つまり発症してないからと言って、それは健康・健全ということとは違う。

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香港の成果 披裂軟骨小角突起切除

2012-02-27 | 呼吸器外科

  Photo

(左写真はDr.Parenteの講演から。)

Tieback(喉頭形成手術)はうまくいったようでも、披裂軟骨小角突起が虚脱してしまうことがあるようだ。

競走馬は上部気道の吸気・呼気能力を最大限に利用して激しく呼吸する。

その吸気時の陰圧はすさまじく、どこか弱い部分が虚脱をおこしてしまう。

P2241869喉頭形成・声嚢声帯切除手術後、3年にわたって競走してきた5歳競走馬。

それなりの競走成績を納めてきた。

左披裂軟骨も外転して固定されているようだし、

声帯は厚くなり、V字ではなくU字になっている。

しかし、左披裂軟骨小角突起が変形してしまったようだ。

最近、また喉鳴りし、競走成績も振るわないとのこと。

Dr.Ducharmeに相談したら、披裂軟骨小角突起だけの切除も可能だとのこと。

                        -

P2241860 頚部分で気管切開し、気管チューブを入れて吸入麻酔してもらう。

これで喉頭切開創から、あせらずゆっくり手術できる。

喉頭切開創からは呼吸しないので、血が飛び散ったりしない。

鼻からはヴィデオスコープを入れて、喉頭を観察しながら手術する。

ヴィデオスコープは喉頭の中を照らす光源の役割も果たしてくれる。

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P2241865 左披裂軟骨小角突起を切除したところ。

(これは筋突起を残して披裂軟骨のほとんどを切除する「披裂軟骨部分切除術」とは違う)

小角突起そのものは完全に切除するとして、それにつながる披裂喉頭蓋ヒダなどはどれくらい切除するかは難しい判断になる。

多く残せばその組織が虚脱して気道を塞ぐかもしれない。

多く切除すれば外科侵襲が大きくなり、出血も増え、正常な形状が失われる。

硬い軟骨が残っているのでなければ、今はlaserで余剰な組織を再切除することも可能だろう。

それは立位でできるはずだ。

                        -

いくつものHow toは香港Equine Upper Airway Symposiumで学んだ。

Dr.Ducharmeにも教えてを乞えるようになった。

「中華喰いに行ってたわけじゃありませんから」

たしかイタリア帰りのサッカー選手がそんなことを言ってたね。

                      ///////

P2241873 Cornell大学のDucharme教授らがTiebackやTieforward手術に使っている縫合糸を手に入れた。

使ってみようと思う。

とっても高いけど・・・・


ブログ6周年

2012-02-26 | 日常

ブログ6周年を迎えました。

累計アクセス数180万5941、となりました。

日頃のご愛読とコメントに感謝します。

広告は載せていませんので、収入にはなりませんが;笑。

毎日1000名あまりの方に見ていただいているようです。

5000メガバイト使える仕様で、現在約4000メガバイト。

使用率19.99%。

今のところ過去記事が消えてしまうことはなさそうですが、

全体が巨大化すると、カテゴリーやカレンダーごとの検索などが重くなるのかもしれません。

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できるだけ速やかに対処します。


雪の日

2012-02-25 | 新生児学・小児科

P2241857 前日夕方からの雪は、午前中も降った。

午前中、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

続いて、1歳馬の「肩」跛行の診断とX線撮影。

肩・肘異常なし、橈骨遠位関節面に軟骨下骨嚢胞。

トリアムシノロンを関節内注入する。

午後、2歳馬の喉頭内視鏡検査。

続いて、競走馬の披裂軟骨小角突起切除。

夕方、入院馬、3頭の治療。

1歳馬の中手骨骨折。安楽殺の依頼。

夜中、3日齢の新生子馬の疝痛の依頼。

午後11時19分。

変位疝でないこと、膀胱破裂していないことを超音波検査、X線撮影で確かめる。

ところが治療している暇なく、難産の連絡。

午前1時29分。

「横背位」と呼ぶべきどうしようもない胎仔失位P2251883_2

(右 ;図は獣医繁殖・産科学より)。

押し戻してだめなら、切胎もできないし、帝王切開するしかない。

というようなことが成書にも書かれている。

 輸送してきて胎位が変わっていないか、枠場に入れて触ってみる。

胎仔の肩甲骨と肋骨しか触れない。

 全身麻酔して、子宮施緩剤を投与して、押し戻そうとしてみるが、頭も前肢も後肢も触れそうにない。

 帝王切開を決断する。

「こんな胎位になっているのは、胎仔がもう死んでいるか、奇形だからだと思いますよ」

と言いながら。

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午前2時40分に帝王切開を始めた。

なんと子馬は生きていた。

が、もちろん状態は良くないので気管吸引、人工呼吸、気管挿管、酸素吸入、etc.に人手がかかる。

帝王切開は一人でやらざるを得ないが、約1時間で終わった。

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4組6頭の入院馬に、新たに2頭加わることになるが、入院厩舎に親子入院用の広い馬房がもう空いてない。

子馬の状態も良くないので、覚醒室で酸素吸入しながら治療看護することにする。

P2251876 母馬に自分の子どもだと認めてもらえるように、

せっかくきれいに拭いて乾かした子馬に羊膜をかぶせる。

お母さん馬が、自分の子馬をどうやって認識しているのかはわからない。

たぶん、匂い、それも尿か、羊水か、汗か、わからないし、分娩の痛みか経験か、哺乳行動か、オキシトシンか、その他のホルモンのなせる業か、わからない。

人が一番間抜けで、産院で赤ちゃんを取り違えても気づかない。などと、怒られるようなことを考えるのは、たぶん寝ていないせいだ・・・・・笑。

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重症の眼科症例の検査のあと、関節鏡手術の練習。

こういう生活を面白く、やりがいがあると思える人、募集中です。