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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

慢性蹄葉炎の治療 最新の成書

2013-06-30 | 学問

P6304541 慢性蹄葉炎の治療や蹄管理方法については、まだいろいろ議論があるところだ。

私が深屈腱切断の効果を云々しようが、

深屈腱切断後のデ・ローテーションの方法を唱えようが、

そう簡単に普及し、治してもらえる馬が増えるとは思っていない。

その状況は海外でも同じことなのかもしれない。

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Veterinary Clinics of North America はよいシリーズだ。

最新の獣医学的課題について、その分野のトップランナーが分担して執筆している。

2刊に分かれて蹄葉炎分野での最新の情報が提供されている。

慢性蹄葉炎の治療と管理についてScott Morrisonもたいへん丁寧で、かつ最先端の情報を提供してくれている。

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P6304539 さて、その写真の1枚。

A.かなりローテーションした慢性蹄葉炎。

B.蹄踵部を削る。

C.Aの写真にどのように削蹄したかラインを書き加えたもの。

蹄骨の底のライン(赤線)を引く。

それに平行に蹄踵を削り新しい蹄底を設定する(青線)。

蹄骨の先っぽが反回ポイントとなるように、蹄冠から垂線を降ろす(黄線)。

E.蹄底に接着とグラスファイバーで、デローテーションした蹄鉄を着けた。

F.そのX線画像。

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P6304540 これもScott Morrisonの同じ文章の中の写真。

左端は蹄骨の先端が蹄底を突き破ったX線画像。

中央は、それをデローテーションさせたところ。

もちろん深屈腱切断をしなければこんなことはできない。

そして右は3ヶ月後。

見事に治療計画は達成されている。

文句あるか?

しかし、深屈腱を切れば勝手にこうなるわけではない。

様々なHow to と、日々の管理が必要なことは言うまでもない。

Scott Morrisonも書いている。

まだ、「議論があるところだ」と。

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P6304546_2


慢性蹄葉炎の治療 削蹄

2013-06-27 | 蹄病学

14 16 右前肢。

左が処置前。

蹄尖部は大きく切除したい。

しかし、反回ポイントを蹄骨の先端へ持ってくるほど切除したら、蹄尖部の蹄壁はなくなるか、あるいは蹄尖部で蹄が割れてしまいかねない。

それで、右のように削切した。

P6234516_2蹄冠下には溝を掘って、蹄冠を圧迫しないようにした。

蹄踵部もやすりで削って、できるだけ体重を支え易いようにした。

蹄叉は傷んでしまっている。

しかし、右はまだましだ・・・・・・

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11 13 左前は蹄骨のローテーションも、蹄骨の磨耗ももっとひどい。

反回ポイントを蹄骨の先に持ってくるためには、蹄尖部の蹄壁は全部とってしまうことになる。

そんなことはできないので、

できるだけ切り落として、こちらも溝を掘った。

肢を長くは挙げていられないので、P6234509 傷つけてもかまわないゴムマットの上でグラインダーで削り落とし、蹄鉄もはずした。

P6234512 蹄叉先あたりは自潰して臭い膿が出ていた。

ACSを着けたままにしておくと、蹄底が蒸れてこうなりがちだ。

こういう馬を何度も診ているので、私はACSを好まない。

着けるならちゃんとはずすことを指示しないと、ACSをはずすときが廃馬の決断の時ということになる。

蹄底がグチャグチャになり、感染でひどいことになっていたり、割れて蹄骨が露出していることがしばしばある。

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このあとは蹄支、蹄叉、で体重を支えていけるかどうかだ。

できれば蹄側壁を使って、蹄踵へ伸ばした特殊な装蹄をしたいところだが、そうできるようになるかどうかはわからない。

鎮静剤と局所麻酔が効いているせいもあるが、少なくとも来たときよりは痛くなさそうにトラックまで歩いて帰っていった。

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今日は雨模様だった。

P6254527 週間予報では雨にはならないはずだった・・・・

牧草は雨に当ててしまうとダメになる。

難しいもんだ。

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これは昨々日の様子。


慢性蹄葉炎の治療 深屈腱切断手術

2013-06-26 | 蹄病学

慢性蹄葉炎の蹄がどうして痛いか判断するのは難しい。

・蹄骨が蹄壁から剥がされる痛み。

・蹄骨と蹄底がお互いに圧迫する痛み。

・蹄の虚血の痛み。

・慢性蹄葉炎の蹄はしばしば感染している。その痛み。

・蹄骨から?がれた蹄尖部の蹄壁が蹄冠に食い込む痛み。

などが考えられる。

これらを何とかして楽にしてやりたいわけだ。

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なら切神術(神経切断手術)は?

おそらく痛みを感じなくすると馬は歩きまわり、そして蹄葉炎の蹄は完全に壊れてしまう。

蹄底が割れて蹄骨が飛び出し、あるいは蹄壁が完全に取れてしまう(脱蹄)。

痛みはこれ以上やったら壊れてしまうという防御反応でもある。

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蹄骨がローテーションしているのが慢性蹄葉炎だと定義されている。

蹄骨がそれ以上ローテーションしないようにするために最も有効な手段は深屈腱の切断だ。P2150895

運動機能を期待したい馬ではなかなか決断できないだろうが、繁殖雌馬や種雄馬ではその点で躊躇する必要はない。

今は鎮静・鎮痛・局所麻酔の方法も上達し、立位で深屈腱切断することができる。

右図はManual of Equine Field Surgeryより。

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深屈腱切断後、蹄尖が浮いてしまう馬もいるし、そうはならない馬もいる。

この違いがどうして起こるか私にはわからない。

蹄型の問題でも、年齢の問題でもないように思う。

                         -P4252004

が、蹄骨をローテーションさせる方向へ引いていた牽引はなくなる。

蹄への荷重は一気に踵部へ移る。

で、装蹄とか削蹄をし直す必要があるし、そのことで馬は楽になる。

(右写真は少し前の慢性蹄葉炎症例)

(つづく)

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P6264533 光沢がなく、くすんだ色をしていて、

もっても妙に軽いピンセット。

どこかの潰れた病院か、使われなくなった外科病棟からもらったのだと思う。

安っぽいな、と思っていたら・・・・

P6264531 チタン製だ!?

チタンは軽くて錆びないが、高価で、加工が難しいらしい。

私がトライアスリートだった頃、チタン製の自転車フレームは高くて買えなかった。

このピンセットも古いはずなので、きっと高級品だったのだろう。

私、違いがわからない男です。

でも、ピンセットを重く感じるようになったら外科は引退した方がいいナ。


慢性蹄葉炎の評価

2013-06-25 | 蹄病学

P6234506 もう3年くらい前から蹄が痛いという繁殖雌馬14歳。

この4月の分娩後にひどく痛くなったが、それまではそうでもなかった。とのこと。

そんなはずはないと思うが・・・・

何とか歩けるとのことで来院してもらった。

P6234507 右前肢はこんな感じ。

サラブレッドの場合、幅の細い魔法使いの靴とか、アラビアの靴のようにならず、このような「ホタテ」状態になるのが慢性蹄葉炎のなれの果てかもしれない。

P6234508 左は装蹄して、アドバンスドクッションサポート ACSも入れてある。

しかし、1ヶ月近く前に装蹄してもらったが、楽にはならなかった。と飼い主さんの弁。

こういう蹄を観ても、蹄の中で蹄骨がどれくらいローテーションしているか外見から判断することは装蹄師さんにも、獣医師にもできない。

だから、蹄葉炎の評価にはX線撮影が必要になる。MRIが使えるなら別だけど。

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14 右。

蹄骨は著しくローテーションしている。

蹄骨の先は蹄底からの圧迫で磨り減っている。

蹄尖部の蹄角度は寝過ぎていて、蹄尖部は伸び過ぎている。

もはや蹄尖部は負重の役に立ってはおらず浮いてしまっている。

蹄踵部も伸びすぎで、蹄支も前へ出すぎていて、このままでは負重しにくい。

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11 左。

こちらも同じだが、こちらの方が程度がひどい。

蹄骨の背側壁はほとんど垂直に立っている。

蹄骨の磨耗もこちらの方がひどい。

装蹄師さんも苦心してくれたのだろう。

反回ポイントを少しでも後へ下げようと特殊な蹄鉄を着けてくれているが、蹄骨の先端ははるかに後。

もっとも装蹄したのは1ヶ月近く前だからそれからさらにローテーションが進んだ可能性もある。

(実際にはそうは思わない。蹄底の膨隆部の様子や蹄骨の磨耗の仕方、蹄骨内の空洞がさほどないことから見て、この馬はひどくローテーションしてからの時間が長い。)

右前も左前も深屈腱を切断すれば蹄骨はデ・ローテーションできる。

左前のこの蹄鉄ははずして蹄尖部は大きく切除して、蹄踵部で負重できるようにすれば、蹄葉が剥がされる痛み、蹄骨の先端が蹄底から圧迫される痛み、過長な蹄尖部が反回時に蹄冠部に食い込む痛み、などを減らせるはずだ。

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15 12 正面からのX線撮影と評価も忘れてはいけません。

右も左も蹄側部もつぶれて伸び過ぎている。

左前は、蹄骨は内側へ落ちている。

内側の蹄葉ももう蹄骨を支えらないのだろう。

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この繁殖雌馬は5月に交配され受胎確認されている。

このまま諦めるというわけにはいかないのだろう。

来年、お産をしたら乳母をつけても良いとのこと。

やれるだけのことをやってみることにする。

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P6234517 緑の絨毯を維持するのも実はたいへんだ。

すぐに好ましくない草が生えてくるし、

収穫適期に牧草作業をしなければならないが、乾草を作るのに適した天候が続くとは限らない。

今、牧草作業真っ盛り。

馬の診療どころではない。という牧場も多いが・・・・

それでは手遅れになる馬も多い。


6月の日曜日

2013-06-23 | 日常

  朝一で、外傷。P6234497

6月になって3-4日に1頭は外傷が来ている。

今日の症例は、馬房内で水桶にひっかけたらしい。

柔らかいゴムのバケツで水も餌も与えるようにしたら事故は減るように思うが・・・・・

どんなもんでしょ?

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予定の患畜は、

P6234500 当歳馬のALD Angular Limb Deformitiy .

中足骨の外反と、球節での外反。

中足骨遠位成長板の内側にスクリューを入れて成長を阻害する。

中足骨の外側の骨膜を剥離して成長を促進する。

外側の成長が促進されるかどうか疑わしいが、少なくとも骨膜を剥がしたところには骨が形成されて盛り上がるので、観易くなる。

蹄にエクステンションも着けた。

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次いで、GPM Guttural Pouch Mycosis の再検査。

もうほとんど完治ということで終診とした。

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午後は、1歳馬の胸前の血腫切開後の腫脹の相談。

                       -

次いで、繁殖雌馬の両前肢の慢性蹄葉炎。P6234508

もう3年越しらしい。

馬は歩行を嫌い、ヨチヨチ歩き。

もう痩せてきている。

この蹄葉炎馬をどう治療するかは、そのうち少し詳しく紹介したい。

                       -

3時半から、当歳馬の内股の膿瘍切開。

できるだけ診療室を病原菌で汚したくないが・・・・・

超音波で病巣の広がりを確認しておいて、切開したら黄色い粘り気のある膿があふれ出した。

シュークリームとか・・・イチゴミルクとか・・・食べられなくなる・・・

なんてことはないんだな。これが。

獣医科学生だった頃、実習で大量の回虫を観たあと、スパゲティが食べたくなって、同級生とスパゲティの大盛りを食べに行った。

おかしいんです。私たち;笑。

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それ以外に今日は草刈をした。

とてもはかどった。

今日一番の成果だな。

                        -

というわけで競馬は観れなかった。

ゴールドシップ!!! おめでとう!!!

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P6234495

朝、外傷で呼び戻されるまでの時間、相棒と山の道を散歩。

朝の日差しと、濃さを増した緑と、蝉と野鳥の声が夏だった。

楽しく坂道を登って行った。

相棒もあちこち首をつっこみ、

臭いを嗅いで、

斜面を走り回り、大満足。

でも、P6234494

この足跡を見たので、

しばらくはこの道には行かないことにします。

か、次は熊避けスプレーを持っていくことにします。

たぶん相棒は、

ワンっと吠えた後、

とうちゃんの後に隠れるようなヤツなので

頼りになりませんから;笑。