馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

疫学情報の価値

2013-08-31 | 疫学

ちょっと先日の続きでもある。

診断はかなり疫学情報に頼っている。

どんな病気が多いとか、この症状ならどんな病気だろうとか、疫学情報は診断の役に立つ。

診断だけでなく、予後判定も、今まで経験した何十例のうち何頭は治ったとか、どうなったとか見当がつく。

だから、疫学情報を記録しておくことは臨床獣医学にとって意義がある。

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さて・・・・

馬はほかの動物に比べて腫瘍は少ないとされていたりする。

しかし、飼われている動物種によって年齢層が違うので単純にはというか、ほとんど比較にならないように思う。

近年、イヌやネコは高齢化が著しくて、腫瘍がとても多いらしい。

しかし、どんどん消費される食用動物foods animal では高齢になることが少ない。

馬は・・・その国で飼われているのが、競走馬なのか、乗馬なのか、あるいは愛玩用なのかで年齢構成もかわるだろうし、馬の種類もかなり異なる。

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だからUSAなどでは、馬の腫瘍の発生率などと言っても簡単には算出できないのだろう。

あまりにも飼養されている馬の品種も、目的も、頭数も、さまざまだから。

そこへいくと、家畜共済制度が普及し、飼われている頭数や年齢構成が把握されている日本では、罹患率、発病率、致死率などが算出しやすい。

そのことは、獣医学的にも価値がある情報なのだと思う。

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前置きが長くなった。

おまけに支離滅裂になった。

今日は前置きだけにしておこう・・・・・・

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Photo
寝る前の数十分、否たぶんたいていは10分以内・・・

読みつないで読み終えた。

以前から読んでみようと思っていたが、なんとなく後回しにして来た。

ハンガリーの大学の獣医学教育を受けている実習生が来たり、

コンラート・ローレンツ博士の本を読んだりしたので、この本も読んでみる気になった。


診断はかなり経験と疫学情報に頼っている

2013-08-30 | 急性腹症

2歳馬が朝から疝痛で、昼すぎに来院した。

順調に調教されている馬。

だから便秘する理由はない。

朝飼いを食べてすぐに疝痛が始まったらしい。

これは結腸左背側変位のひとつの特徴でもある。

重くなった胃が結腸を押しのけて沈みこみ、3d

結腸は胃にくっついて沈んできた脾臓の背中側へひっかかるのだろう。

案の定、体表からの超音波画像検査で左の腎臓が見えない。

血液はさほど悪くないし、痛みもひどくはないので、もっと待てなくはないが、

手術が遅れれば、全身状態も結腸の状態も悪くなるだろう。

結局、開腹して正解。

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繁殖雌馬が夜飼い前に疝痛をした。

鎮痛剤投与で落ち着いたが夜中にまた痛くなった。

胃カテーテルを入れたら胃内容が回収できたとのこと。

来院して超音波検査すると小腸閉塞を確認できた。

血液検査所見はさほど悪くないが、開腹手術を決断した。

小腸捻転だったが、腸管はチアノーゼを起こしてはいなかった。

整復だけで済んだ。

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その繁殖雌馬が手術から2日後、もう退院していたのだが、また疝痛を起こした。

超音波検査してもはっきりした異常所見は確認できなかった。

しかし、痛みは治まらなかった。

数時間経過を観て再開腹手術を決断した。

今度は結腸捻転を起こしていた。

それも結腸の中ほどで・・・・

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おまけ。

黒毛和種子牛が朝から疝痛。

寝たり起きたりして、お腹を蹴るしぐさもするという。

超音波検査すると、小腸閉塞像が見えた。

開腹手術すると、盲腸が気脹していた。これはガス抜きした。

そして、空腸上部が色が悪くなっていた。

根部捻転?

ほかには著変なし。

疝痛と腸閉塞が治まるか不安だったが、その後、元気になったとのこと。

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Photo診断というが、かなりは疫学というか、経験に頼って見当をつけている。

便秘するはずがない状況の育成馬が、食餌後に疝痛が始まったら結腸左背側変位じゃないか?

とか、

小腸閉塞で胃液が逆流するようになったら、もう手術した方がいいな。

とか。

だから、小腸捻転手術2日後の結腸捻転とか、

子牛の小腸捻転とか、あまり経験がないことに出会うと戸惑う。

動物種が違うとなおさらだし、

飼養環境がちがうだけでも経験則は役に立ちづらい。


橈側手根骨盤状骨折のスクリュー固定

2013-08-27 | 整形外科

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2歳、未出走。

腕節を骨折して手術のために競馬場から帰ってきた。

第三手根骨が剥離骨折 chip fracture しているが、

もっとおおごとなのは橈側手根骨が盤状骨折していること。

おまけに掌側関節腔にも骨片がある。

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盤状骨折は第三手根骨に多い。

関節面の辺縁が破片状に割れるのではなく、

手根骨や足根骨の近位側関節面から遠位側関節面まで塊状に割れる骨折を slab fracture

と呼んでいる。

slabとは広い面を持つ大きな塊、あるいは「厚い」板のこと。

薄い「板」ではない。

だから盤状骨折とすべきだと私は思う。

18lag screw 法で内固定した。

第三手根骨盤状骨折とやりかたは同じ。

骨が大きいぶん、やりやすいかもしれない。

が、この症例、骨折してから2週間以上経っている。

完全に圧迫するのは難しい。

あまりスクリューを締めると骨片が割れてしまうかもしれない。

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なんとかうまく固定されたように思う。

掌側関節腔にも関節鏡を入れて観察したが、骨片は見えなかった。

手探りでつかみ出そうとやってみて、管を入れて洗ったが、骨片は完全にはなくならなかった。

関節面から離れていれば悪さはしないだろう。

盤状骨折を癒合させるために、どのみち6ヶ月以上完全休養しなければならない。

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そのあと、当歳馬の橈骨神経麻痺。

X線撮影もしなかった。

前肢にまったく負重できないように見えるが、腕節を押さえつけてやると負重できる。

橈骨神経麻痺で上腕三頭筋が使えないので肘が下垂してしまい、腕節を伸展させられないので負重できないだけだ。

治るかどうかは・・・・経過を観ないとわからない。

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午後は喉頭片麻痺の手術・・・と思っていたら、2日前に退院していった繁殖雌馬がまた疝痛で再来院。

様子を観ていたが、やはりかなり痛いので飛び入りで再開腹手術した。

今度は結腸捻転を起こしていた。

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やれやれ、なんだか疲れてしまった。

と思ったら、1ヶ月前に開腹手術した当歳馬が再来院。

やれやれ。

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とうちゃんは

もう君のように泳ぐ元気はない

ただ流れに身を任せ

下って行くだけサ;笑

 


体調不良と吸血昆虫と蕁麻疹

2013-08-26 | 皮膚病

今日は、

2歳馬の副管骨の若木状骨折。

診察の結果、手術はしないで運動を始めてみることになった。

続いて、1歳馬の飛節の細菌性関節炎ほか、複数肢に複数の障害。

おまけに蕁麻疹も。

夏バテというか、昼夜放牧バテもあるのだろう。

午後は、血液検査をして、

2歳馬の腕節chip fracture の関節鏡手術。

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左は疝痛で来院した繁殖雌馬の蕁麻疹。

蕁麻疹は体調不良のときに出ることがある。

というか、蕁麻疹が出ると皮膚だけでなくほかの症状も併発することがあるのかもしれない。

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右の馬も、7月に来院した。

別に蕁麻疹で来院したわけではない。

吸血昆虫にたくさん刺されるのも蕁麻疹の原因になる。

私もロッククライミングをしていたとき、

ひどくヌカカに刺されたことがある。

たくさんのヌカカが寄ってきたのだが、岩に張り付いて攀じ登っている最中だったので追い払うこともできなかった。

家へ戻ってから数日間、ひどい蕁麻疹に悩まされた。

体中のあちこちが服と擦れたりしただけで赤く台地上に腫れ上がった。

あの頃は、抗ヒスタミン剤を飲むなどという知識もなかった。

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朝、夕はすっかり涼しくなった。

アブの季節もそろそろ終わりだろう。

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けばけばしい。

ちょっと毒々しいほどに。

こういうのは苦手だな・・・・

いや、女性じゃなく、

花の話;笑。


近位指骨・趾骨間関節症の原因

2013-08-23 | 整形外科

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近位指骨・趾骨間関節を関節固定術しなければいけなくなるのは、

脱臼・亜脱臼

骨関節炎 Osteoarthritis (変形性関節症 Degenerative Joint Disease)

基節骨遠位・中節骨近位部の骨折

など。

(左上;近位趾骨間関節のDJD)Pa261572

脱臼や骨折の場合はできるだけ早
く近位指骨・指骨間関節を固定してやったほうが良いだろう。

(右;近位趾骨間関節の脱臼)

亜脱臼や変形性関節症の場合は、quality of life と保存療法への反応を観て判断することになる。

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骨折や脱臼・亜脱臼はアクシデントだとして、近位指骨・指骨間関節の変形性関節症はどうして起こるか?

若い馬で診るのは、基節骨の遠位に骨嚢胞がある場合。

放置していると関節全体に骨関節症が起きてくる。

細菌感染も誘因になるかもしれない。

細菌性関節炎そのものが命に関わる病気だが、自然治癒したり、治療に成功しても後遺症として変形性関節症が起こることが考えられる。

ほかにはこの関節に負担がかかる運動を続けること。

ウェスタンのジムカーナやレイニングのように小回りや急発進急停止を繰り返すのはこの関節の負担になるだろう。

肢勢の悪さも要因になるだろうと思う。12

(左;近位趾骨間関節で外反している。

DJDの結果としてこうなったのか、外反していたからDJDになったのかはわからない。)

繫の肢軸の前方破折、後方破折、繫部での内反・外反。

そして、蹄の問題もこの関節に負担をかける。

大きすぎる蹄、伸びすぎた蹄、内外バランスがおかしい蹄は、この関節に無理な力をかけることにつながる。

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・・・・・・・・・?

〇×△■◎※?

異種類だとほとんどコミュニケーションできないらしい。

イヌとネコが、一緒に飼われていても仲良くできないことが多いようだが、

ボディランゲージでの尻尾や耳の使い方が違うので、お互い信頼関係を築けないという説もある。