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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

今日は大学で講義

2006-06-30 | How to 馬医者修行

Photo_106 晴天のもと、牧草刈りを横目で見ながら大学へ。

Photo_107 途中、お気に入りの場所では川べりに中学生の集団が居た。

PFD(救命胴衣)をみんな着けているので、ただの川遊びではなさそうだ。

これからカヌーに乗るのか、ラフティングでもするのか?

くっそー、今度は遊びに来るぞ!!

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 1時から4時まで馬の臨床についての講義。

「日本の馬の現状」

「馬新生児学」

「馬内科診断学」

「馬外科学」

が内容。

5年生相手だが、ほとんどは馬の臨床には興味はなさそうだ。

大動物の臨床にも興味はなさそうだ。臨床にも興味はなさそうだ。獣医学にも興味は・・・・あるのか?

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Photo_108 Photo_109 帰り道、何と言う夕焼け。

わずか数分で変わっていく空の色。

水色からオレンジへ。

オレンジは群青へ。

Photo_110 そして、紅のまま暗くなっていった。海まで赤く染まっていた。

手術室にこもっていなくて良かっただけもうけもの。カナ?


重輓馬のTieback

2006-06-29 | 呼吸器外科

Photo_103 輓馬の喉鳴りの手術を頼まれた。

輓曳競馬も無酸素運動ではなく、酸素摂取能力がものを言うようだ。

息が苦しくて止まってしまうのだと言う。

しかし、この1トン近い馬を手術台にうまく横臥で乗せる自信がなかった。現役の輓馬の開腹手術で、仰臥で乗せたことはあるのだが、横臥で乗せるのは難しい。

Photo_104 それで、倒馬室でマットに乗せて手術することにした。大きいことは大変だ!

首の形が違う、皮膚が分厚い、など違いはさして問題ではなかった。

重輓馬は、軽種馬より軟骨が固いとされている。そして、酪農学園大田口先生のグループの発表によれば、年齢とともに固くなるのだそうだ。

披裂軟骨も牽引しても開きにくいと聞いていた。Photo_105

1左が術前の内視鏡写真。 向かって右(左)の披裂軟骨が麻痺して垂れ下がっている。

SECUROSの Tieback kitを使って披裂軟骨筋突起を輪状軟骨へ牽引した。

右が術後の写真。左(向かって右)の披裂軟骨は外・上へ牽引されている。

この馬は若かったせいか、軽種馬より開きにくいという感じはしなかった。

サラブレッドには最近はたいてい声嚢声帯切除も併用しているが、この馬は真っ直ぐ長距離輸送しなければならず、術後も心配だったのでTiebackだけにした。

輓曳競馬での活躍を願う!!

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 昨年、春に疝痛で開腹手術をした現役輓馬はその年の内に勝鞍をあげたそうだ。みんな680kgをはるかに超す馬たちである。

診療室の床が破れそうで、不安なのだが、腕力だけは鍛えておいて、恐る恐るやってみるか・・・・・・

しかし、冬鉄(雪や氷の上で滑らないようにブロックや刻みが付いている)履いてきたら診療室には入れませんからね!!

                            


大きいことは大変だ

2006-06-28 | 学問

 最新の文献を紹介したい。アメリカ獣医師会雑誌の最新号(といっても5月号だが)。

Journal of American Veterinary Medical Association, 228, 10, 1546-1550, 2006.

重輓馬の急性疝痛症状の外科的治療の評価:72症例(1983-2002年)

目的-急性の疝痛の外科的治療をおこなった重(680kg以上の)輓馬が軽い(680kg未満の)輓馬より、麻酔、術後の併発症リスクが多く、術後の生存率が低いかどうかを調べること。

デザイン-回顧的症例調査

動物-72頭の輓馬

方法-1983年の10月から2002年の12月に急性の疝痛症状で探査的開腹手術を行った輓馬の臨床記録を検証した。繁殖学的異常の修復のために開腹手術した輓馬の臨床記録はこの研究には含めなかった。

結果-軽い輓馬と比べて、重輓馬は麻酔時間が長く、術後の併発症が多く、生存率が低かった。麻酔から覚醒した76%の馬が術後の併発症を有していた。生存率の低さに関係する術後併発症は筋損傷と神経損傷、腸閉塞、下痢、そしてエンドトキセミアであった。術後に筋損傷と神経損傷を起こしたすべての馬は死亡するか殺処分された。麻酔から覚醒した馬の短期の生存率は60%であった。小腸の手術を行った馬は大腸の手術を行った馬より短期の生存の予後が悪かった。長期(1年以上)の追跡調査ができた馬の生存率は50%であった。

結論と臨床的関連-急性の疝痛で外科手術を行った、680kg以上ある輓馬は、680kg未満の輓馬より、麻酔時間が長く、術後の併発症が多く、死亡率が高かった。

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Purdue(イリノイ州立パデュー大学;バーデュではないそうだ。Purdueに居た人に聞いたので間違いない!)からの論文。

大きいこと、重いことは、それ自体で大変だし、難しいのだ。

われわれ大動物獣医師は、もっとそのことを認識してもらうように努力した方が良いと思う。

牛や馬を扱うのはそれだけで大変なのだ。40cm縫うのは、5cm縫うよりはるかに時間がかかる。

と、以前小動物の先生達がいるところで言ったら、袋叩きにあった。

「小さい動物は小さい動物なりの難しさがあるんですよ!」「チワワの骨折固定や、腸管吻合は小さくて難しいんですよ!」

で、ブログで言い返しておこう。

やっぱり大きい方が大変なんだよ!!


内頚動脈結紮 for GPM

2006-06-27 | その他外科

 馬が突然大量の鼻出血を起こす。疑われるのは真菌性喉嚢炎(Guttural Pouch Mycosis)。

その昔は診断することもできなかった。20年以上前。

内視鏡を喉嚢へ入れられるようになって診断できるようになった。17・8年くらい前。

内科的な治療をいろいろやってみたが、半数くらいは出血で死んでしまう。それで、動脈の結紮手術をするようになった。15年くらい前。

Gpm 左は喉嚢の内視鏡写真。これは右喉嚢の写真。

真ん中正面に舌骨があって、内側と外側を分けている(チョッと写真が時計回りに回転している)。

黄色い膿が付いているが、これが喉嚢炎病巣。ちょうど内頚動脈の上に病巣ができている。

動脈壁が真菌に破壊されると動脈性の出血を起こすわけだ。

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 それでとりあえずは内頚動脈を縛って、血流を止めることを試みる。

P4210058 左は馬の頭へ行く血管の分岐を示した解剖図。

獣医さんたち、内頚動脈がどれかお分かりか?

手術は環椎(第一頚椎)翼上を切開し、耳下腺の後からアプローチする。

P4210060 頚動脈の拍動をめざして軟部組織を鈍性に剥がしていく。

この部分で最初に分岐しているのが内頚動脈。すぐその後(頭より、末梢側で)後頭動脈が分岐している。

実際の手術時には後頭動脈はこの図のように後へ向かっているわけではなく、内頚動脈との区別のためには、先に分岐し、奥へ走っているのが内頚動脈であることで判別する。

                     ところが!

P4210059 世界的に有名な馬の解剖の教科書であるこの本の図は、内頚動脈と後頭動脈の交差の仕方が逆になっている。

解剖の先生、しっかりしてよ。外科医はあなた達をたよりに手術してるんですよ。

ちなみに、私の経験では10頭に1頭以上、内頚動脈と後頭動脈が一緒に分岐する奇形の馬がいる。そうなると、動脈の正常な分岐の知識もお手上げ。

後頭動脈も一緒に縛って良い。と書いてある文献もあるが、私は分岐が奇形でも内頚動脈を判別できるようになった。

どうしてそれが必要で、どうやって判別するかは、また今度。


セリのX線撮影、結腸捻転、そしてW杯

2006-06-26 | 急性腹症

 日曜日は朝からセリのためのX線撮影を4頭。1頭あたり36箇所、撮る部位が決められていてる。鎮静剤をうって撮影するが、肢にカセッテが触れると蹴りに来る馬もいて、楽な仕事ではない。

撮影する人、カセッテを持つ者、現像役。獣医師3人でやるので効率は良いが、それでも1頭1時間以上かかる。

すでに獣医師も、牧場の人も、蹴られた。

こんなことを要求するなら、前々から知らせて、それなりの馴致をしなければ危ない。

作業量としても相当なので、カセッテや撮影装置や場所や人員も用意しておかなければいけない。

そして、セリ当日、レポジトリーしたX線フィルムや喉の動画を、誰がどのように見て、どのように評価して判断するのか。

欧米並みのセリを。というのはわかるが、それなら欧米並みに売れた馬はその場で置いてこれるようにするべきではないか。

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P6250055 その後、繁殖牝馬の疝痛。ひどくはなかったが、結腸捻転だった。

8時を過ぎて家に帰り、W杯のハイライトを見て寝ようかと思っていたら、また呼ばれた。

また、繁殖牝馬の結腸捻転。今度のは、中程度。か?

1時に帰って、睡魔に襲われる間に、ベッカムのFKを生・中継で見た!

目茶目茶な生活のお陰。かな?

アトランタオリンピックで日本がブラジルに勝った試合は平日の午前中だったのだが、徹夜明けで家に遅い朝食を食べに帰っていて、あの伝説のゴールや川口のスーパーセーブを生・中継で見た。

オリンピックやW杯に行っている人もいるというのに、生中継で見れたことを喜んでいる私は・・・・・トホホ

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P6250053 乾燥糸ミミズをバクバク食べたと思ったら・・・・(左)P6250054

腹を上にして浮いて動かなくなった(右)。

喉に詰まったのかと思ったが、考えたらエラ呼吸しているのに喉に詰まって苦しいということはないだろう。

どうも、泡も一緒に飲み込んだので、腹の空気でバランスが取れなくなったらしい。しばらくすると元に戻った。

よく噛んで食べないと体に悪いゾ。