馬が突然大量の鼻出血を起こす。疑われるのは真菌性喉嚢炎(Guttural Pouch Mycosis)。
その昔は診断することもできなかった。20年以上前。
内視鏡を喉嚢へ入れられるようになって診断できるようになった。17・8年くらい前。
内科的な治療をいろいろやってみたが、半数くらいは出血で死んでしまう。それで、動脈の結紮手術をするようになった。15年くらい前。
左は喉嚢の内視鏡写真。これは右喉嚢の写真。
真ん中正面に舌骨があって、内側と外側を分けている(チョッと写真が時計回りに回転している)。
黄色い膿が付いているが、これが喉嚢炎病巣。ちょうど内頚動脈の上に病巣ができている。
動脈壁が真菌に破壊されると動脈性の出血を起こすわけだ。
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それでとりあえずは内頚動脈を縛って、血流を止めることを試みる。
左は馬の頭へ行く血管の分岐を示した解剖図。
獣医さんたち、内頚動脈がどれかお分かりか?
手術は環椎(第一頚椎)翼上を切開し、耳下腺の後からアプローチする。
頚動脈の拍動をめざして軟部組織を鈍性に剥がしていく。
この部分で最初に分岐しているのが内頚動脈。すぐその後(頭より、末梢側で)後頭動脈が分岐している。
実際の手術時には後頭動脈はこの図のように後へ向かっているわけではなく、内頚動脈との区別のためには、先に分岐し、奥へ走っているのが内頚動脈であることで判別する。
ところが!
世界的に有名な馬の解剖の教科書であるこの本の図は、内頚動脈と後頭動脈の交差の仕方が逆になっている。
解剖の先生、しっかりしてよ。外科医はあなた達をたよりに手術してるんですよ。
ちなみに、私の経験では10頭に1頭以上、内頚動脈と後頭動脈が一緒に分岐する奇形の馬がいる。そうなると、動脈の正常な分岐の知識もお手上げ。
後頭動脈も一緒に縛って良い。と書いてある文献もあるが、私は分岐が奇形でも内頚動脈を判別できるようになった。
どうしてそれが必要で、どうやって判別するかは、また今度。