馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

Dr.N.A.White来(きた)る

2013-11-30 | 急性腹症

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N.A.White先生を迎えて、

昨夜は牧場関係者向けの講習会。

疝痛の発生状況と予防法について、が内容だった。

なんと370名以上が集まり、ホテルの椅子はすべて使い果たしたそうだ。

馬は疝痛が多い動物で、しかも死んでしまうことも少なくない。

それも、健康だった馬が突然そうなり、苦しみのうちに悲惨な死に方をする。

皆、それを経験しているからこんなにたくさんの人が集まったのだろう。

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この10-20年は疝痛馬を開腹手術で助けられるようになってきた年月だった。

われわれ獣医師はWhite先生が編集した名著「Equine Acute Abdome」でその勉強をしてきた。

馬の疝痛についての本は他にもあるし、馬外科の本にも疝痛の章はあるが、いまだにもっとも信頼され、用いられているのは「Dr.WhiteのAcute Abdomen」だ。

White先生は44歳のときに初版を出されたそうだ。

まだまだ馬の開腹手術が発展中の時代だったとはいえ、44歳の若さでの偉大な業績であり、功績だ。

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White先生は21年前に初めて来日され、馬の疝痛についての講演をされた。

私はそのときは会っていないし、講演も聴けなかった。

今回初めてお会いしたら、穏やかで優しい方のようにお見受けした。

海外の有名な先生に会うと人柄も素晴らしいのに感心する。

才能に恵まれ、努力を続けてこられ、業績を挙げられ、高い評価を受けている充実した人生がそこにあるからなのだろう。

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今日は70名近い獣医師が集まった。

午前中は疝痛後の栄養管理について講演をいただいた。

疝痛後の馬にどのように餌をあたえるか、

餌を食べられない馬にどうやって非経口栄養投与するか、

結腸便秘をどう治療するか、

などを教えていただいた。

午後は持ち寄った症例や課題についてコメントやアドバイスをいただいた。

「検討会」のつもりだったが、知識や経験の量が違いすぎる。

教わることばかりだった。

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初版のEquine Acute Abdomenの最初にはWhite先生の言葉が書かれている。

「学び続ける人生の価値を教えてくれた両親に捧げる」

White先生にお会いして、目の前に「学び続ける人生」の具現を見た気がした。

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さて、明日から東京だ。

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が~っ!

オラも連れてけ~

ガジガジ


ヒトが動物を飼い始めた起源 ウマ

2013-11-28 | 動物行動・心理学

 では、ヒトがウマを飼い始めたのは、いつころか?

それはどの地域で始まったのか?

それは、乗るため、食べるため、あるいは??

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5500年前に、カザフスタン地方で、ウマが飼われていた。とする発見がされているらしい。

乗ってもいたし、食べてもいたし、馬の乳も利用されていたらしい。

「家畜」として利用されてきたのは、反芻獣、偶蹄類の方が先らしい。

ヒツジは紀元前9000-11000年頃、

ヤギは紀元前10000年頃、

ブタは紀元前9000年頃、

ウシは紀元前8000年頃、

ということらしい。

野生だとウシもヒツジもブタもかなり扱いにくいと思うが、ウマはもっと扱いにくかったのかもしれない。

ウマに乗っていた形跡はあっても狩につかったり、農耕につかったりするほど、ウマを扱う技術はなかなか発達しなかったのだろう。

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このごろ、難しい症例が多い。

疝痛、発熱、だった当歳馬が起立困難、歩様蹌踉となり、来院したら・・・・・・腎不全だった。

輸送熱、疝痛、の馬が、入院した。と思ったら・・・・・蹄葉炎になった。

鼻出血の当歳馬が検査に来院して・・・・・胸膜肺炎だった。

臨床は難しい。

教科書どおりにはいかない。

責任も重い。

できるだけ早くきちんと診断して意味のある治療を始められるかどうかは馬臨床医の「腕」にかかっている。

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明日から名著Equine Acute Abdomen で有名なN.A.White先生を迎えてのプログラムが始まる。

まず、あしたの夜は牧場生産者向けの講習会。

馬の疝痛の原因や予防の話です。

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Pb245350数日前、相棒の水入れに落ちていたトンボ。

助け出したがもう飛ぶ元気もない。

この世で思いは遂げたかい?

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初雪になりそうだ。


ヒトが動物を飼い始めた起源 イヌとネコ

2013-11-26 | ワンコ修行

ヒトはいつから動物を飼い始めたのか?

どういう動物を、いつ頃から、どのように飼い始めたのか?

そのことはヒトと家畜のつながりの本質の一面を教えてくれるように思う。

今でこそ、コンパニオンアニマル(伴侶動物)とフードアニマル(食用動物)とか、小動物と産業動物とか区別されたりするが、

ヒトが動物と暮らしてきた歴史は?

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が、どうもよくわかっていないらしい;笑。

そりゃ、数千年とか、1万年とか前の話で、記録は残っているはずも無いので、遺跡や化石から想像するしかない。

有名なラスコーの洞窟の壁画は、ウシやウマやシカが描かれているが、猟の様子であって、家畜化していたわけではないらしい。

それは旧石器時代で1万5000千年ほど前。

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しかし、そのような古い遺跡は他には見つかっていない。

遺跡や化石以外の考察材料は遺伝子解析で、現在の家畜を含めた動物の遺伝子を調べて、類縁から派生を想像していくとどの地域から広がったか推測できるらしい。

これはあてにならないか、あるいは膨大な調査がまだまだ必要なようだ。

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イヌがもっとも古くにヒトと暮らし始めた動物なのは定説になっているようだ。

1万5-6000年前に東アジアでイヌが家畜化されたのではないか ということらしい。

が、イヌがヒトと暮らし始めた時期と地域は諸説あるらしい。

1万9000年から3万2000年の間にヨーロッパでハイイロオオカミが家畜化されたのが始まりという新しい説も発表されている。

3万3000年前のイヌの化石をロシアで見つけたという報告もあり、こうなるとよくわかっていないと思っていたほうが良いようだ。

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コンラート・ローレンツ博士でも「人、イヌにあう」を書いた頃には、イヌはオオカミから来た系統とジャッカルから来た系統がある。としている。

ローレンツ博士もあとになって考えを訂正したそうだし、現在では遺伝子解析でイヌがオオカミから派生したことが確認されている。

ローレンツ博士も書いているように、採取狩猟生活をしている人間にとって、周りをうろつき始めた好奇心旺盛で攻撃性が少ないオオカミに残飯を与えて手なずけることは、他の野生動物から野営地を守るために役立ち、あるいは獲物を追跡するにも役立ったのかもしれない。

オオカミの一部がイヌとしてヒトに飼われるようになったのは、デンプンを消化できるようになったからだという説も、オオカミとイヌの遺伝子の異なりから唱えられている。

もっとも、狩に役立てたり番犬として使うだけではなく、イヌを食べることもあったようだ。

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古代人がイヌを食べていたことは、もっと年代が新しい遺跡からばらばらになったイヌの骨が見つかることでわかるそうだ。

埋葬したのなら骨格は崩れず、丸ごとイヌの体が見つかるはずで、イヌの骨が貝塚からばらばらに見つかるのなら、それはやはりイヌを食べたのだろう。

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こうやって、太古の歴史を知ることで見えてくることもある。

イヌはオオカミだから純粋に肉食で、炭水化物を与えるのは望ましくない。というのも正しくないようだし、

イヌは昔からヒトの友達で本来の伴侶動物だ。というのもどうかと思うし、

イヌを食べる習慣や文化を一概に非難したり軽蔑するのも間違いかもしれない。

だからって、イヌを動物性蛋白抜きで育てられるとは思えないし、これからもイヌ食文化が続いていくべきだとは思わないけどね。

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採集狩猟生活の頃からヒトに近づいたイヌと違って、ネコは農耕が始まってから飼いならされたらしい。

ヒトが決まった場所に定着し、穀類を貯蔵するようになると、忍び込んでくるネズミが大敵で、ネコを飼うようになったのだろうということだ。

9500年前の遺跡からネコの飼育の跡が見つかっているということだから、かなり古い印象を受ける。

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Pb245351スタンレー・コレン先生が「犬語の話し方」で紹介している研究結果なのだが、

犬種の中で、幼体成熟傾向を強く示しているスパニエルやテリアは、オオカミと共通する行動言語(ボディーランゲージ)をあまり使わず、

幼体成熟傾向をあまり示していない犬種の方が、優位性や服従性を示すための行動言語を使ったそうだ。

ゴールデンレトリーバーは研究対象とした15種の中で、シベリアンハスキーに次いで2番目にオオカミと共通するボディランゲージを使った。

続いて、ジャーマンシェパード、ラブラドール・レトリーバー。

垂れ耳なんだけどネ~


有茎脂肪腫による空腸絞扼

2013-11-24 | 急性腹症

 繁殖雌馬が朝から疝痛。

顔を擦りむくくらい痛い。

4年前に網嚢孔ヘルニアで手術をしている。

17歳。冬。サク癖。は網嚢孔ヘルニアの多発要因だ。

てっきり再発かと思ったら・・・・・Pb215313

有茎脂肪腫による空腸の絞扼だった。

発症してから時間が経ってしまったせいもあって、

大きなループ同士で纏絡し、すっかり締まっていてなかなか解けなかった。

絞扼されたり、締められていた空腸は変色していて切除しなければならなかった。

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切除された脂肪腫。

もっと硬くなっていることもあるが、

これは柔らかい。

プニョプニョしていていい感触なのだけれど・・・

腸管に巻きつくと致命傷になりかねない。

年取った馬ではかなりの比率で有茎脂肪腫による絞扼はある。

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1年でいちばん開腹手術が少ない季節なのだが、先週から開腹手術が続いた。

繁殖雌馬の網嚢孔ヘルニア、1歳馬の回腸盲腸重積、当歳馬の盲結腸重積、種雄馬の盲腸便秘、1歳馬の結腸便秘、そして繁殖雌馬の有茎脂肪腫。

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Pb245344この季節、

朝は6時でも薄暗いし、

夕方は5時でも真っ暗だ。

外で遊べる時間はほとんどないが・・・・・

連休でよかったね~

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競走馬の過長蹄・弱踵蹄 long toe / underrun heel

2013-11-21 | 蹄病学

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2ヶ月前に腕節を骨折した競走馬の後肢蹄。

蹄鉄はつけたままだったらしい。

すっかり過長蹄になり、蹄踵がつぶれている。

しっかりした蹄叉をしているのは救いだが、もう蹄球近くでも負重しているのがわかる。

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麻酔覚醒を待つ時間に削蹄「してあげた」;笑。

後肢でも、過長蹄・弱踵蹄の競走馬は腰が悪いとされている馬が多く、

過長蹄・弱踵蹄を直したら腰が悪いのがほとんどの馬で治ったという報告があるそうだ。

本当はもっと蹄尖も蹄踵も落としたいのだが、写真でわかるように血がにじんでくるので一気には切れない。

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前肢も過長蹄で、弱踵蹄気味なので、削蹄「してあげた」;笑。

この競走馬は狭窄蹄気味で、平蹄にならないという点ではよく耐えている。

しかし、左右とも内外バランスが悪い。Pb205311

そして左右も不同蹄。

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もう成長期は終わっているので、今から肢軸を変えることはできない。

しかし、片減りしていくのはバランスを取ってやらなければならない。

そして、潰れてしまった踵は、ハダシ(跣)にして休養できるこの期間に治してやりたい。

そのことが、競走復帰と復帰後の予後を左右しかねないと考えている。

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とうちゃん、おかえり~

きょうも手術か~?

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