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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

跛行を示す飛節のOCD

2012-04-29 | 関節鏡手術

昨年度の関節鏡手術頭数は210頭だった。

もう増えないだろうと思っていたが、180頭程度からまたぶれいくするーした。

約半数は飛節のOCDだろう。

跛行を示すことはほとんどないが、関節液増量、すなわち飛節軟腫があればX線撮影して、

離断骨軟骨片があればさっさと手術しましょう。というのはすっかり定着したと思う。

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17 この2歳馬は飛節の関節液が増量しただけでなく、跛行していた。

X線撮影では距骨の外側滑車が欠損し、大きな軟骨片も見える。

距骨外側滑車のOCDはよくあるが、跛行することはほとんどない。

19この馬の飛節X線画像のもうひとつの異常所見は距骨の近位部、おそらくは滑車溝の下にある吸収像だ。

吸収像の周囲には骨硬化像もある。

骨嚢包か、骨髄炎のなごりか・・・・

いずれにしても、この病巣が関節面へ開口しているか確かめなければならない。

そして、それが跛行の原因なら掻爬などの処置をしなければならない。

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Hpnx0361 飛節を60度ほどに屈曲させて、関節鏡を足底側に挿入し、距骨滑車を観たところ。

(左)

手前は脛骨中間稜足底側。

距骨の滑車軟骨には、関節可動方向に走る線条創がたくさんある。

軟骨がケバだった部分もあり、軟骨全体が薄い。

Hpnx0367_2外側から関節鏡を入れて、X線画像での病変が滑車溝に接しているあたりを観たところ。

(右)  

陥凹しているようだが、鈍端のプローブで圧迫しても陥没したりはしない。

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飛節のOCDの好発病巣である脛骨中間稜や、脛骨内果や、距骨外側滑車遠位端はさほど荷重がかかる部分ではない。

そのため、OCDによる骨軟骨片や関節軟骨欠損部分ができても跛行しないのだろう。

この馬は、脛骨の荷重を受ける部分である距骨の近位部の軟骨が傷んだので跛行したと思われる。

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あとは飛節の背側へ関節鏡を入れて、距骨外側滑車から離断した大きな軟骨片を取り出した。

そのOCDがあるまま長期間おいてしまったことで、飛節内のDJD(変形性関節症)として軟骨の損傷や滑膜のケロイド化が起こってしまったと考えられる。

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Dsc_0947


この季節

2012-04-28 | 日常

Dsc_0951 雨と曇り空ばかりで寒かった4月。

ようやっと晴れて暖かさを感じるようになった。

フキノトウもすっかり伸びた。

もう食べられないな・・・・・        

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Dsc_0950 いつもの場所にカエルが卵を産んでいると思ったら、

もうオタマジャクシの形になりつつある。

孵るのももうすぐだろう。

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Dsc_0940 珍しく野ウサギを見かけた。

ほとんど冬毛も抜けている。

放牧地を横切って、用水路まで来て、渡れないのでどうするかなと観ていたら、

2mも幅がある用水路を飛び越えた。

たいしたもんだ。

用心深さと、俊敏さと、跳躍力だけで天敵の多い野原で生きているだけある。

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Dsc_0946 流星ブラザーズ。

放牧地もいつのまにか緑になっている。


角壁腫 keratoma

2012-04-26 | 蹄病学

P3301924 とても良い本だ。

カラーアトラスなので、簡単に読むことができるし、百聞は一見にしかず。

説明されてもわからないことも、写真で見れば、ああこれかなとわかる。

馬の獣医学の本など皆無に近いのに、日本語訳された馬の蹄病学の本が手に入るなんて奇跡に近い。

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P3301925 馬の蹄の中に、角壁腫とよばれるできものができてしまうことがある。

慢性の跛行と、場合によっては蹄底、蹄冠部の異常として気づくことがある。

X線撮影すると蹄骨が丸く欠損している像が写る。

丸い塊であるタイプと、柱状に蹄壁に沿ってできるタイプとがあるらしい。

これもちゃんとこの本に載っている(右)。

私は今まで数例診たが、全例が蹄尖部の球状タイプだった。

それらは蹄底に穴を開け、摘出した。

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しかし、蹄底に穴を開けるとあとあとの管理がたいへんだ。

とくに春先だと地面はどこもグチャグチャ。

包帯を巻いても、ホスピタルプレートを付けた装蹄をしても、泥水が入ってしまうだろう。

ビニル袋などで覆うと湿ってひどいことにな る。

おまけにこの症例は蹄底からの距離が遠そうだった。

蹄骨の欠損部も丸いだけでなく、指で押さえたように長く抜けている。

P3301922それで、蹄壁からアプローチすることにした。

電動ドリルに円鋸をつけて開窓した。

球状角壁腫はかならず蹄尖部だと思っていたが、実はこの馬の角壁腫はすこし外側へ寄っていた。

開けるとまず膿汁が出てきた。

馬はかなりの跛行をしていたが、角壁腫の痛み異常に化膿してしまった痛みだったのだろう。P3301923

いつもの丸い、角壁腫も取れてきた。

(右)

どうしてこんなものが蹄の中にできるのかわからない。

11 X線撮影で確認する。

アプローチすべき部分はすべて空洞にできたようだ。

普通より蹄骨の欠損部分が大きくなってしまったのは、

摘出が遅れたせいか、あるいは化膿したせいかわからない。

あと1ヶ月で分娩予定日という繁殖雌馬だったが、痛みも強かったので分娩を待たなくて良かったと思う。12_2

立位で手術できないかも考えたが・・・・

蹴る馬だった。

前肢で、蹄底からアプローチするなら立位でも可能だろう。

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今日は、デヴュー前の2歳馬の腕節骨折の関節鏡手術。

当歳馬の顔と眼の大怪我。

2歳馬の喉頭内視鏡検査。

私は午後は獣医師会の会議。

夕方、当歳馬の疝痛。

来院途中のトラックの中で下痢が始まり疝痛は治まった。


馬肉の生食は不可か?

2012-04-22 | 日常

むか~し、田辺聖子さんだったと思うが、エッセイにタルタルステーキについて書いておられた。

レストランでタルタルステーキを頼んだら、ウェイターに「生肉ですがよろしいですか?」と何度も念を押されて不愉快だった。という内容だったように記憶している。

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タルタルステーキとは、馬肉をミンチ状にしたものを味付けしてそのまま食べるそうで(私は食べたことはない)、日本のアジのたたきのようで、ヨーロッパにもこういう料理があるのかとも思うし、由来についての考察を読むとモンゴルから伝わったのではないかともいう説もあって興味深い。

西洋料理でも、肉をほとんど過熱せず食べる習慣や料理法があったわけだ。

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牛肉ユッケについてはO157の食中毒事件のあと非常に風当たりが強い。

店で提供するための厳格な基準が提示され、実際にはそれを守って価格に反映させ、手間を考えると、一般的なメニューからは消えてしまうだろうということのようだ。

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牛のレバ刺しについてはもっと状況は厳しくて、ユッケは菌が付着している肉の塊の外側を切り落とし、中心部をミンチして新鮮な状態で提供すれば基準をクリアできるが、レバー(肝臓)には内部に菌がいることがあり、安全な提供方法がないので店で提供することは禁止すべきだとの見解もだされている。

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何人も亡くなった食中毒事件の記憶も新しいし、店で提供されるとなると抵抗力が弱い子どもやお年寄りの口にも入るので、

安全のためと言われると仕方がないという受け止め方が多いようだ。

しかし、反対する意見もある。

居酒屋チェーンの社長の意見だけど・・・・・

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日本人は魚を生で食べることを習慣とし、食文化として来た。

このあたりでも朝採れたイカが生で売られていて、刺身で食べる。

が、よく観ると寄生虫がワンサカいたりする。

ツブ貝は名産だが、アブラと呼ばれる部分は食べないようにしないと中毒を起こす。

それはこの辺りの人は当たり前のようによく知っている。

他にも魚介類の食中毒はかなりの件数があるが、それなりに対応されていて、全面禁止や、調理師資格にまでなっているのはフグくらいのものだろうか。

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地方によっては馬刺しが重宝されている。馬は生食用に専門の屠場で食肉処理されるところもある。

しかし昨年、住肉胞子虫ザルコシスティス・フェアリーSarcocystis fayeriによる食中毒が起きていることが明らかにされ、一旦冷凍しないと食用として販売できないことになったようだ。

なら、冷凍すれば良いだけじゃない。となりそうなものだが、冷凍することにより色合いが悪くなり、魚と同じで味が落ち、また販売する側は冷凍施設を備えなければならない。

(Sarcocystis fayeriによる食中毒は、軽い下痢と嘔吐が症状だそうだ。)

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そのせいかどうか知らないが、屠場へ出る馬の買取価格は暴落しているようだ。

重種馬、中間種と呼ばれる馬の飼養頭数減少にもつながるだろう。

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私は、ユッケも、レバ刺しも、馬刺しも、好んで食べることはない。

(タルタルステーキは一度食べてみたいけど機会はなさそうだ;笑。)

それを食べることで「問題が起きることがある」というときにどう対応するか、指導するのか、罰則付きで規制するのか、全面禁止して摘発するのか、たいへん難しい判断だと思う。

Photo ものを食べるというのは、人や生き物が生きていく根源の部分であって、

それは生き方でもあり、原罪でもあり、努力を必要とし、そしてまたリスクも内包したものであるように思う。

かつて読んだ強烈な本を思い出して私は考え込んでいる。


下肢の重度の外傷 3

2012-04-21 | その他外科

P4181973 最初の怪我から5週間。

2回目のキャストを巻いて4週間弱。

飛節が腫れ、キャストから膿がにじみ出てきたのでキャストをはずしにやってきた。

ずいぶん痛みはとれ、寝起きもしているし、歩きも楽になったとのこと。

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P4181978  キャストを切り始めるとひどく臭い。

しかし、包帯を取って見ると、傷そのものは化膿してはいないし、

フレグモーネのような腫れもない。

P4181975_2皮膚欠損部は内側(右写真)も、

外側(左写真) も肉芽で覆われた。

もう骨は見えておらず、関節も開いていない。

繋を左右にゆすってみても脱臼はしない。

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P4181976 ひどく皮膚欠損していた繋の外より足底側の傷はかなり小さくなった。

あとはバンデージで管理することにした。

無茶な動きをしなければ脱臼することはなさそうだ。

まだ、しっかり蹄底をついて負重することはできない。

関節や、屈腱の痛みがあるのかもしれない。

すこしずつリハビリだ。

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皮膚の欠損部を速く治すためには皮膚移植という方法もあるが、

3ヶ月かかるところを2ヶ月に縮めることにさほどの意味はないだろう。

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P7070242 ウェット管理が傷の上皮化を妨げないので望ましいという考え方は普及したが、人用のドレッシング材は小さいものばかりで、ひどく高い。

このプラスモイストはサイズも大きく、さほどの値段でもない。

今回の怪我では最初も、10日後も、5週間後もこれを傷に当ててからガーゼを巻き、綿包帯を巻いた。

使用感は良好だった。