goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

術創感染を減らす方法 10

2010-10-31 | その他外科

10.血腫や漿液腫を残さない。傷を閉じた後、血液が残っている創は乾いた創の倍の率で感染する。おおよそ1/3の術創感染は血腫の内在に関連して起こる。

                            -

縫合創の中に血液があると感染が誘発される。

血液と言えども、死んだ細胞と蛋白を豊富に含んだ液に過ぎない。

・・・・・・・が、

血液中には、傷の修復や再生に必要なさまざまな物質が含まれていることがわかってきている。

骨折部分の骨癒合には骨折部に形成される血腫が大きな役割を果たしていることもわかってきた。

骨欠損部分には血液と骨髄液を踏んだ海綿骨を詰め込むことも行われる。

(Dr.Richardsonによれば感染があるときでさえ、海綿骨移植は行って良いそうだ)

血小板リッチ血漿を積極的に治療に利用しようとする試みも始まっている。

まあ、単純に癒合させたい傷の中には血液は貯まっていないほうが良いのは確かだろう。

                         //////////////////

Dsc_0372


術創感染を減らす方法 9

2010-10-30 | その他外科

9.適切に止血する。適切な血流を維持するために小さい鉗子で局所だけを電気焼灼する。

                          -

 きちんと止血されていることは、傷の中に血だまりを作らないために大切。

しかし、私は電気(高周波)焼烙は、止血にはほとんど使っていない。

旧式な装置はあるのだが、機械を持ってきたり、電極を付けたりが面倒だし、水や生理食塩水を使う術創のそばに電気器具があるのも嫌だからなのだが・・・・

電気メスを使う場合も、止血点に電気メスを直接当ててはいけないとされている。止血鉗子で止血点を挟んでおいて、鉗子に電気メスを触れる。そうすれば焼け焦げる組織を最小限に済ますことができる。

最近は電気メス(高周波焼烙装置)やレーザーメスも機械が進歩して、組織の焼け焦げが減り、切開力は増したらしいが・・・・

今のところ特殊な手術以外ではあまり利点と必要を感じていない。

                          -

 止血すること以上に大切なのは、出血をさせないように切ることだと思う。

開腹手術でも、正中をきれいに切ればそれほど出血するわけではない。腹部正中には筋肉はない。

他の部位でも、「切る」というより、「分ける」と思っていた方が良いのかもしれない。

皮膚はメスで切らなければならないが、後は鋏で分けていくことで目的の部位へ到達できる。

あるいは指で組織を分けることができる。

                                                           ///////////////////////

Dsc_0374


術創感染を減らす方法 8

2010-10-29 | その他外科

8.縫合を最小限にする。編んだ縫合材よりモノフィラメントを用いる。

人口物や縫合材を含めて、創内の異物の存在は感染を起こしやすくする。絹糸の縫合1針により、感染が始まるのに必要なStaphylococcusの数は10の6乗から4乗へ減ってしまう。

                           -

 これは意外に感じる獣医さんがいるかもしれない。しかし、縫合糸も異物なので必要最小限にとどめたほうが良い。

そして、縫合は多かれ少なかれダメージを与え、術後の血行を妨げる。

しかし、もちろん縫合しなければ組織は癒合しない。それが難しいところ。

                           -

Pa290618_2 私が獣医師として働き出した頃、まだ絹糸が使われていた。抜糸する頃には、たいてい糸目が膿を持っていた。

糸自体が平滑でなく、弾機がある大きな縫合針に付けて縫合するので、縫合自体による損傷が大きかったのだろう。

そして、異物反応が強く、おまけに糸自体が微細な間隙をもった構造なので細菌の温床になる。 

                            -

 編んだテトロン糸も使っていた。絹糸は生物学的蛋白なので、体の中で酵素に分解されてわずかずつ吸収されるらしいが、テトロン糸はまったく吸収されない。

子馬の膀胱破裂の傷が1年近く経ってから化膿し、閉腹に使ったテトロン糸を抜いたこともあった。Pa290617_2

                            -

 吸収される性質の素材を編んだ糸も多く使っていた。これもモノフィラメントの糸を多用するようになった今から思えば、組織の通過性はよろしくない。

                                                                             -

Pa290619モノフィラメントの糸を多用するようになって、縫合した傷の状態が良いかどうかは縫合技術も 変わっているので判断が難しい。

結び目のほどけやすさや、鋭利な金属による切れやすさ、縫いたい組織に対して太い糸を選んだときに感じる硬さなど、モノフィラメントに必要な注意さえすればモノフィラメントの利点はあまりに大きいと感じている。

                        ///////

Dsc_0303_2


術創感染を減らす方法 7

2010-10-28 | その他外科

7.徹底したデブリドメント。

                         -

debridement

「デブリドメント」は日本語です(笑)。

英語でもいく通りかの発音をする人がいるようだが、発音機能付き医学辞書によると

 でぶりども~ん

創から壊死組織や異物を除去すること。

                         -

手術する人なら誰でもわかっていることなのだが、現実には難しいことがある。

異物はともかく、壊死している(であろう)組織はもともと必要でそこにあった組織なのだから。

2回目の開腹手術など、前回の開腹手術で縫合した部分は針孔と縫合糸と牽引・圧迫されたことで損傷されている。

大きく辺縁切除して縫合できれば良いが、腹壁の一部が無くなってしまうのでそうもいかない。

外傷縫合は逆だ。汚染し、千切れそうにぶら下った皮膚や筋肉は壊死組織で、もはや異物化している。

縫合して欲しいのはわかるが、縫合すれば壊死組織と異物を汚染と一緒に閉じ込めることになる。

                          -

この術創感染を減らす方法の17項目のかなりの項目は外傷治療のコツにも共通している。

・毛は除去したいが、毛を刈ることですら傷を汚すのなら刈らない方が好い。

・組織を傷めない。

(・血管収縮剤を使わない)

・傷を洗浄する。

・完全な壊死組織除去。

  これ以降はこれから登場します

・縫合材を少なく。

・止血。

・血腫、漿液腫を無くす。

・死腔を残さない。

・緊張させない。

・絶対必要なときにはドレインを使う。

・遅延一次閉創を用いる。

                       /////////

お好きな感想をどうぞ。

   「クワガタムシみたい。」

   「凶器準備集合罪で逮捕する!」

   「馬の外傷のもと。」

Csc_0382


術創感染を減らす方法 6

2010-10-27 | その他外科

6.手術中、術創を灌流する。一般には行われていないが、抗生物質を含んだ液体で灌流することは感染が起こるのを減らすことが示されている。生理食塩水でさえ予防効果がある。

                           -

抗生物質を入れた生理食塩水で術創を洗浄することは、私達は傷を閉じる前に行っている。

プレートを入れる手術などで、長時間になる手術や、感染が懸念される手術では手術中何度か行う。

私達は関節鏡手術の灌流液にも少量の抗生物質を入れてきた。これは賛否両論あるかもしれない。

しかし、多くの病院で関節鏡手術頭数が増えるにしたがって、感染症例が報告されている。

私達は、関節鏡手術が直接、感染を起こした症例はない。

少量の抗生物質を加えることで、ひどい感染を起こす症例を1例でも無くせるなら、意味のあることだと考えている。

                         //////

日航JALの再建問題が連日新聞に出ている。

乗務員のリストラも気の毒なことだと思う。

機長、副操縦士などはかつては2千万以上の年収があったそうだ。

「会社に残れても4割収入が減って、1千2百万になってしまう。これでは今までの生活が・・・」

責任が重く、勉強が必要で、努力して身に着けた特殊な技能であり、資格でもあるのだろう。

しかし、自分で投資したのではなく会社が養成した能力だ。

そして、その会社は国が税金で支えなければすでに倒産状態だ。

日航にはいくつも労働組合があり、かつてはストを繰り返した。

もう今はストもできないし、世間の理解も得られないだろう。

社員一人一人の方にはまことに気の毒なことだ。

「他山の石」と書こうとして、意味が違うなと気がついた・・・・・(笑)

Dsc_0273