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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬形から絵馬へ

2010-11-27 | How to 馬医者修行

Pb160621_4 神社にお参りすると、絵馬を奉納することがあるが、あれはもともとは生きた馬を神に祭ったことから来ているのだそうだ。

左;神馬馬形 鎌倉時代

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Pb160631_2生きた馬をいけにえにするのは、あまりにたいへんなので、馬形とよばれる馬の人形になり、板立馬という板の上に馬の絵がついた板を立てた物になり、それがさらに絵馬になった。とのこと。

右;銭でできた絵馬 銭掛け絵馬?名前忘れた

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  今日も、妊娠馬の開腹手術。

妊娠中に腸管手術しても、ほとんどの馬は流産したりしない。が・・・・・

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 明日から東京。

JRA調査研究発表会、ウマ科学会、その間に評議会、編集委員会、総会、打ち合わせ、etc.

しばらくブログはお休みです。

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腕節の骨片骨折

2010-11-26 | 関節鏡手術

P8190836_2 このブログを書き始めた頃には、関節鏡手術を始めてから14年が経っていて、飛節のOCDや腕節の骨片骨折のような数が多い部位は珍しくないので、かえって記事にしてこなかった。

しかし、数が多い症例についてほど、きちんと知っておいてもらった方が良い。

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関節内に小さい骨片骨折が起こったときに、早いうちに骨片を摘出してしまった方が良いのは、骨片があると関節が変形性関節症(骨関節症、DJD)を起こすからだと考えて良い。

腕節はカスタネットのような蝶番関節で、橈骨手根骨関節と、手根骨間関節が開くように動く。

関節が閉じているとき、つまり馬の肢が伸びて、体重を支えているときは、骨の関節面どうしが体重や走るための荷重を受け止めている。

しかし、馬が高速で走ると、肢には非常に大きな荷重がかかり、球節は沈み込み、腕節は反り返る。

こうなると、腕節を作っている骨の端どうしが強くぶつかりあうことになり、骨が耐えられなくなると縁が欠けてしまう。

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右の写真は、手根間関節。3cbrcb

馬は仰向けに寝ているので、下が橈側手根骨、上が第三手根骨。

この上下の骨がお互いにぶつかり合い、体重を支え、もっと大きい荷重がかかったときには、骨の端に強い力がかかる。

この馬は、下側に見える橈側手根骨は割れなかったが、

上側の第三手根骨が傷んでいる。

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Chip3cb もっと灌流液を入れて関節を膨らませて、第三手根骨を見たのが右。

骨片はまだ元の位置にくっついているが、完全に割れてしまっている。

塊状に割れていることもあるし、グズグズと崩れるように砕けていることもある。

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3cbpost2 その骨折片を摘出し、割れた部分のボロボロの骨を削った後が右。

金属の管を入れて、灌流液の流量を増やして関節の中を洗っている。

関節の中の骨は白い関節軟骨に覆われているが、割れたところは中の海綿骨がむき出しになっている。

 関節の中に軟骨のくずと、海綿骨のくずを入れた研究があって、軟骨のくずを入れても関節は強い反応を示さなかったが、海綿骨のくずを入れるとひどい骨関節症(DJD)を起こしたそうだ。

関節の中の骨片骨折を放っておくと骨関節症を起こす大きな理由はそこにある。

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3cbpost

すこし離れて、最初のように、橈側手根骨と第三手根骨を見ている。

第三手根骨の、橈側手根骨とぶつかる部分が欠損したのと、海綿骨がむき出しになっているのがわかる。

一番負担がかかる部分が割れてしまったので、あとは他の部分で体重を受け、荷重に耐えてもらわなければならない。

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Photo 右は橈側手根骨と第三手根骨の奥にある手根骨間靭帯。

カスタネットのゴムに当たる部分。

切れてしまってはいないが、毛羽立っていて、伸びて緩んでいる。

この靭帯が傷んでいることが腕節の骨片骨折の要因になり、予後にも関係すると言う馬外科医もいる。

競走馬の骨折はまったくのアクシデント(突発事故)とは言えないことが多い。

さまざまな損傷が積み重なって、ついには骨折につながると考えても良いかもしれない。

                    だから

今はたいへん数多く行われている腕節の骨片骨折の関節鏡手術だが、

手術後はきちんとリハビリ期間をとって、骨や関節軟骨や靭帯が修復され、関節の炎症が治まり、関節液の性状が良くなってから調教を開始する必要がある。

骨片が飛んだ。取ってしまえば元通り。とは行かない。

 傷ついた関節軟骨はもう完全に元には戻らない。

青白く半透明で、水分を含みやすく、クッション性に優れ、非常に滑らかなガラス軟骨はもう再生しない。

毛羽立った、白い、透明感のない、バサバサの線維性軟骨しか再生しない。

 しかし、その線維性軟骨が海綿骨を覆うのにもだいたい4ヶ月かかる。

                    だから

それまでに騎乗運動を始めてしまうと、海綿骨の粉が関節内に飛び散り、関節は炎症を起こし、関節軟骨はさらに傷み、関節液は滑らかさを失って、あちこちに骨棘や骨膜が出てくる。

関節はついに固まって動かなくなることで痛みを感じずに、体重を支える最低限の役割だけを果たそうとするようになる。

そうなってはもう走れない。

 この大事な1・2ヶ月を急いでどうするの?

1・2ヶ月早く復帰したところで、またすぐ壊れたのではどうしようもない。

いたずらに長く休ませようとは言ってない。

腕節の骨片骨折は関節鏡手術後4ヶ月間は乗らないほうが良いと、

18年間に1000頭手術してきた経験で言っているだけだ。

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寒さと疝痛

2010-11-25 | 日常

Dsc_0264_4 寒くなった。

この冬一番の冷え込みかな。

まだ青草があるのだが、朝は霜で真っ白。

水溜りにはけっこうな氷が張る。

きのうから疝痛馬が

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夕方、

夜、

今日、と連れて来られた。

夜のは小腸捻転で開腹手術になり、夜中までかかった。

一年で一番開腹手術が少ない時季ではあるのだが。

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死後に病態を究明する必要性

2010-11-23 | How to 馬医者修行

海堂尊さんは、「チームバチスタの栄光」に続く一連の医学ミステリーほかで人気の作家だが、

もともと著述を志したのは、Ai (Autopsy Imaging ; 死後画像診断) が普及しておらず、死因があやふやなまま済まされていることを啓発し改善したかったからなのだそうだ。

「チームバチスタの栄光」でも、Aiが一連の術中死の解明に役立つストーリーになっていた。

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私はかつて上野正彦先生の「死体は語る」を読んだ。

日本は監察医制度が整っておらず、きちんとした死因が明らかにされていないことが多いのだそうだ。

ちょっとした法医学ブームになって、そのあといくつもTVドラマになったようだ。

解剖が行われない大きな理由のひとつに、生前の本人や遺族の病理解剖への抵抗があるので、

それなら、CTやMRIを使えば、死体を傷つけることなく死因を究明できる可能性が高くなるというのが死後画像診断Aiなのだろう。

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さて、獣医療においては、人社会や法医学どころではなく死因追求の努力は行われていない。

畜主の意思と、治療した獣医師の判断にまかされている。

正確な病態が明らかにされないと、診断や治療が正しかったかどうかわからない。

しかし、死後に死因や病態を明らかにしようとしても、場所がない、自分には究明(解剖)する技術・知識・時間がない、頼める専門家が居ない。

というのが、ほとんどの現状だろう。

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某大学の病理学教室へ解剖を頼もうとしたら、「死体の焼却が1kg〇〇円かかる。」と言われて諦めた、という話を聞いた。

大動物は持ち込まれては困る。ということなのだろう。

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畜産をやっている以上、家畜の死亡は避けて通れない。

今は、自分の土地であっても埋却はほとんど許されない。

酪農地帯では農協連などが主体となって大規模な死亡畜処理場を運営している所もある。

死因の検索や解剖なども少しは考慮されているようだ。

一町村だけでなく、地域で考えるべきことではないか。

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Pb160622江戸時代天保10年(1839)の死馬手形。馬役人(馬肝煎)が管理していた馬の死亡届けだそうだ。

馬の耳と尻尾を添えて提出したとのこと。

死因もわからないまま済ましているのでは、ご先祖様にも笑われるゼ。


Dr.Richardson講演会のお知らせ

2010-11-22 | 講習会

当歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。Pb220622_2

当歳馬のOCDの手術は急がない方が良いが、もうやった方が良い状態もある。

ついでに臍ヘルニア(でべそ)の手術。

続いて1歳馬の外傷。関節まで貫通していた。

午後は、2歳馬の慢性跛行。Pb220623

その後、3歳の乳母用種のクラブフット。

繁殖用として飼うにもクラブフットは治しておいた方が良い。

ひどいクラブフットの馬は、深屈腱を切っても蹄尖が浮いたりはしない。

興味深いところだ。

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称徳館には世界から集めた馬のおもちゃも展示されていた。

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Barbaro061220 来週、木曜日12月2日午後6時から静内ウェリントンホテルで、Dr.Richardsonによる馬の骨折治療についての講演会が行われます。

Dr.Richardsonはペンシルバニア大学の大動物施設ニューボルトンセンターの教授で、

馬の整形外科の世界的な第一人者です。

「今、馬の骨折はどこまで治せるのか?」と題して、

Barbarostall 獣医師のみならず、牧場関係者、馬主の皆さんを対象に話していただきたい、と依頼してあります。

あのケンタッキーダービー馬Barbaroは残念ながら助かりませんでしたが、馬の骨折治療はかつてよりはるかに進んでおり、馬がひどい骨折をしても治せる可能性があることを見せてくれました。

当日、受付でも大丈夫です。

多くの方に来ていただいて、Dr.Richardsonの話を聴いていただきたいと思います。Barbaroxray

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