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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬の胆石症

2015-11-27 | 馬内科学

11歳の繁殖雌馬が痩せて、種付けできる状態でなく、血液検査でγGTP、GOT、ビリルビンなどが高いということで6月に検査した。

体表からの超音波画像診断では、脾臓に異常はなく、腹腔型のリンパ腫はほぼ否定。

右の腎臓の脇にみえた肝臓の右葉は実質が均一ではなく、

もう少し腹側では、血管か胆管の拡張が見え、

肝障害があるのは間違いないでしょう、と言った。

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「あとはさらに確定診断するためには肝臓のバイオプシーですけど、大きな血管に当たったりするすると多少のリスクがありますし、

確定診断がついても有効な治療法はないでしょう、肝臓の腫瘍や肝硬変を疑います」、と説明した。

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その後、その馬は強肝剤を投与され、その効果かどうかはわからないが少し体重も増え、

翌年には種付けできるようになったが、不受胎に終わった。

そして、不受胎馬として昼夜放牧を始めた頃からまた痩せた、ということで11月になって検査に再来院した。

体表からの超音波画像検査では、

どうも右葉が薄く小さく感じる。

輝度が高いが、質感が不整で不均一な部位は観察されず。

しかし、輝度の高い塊状のものがあるのは気になった。

可視粘膜の色調は良好で黄疸もなし。

血液検査でも、肝臓の逸脱酵素(GOT、γGTP)は正常で、ビリルビンも高くなかった。

しかし、痩せかたは尋常ではなく、とてもこれから体調が完全に回復して来年交配して受胎して、さらには健康な子馬を産めるとは思えない。

という関係者の判断になった。

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で、剖検したら・・・・・

肝門部を見ると胆管がひどく拡張していた。

十二指腸への開口部近くには大きな硬い塊があった。

切開すると、その塊は径7cmの胆石で、

同じ質の径1-2cmの塊が胆管にも、肝内胆管にもギッシリ詰まっていた。

これは内科的に溶かす方法も、外科的に摘出する方法もないだろう。

肝臓実質は、放血していないのに色が淡く、

小葉像明瞭で、胆管は拡張し、胆管壁は肥厚していた。

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こんなひどい馬の胆石症は初めて見た。

診断できなかったか?と思うが、どうやれば診断できたか、今もわからない。

絶食させることで大腸の容積を減らしたり、日を変えて何度も超音波検査すれば、運よく胆石がある部分を観察できたかもしれない。

こんなに大きく、数多く胆石が入り、胆管開口部近くでは完全閉塞していそうなのに、胆管が拡張することで胆道閉塞は免れていたのだろう。

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人の胆石症はひどく痛いらしいが、この馬は疝痛を示すことはなかったそうだ。

「食べるのに痩せる」とも聞いたが、「食べられないこともある」ようだった。

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chronic weight loss 慢性体重減少は、馬の獣医師の診断上の課題であり、馬内科学にひとつの章として記載があったりする。

診たことがない症例、遭遇したことがない病気は診断できないことが多いので、私自身の備忘録として、そして、これから同じような症例に当たる馬獣医師のために書きとめておく。

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札幌から来た人が、「こちらは雪がなくて良いですネ」と言う。

札幌はかなり降ったようだ。

帯広空港は60cmの積雪。

道東、道北も荒れている。

が、このあたりは雨が降っただけ。

でも、馬牧場は「雪が積もってくれたほうがシバレなくて良いし、馬の蹄にも良いんだけどな~」と言っている。

まあ、都合よくはいかないもので;笑。

 

 

 


ミニチュアポニー繁殖雌馬の肩DJD

2015-11-24 | 整形外科

11歳のミニチュアポニーの繁殖雌馬が、跛行するということで、別な馬の手術のときに「ついでに」連れて来られた。

まあ、小さくて可愛らしい。

そして、とても大人しい。

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ポニーが晩秋に肢が痛くなったら、「蹄葉炎にきまってる」と思って、蹄からX線撮影するが、蹄の異常はなし。

肢が短いので、蹄も球節も腕節も、それも左右両方1回で撮影できたりする。

肘を撮影してもなんともない。

ただ、肢を前へ引くと痛がって立ち上がる。

そして反対肢を痛い肢に乗せるようにした。

肢を引っ張られるのが痛いので、その肢を押さえようとしたのか、引張っている私を叩こうとしたのか・・・・

しかし、その動作もゆっくりで可愛かった;笑。

肩をX線撮影したら、肩甲骨と上腕骨の関節部が変形し、かなりひどい変形性関節症DJDだった。

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関節鏡手術する方法はあるが、画期的に良くなるとは思えない。もう関節全体が変形してしまっているからだ。

ヒアルロン酸製剤を、全身投与したり、関節内投与する方法はある。サラブレッドに比べて体重が少ない点で、高い薬も使いやすい。

ミニチュアホースとしては太りすぎてはいないが、体重は負担になるので、減らした方が運動器のためには好ましい。

反対肢が蹄葉炎にならないようには、充分な注意が必要だ。

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ミニチュアポニー、飼いたいな・・・・・・でも乗れないか・・・・・・


牛の骨折のプレート固定 評価

2015-11-24 | 牛、ウシ、丑

骨折内固定の手術でもっとも大切なことは・・・・

以前にも紹介したが、Fackleman先生が述べられている。

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The most important aspect of intraoperative and postoperative evaluation of a case is the development of a critical nature that enables the surgeon to recognize errors and to correct them before they become much worse.

症例についての手術中と手術後の評価において最も重要なことは、より悪化してしまう前に間違いを見つけ修正することを外科医ができるようになるための重要な資質を伸ばすことだ。

Internal fixation is exacting and demanding skill.  Those should be undertaken only by those who are satisfied with nothing less than a perfect restitusion of skeletal integrity.

内固定は正確さを要求される難しい手技である。内固定手術は、骨の堅牢性を完全に再構築しなければ満足しない人だけが行うべきである。

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まあ、馬の内固定についての話だ。

診療対象が95%以上サラブレッドである私の経験では、牛の骨折は「これで治っちゃうんだ?!」というのが印象だ。

だから畏れずに牛の骨折内固定に取り組めば良いと思う。

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しかし、「評価」し反省し、改善することはその症例においても、そしてその後の向上のためにも重要。

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子牛の脛骨骨幹部斜骨折。

数年前の症例で、おそらく牛の骨折をLCPで固定した日本で初めての症例だ。

たまたま余っていた人用チタン製LCPを使っている。

なんの問題もなく治ったのだが、内固定の技術的にはこの長い斜骨折にはラグスクリューをあと1-2本入れた方が良い。

それもプレートスクリューとして入れた方が強度が出るだろう。

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新生子牛の脛骨近位部粉砕骨折。

バタフライ骨片が腐骨になるのを恐れて摘出してしまったので大きな骨欠損ができ、

仕方がないので、近位のプレートスクリューは斜めに入れている。

これでは堅牢な固定ができていないので、グラスファイバーキャストとトマススプリントを併用した。

DCPとスクリューは角度安定性がないので、当然、術後はこうなった。

角状変位しているのだが、「ちゃんと」骨癒合し、後遺症はなかった。

馬ではこうはいかない。骨癒合する前にDCPが折れ、角状変形することで運動障害が残り経済価値を失うだろう。

今なら、バタフライ骨片をラグスクリューで留めて、斜骨折にしてからプレート固定する。

できればLCPを使いたいが、DCP2枚を使えば充分だろう。

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子牛の脛骨近位横骨折。

8穴DCPとスクリュー7本で内固定しているが、DCPが完全に脛骨に密着していない。

contourが不完全だ。

強度が要求される成馬の内固定や、繰り返し激しく動く子馬だとDCPが折れたり、骨癒合が遅れる可能性大だ。

横骨折だが、できれば骨折面を貫くスクリューを、ポジションスクリューで良いから入れておきたい。

金属疲労によりDCPが破損する可能性をかなり減らしてくれるだろう。

横骨折は一見簡単そうに見えるが、実は斜骨折より内固定は難しいと考えた方が良い。

棒を接着剤でくっつけるなら、斜めに切ってあるほうがくっつけ易いでしょ?真横に折れているとくっつけにくいでしょ?

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子牛の脛骨近位成長板損傷をTプレートで内固定した。

まだプレートが浮いているうちに、それを脛骨へ押さえるように入れた一番遠位のスクリューが近位方向へ向いたままだ。

ぶさいくだけど・・・・・まあドリルで穴を開けなおしてプレートに垂直に入れなおしてもさほど強度はかわらないだろう。

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術中、術後の評価のためにはx線撮影は必須だ。

しかし、私も手術棟建築中に、術中x線撮影ができない状態で牛の内固定手術を2頭やった。

まあ、できなくはない・・・・・ 

(つづく)

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わたしは自分がいる業界に愛情と誇りをもっている。

私たち獣医師のBack bone (背骨、支柱、精神的よりどころ)は獣医学だと思っている。

だから、自分達の業界が価値あるものであるように、それを少しでも高められるように、学術研究も症例報告もとてもたいせつだと考えている。

牛の骨折内固定の、ある症例報告に目を通していたら、間違いがひどく目に付いた。

馬の中手骨・中足骨骨折の文献を、牛の脛骨骨折と混同して引用していたり、

引用文献の表示の仕方も、ファーストネームを表記していたりして、メチャメチャだ。

指導教官も、雑誌のレフリーも、読みもしていないのだろう。

情けなく、腹立たしいことだ。

 

 

 

 

 


牛の骨折のプレート固定 プレートスクリュー

2015-11-23 | 牛、ウシ、丑

整復ができ、仮止めができ、プレートが準備できたら、あとはプレートスクリューを挿入して固定するだけ。

DCPも、LC-DCPも、LCPも、

プレートのスクリュー穴の形状が工夫されていて、

穴の端よりにドリルで穴を開けると、そこへスクリューを締めていけば、スクリューヘッドがプレートを押して、

そのことで骨折線を圧迫できるようになっている。

だから compression plate なわけだ。

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ただ、プレートを押すことで骨折線を圧迫するので、プレートを乗せた側だけが圧迫されがちだ。

それで、pre-bending と言って、プレートをすこし「へ」字型に曲げておく。

するとプレートを乗せた反対側の皮質も圧迫することができる。

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しかし、この圧迫compressionが有効なのは、横骨折や、横骨折に近い短い斜骨折で、

それも完全な整復ができていることが条件だ。

(つづく)

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 そろそろ本格的に寒くなってきた。

 


牛の骨折のプレート固定 contour

2015-11-17 | 牛、ウシ、丑

DCPを使って骨折内固定をするとき、DCPは骨にぴったり沿うように曲げておかなければならない。

これをやるには、薄いアルミの板を骨に当てて曲げ、それと見比べながらベンディングプレスでDCPを曲げる、というのが推奨されている方法。

薄いアルミの板はホームセンターで売られているものが使えるかもしれない。

あるいはアルミ箔を何重かに折って、プレートの幅と長さにあわせておいたものを滅菌しておけば良い(柔らかすぎるか?)。

が、ベンディングプレスは15-30万円以上する。

これはなかなか買えないだろう。

プレートベンダーと呼ばれる器具もある。

これはプレートに捻りを付けたいときに使うのだが、曲げるのにも使える。

しかし、子牛によく使うナローDCPだとペンチやプライヤーで充分曲げられる。

できれば手術中に使いたいので、ペンチやプライヤーも滅菌できるようにしておくと良いだろう。

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プレートは、穴の部分では曲げないように気をつける。

あまり何度も曲げたり伸ばしたりしてはいけない。

折れやすくなるからだ。

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私が初めて子馬の橈骨骨折をプレート固定で治したとき、電動ドリルも、ベンディングプレスも、骨鉗子も持っていなかった。

(つづく)

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今日はタイヤ交換した。

大きい車は重いし、タイヤも大きいのでたいへんだ。

安物の油圧ジャッキを買っていたが、1-2シーズンで壊れた。

しかし、タイヤ交換はできるだけ自分でやりたいと思っている。

ボルト、ナットをしっかり締める手際は整形外科内固定と共通する部分がある。

タイヤ交換なんかしたくない人や、大工仕事に興味がない人は、骨折内固定手術に向かないかもしれない。