牛地帯で骨折内固定の講習をしてきたが、外科や麻酔をする環境が馬の臨床とかなり違う。
骨折内固定は、金属を埋め込む手術なので、感染すると金属インプラントを除去するまで化膿が治まらなくなる。
骨癒合も遅れて、治療の失敗につながりかねない。
わが師匠Richardson教授は、骨折内定の失敗のパターンを、
感染
固定の崩壊
不運
と述べておられた。
さて、では感染防止のためにはどうするか?
-
・抗生物質は手術前に投与する。
手術中の術野の抗生物質濃度をあげておくためだ。
今も術後に抗生剤ポンッって獣医さん居ないよね?
・術野は毛を剃ってはいけない。刈る。
私のところでは牛も毛を剃ることはない。
長年の習慣を変えるのは抵抗があるのはわかるが、人でも小動物でも馬でも、毛を剃って手術をして感染させたら訴えられる時代になりつつある。
牛の手術だけがいつまでも、汚れと皮膚ごと毛を削り落としていてはいけないと思う。
皮膚を傷つければ、そこには病原菌が増殖する。
・手術中、術野を抗生物質生理食塩液でフラッシュする。骨の削りクズも洗い流す。できればドリル穴の中も。
10-15分毎に術野を洗い流すことは感染防止に効果的。
・手術時間は短く。
大掛かりな馬の骨折内固定や関節固定でも3時間以内に終わらせろ、とされている。短いプレート1枚の内固定なら2時間前後で終わらせたい。
・手指の消毒、手術用手袋の破損に注意。
整形の手術では手袋を破り易い。手指をしっかり消毒しておくこと。手袋を2重にはめる外科医も居る。破れたら新しい手袋を着ける。
・低侵襲の手術を心がける。
骨やX線画像だけに固執してはいけない。切開創は小さく、血管はできるだけ切らず、筋肉は分ける、骨膜は剥がさない、etc.
・閉創前に、術野をフラッシュし、プレート周囲に抗生物質を。
抗生物質入りPMMAをプレート周りに入れることが推奨されている。
高いので・・・・・私は筋肉注射できる抗生物質を垂らしたり、局所に注射してもらう。
手術の最後に抗生物質をlimb perfusion するのも効果的だとされているが、わたしはやっていない。
・閉創では死腔を少なく。
死腔ができがちだが、死腔は感染や漿液腫の要因になる。
私はドレインは好まない。吸収性モノフィラメント糸で、強すぎないテンションで閉じる。
・縫合部の被覆と衛生的な管理。
牛の骨折内固定手術のほとんどで術後のキャストは必要ない。しかし、術野を含めて患肢を包帯することは、感染防止や腫れ防止に必要だろう。
綿包帯、強力なテーピングテープ、なども準備しておくと良い。
上腕骨部、大腿部は・・・・厳しいよね。きれいな敷き料を敷いてもらうように頼む。
---
私は今まで牛の骨折内固定で感染を起こしたことはない。
独立した手術室で手術できる環境のおかげかもしれないが、たとえばガレージで手術しなければならないとしても、上に書いたような方法は有効なはずだ。

子牛の脛骨骨折プレート固定中。
膝から飛節まで粘着性シート(オプサイト・インサイス)を貼り付けている。
その先は、直検手袋で覆っている。(これをやらないと趾の汚れが降ってくる!)
//////////////

ホームセンターでプレートを2枚買って、壁に固定した。
骨折内固定手術に比べたら簡単だ!
角は台座の木にボルト止めしてある。
台座がパイナップルの形になっている理由は・・・・・・わたしにはわからない;笑