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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

新生仔馬の肺循環の始まりと卵円孔と動脈管の閉じ方

2013-10-31 | 新生児学・小児科


胎仔が出生し、肺呼吸が始まることで、左右の心房をつないでいる卵円孔と、肺動脈から大動脈への抜け道であった動脈管が閉じる
ことは以前にも書いた。

重複になるが、 Equine Internal Medicine 3ed. にはそれぞれが閉じる時期も詳しく書かれている。

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「先天性心疾患の病理発生」の項の一節。

p429

肺が広がることで、肺循環の抵抗が下がり、肺の血流が増加する。

 

結果として生ずる左心房圧の上昇が、出生後24時間以内-48時間以内に卵円孔を機能的に閉鎖させる。

 

同様に、局所でのプロスタグランジンの抑制が、妊娠期間を満了した仔馬のほとんどで72時間以内に動脈管の機能的閉鎖を導く。

右-左シャントの持続、とくに卵円孔レベルでのシャントの持続が、未熟な仔馬や、肺性高血圧につながる重度の肺疾患を持った仔馬で起こりうる。

このような症例では、卵円孔を通るシャントは動脈の酸素分圧低下と組織低酸素の追加機序となる。

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肺呼吸の始まりによる肺への血流の増加が卵円孔と動脈管の機能的閉鎖を起こすのだが、

動脈管の閉鎖にはプロスタグランジンの抑制が働いていることが書かれている。

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つづく「シャントの臨床病態生理学」の項にも、心房中隔欠損と動脈管開存の項がある。

その動脈管開存の項。

p432

動脈管の開存は単独の先天性心臓障害としてはまれで、もっともよく見つかるのは、他の、より複雑な奇形と併発してである。

 

動脈管は胎仔期の血管であり、左第6動脈弓から発生し、胎仔の肺動脈から大動脈へのシャントを可能にしている。

 

出生時に、局所の酸素分圧の増加とプロスタグランジンの抑制により、動脈管は正常に収縮する

 

ほとんどすべての仔馬で動脈管は生後72時間後に機能的に閉鎖する

 

もし動脈管が閉鎖しないと、大動脈から肺動脈への左-右シャントが起こる。

 

他の動物種では動脈管開存に関係する遺伝性があるが、この病気は単独の先天性障害としてはとてもまれなので大きな心配はない。

 

未熟な仔馬、持続的な肺高血圧を持った仔馬、そして母馬がプロスタグランジン抑制剤を投与されていた仔馬は動脈管開存を起こす可能性がより高いかもしれない。

 

 臨床症状は、動脈管を通るシャントの量による。それは、動脈管の径と肺循環での血管の抵抗で決まる。

 

(動脈管開存による左-右シャントの)診察所見には、持続的な機械性雑音、動悸、ふつうは肺動脈域(大動脈弁の頭背側)で最も大きく聴こえ、動脈拍動を感じる。

類症鑑別として、複合した先天性心疾患による他の全身循環から肺循環へのシャントを判別する。

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新生仔馬を剖検すると動脈管がまだ開いていることを確認するのだが、収縮していて機能的に閉じていた(血流さえなければ)のなら問題ないのだろう。

しかし、肺に障害を持つ新生仔馬は多いし、プロスタグランジン抑制剤(フルニキシンも!)を投与される妊娠馬も多いので、注意が必要かもしれない。

ただ、どの項にも書かれているが、動脈管開存は単独の心臓障害となることは非常にまれなようだ。

だから、確定診断は心臓超音波検査 echocardiography によらなければならないだろう。

(つづく)

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・・・・・

・・愛情表現なのに・・・

父ちゃんは

オラを臭いって言う

そいで

今日は

洗われた。

でも、これでこのつぎ洗われるのは半年後ダナ

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131031_08030002サラサラなったど~!


橈骨神経麻痺

2013-10-31 | その他外科

当歳馬の跛行診断。

難しい症例かも?と思ったが、橈骨神経麻痺のようだった。

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橈骨神経は、腋下神経叢から出て、上腕骨の外側を通り、橈骨の背側を遠位へ走っている。

左図は加藤嘉太郎先生の家畜比較解剖学図説から。

もっともこの本も、海外の本から図を転用している。

橈骨神経は太くはかかれていないが、とても重要な働きをしている。

この図は左前肢の図に見えるが、実は右前肢の内側であって、

学生時代の私がわざわざ、これらの神経が骨の内側にあることを書き込みしている;笑。

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Pa295207放牧事故でこの橈骨神経が損傷を受けるとひどい「肩」跛行を示すことがある。

まったく前肢を負重できなくなって、骨折したかと疑われる。

しかし、どこも腫れてこないし、触って痛い箇所もないので、オヤッ?ということなる。

左図はRooney先生のLamenes in Horseから。

「完全な」「橈骨」麻痺。と書かれている。

上腕三頭筋が麻痺しているので、尺骨を引き上げることができず、肘が垂れ下がってしまう。

橈側手根伸筋や総指伸筋も麻痺しているので、腕節以下を前へ振り出すこともできない。

やそのポーズは上腕骨や橈骨や尺骨の骨折などで前肢を着けないときの格好と似てはいる。

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Pa295208左図もRooney先生の本から。

橈骨神経がこれらの筋肉に分岐して支配していることを示してくれている。

骨折ではなく、橈骨神経麻痺だと診断するためには、

馬の動きをよく観ること。

骨折による腫れや異常可動が無いことを見て、触診すること。

そして、

前肢を正しい位置に置いて、屈曲している腕節を尾側へ押し付けてやると、馬は負重できることを確認する。

馬は痛みで負重できないわけではないので、反対肢を挙げることもできる。

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数週間とか、数ヶ月とかかかりながら徐々にこの神経麻痺は改善されることもある。

筋肉は使われない間にかなり萎縮してしまうが、神経麻痺が回復して筋肉を使えるようになると筋肉量も復活してくる。

しかし、回復傾向が見られないことも多い。

そういう馬を剖検して神経を辿ってみてもどこかでブッツリ切れていたるのが肉眼でわかったりはしない。

おそらく、引き伸ばされてしまったことで顕微鏡レベルや機能的レベルで伝達できなくなっているのだろう。

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きのうは珍しく往診に出かけた。

蹄葉炎の繁殖雌馬が歩けないので、牧場で深屈腱の切断手術をしてきた。

深屈腱切断も「蹄骨の健常性が維持されているうちに」(ローテーションすると蹄骨は先から磨耗・骨融解してくる)やらないと厳しい。

脱蹄しても蹄はまた生えてくるが、蹄骨が磨り減ると伸びては来ない。

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父ちゃん、

そんなとこで日向ぼっこしながらコーヒー飲んでないで

オラとサッカーするべ~

ホレホレ、どうだこのボールテクニック

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ガングリオン?

2013-10-29 | その他外科

午前中、競走馬の腕節の関節鏡手術。Pa295196

対側肢の球節に大きな塊ができていた。

触るとブニョブニョ柔らかい。

皮下だが皮膚とは離れている。

伸腱よりは外側にありそうだ。

中に液を含んでいるような触感だが、圧迫しても小さくはならない。

関節腔と交通してはいない。

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この塊による跛行はない。

もっともこれ以上大きくなったらわからない。

取れるものなら取って欲しいというのが牧場の希望。

超音波で観ると、伸腱の外側であり、液を貯めた腔にはなっていない。

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x線撮影したが骨には異常ない。

超音波画像検査してみたが、触診での所見と変わらない。

考えた末に、切開して切除することにした。

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メッツウェンッバウム鋏で塊だけを切除した。

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取り出した塊は袋状にはなっていなかった。

それでもガングリオンと呼んでいいのかどうかわからない。

組織検査に出すことにした。

主な手術の目的である腕節の関節鏡より時間がかかってしまった。

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父ちゃん、

ボールを破かないように

したのか?

オラは

破れても気にしね~ゾ

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秋の仔馬の悲劇

2013-10-28 | 日常

当歳の跛行診断。

難しい症例かと思ったが、橈骨神経不全麻痺。のようだった。

当歳馬の剖検。

側溝に落ちて死んでいたらしい。

胸腔内出血だった。

午後は、競走馬の腕節剥離骨折の関節鏡手術。

当歳馬の疝痛の急患。のはずだったが、DOA。

Death on Arrival

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仔馬の便に回虫が混じっているとの相談。

馬回虫の駆虫には、もうイベルメクチンは当てにならないので、フルモキサールで駆虫することを勧めた。

剖検馬には円虫による寄生虫性血栓があった。

これに対処する方法は、イベルメクチンによる駆虫しかない。

馬回虫がイベルメクチンに対する耐性を示すようになっているので、たいへん複雑な状況になっているが、

イベルメクチンでも駆虫し、イベルメクチン以外の駆虫薬でも駆虫するしかない。

どちらも失敗すれば、仔馬は死ぬ。

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カレンダーを贈ってもらった。

ありがとうございますっ!

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ネットでも購入できるらしい。

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こんなのも買ってある;笑。

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胆振馬講習会2013 装蹄療法

2013-10-27 | 講習会

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金曜日は苫小牧で胆振馬講習会。

毎年、興味あるテーマで講習会を聴かせてもらえることに感謝する。

ことしのテーマは装蹄療法。

獣医師だけでなく装蹄師さんも参加したので、会場は例年にも増していっぱいだった。

私は馬の蹄と蹄病にたいへん興味があるが、生産地でも蹄の問題は

「装蹄師さんに観てもらって」

で済ましている獣医師が多いかもしれない。

それは道具や経験を持ち合わせていないからでもあるだろう。

時間が許せば獣医師も装蹄師さんと一緒に蹄病を診るのだろうが、お互い忙しいのでなかなか立会うのも難しい。

が、装蹄師さんたちは、X線検査や、鎮静剤、抗生物質など薬の投与や、診断麻酔や、止血はできないので、

あるところからの処置はできない。

困難な症例になると獣医師と装蹄師が協力しなければ対応できない理由がそこにある。

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もうひとつ畜主の理解と協力ももちろん不可欠だ。

蹄病の治療には手間と時間と経費がかかることが多い。

跛行が少し良くなると放置されたり、きちんとした管理がされないために、途中で駄目になる蹄病馬も多い。

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それには畜主と装蹄師と獣医師の共通の認識が必要で、きちんと状況をとらえて、治療方針を立てて対応する必要がある。

難しい症例だけでなくても、繁殖雌馬の蹄が伸び放題で放置されていたり、休養馬のアンダーランヒールが認識されていなかったりする状況では、一番の問題は認識不足なのかもしれない。

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台風はそれてくれたようだが、

あちこちに雨の痕は残っていた。

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もう美しい紅葉は終わってしまったのだろう。

書き物に休みを費やし、やっと周りを見渡す余裕ができたかと思えば、

雪はまだ降らず、日も短く、日に日に寒くなっていく季節。