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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

The Black Stallion

2009-12-31 | 日常

術後イレウスシリーズの途中なのだが、大晦日なのでさわやかな映画の記事を。

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The_black_stallionこの映画のことはまったく知らなかった。

贈っていただいて初めて見たのだけれど、英語版なのでどんなものかと思って見始めたのだが、ストーリーが込み入ってなくて、せりふが少ないので助かった(笑)。

前半はイメージヴィデオなのかと思った。

あまりに美しい光景と、せりふのない進行(この部分の登場者は、少年と馬だけだから仕方がないんだけど)。

そして、物語は徐々に走り始める。

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Cap025馬を主人公扱いした映画が面白いかどうかは、馬がちゃんと撮れているかどうかによると思う。

その点ではこの映画はかなり良いと思う。

どうやって撮ったのだろうと思うくらい、馬の姿が撮れている。

疾走シーンも迫力があった。

                           -Cap034

1946年頃の話ということになっている。

時代を考えても、競馬については「?」の部分があるかもしれない。

しかし、気にならなかった。

                            -Cap042

Cap041 調教師役が、浅田次郎さんにそっくりで面白かった。

お母さん役の女優さん好みだなぁ。

でも、30年前の映画だから、もう・・・・ (笑)

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フランシス・フォード・コッポラ制作。どおりで・・

ヒットもしたようだ。

続編も作られている。

いまだに販売されている。

馬に乗ったことがない人や、馬に触れたことがない人にも見てもらいたい。

良い映画だ。

     Cap020-

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それでは皆さん、良いお年をお迎えください。


術後イレウスPOI の原因

2009-12-30 | 急性腹症

では、術後イレウスの原因は何か?

これはまだわかっていない。おそらくいろいろな要因が関係しているのだろう。

Veterinay Clinic of North America 23, 267-292 (2007) にTim S. Mair先生が、

  Evidence-Based Gastrointestinal Surgery in Horses

     エヴィデンスに基づいた馬の消化器手術

という文を載せている。

タイトルだけあって、136の引用文献を用いた馬の疝痛の開腹手術を文献的に総括しようとした文章だ。

その中で、

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術後イレウスの発生に関係していると思われる要因には、来院時の疝痛の期間と強さ、心拍、毛細血管充満時間、PCVと血漿総蛋白、胃液逆流の有無、麻酔と手術の時間、小腸病変、手術時の小腸の膨満の有無、が挙げられる。

まとめれば、すべてのこれらの要因は術後イレウスの発生は小腸閉塞が長く続いたときに起こりやすいことを示唆している。

この点で、小腸閉塞馬の早期の診断と治療の重要性が強調される。

                        -

と述べられている。

さらに、

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腸管の虚血、膨満、腹膜炎、電解質異常、エンドトキシン血症、腸管を傷つける操作、切除と吻合、全身麻酔、これらすべてが術後イレウスの発生につながる要因となりうると提唱されてきた。

損傷を受けた、あるいは虚血に陥った腸管から放出されるエンドトキシンは、腸管運動の異常を引き起こすと考えられてきた。

腸閉塞は、実験的に小腸の一部を外科的に擦ることで引き起される。小腸を減圧するための手術時の損傷はイレウスの要因となりうる。

これらの要因(エンドトキシンと腸管を擦ること)はどちらも小腸閉塞が長引いた症例でより顕著に起こり易い。

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う~ん、結局、早く手術しないと、小腸の膨満と虚血、エンドトキシン、そして小腸を減圧する ための操作で、術後イレウスP9040010が起こりやすくなる。

ということだ。 

(右の写真のようになると腸内容を推送して、腸管を減圧しなければならない。その操作も腸管を傷つけ、術後イレウスの要因になる。)

ただ、これでは、術後イレウスという病態と、それを引き起こす要因の正確な説明にはなってない。

まあ、有名な先生が、最新の文献をまとめても、術後イレウスの病態と原因を書くことはできないのだろう。            

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術後イレウス。Post Operative Ileus 略して POI。

ポイッ。とは読まないでね。

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Pc300034 年末年始天気は荒れるらしい。

雪が降ったあと、雨混じりの雪が降って、

雪と氷と水溜りで、デコボコツルツル。

皆さん気をつけて。


術後イレウス 内科治療の記憶

2009-12-29 | 急性腹症

ずっと以前、種牡馬を開腹手術した。 網嚢孔ヘルニアで空腸を引き抜くことはできたが、点状出血しており、浮腫状に肥厚していた。

「疑わしきは切除する」という小腸閉塞の手術の原則から行けば切除すべきだと思ったが、保険会社に依頼された獣医師も来ていて、「切除・吻合すると予後が良くないから・・・」と言う。

考えた末に温存したが、術後イレウスを起した。

やはり切除・吻合すべきだったか・・・後悔した。

疝痛を起し、口の粘膜は真っ赤になり、厳しい状態に陥った。

その馬は、高張食塩水の投与をきっかけに改善し、助かって、その後、長く種牡馬として働いた。

切除するか温存するか、どちらが正しかったかわからないが、今は自分で判断するしかないと思っている。

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1歳馬の回盲部重積で、回腸を盲腸へパイパス吻合した。Photo

例によって慢性の経過をたどった後で、術前にはひどい胃拡張もあったし、空腸は全長にわたって肥厚していた。

(右写真は回盲部重積の別症例;こういう空腸を「イカの一夜干し状態」と呼んでいる。もちろん英語にしても通じない;笑)

獣医さんの居る牧場だったので、入院させずに帰した。

しかし、術後イレウスで、2日間胃液の逆流が続いているという連絡が来た。

空腸が動き出さないのだろうと判断して、メトクロプラミドを点滴してもらった。

その頃から、蠕動が出始め、改善した。

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最近は、小腸閉塞を手術したら、最初からメトクロプラミドを点滴に入れることが多い。

それにも関わらず術後イレウスが起こるようだと、リドカインの1回投与と点滴を行う。

どうもメトクロプラミドの点滴以上に、リドカインは術後イレウスに効果があるように感じている。

最初からリドカインを使えば良いようなものだが・・・高い。

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リドカインがどうして術後イレウスに効果があるのかはわかっていない。

正常な馬に投与しても蠕動を亢進させないことが研究結果として報告されている。

おそらく、術後の馬は痛みを感じていて、それが交感神経を緊張させて蠕動を止めているので、リドカインが痛みを取ることで蠕動が出るのだろうとは考えられているようだ。

しかし、リドカインが他の鎮痛剤以上に疼痛を抑えるのかどうかわかっていないし、なぜ開腹手術後に特異的に効果をあげるのかもわかっていない。

おそらく、痛みだけでなく、腸管への血流や神経への作用もあるのだと思うが、まだまだ研究が必要なようだ。

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内科治療をしても胃液の逆流が続くようだと予後不良だと思いがちだが、胃カテーテルを入れて胃液を何度も抜いているうちに、術後イレウスが解消された症例もある。

・・・いずれにしても、術後イレウスは嫌なものだ。

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Dsc_0014


術後イレウス 

2009-12-28 | 急性腹症

Pc150107 疝痛馬を開腹手術する。

原因を確認して処置する。

術後は疝痛を示さないはずなのに、腸閉塞が改善されなかったり、再発したりする。

術後イレウスは嫌なものだ。

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手術した馬が好調なときは、私も上機嫌だし、自信にあふれているが、

手術した馬が調子が悪いと、私も不機嫌だし、元気がない。

Pc150104 術後イレウスは内科的な処置で徐々に改善されることもあるが、状態が悪化していくようだと再開腹手術を考える必要が出てくる。

術後の調子が悪い馬を見続けるのは辛いが、必要と思われる処置をして、それでも、どうしても再開腹が必要だと判断したらタイミングを逃さず再開腹しなければならない。

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Pc150106_2 頼むよ。

良くなってくれ。


Eqine Internal Medicine 3rd ed.

2009-12-27 | 図書室

Pc260029 Equine Internal Medicine の第3版が出た。らしい。

数年に一度改訂されることにも驚いてしまう。

第2版は本というより辞典のような厚さだった。

第3版は少しだけ薄くなった。紙の質も落としたようだ。

ページ数も減っている。

値段を下げて発行したかったのかもしれない。

文字は密になったようだ。

                     -Pc260030

「馬の内科学」という本が無理になってきて、「内科診断学」とか、「感染症」「呼吸器病」「消化器病」とか、「内科治療」などいうように分かれていくのかもしれない。

かつては、Medicine and Surgery などという本もあって重宝したのだけれど・・・

また、一から勉強するための教科書と、臨床家が調べ物をするための専門書、そして手元に置いて使うハンドブックと、それぞれに分かれていくのかもしれない。

この厚さの本を教科書にされたら、学生もたまらないだろう。

内科学と言っても馬だけなのだから。

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実は書評を書いてくれと頼まれた。

厚さを知っていたので、締め切りを延ばしてもらったのだけれど、第3版なので、第2版とどう変ったか書くためには第2版にも目を通さなければならないことに気がついた。

いつも「Hig's Book」をご愛顧いただきありがとうございます(笑)。

この Equine Interanal Medicine だけは、私の書評を読んでから、文永堂出版で購入ください(笑)。

2ヵ月後くらいには書評を書けると思う。たぶん(笑)。