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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

右子宮角の血腫と穿孔、そして腹膜炎

2021-04-30 | 繁殖学・産科学

分娩して1日半の繁殖雌馬。

腹膜炎を起こし、子宮穿孔が確認されて開腹手術。

私は会議から戻って来て、途中から立ち会った。

右子宮角が膨らんでいるのがいつもの子宮角穿孔とはちがう。

子宮壁の中が血腫になっている。

中の凝血を出しておかないと後で化膿するかもしれない。

搔き出したら子宮角の膨らみはずいぶん小さくなった。

子馬が後肢で蹴って、ただ穿孔するのではなく、子宮壁の中の血管も切れたのだろう。

あとは、汚れた腹水をできるだけ排泄し、生理食塩液を入れ、また排泄するのを繰り返す。

ドレインを残して閉腹。

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例年、お産が堪える馬だそうで、分娩後2-3日は調子が上がらないのだそうだ。

麻酔覚醒も時間がかかった。

入院厩舎で持続点滴を開始する。

開腹手術前はPCV56%、翌朝はPCV51%だった。

食欲は1割ほど。

どうしようか考えたが、子馬が待つ牧場へ帰ってもらった。

この季節、牧場も忙しい。

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花が開くのを楽しみにしているのに

このGWはすっかり雨のようだ

自粛してもらうには良いかもしれないけど

 

浅野のお殿様の暴挙にかかわったことで小藩にお預けになり幽閉謹慎させられている旗本をとりまく物語。

赤穂浪士の数名が、殿様の最後の言葉を訊きたくて訪ねてくる。

ことばを伝えたり、赤穂浪士があだ討ちをすれば、この主人公も罪を問われ、預かっている藩も幕府に責められる。

そうなるくらいなら病死、にでもすべく抹殺してしまおうとするかもしれない・・・・・

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まあ、かなり設定にも物語にも無理がある。

将軍の気まぐれや、ご政道にも、赤穂浪士たちの論理も矛盾がある。

思えば、武士道とかいうくせに、ごまかすことは平気でしてきたのだな。

証拠が残せない時代の悪弊だな。

 


子宮体背側から膣への穿孔

2021-04-28 | 繁殖学・産科学

朝、というかまだ夜中、3時23分に起こされる。

「難産で来た馬で、子馬を引っ張り出したけど、来院前から膣穿孔していて、子宮まで裂けていて縫えそうにない」

とのこと。

全身麻酔して後肢吊上げで出したのだと思い、

「馬はもう立ったの?」

と訊くと

「枠場で出した」

とのこと。

「今、行くわ」

                 -

1時間以上かかる力仕事になるかもしれない。

ギックリ腰にも、60肩にもならないように準備体操しながら野菜ジュースだけ飲んで”出勤”する。

子馬は枠場の前でのた打ち回っている。元気良さそう。

直腸検査エプロンと直腸検査手袋、その上に手術用のグローブをつけて陰部から手を入れるとたしかに大きく裂けている。

入れた手は腹腔へ入り、縮み始めている子宮壁外側のゴワゴワを触る。

裂孔の頭側も触れる。

「これなら縫えるかな」

「立位で縫うから子宮が縮んでくれた方が縫いやすいかも」

オキシトシンの点滴を始める。まだ残っている胎盤も落ちてくれるかもしれない。

尾椎硬膜外麻酔。

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三稜針に吸収性編み糸2号を付けて・・・・・付け外しに・・・持針器が要る。

それと糸を切るのに鋏。

いや、鋏付き持針器だからホントは糸切り鋏は要らない。まだ寝ぼけてる。

繁殖雌馬は18歳だと言う。

子宮から膣まで裂けているので、大切な子宮頚管も裂けてしまっている。

「もう受胎は難しいと思いますよ。でも子馬が生きているから乳飲ませてくれれば乳母代いらないから」

乳母を借りるには100万近い費用がかかる。

                 -

縫合は・・・・北米馬外科専門医にやってもらった;笑

私がさらに経験を積んでも私はもう上達しない。

これからの若い外科医に経験を積んでもらうことの方が価値がある。

左手で子宮壁を引張っておいて右手で子宮壁に針を通しても良いし、

完全に手探りで右手で縫合することもできる。

大きめの三稜針を使うことが要点のひとつ。

糸は片手結びで手探りで結ばなければならない(できるよね?獣医外科医のみなさん)。

1時間ほどで縫えた。

                 -

その間、私は超音波装置を出してきて腹腔を診た。

液体はあるが多くはない。

このあと、腹膜炎を起こす可能性はある。

お産はRed Bag Delivery (早期胎盤剥離)で、下胎向で、初期に膣背側を穿孔していたとのこと。

潤滑剤を使ったが、胎盤の中に入れたので腹腔へはほとんど入っていない、はず。

腹膜炎を起こしたら、腹腔ドレナージが必要になるかもしれない。

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子馬は毛布にくるんでぶら下げて馬運車に乗せ、うしろを母馬を連れて行った。

ベテランのお母さん馬だ、命がけで哺乳してくれるだろう。

試しに搾った乳は蜂蜜のような良好な初乳だ。

このお母さん馬は、2年前に結腸捻転で助かった馬。

けっこう重かったらしい。

今はすっかり太って、体形も崩れていない。

外はもうすっかり夜が明けた。

life or death, but survive !

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相棒にひっぱられて

こぶしを観に行った

私にはわからないが

におい、するのかもね

 

 

 


9 ヶ月ホルスタイン子牛の中手骨再骨折

2021-04-27 | 牛、ウシ、丑

5ヶ月齢の子牛が中手骨を骨折した。

ひどい骨折で、中手骨遠位骨幹端が粉砕していた。

それを牧場でキャスト固定し、なんどかキャストを巻直しながらX線撮影も繰り返した。

キャスト固定2ヶ月ではまだ骨癒合に不安があったので、もう1ヶ月固定してキャストを外した。

経過は悪くなかったが、キャストを外して20日で前回の骨折部の近位で再骨折してしまった。

という長い経過を持つ症例を相談された。

           ー

またキャスト固定されているが骨折端はかなりずれている。

ピースがある骨折で、完全な整復はピースが挟まるので無理かもしれない。

この中手骨の遠位部は前回の骨折と、長く負重していないために、骨量が減少している。

           ー

またキャスト固定しても骨癒合するかもしれない。

しかし、今回の状態もピースがある骨折で、もう体重もかなりあり、キャストの適応は悪いかもしれない。

反対肢も参ってきているので早く治したい。

プレート固定する方法もある。

しかし、治療費をかけたあげくに感染するリスクもあるし、骨折部より遠位の骨量が低く、screwがしっかり効くかも懸念される。

トランスバースピンTP(貫通ピン)を近位に入れてキャスト固定すればただのキャスト固定より体重を近位部へ逃がしてくれる。

さらに遠位部にもTPを入れれば骨折部を安定させてくれるだろう。

                  -

吸入麻酔でTPC手術をすることにした。

皮膚の上から骨鉗子をかけて整復を試みた。

完全な整復は無理のようだ。

近位に2本、遠位に2本、TPを入れた。

骨折部にlag screwを入れて骨折部を圧迫するとともに安定させておきたい。

が、うまくlag screwにならない。

対側皮質を押してしまう。

なんとか、6.5mmキャンセラスをポジションスクリューとして入れた。

この整復ではこれ以上圧迫できないだろう。

一番近位と遠位に入れたのは中央部にネジ山があるスタインマンピン。

近位から2本目はLHS、遠位から2本目は6.5mmキャンセラススクリューをTPとして使った。

私はTPCをするのは初めて。

創外固定としても好まない。

整復が不完全になりがちで、固定力も不足しがちで、感染しやすい。

今回の症例は再骨折で、特殊な例だと思う。

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まじめなかおしてるけど

顔に黄色いものがついてる

あ~タンポポの上でゴロスリしたな

 

 


また鼠径部陰睾

2021-04-25 | その他外科

陰睾のようだと言われて去勢に来た馬。

鎮静剤、さらに倒馬剤を投与して全身麻酔して、またぐらを触ったら発達の悪い精巣が左右に見つかった。

腹腔内に精巣がある陰睾だと手術室で吸入麻酔して腹腔に手を入れなければならない。

その準備と時間と人手を用意してあるのだが、鼠径部陰睾だと倒馬室で静脈麻酔でできる。

ただし、捻転式去勢は、かつて鼠径部陰睾の馬で出血が多かったことが2-3例あったので、結紮して挫滅鋏でやることにしている。

「陰睾のようだ」

と言われて来院しても、腹腔陰睾なのは半分ないかな。

ほんとうは、鼠径部陰睾であることも牧場で触診して判断してきてもらいたいが、

うるさい馬の股ぐらに手をいれてしげしげと触るのは危ないかもしれない。

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寝転んでリラックスした状態で

よく触らないと

わからないこともある

ということです

 

 


回腸盲腸重積

2021-04-23 | 急性腹症

朝、1歳馬の疝痛の依頼。

朝一の1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術と併行して診断し、開腹適応なら関節鏡手術が終わったら始めることにする。

1歳馬は小腸閉塞。完全膨満。

疫学的に回盲部の重積を疑う。

胃カテーテルを入れて、水を入れて、逆流させて胃を減圧する。

しかし、固形物が多くてあまり回収できなかった。

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某雑誌に「馬の疝痛」について書いてくれと頼まれているので、胃カテーテル操作の写真を撮った。

モデルさん達には、あんまり雑誌に載るという緊張感はないね;笑

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回腸が盲腸に入り込んでいる。

数十センチ入っていて、とても抜けそうにない。

重積部は温存して、回腸近位部を盲腸に側側吻合することになった。

並置して、

吻合する。

吻合部は広ければ広いほうが良いというわけではない。

広すぎると盲腸の内容が小腸へ逆流する。

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当歳秋から1歳馬の回盲部重積は葉状条虫症だと考えている。

当歳秋からあるので、夏過ぎには葉状条虫に効果を示す駆虫薬の投与が必要だし、

1歳のうちは回盲部重積がかなりあるので、けっこうな頻度で葉状条虫駆虫が必要だ。

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庭の隅のシデコブシが咲いた。

モクレンはまだだ。

山ではコブシが咲いているようだが、観にいけないでいる。