よその地区の2ヶ月齢の黒毛和種子牛が橈骨を骨折して発症翌日来院する、とのこと。

47kg、ちょっと小さめかな。
とても珍しいことなのだが、完全骨折にも関わらずほとんど変位していない。


しかし、近位方向へ螺旋状に骨折線は延び、骨端線に到っている。
どのような内固定をするか・・・・
頭側にDCP
古典的な方法だが、子牛の頭骨は頭尾方向にとても薄い。screw保持力が乏しく、固定力も創り出しにくいと思われる。手痛い失敗をしたこともある。
そして、頭-尾方向Xrayで近位部に骨折線が長く見えるのだから、頭側にプレートを置いてscrewを入れると、亀裂骨折を広げてしまう可能性がある。だから、頭側にプレート1枚は選択肢ではないだろう。
内側にDCP
牛の頭骨骨折は、骨折の形状 configuration にもよるが、内側にプレートを当てるのが良いのではないかと近頃は考えている。
頭-尾方向のXray画像で見えている近位部の亀裂を保持するためにも内-外方向のscrewが有効。
LCPあるいはダブルプレート
橈骨骨幹中央から近位への粉砕骨折でもあるので、本当に強度を創るためにはLCPを使うか、ダブルプレートするのが望ましいかもしれない。
しかし・・・
どちらにしても器材が高くつく。
現在の黒毛和種素牛の市場価格を考えると、費用がかかっても確実に治したい、というより治療費は安くおさめたいだろう。
ORIF or MIPO
Open Reduction and Internal Fixation 切開し整復し内固定するのが手術しやすいが、
変位がほとんどないので、Minimally Invasive Plate Osteosynthesis 最小侵襲プレート固定ができるだろう。
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橈骨内側にminimally invasive にDCPを当てることになった。私は助手を務める。

できるだけ長いプレートを入れたい。が、8孔は無理だった。
皮下にトンネルを作って、DCPを押し込む。

子牛の橈骨は薄い。ナローDCPでもうまく乗せないとscrewが橈骨からはみ出してしまう。

DCPは1mmの隙間もなく骨に乗っているのが理想。それをMIPOでやるのはかなり難しい。

screwで固定を始めたら、外側の亀裂は少し開いた。
最近位の6.5mmキャンセラスscrewは、5mm長いものに差し替える。

子牛の骨幹端のscrewはキャンセラスの方が良いと思っている。
が、正確な操作をしないと、ドリル孔に入って行かなかったり、
対側皮質のドリル孔ではないところを押してしまったりするので注意が必要だ。

DCPが橈骨内側にぴったりと当たった。
頭側にはプレートは要らないだろうと判断した。
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MIPOで手術終了することができた。
DCPをMIPOで使うのは賛否両論あるかもしれない。
しかし、子牛のプレート固定では価値があると思う。
もちろん、正確な技術が要求されるし、正しく応用できれば、だ。

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手術が終わって子牛は立ち上がったが、立ち方は心もとない。
来院したときに首に巻いていたネックウォーマーやたすき掛けの伸縮包帯は、ヴェルポースリング velpeau sling を巻いていたのが取れたのだろう。
それならと、輸送のため、あるいは術後数日間おとなしくさせておくためにヴェルポーを巻いて帰すことにした。
ヴェルポースリングを巻くのはちょっとしたコツが要る。
首に巻くのではなく、胴体に巻くのだ。
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来年、1月26日、栃木県那須塩原市での全国公営競馬獣医師協会の研修では、骨折内固定をテーマに実習しますが、
テーブルの1つは子牛のプレート固定を練習していただこうと考え準備しています。

診療対象は主に牛、という大動物獣医さんも、よろしければどうごご参加ください。
お申し込みは、全国公営競馬獣医師協会まで。
