馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

高齢馬の飛節浅屈腱脱位

2023-12-30 | その他外科

18歳の繁殖牝馬が、5日前から右後跛行。

左右とも直飛(飛節の屈曲が少ない)で球節が沈下している、

浅屈腱脱位を疑っている、とのこと。

右飛節は形がおかしい。

浅屈腱が外へ脱位しているし、

飛端の滑液嚢や固定装置が崩れている。

左飛節も同じ。

左飛節は球節も大きくなっているので、もう慢性化しているのだろう。

右は5日前に悪化したのかもしれない。

Lameness in Horse を古い版から渉猟してみると、それぞれ写真が載っているが、

あまり良い写真ではない。

若い獣医さんの参考になればと思って、外貌写真を載せておく。

外科治療はいくつかの方法が報告されているが、成果はかんばしくない。

最新の情報では、中途半端な脱位は痛みの要因になるので、腱鞘鏡手術で完全に脱位させることで痛みがなくなる、というIan Wright 先生たちの症例報告が紹介されている。

ただ、今回の馬は18歳の妊娠馬なので、吸入麻酔をかけての手術にリスクがあるだろうし、

右の痛みも徐々に左のようには治まるだろうと判断した。

           ー

DSLD(ESPA)の所見のひとつとして皮膚の過伸長がないか引っ張ってみたが、この馬は正常だった。

         //////////////

前夜に引き続き結腸左背側変位の1歳馬の開腹手術。

もう発症3日目で、結腸は膠様浸潤を起こしていた。

右背側結腸に便秘塊もあり、結腸骨盤曲を切開した。

結腸を空にしてやることは、その後の結腸の回復の助けになるだろうと思う。

再発しないように注意が必要だが、すでに十分注意した給餌管理がされているとそれ以上は難しい。

          ー

私はこれで仕事納め。

夜間当番も休日当番もないので、”正常な”、”世間並みの”、”当たり前の”、”かたぎの”、年末年始をすごす。

みなさん、1年お疲れ様でした。

どうぞ良い年をお迎え下さい。

 

 


舌損傷 2日続けて

2023-12-28 | 歯科・口腔外科

手術室で吸入麻酔で手術している最中に、舌損傷の1歳馬が来院。

前日にチフニーを付けたまま暴れたか、放馬したらしい。

鎮静投与して、

舌顎神経ブロックして、

舌を引っ張り出してみる。

けっこう切れて汚れている。

縫わなきゃならないので、その奥で包帯で縛って引っ張り出す。

生理食塩液をかけながら、鋭匙でデブリド。

汚れが落ちて、新鮮創になり、出血してきてから縫合。

1 の吸収性モノフィラメント糸で深く垂直マットレス縫合。

浅い部分は、0 の吸収性モノフィラメント糸で十字縫合。

1日は口カゴをして絶食してもらう。

水は口カゴをしたまま飲んでもらって構わない。

         ー

なんと、次の日も1歳馬が舌を損傷しているとの連絡。

3日前から涎を出していた、とのこと。

来院して、鎮静投与して、枠場に入れて、開口器を付けて、舌を上げると、

舌小帯という下顎と舌を結んでいる帯状部分が裂けている。

汚れていて、傷は変色し、硬くなっている。

外国人騎乗者が舌を縛って乗っていたのだそうだ。

傷を生理食塩液で洗いながら、鋭匙とガーゼでデブリドし、きれいになってから

0 吸収性モノフィラメント糸で十字縫合。

この馬も明日1日は口カゴをして絶食してもらう。

          ー

舌はひどく傷ついても切断されてしまうことはない、と思っていた。

しかし、切れてしまって舌先が見つからないこともあるらしい。

そうなったら、縫合のためにうちに連れてこられないので、私が診ることがない。

なるほど、そういうことか。

          ー

チフニーは事故があるので、チェーンシャンクを使った方が好いんだ、という見解も一理も二理もある。

        /////////////

日高国際スキー場はまだ一番下のリフトしか動いてない。

それで、また夕張マウントレースイまで行ってきた。

今日は、ゴンドラも動いていたし、お客さんが多くて驚いた。

もう年末年始休みなのか?

子どもや若者ばかりでもなかった。

品川ナンバーや多摩ナンバーの車も停まっていた。

えっ?滑ってる人が写ってない?

これでも混んでたんだよ。

「行って残そうマウントレースイ」

 

 

 


尺骨骨折プレート固定は仰臥でナローで

2023-12-25 | 整形外科

当歳馬の尺骨骨折が来院。

発症からもう4-5日経っている。

最初はひどい跛行だったが、だいぶ痛みがとれたようで患肢も使って歩いてきた。

          ー

8孔DCPで固定。

当歳といってももう300kg近くあるので、しっかりした固定をする必要がある。

尺骨は薄い骨で、成馬でも尾側にはナロープレートしか乗らない。

ナロープレートは成人男性の腕力で撓むが、馬の上腕三頭筋はわれわれの腕の数倍の太さがある。

本当は成馬の尺骨骨折ではナローは強度不足だ。

          ー

牛は尺骨骨折はまれ。

しかし、私は1例経験がある

Farm Animal Surgery は牛の骨折治療について詳述されている良い本だが、

牛の尺骨骨折を固定したプレートが折れてしまった症例がなんと2箇所に紹介されている。

折れてしまったので、2枚重ねで固定しなおした症例だ。

これは良い方法ではなく、ナロープレートでは強度が足らなかったのなら、

尺骨の尾側と、外側にもプレートを当てて、ダブルプレート固定するのが良いのだろうと思う。

         ー

うちでは以前から尺骨骨折のプレート固定手術も仰臥位で行っている。

その方がアプローチも容易で、

X線撮影もしやすく、

手術中にプレートを落っことす心配もなく、

術者もドリルを扱い易く、

プレートを良い位置に乗せやすい、と考えている。

           ー

尺骨骨折のプレート固定手術では、スクリューを良い方向へ入れるのが難しい。

薄い尺骨からスクリューがはみ出さないように、はみ出していないかどうか、尺骨の内側外側を鈍性に剥離し指を入れることができる。

必要なときには、anconeal processまで指を入れることも可能。

           ー

何を経験してきて

何を考えてやって来て

何を学んできたか

伝え残していきたいと思っている

           ///////////

私の新しいトレーニングスペース。

なかなか好いよ。

もっと乳酸が溜まるほど追い込まないとスノボには筋力不足だとわかった。

耐乳酸トレーニングってやつだね。

 

 


妊娠馬の結腸変位

2023-12-24 | 急性腹症

午前中は予定診療なしの土曜日、と思っていたら疝痛馬が来院。

6歳、4月末分娩予定、蹄を観ると・・・・慢性蹄葉炎だ。

前日午後からの疝痛で、痛いときは転がる。

直腸検査では、妊娠子宮とガスの張った大腸、内容のある大腸、腸紐は膨満によって緊張している。

が、どこも肥厚感はなし。

超音波で、右肝臓尾側に浮腫を起こした結腸動脈周囲が見えた。

結腸壁の肥厚は見えない。

「結腸変位でしょう。開けましょう」

           ー

妊娠子宮が大きく、大腸にアプローチしにくいが、まず盲腸を引き出しガス抜き。

結腸を引き出し奥を触ると、右背側結腸はかなり便秘気味。

蹄葉炎があるので、運動不足なのだろうし、

便秘気味になって、結腸が変位したのだろう。

結腸動脈周囲の一部と結腸壁の一部には膠様浸潤があった。

これが超音波で見えたわけだ。

           ー

骨盤曲を切開し、水を送り込み、内容を軟化させて大結腸を空にした。

再発しないようにcolopexy した。

合間に、両前肢の蹄をX線撮影してもらう。

もう蹄骨の先が磨耗し、反るように変形している。

蹄底はとても薄く圧迫されている。

気性の激しい馬で、この蹄でも放牧地へ走って行くし、

靴を履かせても食いちぎってしまうそうだ。

やるとしたら、深屈腱切断と蹄のデ・ローテーション管理だが、

こんな開腹手術に併せて、特に状態が悪くなったわけではないのに妊娠末期にやる処置ではない。

           ー

土曜日で血液検査業務もやらなければ・・・と思っていたら・・・・

        ///////////

なじみのスキー場がやっとオープンしたので

スノボしてきた。

雪フカフカのせいか、シーズン初スノボのせいか、1時間でヘトヘト。

午後には全身攣りそうになった;笑

好い運動だ。

 

 

 


Radial Fracture in a 2MO Japanese Black Calf

2023-12-20 | 牛、ウシ、丑

よその地区の2ヶ月齢の黒毛和種子牛が橈骨を骨折して発症翌日来院する、とのこと。

47kg、ちょっと小さめかな。

とても珍しいことなのだが、完全骨折にも関わらずほとんど変位していない。

しかし、近位方向へ螺旋状に骨折線は延び、骨端線に到っている。

どのような内固定をするか・・・・

頭側にDCP

古典的な方法だが、子牛の頭骨は頭尾方向にとても薄い。screw保持力が乏しく、固定力も創り出しにくいと思われる。手痛い失敗をしたこともある。

そして、頭-尾方向Xrayで近位部に骨折線が長く見えるのだから、頭側にプレートを置いてscrewを入れると、亀裂骨折を広げてしまう可能性がある。だから、頭側にプレート1枚は選択肢ではないだろう。

内側にDCP

牛の頭骨骨折は、骨折の形状 configuration にもよるが、内側にプレートを当てるのが良いのではないかと近頃は考えている。

頭-尾方向のXray画像で見えている近位部の亀裂を保持するためにも内-外方向のscrewが有効。

LCPあるいはダブルプレート

橈骨骨幹中央から近位への粉砕骨折でもあるので、本当に強度を創るためにはLCPを使うか、ダブルプレートするのが望ましいかもしれない。

しかし・・・

どちらにしても器材が高くつく。

現在の黒毛和種素牛の市場価格を考えると、費用がかかっても確実に治したい、というより治療費は安くおさめたいだろう。

ORIF or MIPO

Open Reduction and Internal Fixation 切開し整復し内固定するのが手術しやすいが、

変位がほとんどないので、Minimally Invasive Plate Osteosynthesis 最小侵襲プレート固定ができるだろう。

          ー

橈骨内側にminimally invasive にDCPを当てることになった。私は助手を務める。

できるだけ長いプレートを入れたい。が、8孔は無理だった。

皮下にトンネルを作って、DCPを押し込む。

子牛の橈骨は薄い。ナローDCPでもうまく乗せないとscrewが橈骨からはみ出してしまう。

DCPは1mmの隙間もなく骨に乗っているのが理想。それをMIPOでやるのはかなり難しい。

screwで固定を始めたら、外側の亀裂は少し開いた。

最近位の6.5mmキャンセラスscrewは、5mm長いものに差し替える。

子牛の骨幹端のscrewはキャンセラスの方が良いと思っている。

が、正確な操作をしないと、ドリル孔に入って行かなかったり、

対側皮質のドリル孔ではないところを押してしまったりするので注意が必要だ。

DCPが橈骨内側にぴったりと当たった。

頭側にはプレートは要らないだろうと判断した。

          ー

MIPOで手術終了することができた。

DCPをMIPOで使うのは賛否両論あるかもしれない。

しかし、子牛のプレート固定では価値があると思う。

もちろん、正確な技術が要求されるし、正しく応用できれば、だ。

           ー

手術が終わって子牛は立ち上がったが、立ち方は心もとない。

来院したときに首に巻いていたネックウォーマーやたすき掛けの伸縮包帯は、ヴェルポースリング velpeau sling を巻いていたのが取れたのだろう。

それならと、輸送のため、あるいは術後数日間おとなしくさせておくためにヴェルポーを巻いて帰すことにした。

ヴェルポースリングを巻くのはちょっとしたコツが要る。

首に巻くのではなく、胴体に巻くのだ。

                             //////////////

来年、1月26日、栃木県那須塩原市での全国公営競馬獣医師協会の研修では、骨折内固定をテーマに実習しますが、

テーブルの1つは子牛のプレート固定を練習していただこうと考え準備しています。

診療対象は主に牛、という大動物獣医さんも、よろしければどうごご参加ください。

お申し込みは、全国公営競馬獣医師協会まで。