馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

高度免疫血漿投与が仔馬のR.equi肺炎を減らした

2024-07-12 | 感染症

R.equiに対する高度免疫血漿投与は仔馬をR.equi感染から守るか?

感染を減らすか、あるいは重症化を防ぐか?

人は自分の経験に固執するものだ;笑

Effect of prophylactic administration of hyperimmune plasma to prevent Rhodococcus equi infection on foals from endemically affected farms

Zentrarbl Veterinarmed B 1999 Nov;46(9):641-8.

The effect on foals of prophylactic administration of hyperimmune plasma to prevent R. equi infection was investigated on three farms at which R. equi infection was endemic. Sixteen foals between 10 and 39 days of age were intravenously given 1-21 of hyperimmune plasma. ELISA antibody titres against R. equi were significantly increased and maintained at high levels for over 30 days in most of the recipient foals. The prevalence of R. equi infection was 6.3% (1/16) in the foals that received the immune plasma, and 26.3% (5/19) in the control foals not given the immune plasma on the three farms. For 2 years before and after this field trial on the three farms, 18 of 64 foals (28.1%) showed clinical signs of respiratory tract infection and four of them died of R. equi pneumonia. Heavy contamination of horses and their environment with virulent R. equi was detected by colony blotting, and plasmid profiles also suggested that foals on the three farms were constantly exposed to virulent R. equi. The results of this field trial support previous observations by some researchers that the administration of hyperimmune plasma to foals in the early days of life promotes prevention of R. equi infection on endemic farms; however, the mechanism of hyperimmune plasma protection remains unclear.

R. equi 感染を予防するための高度免疫血漿の予防的投与の子馬への効果を、3つのR. equi 感染症多発牧場で調査した。生後10日から39日までの16頭の子馬に、1〜2リットルの高度免疫血漿を静脈内投与した。R. equiに対するELISA抗体価は、ほとんどのレシピエント仔馬で有意に増加し、30日以上にわたって高レベルに維持された。R. equi感染の罹患率は、免疫血漿を投与された仔馬で6.3%(1/16)、免疫血漿を投与されなかった対照仔馬で26.3%(5/19)であった。3つの牧場で行われたこの野外試験の前後2年間、64頭の子馬のうち18頭(28.1%)が気道感染症の臨床症状を示し、そのうち4頭がR. equi肺炎で死亡した。コロニーブロッティングにより、馬とその環境に対する強毒性R. equiによる重度の汚染が検出され、プラスミドプロファイルは、3つの牧場の子馬が常に強毒性R. equiに曝露されていることも示唆しました。この野外試験の結果は、生後初期に仔馬に高度免疫血漿を投与すると、多発牧場でのR.equi感染の予防が促進されるという一部の研究者による以前の観察を裏付けている。しかし、免高度疫血漿防御のメカニズムは不明である。

               ー

1990年代当初、われわれの地区にはR.equi感染症多発牧場があった。

生産馬の多くがR.equiに感染し、半数近くがR.equi肺炎を発症し、何頭かは死亡していた。

この高度免疫血漿投与試験を行う数年前からJRA生産地疾病調査として取り組んでいたので、何も対策をしていなかったとか、無頓着だったということはない。

感染仔馬の早期発見に努めていたし、検査をしながら抗菌剤治療をしていた。

しかし、毎年複数の仔馬が死亡するというのはたいへんな被害だった。

               ー

たまたま別な臨床試験のために入院厩舎で飼養していた実験馬を使わせてもらって高度免疫血漿を作成した。

秋の暇な時期に作成し、凍結保存しておいて、多発牧場で投与してもらった。

まだR.equi感染についての知識が不十分で、出生直後に投与することはしなかった。

忙しい出産シーズン真っ最中の予防のための作業になるので、投与するタイミングは往診に回っている先生にお任せした。

               ー

予防効果は上々だったと思っている。

血漿投与した仔馬16頭のうちR.equi肺炎を発症したのは1頭(6.3%)。

投与しなかった仔馬19頭のうち発症したのは5頭(26.3%)。

これら3牧場では、血漿投与試験の前後の2年間に、生産仔馬64頭のうち18頭が呼吸器症状を示し(28.1%)、4頭はR.equi肺炎で死亡した。

               ー

R.equi高度免疫血漿を作って予防のために投与する、というのはたいへんな手間がかかる。

血漿投与にかかわる多少のリスクもある。

それでも、早期発見、早期治療だけでは手に負えない多発牧場の仔馬を守るためには有効な手段だと考えている。

複数の仔馬の長期の治療費、死亡する仔馬の被害、それを考えれば予防が成果を挙げるなら費用をかけても見合うはずだ。

そして、発症仔馬を減らせている間に、牧場環境の清浄化を図れば良い。

多発牧場ではなくせるはずだ。

               ー

野外試験と言えどもたいへんな手間と経費がかかるのでわれわれは無料でやるわけにはいかない。

そして、「それは生物学的製剤の密造になりますよ」と関係機関からストップがかかってしまった。

おそらく、生産牧場が自分の管理馬を使って免疫血漿を作成し、それを自分の生産馬に投与するのは獣医療法上問題ないはずだ。

獣医師を雇用している生産牧場もいくつもある。

R.equi感染症の多発が問題なら、新生仔馬に高度免疫血漿を投与することは予防効果を上げるだろうと、私は考えている。

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この景色が見たくて、登ってきた。

1時間半。

ロープウェイとリフトで高度を稼いだあとだけどね;笑

もちろん、下りもリフトとロープウェイを使いました;笑

 

 


R.equiの抗菌剤耐性が進んでいる 

2024-07-08 | 感染症

恐ろしいことなのだが、R.equiの抗菌剤耐性が進みつつある。

これだけ毎年、多数のR.equi感染仔馬が発生し、長期間に大量の抗菌剤が投与されているので・・・・

当然と言えば当然。当たり前と言えば当たり前なのだが。

              ー

Emergence of Resistance to Macrolides and Rifampin in Clinical Isolates of Rhodococcus equi from Foals in Central Kentucky, 1995 to 2017

Antimicrob Agents Chimother 2018 Dec 21;63(1):e01714-18

この研究の目的は、ケンタッキー中央部の診断研究所に提出された子馬の臨床検体におけるマクロライドとリファンピンに耐性のあるR.equi株の率を調べることであった。1995年1月から2017年12月の間にケンタッキー州の獣医診断研究所に提出された仔馬のすべての臨床検体の回顧的観察研究を実施した。R. equi を培養し、エリスロマイシンまたはリファンピンに対する in vitro 感受性について試験し検体とした。エリスロマイシンに対するin vitro感受性試験は、R. equiの分離株2,169株が利用可能であり、エリスロマイシンとリファンピンの両方に対する感受性試験が1,681株で利用可能であった。リファンピン耐性は2000年に初めて検出され、エリスロマイシン耐性は2004年に初めて検出された。1995年から2006年の間に、R. equiの耐性分離株の割合は、エリスロマイシンで0.7%、リファンピンで2.3%であった。2007年から2017年の間に耐性R.equiの割合が有意に増加し(P < 0.001)、分離株の13.6%がエリスロマイシンに耐性があり、16.1%がリファンピンに耐性があった。2007年から2017年の間に、エリスロマイシンまたはリファンピンに耐性のあるR.equi分離株は、気道、他の軟部組織、または筋骨格系感染症よりも糞便から分離される可能性が有意に低かった。2007年以降、マクロライドとリファンピンに耐性のあるR.equiの分離株の有病率が大幅に増加していることは、人間と動物の両方の健康にとって懸念事項である。

              ー

今でさえR.equi感染症の治療には手こずっている。

抗菌剤誘発性腸炎のリスクはあるが、リファンピンは切り札として使われてきた。

リファンピン単独投与ではなく、マクロライド系抗菌剤と組み合わせて使われることが多い。

(日本の馬はエリスロマイシンに弱く、腸炎を起こしやすいのでエリスロマイシンではなく他のマクロライド系抗菌剤が使われてきた)

しかし、ケンタッキーではすでにリファンピンにも、エリスロマイシンにも、耐性のR.equiがそれぞれ14%、16%分離されている。

              ー

「うちのロドは治らないんですよね」

という牧場もある。

これはその牧場で抗菌剤耐性が進んでいる可能性がある。

それだけではなく、発見が遅れがちで、重症化してから治療する傾向にあるとか、他の要因も考えられる。

しかし、長期に抗菌剤で治療していれば、抗菌剤耐性のR.equiを選択的に残すことになる。

治療の切り札の効果がなくなったら・・・・・・

              ー

そして、リファンピンは今でもヒト結核の治療に使われる重要な抗菌剤だ。

ヒト結核でも抗菌剤耐性の蔓延は大きな問題になっている。

また、Rhodococcus equi強毒株は、免疫が衰えるヒトにも感染することがあるのが知られている。

おそろしいことだ。

              ー

R.equi感染仔馬をリファンピン単剤投与で治療するのは好ましくない。

そして、重症化して予後が厳しい仔馬に長期に抗菌剤投与することも好ましくない。

ルールを守らない馬獣医業界などに、「重要な抗菌剤を使わせないようにしよう」となる前に、

馬医者の自律が求められている、と思う。

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東京で会議の前に時間があったので、近くの湯島天神を訪ねた。

街中でビルに囲まれているが、落ちついた好い空間だった。

都心、じゃなくて下町、なのかな。

途中、こじんまりした建物があった。

緬羊会館。

へえ~

こんな集積さえ東京にあって、東京という巨大都市は成り立っているんだな。

 

 

 

 

 


R.equi感染症 ワクチンはできないのか? 

2024-06-09 | 感染症

R.equi感染症の克服のために、ワクチンはできないのか?

Rhodococcus equi (Prescottella equi) vaccines; the future of vaccine development

Equine Vet J. 2015, Sep, 47(5), 510-8

For decades researchers have been targeting prevention of Rhodococcus equi (Rhodococcus hoagui/Prescottella equi) by vaccination and the horse breeding industry has supported the ongoing efforts by researchers to develop a safe and cost effective vaccine to prevent disease in foals. Traditional vaccines including live, killed and attenuated (physical and chemical) vaccines have proved to be ineffective and more modern molecular-based vaccines including the DNA plasmid, genetically attenuated and subunit vaccines have provided inadequate protection of foals. Newer, bacterial vector vaccines have recently shown promise for R. equi in the mouse model. This article describes the findings of key research in R. equi vaccine development and looks at alternative methods that may potentially be utilised.

この数十年にわたり研究者たちはワクチンによるRhodococcus equiの予防を標的としてきた。

馬産業界は子馬の病気を防ぐ安価で効果的なワクチン開発を行う研究者たちの継続的な努力を支援してきた。

生菌ワクチン、死菌ワクチン、弱毒化(物理的、そして化学的)ワクチンは効果がないと証明された。

そして、DNAプラスミド、遺伝子弱毒化ワクチン、サブユニットワクチンなど最新の分子手法によるワクチンが提供したのは子馬の不十分な防御であった。

より新しい細菌ベクターワクチンは、マウスモデルでのR.equiへの有望性を見せている。

この文章では、R.equiワクチン開発での鍵となる研究について述べ、利用できる可能性がある代替方法を紹介する。

            ー

R.equi を Prescottella equi と呼ぼうという提案があるのだろうか?

かつては Corynebacterium equi と呼ばれ、それが Rhodococcus に分類され、混乱があるのだろうが・・・・

Prescott 先生は偉大な細菌学者なのだろうが、安易に人の名前を付けるのはやめてもらいたい。

            ー

子馬はR.equiに生後とても早い時期に暴露され、感染が成立する。

子馬は細胞性免疫能がとても未熟で、さまざまな感染症に敗北する。

その子馬に生後すぐにワクチンを接種しても、免疫賦活される前に、R.equi強毒株に負けていくだろう。

液性免疫が有効なら、母馬にワクチンを接種して初乳を介して子馬に抗R.equi 成分を与えて子馬を守ることが可能かもしれないが、それも望み薄なのはこれまでの調査でわかっている。

            ー

子馬をR.equiから守るためのワクチンの利用は、かなり厳しいと考えた方が良さそうだ。

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朝、関節鏡手術。

それから、子馬の尺骨骨折。

昼でないと来院できない。

発症当日なのだが、骨折線は開いていて、尺骨頭に近い。ずれるとやっかい。

プレート固定した。

午後3時半からは、前日に発症した2歳馬の第一趾骨縦骨折。

内固定器具も2セット以上必要だな。

滅菌が間に合わない。

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エゾカンゾウ

ユリに似ているが別種で、ワスレナグサ類らしい。

ニッコウキスゲと同じだとか、ちょっと特徴がちがうとか。

ササだけ刈って、エゾカンゾウを刈り残すのはなかなか難しい。

冬の間にササを刈っておいたら、少し増えてきたようだ

 

 


消毒?その前に掃除、その前に片付け

2024-04-24 | 感染症

日曜日、めずらしく入院厩舎が空になったので、馬房を掃除する。

馬房の端に積まれた敷き藁を別の馬房へ移す。

高圧洗浄機で壁についた下痢便を落とす。

ブラシで擦るよりは落ちるし楽だが、水圧の当てようによってはペンキが剥がれ、コンパネが削れる。

それでも落とせない汚れもある。

床はワラと便と尿がこびりついている。

高圧洗浄機で洗うと落ちるが、汚れが壁に飛び散る。

床と壁は交互に洗わないと。

壁のクモの巣とホコリが張り付いている。

これも高圧洗浄機で吹き飛ばす。

           ー

この季節、新生子馬の敗血症(関節炎)も多い。

分娩馬房の洗浄、消毒に注意しないと新生子馬が次々に感染することになる。

           ー

ロドコッカス感染症もかなり出ている。

感染子馬からの痰や便は次の子馬の感染源になる。

           ー

これからはロタの下痢も流行する。

種付けに子馬を連れて行くのは十分に注意した方が良い。

           ー

この季節、生産牧場は寝る暇もないほど忙しい。

それでも感染症や伝染病が出たら、もっと忙しくなる。

消毒?その前に掃除を。そして、効果がある掃除をするためには片付けないとできない。

Salmonella やコクシジウム症が出た牧場、病院、厩舎を衛生管理するのは専門的な知識と経験が要る。

Clostridium, Clostridioides など芽胞菌で汚れると洗浄、消毒するのは至難の業だ。

しかし、畜産には必須の技術だ。

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消毒というと、すぐ「消毒薬は何が良いでしょう?」と言う話になる。

有機物があると消毒の効果などないというのは基本事項として習うこと。

消毒の前に十分洗浄しなければならない。

ロドコッカスは土壌にいる、増殖できる、となるとパドックを消毒しようか、と言う話もでる。

土を消毒するなんて無理で無意味。

やるならパドックの土の入れ替えだろう。

土は植物を育てることさえできる有機物と細菌の複合体。

 

 


来年の子馬をロドコッカスから守るために

2023-10-02 | 感染症

季節の反対側に来ると春のことは忘れがち。

ただ、間違いなくやってくる春のために、今だからやっておくべきことがある。

厩舎を掃除しましょう

ロドコッカス肺炎にかかって喉がゴロゴロ、咳をしていた子馬の痰には大量のロドコッカス Rhodococcus equi 強毒株が含まれている。

それは壁や扉や馬栓棒に付着し、こびりつき、あるいは厩舎のホコリになっている。

子馬はあちこち舐めるし、汚れは乾燥すると微粒子になって舞い上がる。

来年生まれる子馬をロドコッカス感染から守るために、今のうちに厩舎を掃除しましょう。

消毒薬をかける前にまず洗浄。

物理的に汚れや有機物を取り除かないと消毒効果は得られません。

冬になったら洗浄機が使えない。

子馬は暖かくなる前に生まれ始める。

掃除して、今年の汚れ(ロドコッカスの!)を落とすのは、、今でしょ!

厩舎わきのパドックの管理

今年、肺炎にかかった子馬を厩舎のそばの小パドックへ出しませんでしたか?

ロドコッカス肺炎にかかった子馬の糞便にはロドコッカス強毒株が大量に含まれています。

下痢はしてなかった?

下痢の有無にかかわらず、喀痰を大量に飲み込むから糞便中のロドコッカス菌量が増えるのでしょう。

ロドコッカスは土壌菌でもあり、土の中で生き延び、気温が上がると増殖できます。

来年、生まれたばかりの子馬を放すのはそのパドックではないですか?

ロドコッカス肺炎の子馬を放して汚染したなら、パドックの土を入替えるのも方法です。

パドックは草で覆われていた方が好いです。

今なら、土を入替えるか深く天地返しして、種を蒔いておけば霜が降りるまでに草の芽が出るでしょう。

ロドコッカス感染症の被害を把握し対策を立てておきましょう

今年の子馬の中で何頭が感染したか把握しておきましょう。

早期発見が重要です。

発症期の子馬の検温や血液検査が有効です。

手間も費用もかかります。

忙しく、作業に追われる春に役立つ対策を立てておきましょう。

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ムクゲはまだ咲いているけど

ドウダンツツジやツリバナは紅葉し始めた。

ヘンな秋だけど、秋は秋だ。