馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

バナミンペーストの功罪

2018-08-19 | 急性腹症

金曜日、2日続きのTieback&cordectomy。

昼、外傷縫合。

午後、2歳競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

夕方、繁殖雌馬の疝痛の来院。

あちこちぶつけ、ひどい顔をして馬運車から降りてきた。

PCV58%、乳酸値4.0mmol/l。

鎮静剤投与しても寝そうになる。

「ダメかもしれないけど手術してみますか?」

と訊くと、オーナーにもう一度確認を・・・と言ってる間に、右前腕節が腫れて、曲がってきた。

馬運車から降りて歩いてくるときも、跛行しているのは気になっていた。

「ダメだね。あきらめましょう。」

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剖検したら、結腸捻転で、大結腸は完全壊死。

腕節は手根骨が粉砕骨折していた。

肝臓は右葉がとくに小さくて、大腸による長年の圧迫を物語っていた。

いつか結腸捻転で死ぬ運命の馬だったのだろう。

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朝、8時に疝痛が始まって、バナミン(フルニキシン)ペーストを与えたらすっかり疝痛は落ちついたのだそうだ。

昼にまた疝痛が始まって、来院したのが4時。

午前中に来院していれば手遅れになることなく助かっただろう。

激痛で転がりまわる中で手根骨を粉砕骨折することもなかっただろう。

再発防止のcolopexyがうまく行けば、結腸捻転で死なずに寿命を全うできたかもしれない。

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馬の疝痛にフルニキシンは特異的に効く。

しかし、気軽にバナミンペーストをフルドーズ(最大用量)与えていると、変位疝の診断が遅れることにつながる。

獣医師が注射でフルニキシン製剤を投与するときも、「半量にすべきだ」と述べている海外の先生も居た。

そして、獣医師なら、超音波検査と直腸検査などで変位疝ではないか診断できる(べきだ;笑)。

バナミンペーストは便利なものだが、疝痛を手遅れにする危険もある。

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あっかるいね~

長年、馬のそばにいても、

こんな風に馬をとらえたり、

こんな馬の像をつくろうなんて思ったことはない。

だから芸術なんだろうな。

 

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結腸切除しても助けられない結腸捻転

2018-07-30 | 急性腹症

日曜日、午前中は2歳馬の喉頭形成・声帯切除の予定。

そこへ、1歳馬の外傷の依頼。

肘部の皮膚の裂創で、大怪我ではない。

「喉の手術が昼ちかくまでかかるし、午後は骨折の手術予定が入っているので、そっちでやれば?」

と訊くが、馬が凶暴で縫合できなかった、とのこと。

喉の手術の麻酔覚醒を待つ間になんとか縫合できるかと来院時刻を指定した。

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喉の手術が始まる頃、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

「鎮静剤も効かず、手がつけられないのですぐ行かせる」とのこと。

喉の手術が終わった2歳馬は覚醒室へ出した。

怪我の馬はレントゲン室へ入れてすぐに全身麻酔した。

処置時間は20分ほど。

獣医師は付いていられない。

幸い牧場から2人来ているので覚醒起立を見てもらう。

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疝痛の繁殖雌馬はPCV57%、乳酸値10mmol/l。

来院したときは馬運車で前搔きしていたが、あちこち擦りむいてひどく痛い。

もう超音波検査も直腸検査もしない、できない。

すぐに開腹する。

大結腸の外見はひどく悪くはない。

しかし、骨盤曲切開部の粘膜は完全壊死。

麻酔モニターでも血圧が低く、昇圧剤や大量輸液にも反応しない。

内容を棄てて、捻転を整復しても色調は変わらず、結腸動脈の拍動も弱い。

これでは、大結腸を温存しては助からない。

結腸動脈を3重に止血し、大結腸を盲腸結腸ヒダ付着部で亜全摘する。

背側結腸と腹側結腸を手早く吻合する。

切除部分でも粘膜は暗黒赤色だったが、筋層までは壊死していなかった。

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午後に予定していた骨折馬は時間をずらして午後3時半に来院してもらった。

3歳競走馬の中手骨外顆の骨折。別な日にというわけにはいかない。

覚醒室で結腸捻転馬が寝ている。

今年一番暑い日だった。

手術室だけにはエアコンがある。

ドアを開けておくと、覚醒室もいくらか冷える。

骨折の手術は一人でやる。

スクリューを2本入れてしっかり固定できた。

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結腸切除した馬の状態が良くない。

立つ意欲はあるが伏臥することもできない。

頭を挙げて、体を起こせず、頭を打ち付けるように倒れる。

手術中に20リットル、手術後も覚醒室で持続点滴するが、手術中も術後も排尿がない。

大量に発汗する。まわりの床がぬれるほど。

朝、8時半に疝痛を発見し、11時半から手術し、2時に手術終了し、それから3時間になるが座ることもできない。

もう苦しむだけなのであきらめることにした。

重症の結腸捻転は、結腸切除しても助けられないことはしばしばある。

忙しい日曜日だった。

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金曜日は、十勝へ馬の「疾病と対策」の講義に行ってきた。

北海道から沖縄まで、全国から集まった経験5年以内の獣医さん達。

ほとんど全員が馬に触れたことはあり、かなりの人が馬に乗ったこともある。

半数は診療区域内に馬が居て、診る可能性はある。

もうこの講習に呼んでもらうのは7年目?なのだが、気がついた。

私の話す内容はレベルが高すぎる;笑

内容をしぼって、もっと基本をていねいに、各地の獣医さんができる範囲を教えた方が好い。

外傷管理も、

馬の疝痛への対処も、

馬の分娩事故への対応も、

牛と馬の骨折治療も、

それぞれが半日から数日かかる話だ。

めん羊、山羊、ダチョウ、の話と並べて聴かされても、ね~

 

 

 

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陰嚢ヘルニア

2018-07-02 | 急性腹症

2歳馬が疝痛、との連絡。

来院したら陰嚢が腫れている。

牧場ではそんなに腫れていなかったそうだ。

いわゆる”脱腸”、鼠径ヘルニアから陰嚢ヘルニアになっている。

陰嚢に入っているのは小腸だろう。

グニュグニュと蠕動しているのが見える。

開腹手術して逸脱した腸管をひっぱり戻して・・・・

陰嚢は切開して去勢して、鼠径は縫って閉じる。

鼠径部を切開した方が、鼠径輪は縫いやすいかもしれない。

反対側も去勢して鼠径を閉じておいた方が良いだろう。

鼠径が広い馬は両側広いことが多い。

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雨つづき。

湿っぽくて、まいっちゃうよ。

 

 

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歓喜の夜

2018-06-20 | 急性腹症

きのうは1歳馬の篩骨血腫と副鼻腔炎の骨開窓手術Bone flap。

どういうわけか今月は篩骨血腫の馬が多い。

今日も6ヶ月齢の重輓馬の子馬が来院して検査したら篩骨血腫だった。

(これはさらに前日の当歳馬の篩骨血腫。副鼻腔を新生物が埋めている。)

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繁殖雌馬が疝痛で来院。

もう3時間ほど痛みが続いている。

血液検査は乳酸値が高いほかは悪くないが、超音波検査で膨満した小腸が見えた。

小腸閉塞だと思って開腹したら分厚くなった結腸が見えた。

「結腸捻転だ」と思って、結腸を引っ張り出そうとするが出てこない。

腹腔内で結腸をたどると、穴の中へ入り込んでいる。

「横隔膜ヘルニアだ」

正中やや右よりで15cmほど裂けている。

さらに5cmほど切り広げて、結腸を引っ張り出した。

横隔膜裂孔はEthibondで連続縫合して閉じた。

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午後は、繁殖雌馬の尺骨骨折のプレート固定。

子馬とちがって成馬の上腕三頭筋は強大だ。

最初は軽度の跛行だったが、悪化した、とのこと。

亀裂骨折だったのが、寝起きしているうちに開いて変位したのだろう。

これ以上開くと骨癒合が期待できなくなるし、痛みがとれず蹄葉炎になる可能性が出てくる。

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そして、夜はW杯サッカーだった。

1,2点獲られて負けが決まったら観るのをやめて寝ようと思っていたがっ!!

歓喜の夜だった。

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リフレッシュ

2018-06-20 | 急性腹症

月曜、早朝から診療所で書き物をしていたら、前日から下痢をしていた子馬が疝痛で来院する、とのこと。

来たら胃潰瘍穿孔で予後不良。解剖場まで歩いて行けずに死んだ。

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午前中は、3歳競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

肩甲骨を蹴られた当歳馬のX線撮影。

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午後は、副鼻腔に篩骨血腫ethmoid hematoma がある当歳馬の骨開窓bone flap 手術。

次に、1歳馬の臍ヘルニアの手術・・・・

と思ったら積み込むときに木柵を蹴飛ばしてひどい怪我をしていたので、それも併行して縫合手術。

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診療が忙しいと、片付けやカルテ書きも忙しい。

さらに、4日前に直腸検査で直腸を傷つけられた馬が、前日から発熱し腹膜炎症状が出てきている、との連絡。

「もうできることはない」と伝えたが、診てほしい、とのこと。

来院したら直腸は大きく破裂していた。

剖検。

消化管破裂に始まり、消化管破裂に終わった1日だった。

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学会の抄録提出と申し込みもしないといけないし、

原稿書きも締め切り間近。

講演の資料の提出も迫っている。

それでも、頑張るゾ、と思っているのはリフレッシュしてきたからだ。

 

 

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