馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

細菌性関節炎、前庭障害、結腸捻転、腸管脱出、臍帯炎

2024-02-27 | 急性腹症

予定の診療に余裕があった日曜日。

堆肥場の周りの倒木の片付けをしようと思っていたのだが・・・・

出勤したら手術に難産が続いたようで、あちこちにその痕跡(汚れ)が残り、洗濯物がいっぱい。

アイロンがけして、手術用覆布を滅菌できるようにケッテルに詰める。

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朝一は繁殖牝馬のフレグモーネと細菌性関節炎。肢が痛くなって、流産もしてしまい・・・・

関節液を抜いて抗菌薬投与して楽になっている。

フレグモーネ様の関節周囲炎もあるのでRegional Limb Perfusion しましょう。

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そのあと、頭を傾げる1歳馬の診察。

わずかに頭を右に傾ける。

両目塞いでもひどくならない。左眼だけ塞いでもひどくならない。

右眼だけ塞いだら、ひどくなった。

左側の前庭障害なのだろう。

ステロイドを投与して様子を観てもらうことにした。

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分娩後48時間の繁殖牝馬の疝痛の依頼。

来院したら立って居られないほど痛い。

PCV50.9%。

結腸捻転でしょう。すぐ開けましょう。

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終わって2時。

それから、6日前に膀胱破裂の手術をした子馬の術創が開いて腸管脱出したとの連絡。

腓腹筋断裂があり、介助して寝起きさせていた子馬。

術創に無理がかかったのだろう。

縫合糸は解けたり切れたりしていなかったが、腹壁が切れて傷が開いていた。

そして、臍も化膿していたらしい。

切除してあったが、周囲に膿があった。

小腸にも汚れと損傷があり、厳しい状態だが、小腸を洗って腹腔へ戻し、腹腔洗浄した。

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さらに3週齢の子馬の疝痛が来院。

この子馬も臍帯炎がある。

導尿したら尿も濁り、フィブリンを含んでいる。

WBC 26,000 /μl

開腹したがひどい癒着であきらめたそうだ。

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もう急患が来ない日、急患がこない夜はないようだ。

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このところ餌台にあらわれるシメ

どの図鑑をみても「ずんぐり」とした、と表現されている

動いているときはそうでもない

ずんぐり、はやめてほしいよね;笑


子牛の消化管閉塞への対応は難しい そして、「ともぐい」

2024-02-21 | 牛、ウシ、丑

朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

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そのあと、1歳馬の原因不明の発熱。

腹腔内におそらく膿瘍と思われる塊が見つかった。

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1ヶ月齢で、腹囲膨満し治療を受けた黒毛和種子牛が死亡した、とのことで剖検依頼。

第四胃捻転だった。

すでに壊死が始まり、腸管が癒着していた。

早く開腹すれば助かったかもしれないが、そのタイミングがいつだったのかはわからない。

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もう1頭、黒毛和種子牛が3日間ウンコがでない。

疝痛はないが、腹囲が大きい。

超音波検査では・・・・よくわからない。

もう開腹してみなければならないだろう。

手術台で仰臥にすると、臍の左尾側の腹腔内に塊を触る。

開腹したら・・・

癒着したフィブリンの塊だった。

剥がしていくと、第四胃に小さい穿孔が見つかった。

牛の治癒能力で、汎腹膜炎にならずに済んだのだろう。

第四胃潰瘍の穿孔か??

穿孔創を縫合して閉じ、腹腔内を洗って閉腹した。

第四胃捻転も第四胃穿孔も、人工哺乳の弊害かもしれない。

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午後は、1歳馬の球節の骨片摘出の関節鏡手術。

第一指骨掌側突起の骨片骨折だった。

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もう1頭。

2歳馬の繋靱帯の外科的トリミング。

種子骨付着部の結合織の塊を摘出した。

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韓国済州島からの研修の先生は今日で終了。

お疲れ様でした。

済州島でのサラブレッドの生産頭数は1000頭くらいかな、とのこと。

開業獣医師の診療所で働いていて、OCDの関節鏡手術が多いそうだ。

開腹手術や競走馬の骨片骨折は、KRAの診療所が対応している、とのこと。

済州ポニーは、価格が安いので、あまり診療対象にならないそうだ。

韓牛は誰が診療しているのか、よく知らない、とのこと。

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図書館で借りて読んだ。

期待してたけど・・・・・

熊爪という明治の狩猟者。マウンテンマン。

生への執着が乏しいのではないか。

私は、生き物の命を扱う仕事をしていて、感心させられるのは

馬たちが決して自分で生きるのをあきらめたりしないことだ。

河﨑秋子さんもかつてはご自身でヒツジを飼っていたそうだが・・・・

この主人公の生を軽視していないか?

マウンテンマンは世捨て人ではない。

その姿に生への賞賛を描かないと、偉大な物語にならない。

 

 

 

 

 


1歳馬の鼻骨陥没骨折

2024-02-17 | 整形外科

チャットでの診療依頼。

1歳馬が顔面を陥没骨折しているとのこと。

X線画像も添えられていて、陥没骨折、そして副鼻腔構造も潰されているのが確認できた。

数日以内に陥没を持ち上げ、プレート固定する手術をした方が良いが・・・

しばらく予定が空いている日はない。

明日は、内部の調査研究発表会が10時から予定されている・・・・・

朝一に来てもらって、発表会開始前に終わらせよう。

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フラップ上に皮膚をめくってみると陥没は思っていたよりひどい。

(たいていそうなのだ。画像診断や穿刺検査から推察するより内部の状態は悪い。)

鼻梁の頑丈な骨が折れて陥没し、ギャップができている。

フックとリトラクターを使って、なんとか陥没している骨を持ち上げる。

陥没した骨を持ち上げることで内部の副鼻腔構造もかなり整復されるはず。

あとは1/3プレートを当てて、4mmキャンセラススクリューで留める。

皮膚の縫合は、まだ腫れが強いこともあり寄せるのがたいへん。

傷にはガーゼを当て、伸縮性粘着包帯で巻き、4号のファイバーグラスキャストで鼻梁を保護するように巻いた。

このファイバーグラスキャストは、少しずれたが翌日も患部を保護してくれたようだ。

損傷部位によっては、頭絡の鼻革に引かれるのが心配になることもあるので、覚醒起立時と術後数日のルーティーンにしていいかもしれない。

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覚醒を観てくれた所長以外は間に合った発表会。

皆で留守にして出かけなくても参加できるのはオンラインのメリット。

若い獣医さん達が、地元の問題に熱心に取り組み、それを上手にまとめて報告していることに感心した。

今年は演題数も多かった。

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私は特別枠で、39年間に学術報告した論文を紹介させてもらった。

39年間で25報。(first nama author ; 筆頭著者のものだけ)

今月、もうひとつ送った。たぶん載るので26;笑

もっと(できた)とも思うし、さらに(書くべきことがあった)とも思うけど、

じゅうぶんやったし、十二分でなくても満足だ。

 

 

 


助けられない分娩事故と小腸閉塞

2024-02-11 | 急性腹症

出勤したら前夜から子宮穿孔疑いの繁殖牝馬が入院していた。

分娩5日後、発熱、元気食欲不振、腹水増量。

腸管手術歴がある。

「それは開けなきゃだめでしょ」

予定を変更して、朝一で開腹したが、子宮は穿孔していない。

消化管か・・・・?

この馬は、回盲部重積で回腸盲腸バイパス手術を受け、

その2年後、網嚢孔ヘルニアで開腹手術を受けたsurvivor 。

その回腸盲腸あたりに穿孔が見つかった。

消化管穿孔で汚染がひどいと助けることはできない。

あきらめて剖検したら、回腸盲腸バイパスした反吻側の回腸が穿孔していた。

分娩事故なのだろう。

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妊娠末期の疝痛も依頼が来ていた。

PCV49、乳酸値も4越え。

超音波で完全膨満した小腸が多数見えた。壁の肥厚もある。

開腹したがまともな小腸はない。

腸間膜の孔をくぐっているらしい。

膨満した空腸を切開し、内容を排泄させて減圧し、整復したが小腸全域の壊死で厳しい。

あきらめる。

剖検で、空腸上位腸間膜に大きな孔があった。

入り込んだ小腸が全部壊死してしまっては助けることは叶わない。

 

 

 


冬の悲劇 肩甲骨骨折

2024-02-10 | その他外科

出勤したら、昨夜は帝王切開があったそうで入院馬1。

・午前中は飛節OCDの関節鏡手術。

・急患で、生後2日齢の雄子馬の膀胱破裂。

韓国済州島からの研修の先生に助手をしてもらって手術する。

破裂している部位がかなり尾側よりで、縫合閉鎖するのに少し苦労した。

・午後、橈骨骨折が治った黒毛和種子牛のプレート抜去。

プレート固定後7週間。

・夕方、10日前に放馬して側溝へ落ちた1歳馬の肩跛行の診察。

肩関節より近位がひどく腫れている。

普通にポータブルX線装置でDRで撮ったのでは、肩関節が崩れていないことしかわからない。

肩甲骨関節上結節の骨折なら判断できただろう。

大型X線装置で、肩甲骨を撮ったら、肩甲骨が折れているのがわかった。

わかる?

肩甲骨は、肩関節部を除けば薄く平べったい骨で、内外方向で撮影しても形状を描出するのが難しい。

肩甲骨部の出っ張りをかすめるように、腹尾方向から背頭方向へポータブル撮影装置で撮り直した。

肩甲骨の”頸”部分で、完全に折れて変位している。

破片もある。

もう日数も経って、筋肉も収縮し、周囲の傷んだ組織も瘢痕収縮し始めているので、とても整復もできないだろう。

あきらめる。

剖検して、肩甲骨頸部が破片のある斜骨折しているのを確認した。

            ー

肩甲骨体が折れているとX線診断しにくい。

横からではなく、肩甲骨をすかすように撮ると「く」型に折れているのが診断できることがある。

若い獣医さん、覚えておいてね。