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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

帝王切開後の胎盤停滞の治療 羊膜注水とオキシトシン点滴

2022-02-23 | 繁殖学・産科学

私が休みの日の夜中に難産で帝王切開された母馬。

翌日は元気が無く、食欲もなく、口粘膜は貧血していて、胎盤も落ちなかった。

何度かオキシトシンを皮下注したが、反応がない。

羊膜への注水も2回やったが胎盤も落ちなかった。

子馬はその夜、死んでしまった。

              ー

帝王切開の翌々日、枠場に入れて、オキシトシンを点滴投与しながら羊膜への注水をまたやった。

羊膜の大きな血管にチューブを入れて、ストマックポンプで水を送る。

10リットル入れて放置した。

母馬は、汗をかき始め、そのうち脚をガタガタし始め、

胎盤がバタンっと落ちた。

その間、40分。

            ー

途中、全体を捻りながらゆっくり引っ張ったりしたが、手で剥がしたりはしていない。

            ー

どうしてだかわからないがオキシトシンは点滴投与が特異的に効果をあげる。

作用時間の問題だけなら繰り返し皮下注射してもよいはずだが、ゆっくり点滴するとそれ以上の作用を感じる。

濃度が高くなるとブロックする機構があるのかもしれない。

そして本来、点滴静脈内投与する薬剤なのだ。

            ー

胎盤停滞への、羊膜への注水は画期的な効果的な方法だ。

水道ホースからつないでも良いが、注水量がわからなくなるので、

バケツの水をストマックポンプで入れるのが好ましいかもしれない。

         //////////

散歩は行かない。の図。

 


腸間膜裂による空腸壊死 

2022-02-22 | 急性腹症

夜中に膣裂創を縫合した4日後、具合が悪くなって戻って来た。

しばらくは食欲もあったそうだが、発熱し食欲もなくなり、前日には胃液が20リットルも逆流した。

腹膜炎か~

分娩中に腸管脱出した馬だから、羊水がかなり腹腔へ入ったのかもしれない。

膣裂創も水も漏れないようには縫えていない。

手探りで縫うのがせいぜいだった。

分娩後の傷だらけ、雑菌だらけの産道から腹腔へ感染が及んでも不思議ではない。

           ー

しかし、腹膜炎を起こしてもはっきりした腸閉塞症状を示すことは少ない。

疝痛も示した。なぜだ?

           ー

枠場に入れて、今度は尾椎硬膜外麻酔してもらって、膣の裂創を縫い直した。

今度は膣鏡で広げておいて、目視下で長柄の持針器で縫合することができた。

私はコロナ・ワクチンの副作用で肩、肘、股関節が痛い。

           ー

超音波では、腹水の貯留と小腸の膨満が確認された。

PCV55%、WBC16000、けっこう厳しい状態だ。

どうするか飼主さんと相談し、「やってみる」ということにした。

私はコロナ・ワクチンの副作用で倦怠感が・・・

           ー

腸間膜が破れたことで血行を失った空腸の一部が壊死していた。

もう完全に変色し、破裂寸前だった。

大網が塊状になり張り付いていた。

切断し、内容を捨て、壊死した腸管を切除し、健常部で吻合した。

腸管全体の蠕動はよろしくない。

膿のような腹水を吸引し、生理食塩液を腹腔へ入れて吸引する、を繰り返した。

コロナ・ワクチンの副作用で腰が痛いので、身を捩りながら・・・

           ー

子馬が子宮の中から腸間膜を蹴り破った可能性もある。

しかし、分娩時に腸管脱しているので、脱出したときに引っ張られて腸間膜が切れたか、

あるいは脱出した腸管を押し込むときに腸間膜が破れた、と考える方が自然だろう。

遅い昼食を摂りに家へ帰って体温を測ったら37.2だった。

           ー

こちらへ来たときには腸管は腹腔へ戻っていたので腸管や腸間膜の状態を確かめることはできなかった。

やるとすればそのまま開腹手術することだが・・・まだ腹膜炎症状はなかったので、開腹手術は必要ない可能性もあった。

押し戻すときに、腸管の状態を観ることなのだろうが、あわててるのだろうし、暗い厩舎の中では難しいのかもしれない。

夕方、悪寒がするのでさっさと家に帰った。

なるほど風邪の引き始めの症状はこういうことなんだな。

              -

術後経過は順調で、翌日退院していった。

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ときどき口粘膜が白くなり、元気がなくなる。

以前より手を舐めてくれる。

匂いを残そうとしているのか、何かを求めているのか・・・


疝痛の再来院例はおおごとだった 腸間膜裂による空腸回腸捻転

2022-02-20 | 急性腹症

夜中に疝痛で運ばれてきて、落ち着いていたので帰した疝痛馬。

牧場へ帰って2時間ほどしたらまた痛いとのことで再来院することになった。

しかし、来たらまた痛みを見せない。

枠場で直腸検査すると・・・・

今度は奥の方で異常な硬いものに手が届いた。

膨満した小腸ループの一部だろう。

この所見があればそれだけで手術だ。

          ー

他の馬が関節鏡手術中なので、枠場で輸液しながら待ってもらう。

そのうち身を捩って痛がりだした。

鎮静剤を投与してもさほど治まらない。

手術適応の判断が遅れて可哀想なことをした。

          ー

開腹したら空腸下部と回腸が3重に絡まっていた。

腸間膜が破れていたが、その破れた辺縁には古そうな部分もあった。

6日前に分娩しているので、おそらく分娩時に破れたのだ。

そこを空腸がくぐることで小腸捻転が起きた。

          ー

空腸を切断して内容を捨て、

回腸を盲端にして、

壊死した空腸から回腸3mを切断して、

空腸を盲腸へ吻合して、

腸間膜を閉じた。

子馬に哺乳するために一番食べなければならない時期に制限された量しか食べられない。

可哀想だが、子馬には人工哺乳でミルクを足しながらがんばってもらうしかない。

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相棒は闘病生活を送っている。

好きなものをいっぱいもらって、以前以上に構ってもらって甘やかしてもらっている。

 

 

 


分娩時の膣穿孔 とおまけ・・・の疝痛例

2022-02-19 | 繁殖学・産科学

夜、11時過ぎ、お産を終えた馬の産道から腸管が出てきたのを押し込んだのを診てほしい、との依頼。

どこが裂けているか尋ねたが、子宮の奥の方だ、とのこと。

子宮角、子宮体部の腹側だと開腹手術して縫った方が良い。

子宮体部の背側、あるいは膣だと立位で縫うことになる。

第2当番を呼び出すかどうか考えながら準備する。 

               -

途中、担当の獣医師からまた電話。

別の難産が入ったので行けなくなった、とのこと。

まずは一人で診てみるか・・・

               -

来院して、枠場に入れて、陰部を洗って手を入れてみる。

あ~膣が裂けてる・・・・

子宮頚管の背側だ・・・・

子宮頚管は・・・・かろうじて大丈夫だ。

これなら立位で縫えるか・・・

               -

特殊な長い膣鏡を入れてみるが、お産が終わった後の産道は弛緩していて裂創は見えない。

仕方がないので、手探りで縫合することにする。

長い吸収性縫合糸を、大きめの三稜針につけて縫合する。

私はなんとか両腕を膣に入れて、左手で裂創の片側を持ち、右手に持った針でそれを貫き、左手で針を抜く。

それを繰り返して膣裂創を閉じた。

おとなしそうだったので尾椎硬膜外麻酔はなしでやったが、これはやるべきだった。

途中で馬がガタついた。

               -

途中の結紮でもたつき、糸が絡んでしまった。

結紮は膣の中で片手でやらなければならないのだが、左手の指がうまく動かなくなった。

それでも、結紮はできているのでほどけはしない。

腸管が出てこないようには縫合できたはずだ。

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終わって1時半。

フトンに入って寝付けずにいると、分娩6日の疝痛の連絡。

20分前に見つけたと言う。

ブスコパンをうったけど治まらない、とのこと。

フルニキシンをうつように指示する。

11分後、フルニキシンを投与したが、馬は滾転する。

診てほしいので、もう馬は出発した、と言う。

何分で着く?と訊くと、40分と言う。

40分で着くわけがない。

じゃあ50分、と言う。

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結局、1時間して来院した。

疝痛は治まっている。

馬運車の中でもおとなしかったらしい。

排便があった。

血液検査で、PCV45%、乳酸値1.5mmol/l。

超音波で、十二指腸は動いている、右背側結腸の壁は厚くない、盲腸も膨満していない、右胸腔に胸水なし。

左で左腎臓確認(結腸左背側変位なし)、胃拡張ひどくない、左胸腔に胸水なし。

腹底で、腹水増量なし、膨満した消化管なし。

直腸検査して、腹圧高くない。膨満した腸管なし。腸紐の緊張なし。

              -

入院厩舎で数時間ようすを観ていってもいいけど、子馬を置いてきているし、帰りますか。

また痛かったら連絡ちょうだい。

4時。

もう朝だ。

そして・・・・

           /////////////////

良い天気だった。

近所のスロープでスノボ練習。

スノボは見た方へ曲がっていきますとか、

曲がれ、と思うと曲がります、とか教えられるのは好きじゃない。

スノボの構造、ターンとカーヴできる理論、を理解した。

あとは考えずに実践できるように練習するだけ。

            ー

夕方、モデルナをうってもらってきた。

ファイザー製を2回うった3回目はモデルナ製の方が抗体産生量が多いので、モデルナ製をうってもらいたかった。

ほぼ12時間経ったが、ほぼ平熱。

何かのひょうしにわずかに頭が痛いか?

三角筋はほかのワクチンと同じ程度の反応。

            -

患者?の入ったブースの向こうを看護師さんが転がる椅子で移動しながら次々に接種していた。

前回より効率よくなった印象。

みなさんの努力に感謝したい。

 

 

 


競走馬の第一指骨縦骨折

2022-02-17 | 整形外科

競馬場の獣医さんから、期待の3歳馬が第一指骨を骨折したので送る、と連絡が来ていた

けっこう長く割れてしまった。

土曜日に骨折し、日曜日に競馬場を出発し、月曜日に牧場へ到着し、火曜日の手術。

新鮮なので、広がっていないし、骨癒合も良いだろう。

関節面を2本で圧迫し、背側皮質を圧迫し、その遠位は最も幅の広い部分を圧迫した。

骨折線は見えなくなった。

screw長は長すぎないように選択した。

screw head が繋靭帯背側脚の動きを邪魔しないように、counter sink は若い馬としては深めに削った。

                 -

競馬場からはほぼ完璧なhalf limb cast が着けられてきていた。

お見事!!

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寒さもピークを過ぎたのだろうけど。

そろそろ忙しくなってきた。

夜も安心していられない。

分娩事故や疝痛が来るようになってきている。