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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

プレート固定の基本 小動物や人整形と、馬プレート固定の違い

2024-05-28 | technique

紹介してきた馬のプレート固定の基本の説明文を、多くの教科書で書かれているのは J. Auer 先生。

AO Vet の会長だった大先生だ。

基本の基本なので、誰が書こうとあまり異なった書き方や内容にはならないかもしれない。

          ー

これはIan Wright 先生の Fracture in the Horse の記載。

Principles of Plate Fixation の段。

小動物と人では、プレートの長さと幅のガイドライン、すなわち骨折部の全長との関係におけるプレートの長さ、が用いられてきた。

この係数は、多片骨折では2~3倍以上、単純骨折では8~10倍以上(プレートは骨折部より長くする)べきだ。

馬では、プレートは骨の全長にわたるようにする。

長いプレートはそれぞれのスクリューにてこの力として増強されて働く引き抜き力を減少させる。

            

人や小動物のプレート固定で”基本”として唱えられていることと、馬整形で”理想”として書かれていることは異なるのだ。

馬のプレート固定は難しく、うまくいかないことがあるからだ。

牛では、馬に準じてプレート固定するのが良い。

小動物より重い個体を相手にしなければならないことがあり、

手術後すぐに立ち上がり、歩き回り、

経済性が優先されるからだ。

              ー

Fractures in the Horse の続き。

人や小動物では通常、より短いプレートが使われるが、最少でも3本の対側皮質にもスクリュー(皮質骨6箇所)を骨折部の両側それぞれに効かせるべきだ。

馬の長骨骨折では、少なくとも4本のスクリューが効いていることが望ましい。

プレートは骨の全長に伸びているし、全てのスクリュー孔にスクリューを入れるので、この最少の要件は普通は完全に達成される。

              ー

子牛や子馬で、骨折部が骨の中央ではなく、骨幹端であったり、骨端部骨折だったりすると、この最少の要件、スクリュー4本、譲歩しても3本、というのは達成できなくなる。

そして、子牛や子馬の骨幹端や骨端は皮質がひどく薄く、軟らかい。

馬なら角度安定性があるLCP/LHSを使うが、値段が高い。

子牛なら、骨幹端や骨端には 6.5 mm 海綿骨スクリューを使うのが良いだろう。

              ー

人や小動物と、大動物、馬と牛の整形外科では基本と理想からして違う。

牛では骨折内固定の教科書さえまだないので、馬整形外科の教科書を参考にするのが良いと思う。

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今年も、ハナカイドウが、これでもか、というように咲いた。

持って生まれた性質なのか、肥料のやり過ぎなのか、

なんなんだろう・・・・・

 

 

 


結腸捻転 miscellaneous bits

2024-05-27 | 急性腹症

結腸捻転が続いている。

2頭も3頭も重なる、ということはない。

この涼しさのせいか。

         ー

それでも、青草いっぱい食べました、という腸内容。

この5月は数日おきに順調に雨が降っている。

「草の伸びヤバいっすよ」

と結腸捻転を連れてきた牧場さん。

         ー

「去年、やってもらったのはひどくて、結腸を切り取ったけど、今年ちゃんとお産したし、また受胎した」

と別の牧場さん。

痩せてもいないそうだ。

「2月にやってもらったのも、1発情投げて、PGうって種付けして受胎した」

とのこと。

         ー

結腸捻転歴のある繁殖がまた結腸捻転みたいだ、との依頼。

調べたら4年前の2月に私が手術していて、分娩予定日を過ぎていてcolopexyはしていない、とのこと。

これだけ結腸捻転の手術をしていて、colopexyをして生存している数多くの繁殖牝馬が居て、

colopexyをした馬では再発はほとんどないし、

妊娠末期に疝痛を繰り返すこともない。

私たちがやっているcolopexyの方法の再発防止の有効性と、complications の少なさの証拠だと思う。

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シカ横断注意、の看板のそばでたむろするエゾシカ。

獣道と車道が交わっているところに看板が立っているので、

道外から来て車を運転する皆さん、気を付けて。

 

 


ロドELISAが検出している抗体

2024-05-17 | labo work

ロドコッカス感染症の診断法としてのELISAには false positive も false negative もあることを書いた。

血清診断法ではあるのだが、「補助診断法として有効である」と私は抄録に書いている。

採血して、検査室へ送るだけなので、少ない手間で、多頭数実施することができる。

症状がない子馬たちの検診に使うもの良いだろうし、

病状把握の一部として使うこともできる。

確定診断法ではないので、少なからぬ致死的リスクが伴う抗菌剤治療の前には、気管洗浄液から菌分離を試みて確定診断しておくことが望ましい。

            ー

新生子馬だけがロドコッカスに感染するのはIgGレベルが低いからではないか?

とは誰でも考えることだ。

私たちは、700頭ほどの子馬で、IgGとロドコッカス感染症の関係をかつて調べた

IgGが800mg/dl以上の子馬と未満の子馬では、2倍ほどロド感染発症の率に差があった。

しかし、統計的には有意さは示せなかった。

IgGが低い子馬は、早く生まれたとか、小さく産まれたとか、生まれたときに弱かったとか、病気したとか、母馬を亡くしたとか、様々なマイナス要因を抱えていることが多い。

それらも感染要因、発症要因に含まれてくることも考えると、

IgGだけでは子馬をロドから守ることはできないのだろう。

そして、Rhodococcus equi 強毒株という奇妙な病原性を持った細菌に対する抵抗性で、大きな働きをしなければならないのは液性免疫よりは、細胞性免疫なのだろう。

           ー

母馬をロドELISAで調べて抗体保有状況を調べようとする人も居る。

学術報告にもなっていて、年齢層が高い繁殖牝馬が抗体保有率が高いと述べられていたりするが、ウソだ。

同じ環境に居ても、母馬たちはロドコッカスなど物ともせず生活している。

抗原刺激を受け、抗体産生し、液性免疫で感染から身を守っているのではないのだ。

           ー

診断用のロドELISAに用いている菌株はR.equi強毒株ではない。

強毒株を抗原として用いたELISAも行うことはできるが、どの子馬も強い反応を示して、感染子馬をスクリーングするのには役に立たない。

どの子馬も強毒株に感作され、強毒株への抗体を急いで作るのだ。

しかし、病巣を作られてしまった子馬は、病原性プラスミドを持たない株への抗体も量産してしまう。

それが血清診断にも使える、ということだ。

強毒株への抗体と相関しているかもしれないが、通常行っているELISAで検出しているのは強毒株への防御抗体ではない。

           ー

同じ牧場に生まれて、同じ管理をされていてもRhodococcus equiに暴露されることに耐えていく子馬、

感染して病巣を作られてしまうが自力で克服していく子馬、

症状を示し病巣が大きくなり治療が必要になる子馬、

治療しても治らず予後不良になる子馬、と差が出る。

根本に何が違うのかは難しい。

風邪をひきやすい人と風邪なんて滅多にひかない人の差もわかっていないし、

コロナ(COVID19)で重症化する人とそうでない人の差も、年齢層や基礎疾患以外には知られていない。

COVID19ワクチン後も抗体価の推移だけが取り上げられているが、それは調べる方法があり調査しやすいからで、もっと大事なところはわかっていないのだろう。

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ほとんど病気したことがない丈夫なヤツだった。

10歳寸前で血管肉腫で死んだ。

ゴールデンレトリーヴァーの宿命であり、天寿であったかもしれない。

 

 

 


ロドコッカス感染症子馬の検査 

2024-05-16 | 馬内科学

70日齢になる子馬。

発熱し、元気がない。

両眼の前眼房にフィブリン凝集物ができてしまった。

血液検査で強炎症像がある。

          ー

呼吸器症状はない、との稟告。

私が観ると、毛艶が悪く、痩せ気味で、腹部は膨満気味に見える、けど・・・・

両飛節が関節液増量しているが、跛行はない。

腹腔内膿瘍が疑われるので、腹部超音波検査。

腸管のように見えるが、蠕動がない。腸壁が不均一、内容が動かない。

腸内容にしては、液と粥状物のように見えない。塊状のものもある。

やはり腸管ではないのだろう。

見えていたのは、腸付属リンパ節の化膿だった。

中の膿はクリーム状。

腹腔内膿瘍というと、ひとつ、あるいはいくつかの塊を思い浮かべるが、あまりに数が多く、わりと大きさがそろっているので、腸管との区別が難しかった。

           ー

飛節の関節液増量は、非細菌性免疫介在性の滑膜炎によるものだったのだろう。

重度の感染症や炎症性疾患では起こることがある。

全身性の炎症性サイトカインの暴走が局所でも症状を起こすのだろう。

           ー

肺も超音波で診たが、はっきりした肺膿瘍は確認できなかった。

しかし・・・・

左肺の横隔膜面に径7cmの肺膿瘍。

この30年、超音波装置は画質が進歩し、値段が安いポータブル装置は獣医師が1人1台持ち歩けるようになった。

ロドコッカス肺膿瘍の検出にも成果をあげている。

丁寧に肺表面をスキャンすれば左右の肺の胸膜面のほとんどの部分(後葉)を描出できる。

しかし、胸膜面側表面に出ていないロドコッカス肺膿瘍は超音波画像診断装置USでは検出できない。

横隔膜面にだけある肺膿瘍も描出できない。

ロドELISAとの関係で言うなら、USで肺膿瘍を検出できなくても、このような症例ではELISAは”陽性”になるのが正しく、望ましいのだ。

           ーーー

私は、30代の頃、死亡畜焼却場へ持ち込まれる子馬のほとんど全ては自分で解剖するようにしていた。

何の連絡も依頼もなかった子馬も、骨折の子馬も、突然死の子馬も、消化器病の子馬も、全部だ。

死因を確かめるだけでなく、必ず肋骨を切り、肺を取り出し、手で触ってみて、肺の内部にしこりや膿瘍がないか確認していた。

膿瘍があったら、他の部分の解剖が終わってから、写真を撮り、切開して細菌分離材料を採材し、大学へ記録とともに送っていた。

その結果は学術報告になっていて、91頭ということになっているが、実際に私が解剖したのはそれよりはるかに多い。

忙しい繁殖シーズンの最中に剖検し採材するのはたいへんだった。

解剖場へ走って行き、腰をかがめながら子馬を剖検し、写真を撮って、細菌分離材料を採材し、それらを持って降りてきて、冷蔵庫、冷凍庫へ入れ、まとまったら箱に詰めて送らなければならない。

昼休みや食事の時間を削らなければならないこともしばしばだった。

             ー

子馬を解剖したら、肺は手で圧迫してみてしこりがないか確認する必要がある。

表面から観てもわからない内部の膿瘍やしこり(膿瘍痕)が見つかることがある。

膿瘍痕はいろいろで、結合織だけに置き換わっていたり、少量の乾燥した膿を含んでいたり、膿はまだクリーム状だったりする。

肺を丁寧に割を入れてもせいぜい1cmか2cmにスライスするだけだ。

それでは、小さい病巣を見逃すのだ。

             ー

私はロドコッカスは敗血症性の病態は起こさないと考えている。

体のあちこちに膿瘍は作るが、脾臓、腎臓、肝臓、心臓など血流量が多い臓器からロドコッカスが分離されることはないと信じている。

私が解剖した子馬は、各臓器も採材したが、膿瘍以外からはロドコッカスは分離されていない。

膿瘍がある子馬を解剖しても、解剖の最初の方に膿瘍を切ってみたりせず、要領よく各臓器を外して採材してから、膿瘍や化膿巣を切開するようにしていたからだ。

剖検していて膿瘍があったらすぐ切開したくなる気持ちはわかるけど。

それから採材を頼まれた臓器を切ったのでは、採材した切片が汚染してしまう。

              ー

剖検してロドコッカス感染の病巣を見つけた子馬の1/4は他の病気や事故で死んだ子馬だった。

それらの子馬は肺に膿瘍を持っている。

完全に披嚢されていて、肺膿瘍以外の部分は健康なピンク色をして、十分に含気している。

異常呼吸音もないだろうし、

咳もしないだろうし、

気管洗浄してもロドコッカスは分離できないかもしれない。

膿瘍が肺胸膜面にあれば、超音波画像診断装置で検出できるが、肺膿瘍が肺実質に埋もれていたり、横隔膜面だけにあったら超音波では診断できない。

肺膿瘍を持った子馬をロドELISA検査したら、その結果は陽性、つまりOD値0.3以上になるのが望ましい。

その子馬が、呼吸器症状がなく、丁寧に聴診しても異常呼吸音がなく、咳もせず、超音波検査で膿瘍が見つけられず、気管洗浄液も白血球を多く含んでおらずロドコッカスが分離されなくても、だ。

             ー

多くの子馬を解剖していた年月、私は毎日、血液検査結果にも目を通していた。

炎症像の強さ、ロドコッカスELISA値もかなり記憶にあったので、

肺炎で死んだ子馬でなくても、

「この子馬は、肺膿瘍がありますよ」と予言して、ほらね。

ということがしばしばあった。

               ー

ロドコッカス感染症子馬を早期に見つけるのも、

陳旧化膿瘍を持つ子馬を診断するのも、

悪化するか、それとも自力でロドコッカス感染を乗り越えていける子馬か判断するのも、

簡単なことではない。

              ///////////////

毎年、私が手を焼いているのはこいつ。

シラカバの若葉を食い荒らす。

良い防除方法はないものか・・・・

 

 

 

 

 

 

 


Rhodococcus equi のELISA抗体検査 false negative と false positive

2024-05-13 | labo work

ロドコッカス感染症が多発している。

ロドコッカスELISA抗体検査の依頼も多い。

このロドコッカスELISA検査を運営しているのは世界でうちの検査室だけではないだろうか。

もう30年になる。

          ー

1995年に横浜で開かれた世界獣医学会 World Veterinary Congress で発表した。

ロドELISAは、0.3以上を”陽性”としている。

それは健康子馬の平均OD値+標準偏差値×3というのがその根拠。

ただし、それが血清診断あるいは感染子馬のスクリーニングとして使えるかどうかは検証が必要だ。

ロドELISAは”抗体価”と表現されることがあるが、私はそれはまずいと思う。

(実は私も抄録の中で”抗体価”と書いてしまっている)

抗体価と言えば、0.6は0.3の2倍、1.2は0.6の2倍、という印象を与えてしまう。

しかし、それぞれ2倍希釈しても1/2にはならない。

抗体量を表す数値ではなく、あくまで測定値そのものでしかない。

           ー

1993年と1994年の2年間に1073頭の子馬のロドELISAを行い、153頭がOD値0.3以上を示した。

呼吸器症状を示した子馬が124頭(81%)、消化器症状が17頭(11%)、関節炎が7頭(5%)であった。

34頭(25%)は0.9以上という高いOD値を示した。

呼吸器症状を示した子馬のうち27頭では気管洗浄液を採取し、OD値0.3以上の子馬では18頭中17頭(94%)でロドコッカスが分離された。

OD値が0.3未満だった子馬では9頭中2頭(22%)でロドコッカスが分離された。

気管洗浄液から分離されたのは全て85あるいは90kbの病原性プラスミドを保有する強毒株であった。

           ー

この成績をもとに、ロドELISAは子馬のロド感染症の補助診断法として有用である、と結論づけた。

           ー

病気の診断方法では、陽性あるいは陰性と判断して当たっていれば問題ない。

陽性と判断してその病気でなければfalse positive、陰性と判断してその病気であったら false negative ということになる。

ロドELISAでは、0.3未満であった子馬でも22%の子馬からロドコッカス強毒株が分離されているので、false negative は”かなり”ある。

0.3以上の子馬の中にロドコッカス強毒株に感染していない子馬がどれくらいいるか、はとても難しい。

少なくとも、呼吸器症状がある子馬では94%からロドコッカス強毒株が分離されたので、

ロドELISA0.3以上と呼吸器症状を併せると、false positive は10%未満だと考えてもいいのではないか。

           ー

この季節、うちの検査室には100件以上の気管洗浄液が持ち込まれる。

ロドコッカス強毒株の分離率は、例年60~70%ほどだ。

子馬の呼吸器感染症のすべてがロドコッカス肺炎だというわけではないのだろう。

ただし、ロドコッカスによる肺膿瘍があるからといって、いつも気管洗浄液からロドコッカスが分離されるとは限らない。

完全に披嚢された陳旧化膿瘍や、膿瘍の痕を持っている子馬では、気管洗浄液からロドコッカスが分離されないことが考えられる。

そういう子馬だと、ロドELISA0.3以上、しかし気管洗浄液からはロドコッカス分離は陰性、という検査結果が正しいのだ。

false positive ではない。

            ー

子馬のロドコッカス感染症は子馬の肺、その他、リンパ節、腹腔内、骨髄、筋間に膿瘍を作るやっかいな病気なのだが、診断、治療、予防策、は難しい。

30年の間に、状況が変わったこと、進歩したこともある。

若い獣医さんたちは、30年の経緯もご存じないだろう。

長くなるので、いくつかに分けて、考えてみたい。

          ////////////

夏鳥がやってきて新顔が環境に慣れないせいだろうか

窓にぶつかってウッドデッキに落ちていた。

ビンズイかな。

幸い即死ではなかった。

しばらく休んだら回復して飛んでいった。