馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

獣医師は急性腹症の馬をどのように診断するか

2017-04-29 | 急性腹症

アメリカ馬臨床獣医師会AAEPが提携している馬の健康についての雑誌 The Horse の記事。

AAEPのメンバーには、「馬関係者が馬の獣医師について何を知っているか知っておこう」ということで、記事の紹介が送られてくる。

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How Veterinarians Assess Horses With Acute Colic

馬獣医師たちは急性腹症馬をどうやって診断するか

わずか数十年前、急な疝痛に苦しむ馬が助かるかどうかはコイントスだった。

今日、80%近くが助かるようになり、より迅速な診療、早期の二次診療施設への紹介、改善された手術手技や経験などの要因に感謝したい。

12月3-7日にフロリダ州オーランドで開かれた2016年のAAEPの年次大会で、Barbara Dallap Schaer獣医師、アメリカ獣医外科専門医、アメリカ獣医救急専門医はどのように急性腹症馬を診断するか講演した。

Dallap Schaerはペンシルヴァニア大学のNew Bolton Center の准教授で臨床責任者であり、そこでは、疝痛手術の退院率は約90.8%であると述べた。

”急な腹部不調を示した馬の完全な、すべての、適期の精密検査 workup は、疝痛治療に成功するために最も効果的です。” と、彼女は述べた。

最初のworkup、それは獣医師は往診先や診療所で行えるのだが、それには、一般状態の診察、直腸検査による腹部の触診、超音波検査、逆流をチェックするための経鼻胃カテーテルの挿入がある。

手早く一般状態を検査して、獣医師は、”痛みの強さと性状、粘膜の色調、心拍の質、へこませた頚静脈が再び膨らむ時間、腹部膨満の程度、心拍数、呼吸数、直腸温、を調べるべきです”、とDallap Schaer は述べた。

それから、彼あるいは彼女(※英語表記も面倒な時代になったな;笑)は直腸検査による腹部触診に進む。それは、他の所見とあわせてだが、その疝痛が大腸に関係しているのか、小腸に関係しているのか、を知る助けになり、便秘あるは膨満だと知ることができることがあり、あるいは手術が必要だとわかる。

"超音波画像診断の進歩にもかかわらず、直腸検査による腹腔の触診は疝痛の精密検査の要にとどまっています。" と、Dallap Schaer は言い、

臨床獣医師それぞれに自身の触診のやり方があることを付け加えた。

疝痛の精密検査のもうひとつの重要なものは経鼻胃管で、鼻から胃へ通して減圧し、逆流しそうになることによる痛みを減らすことだ。

獣医師は馬の痛みを抑制し落ち着かせるために、フルニキシンメグルミン(バナミン)あるいはフェニルブタゾン(ビュート)のような鎮痛剤、鎮痙剤、あるいは鎮静剤を馬に投与することも行う。

さらに行われる検査としては、疝痛を引き起こしている病変を見つけるための超音波画像検査と、腹腔の腹水を採取して色や蛋白に異常がないか調べる腹腔穿刺がある。

診療所へ紹介する必要を示す所見には以下の様なものがあるとDallap Schaer は言う:

治まらない、あるいは扱えないほどの痛み;

循環血液量減少(脱水);

呼吸数増加;

充血した(赤い)粘膜あるいはトキシックライン(エンドトキシン血症を示す歯肉の明るい赤や紫の線);

胃液の大量の逆流;

および

直腸検査でのあきらかな異常所見。

対応する救急獣医師の所見と同様に、初診を行う獣医師の所見がその馬が手術を必要としていることを示すかもしれない。

どのようにするかは畜主、初診をする獣医師、そして外科医が協力して努力するものであるべきだ、とDallap Schaer は述べた。

馬が手術を必要としている手がかりには、厚くなった小腸、触知できる重積(腸の一部に”望遠鏡”のように入り込む)、腹腔穿刺による異常な腹水、積極的な内科治療への無反応、そして盲腸便秘の可能性、がある。

診断して適期に紹介し、適切なタイミングで手術することが、この10年に疝痛の予後を改善することに、最も貢献してきました。”、

とDallap Schaer は述べた。

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一般向けに書かれた記事なので、回りくどい書き方をされていたり、詳しい部分は割愛されている。

しかし、Dallap Schaer先生が言いたかったことが、きちんとまとめられていると思う。

ちゃんとやることやって、手遅れにしないで連れて来れば、今は9割の疝痛馬は助かるよ、というこった;笑

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跛行はすっかりなくなったので、ケトプロフェンの内服はやめた。

それでも痛くならないし、腫れもほとんどひいて、走っても問題なさそうだ。

海で大喜び。

散歩中は内股を気にしない。でも暇な時間はエリザベスカラーをしておかないときっと舐めて齧ってひどくなる。

 

海水でベタベタになったので、今日はシャンプーした。

あまりにもフワフワ、モフモフになって驚いた;笑

毛玉もいくつか見つかった。

 

 

 


側頭骨舌骨関節症 3歳現役競走馬

2017-04-27 | 馬神経病学

3歳現役競走馬。

運動器の故障で長期休養していた。

調教再開し、運動器は問題なくなっていたが・・・・・

右の顔面麻痺。

鼻が左へ曲がり、

右眼はまばたきできず、

右耳は動きが悪くなった。

この馬は右耳の下垂はひどくない。

まばたきできないことによる乾燥性角膜炎はかなり進行してしまった。

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側頭骨舌骨関節症だろうとあたりをつけ、まず喉嚢内視鏡検査をした。

右喉嚢。茎状舌骨の側頭骨との関節近くが異常に太くなっている。

左喉嚢。異常なし。

側頭骨のx線撮影もした。

左-右方向撮影。側頭骨岩様部が骨増勢している。茎状舌骨が太くなっているのもわかる。

腹-背方向撮影でも、側頭骨岩様部が骨増勢しているのがわかる。

点眼薬を処方して、角舌骨摘出手術を予定した。

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この病気、

最初に高齢の繁殖雌馬を依頼され、

本州からの乗馬を2頭手術して、

症例発表した。

その後、

繁殖雌馬を手術し、

当歳で発症した馬をCTも撮ってもらって1歳になってから手術し、

明け2歳馬もCTを撮ってもらって、中耳炎もあるので、角舌骨摘出手術と耳管洗浄を試み、

地方からの現役競走馬も診断されて帰ってきたのを手術し、

今回で8症例目かな。

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けっこうあるものだ。

たぶん以前は、「何だこの馬?」ということで、ダメになっていたのだろう。

顔は麻痺し、眼は傷つき、そちら側の耳が動かなくなってなので、

顔をぶつけた、などとは誤診しやすいかもしれない。

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おめ~が頭をぶつけて歩くのは今のところしかたないな。

 


土曜の夜はにぎやか

2017-04-25 | 急性腹症

EPO  土曜の夜はパラダイス

土曜日の夜、10時前に疝痛馬の依頼。

分娩後3週間ほどの繁殖雌馬。

来院して、超音波で肥厚した結腸壁が見えた。

即手術。

結腸壁の肥厚はかなりだが、チアノーゼはほとんどない。

手術の終わりが見えた頃、電話が鳴った。

すでに12時近い。

「この時間の電話は難産か疝痛だな・・・」

案の定、疝痛馬の依頼。

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その馬も土曜の夜、7時頃から疝痛が始まり、最初はひどくなかったものの・・・という経過。

来院したらかなり痛い。

血液も、PCV49%。

そのまま開腹手術。

やはり結腸捻転だった。

捻じれ方もひどく、チアノーゼもかなり。

右背側結腸の内容が多く、もみほぐして洗い出すのに苦労した。

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2時近くから手術して、3時40分に手術終了。

4時半過ぎて覚醒起立し、片付け終わって帰ったのが5時半。

にぎやかだった土曜日の夜を過ごすと、日曜日は台無しだ;笑


夜の仔馬の膀胱破裂と朝の妊娠馬の空腸捻転

2017-04-25 | 急性腹症

月曜、夜呼ばれる。

仔馬の膀胱破裂だとのこと。

8日齢。

それは新生仔馬の尿閉での膀胱破裂にしては遅い。

もう麻酔されている仔馬を観ると、臍が湿っていて汚い。

臍帯炎から膀胱尖部が壊死して尿が漏れるようになったのだろうと予測する。

案の定だった。

この写真は別症例。

今回の症例は腹水は濁っていた。

膀胱尖を臍から切り離し、尿が漏れないように閉じる。

臍は切り取ってしまう。

腹腔内を生理食塩液で洗う。

あとは閉じるだけ。

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翌朝、重症の疝痛馬が来院するというので呼ばれる。

ICU管理してほしい新生子馬も来院するという。夜間当番者3名フル出動。

ほとんど2頭同時に到着した。

繁殖雌馬は分娩予定日を2週間過ぎている。

まだ産む徴候はない。

妊娠子宮の右側に盲腸があった。

手探りで回腸を引っ張り出す。そこから上位に辿っていくと、素直に出てこない。

妊娠子宮の下になっているので、見ることはできない。

術創を広げ、大結腸も外へ出し、苦労したあげくになんとか引っ張り出した。

空腸の中ほどが閉塞していた。締め付けられていたせいで変色してしまっている。

それでも指ではじくと収縮するのだが、とても回復は期待できない。

その部分を含めて1.5m切除して吻合した。

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妊娠末期のポンポコリンの腹をしているので、ヘルニアベルトを着けた。

さすがに重く、危ない覚醒起立だった。

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エリザベスカラーを耐え忍ぶ相棒。

林の中のエリザベスカラー草、ザゼンソウ。

 


回腸憩室の破裂

2017-04-25 | 急性腹症

競馬をして休養に帰ってきた馬が、数日後発熱して調子が悪く、翌日には軽い疝痛を示し、心拍も100を超えているので診てほしい、との連絡。

消化管破裂の腹膜炎だな、と推察し、「それ厳しいですよ」と応えて待つ。

来たときに馬運車の中で死んだ。

剖検したら、ひどい腹膜炎。

汚い腹水が増量し、腹腔臓器はすべて赤黒くなっている。

しかし、成馬が突然腹膜炎を起こすなんて・・・・・

回腸に径20cmほどのボール状のものがくっついていた。

内腔は回腸とつながっている。回腸憩室だ。

憩室内にしっかり食べたものが詰まっていた。

そして、憩室の一部はもう穿孔していた。

回腸憩室の壁はしっかりしているので、ずっと前からあったものだろう。

そこへ食べたものが詰まるようになり、今回破裂したのだ。

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腸憩室は人でも憩室炎を起こしたり、穿孔することがある。

人では大腸憩室が多いが、回腸憩室もある。

憩室炎くらいの症状で気づき、消化管造影検査などで穿孔前に診断がつけば治療できるだろうが・・・・・

物言わぬ馬。穿孔、破裂してしまうと助けるのは厳しい。

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オラこんなになってる

皮膚炎を起こした内股を舐めるのでこうなった。

おまけにその肢は付けないほど痛い。

皮膚炎のせいか・・・・冬に捻挫したところをまた傷めたか・・・・

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物言わぬ動物を診るのは、観るのは、看るのは難しい。