馬に抗生物質を投与していると下痢を起こすことがある。ときには疝痛を伴うひどい腸炎になり、死亡することもある。抗生物質投与をやめると下痢もとまるような場合はいいが、下痢が慢性化し、どうしても止まらないこともある。
抗生物質によって、腸内細菌叢が乱されて悪玉菌が腸内で増えて腸炎がおこると考えられている。
かつては、テトラサイクリン系の抗生物質が腸炎を起こすことが多く、馬には禁忌とされてきた。
最近では、ロドコッカス感染症の治療に用いられるリファンピン(人の結核用の抗生物質)やエリスロマイシンによる腸炎をよく聞く。
USAではリファンピンとエリスロマイシンの組み合わせはロドコッカス感染症の治療薬として推奨されていたが、日本ではエリスロマイシンは腸炎が多くて使えそうになかった。
リファンピンによる腸炎はロシアンルーレットのようなもので、
「リファンピン使って下痢になったことなんかないですよ~」と豪語していた獣医さんが、次の年には
「リファンピン投与する仔馬がかたっぱしから下痢する。どうなったんだろう?」と頭を抱えていたりした。
危ない抗生物質なので、まず1錠やってみましょう。と1カプセル投与したら疝痛と下痢を起こして死んでしまったという仔馬もいた。
結局リファンピンは、菌分離によりロドコッカス感染症と確定診断されて、副作用の可能性より、治療費が安くすむとか治療に成功する可能性が高いというメリットの方が大きいと判断した時だけ、畜主と相談の上で使うべきだろう。
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セフェム系の抗生物質も投与量によっては抗生物質誘発性腸炎を起こすことがあるようだ。
セファロチンとかセファゾリンなどは、血中濃度の維持が悪くて、本来点滴投与したい抗生物質だ。いたずらに投与量を増やすより、投与回数・方法を考え直した方がいいかもしれない。
セフチオフル(エクセネル)はセフェム系にしては1日1回投与でいい抗生物質だ。これも私たちは成馬で1日1gで使うことが多い。
効く時はその投与量で効くと考えているし、投与量を増やすと腸炎の危険が増すだろうと思う。
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アンピシリンを成馬に使うのを躊躇する人もいるが、私たちは3g1日2回投与では腸炎は経験していない。しかし、食欲が落ちた馬はいたので、骨折などのストレスがかかっている馬や、種馬などでは気をつけた方がいいだろう。
海外の教科書には6-9gを1日3回などという投与量が載っていたりするが、海外の馬は抗生物質に対する感受性も腸炎の危険性も日本とは違うようだ。
海外の教科書から情報を得るのは大事なことだが、抗生物質の投与量だけは鵜呑みにするのは止めた方が良いと思う。
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馬は基本的には、ペニシリン系もセフェム系も経口投与では吸収しないとされている。
セフェム系抗生物質を経口投与して腸炎を引き起こした馬もいた。
効果がない治療で死んだのでは馬も浮かばれない。
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有名な種雄馬が日本で故障して、海外から獣医師が診察に来て、この抗生物質をこれだけの量投与してくれ。と指示したそうだ。
「日本ではそんな投与量は必要ないし、危険だ」と説得して指示に従わなかった獣医さんがいたが、正解だったろうと思う。
海外の獣医師の指示通り投与して腸炎を起こして死にかけた種雄馬もいた。
日本の馬がどうして抗生物質に弱いのかはわからない。
しかし、シャトルで日本に来ている馬も抗生物質に弱いとすると、その馬固有の細菌叢の感受性の問題ではないのかもしれない。
ミネラルが少ない飲み水のせいか、草の種類のためか、あるいは・・・・・・