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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

臼歯の形態は消化に影響するか?

2008-08-31 | 歯科・口腔外科

 最新のアメリカ獣医師会雑誌 JAVMA に馬の歯と消化能力についての調査結果が載っている。

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The relationship between cheek tooth occlusal morphology, apparent digestibility, and ingesta particle size reduction in horses.

馬における臼歯のかみ合わせ状況、見かけ上の消化能力、そして消化物の粒子の大きさの小さくなっていき方の関係

                                                   James L. Carmalt, Andrew Allen

                                         J Am Vet Med Assoc 2008 ; 233 : 452-455

目的-臼歯のかみ合わせの形態、見かけ上の消化能力、そして馬が消化する過程における食物粒子の大きさの小さくなり方の隠れた関係を調べること。

デザイン-横断的調査

動物-年齢、種類、性別のさまざまな17頭の馬

方法-供試馬は安楽死の前14日間は乾草を基本にした3種の飼料のうち一つを随意に与えられた。栄養価の分析は3種の飼料それぞれについて行った。剖検時には、頭部は関節をはずして上顎と下顎の臼歯列の咬合面の写真を撮った。また、飼料の消化能力と粒子の大きさを求めるために、胃と小結腸あるいは直腸内容のサンプルを採った。総合的な口腔内の病理学的スコアをつけて、臼歯列の咬合面の解剖学的状態とした。

結果-3種の乾草飼料の間で栄養分析の結果に差はなかった。各飼料の間で、消化性についても明らかな差はなかった。飼料の粒子の大きさは3種の飼料の間で差があったが、胃内容と糞便の粒子の大きさは飼料によって異ならなかった。臼歯の解剖構造上の差と飼料の消化性の間にはっきりした関係は認められなかった。糞便の粒子の大きさと口腔内の病理学的スコアに明瞭な関係は認められなかった。

考察と臨床的関連-馬における臼歯の解剖構造と糞便の粒子の大きさ、そして消化能力の間に関係があるといういかなる確証も得られなかった。

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 歯が悪いと消化・吸収が悪くなると考えがちだが、それを科学的に証明するのは難しいのかもしれない。

あるいは歯が多少悪くても、馬はよく噛むことで補って、ちゃんと噛み砕いてから飲み込んでいるのかもしれない。

 どんな馬も1年に2回は歯の手入れが必要だと主張している人たちもいるが、かつては歯の手入れはまったくされていなかったのにほとんどの馬は問題なく飼養されていた。

濃厚飼料・配合飼料など咀嚼回数が減るような飼料を多くあたえるほど臼歯が不自然な摩滅をする。

すると、歯の手入れが必要になりやすいという側面はあるだろう。Photo

しかし、どこまで手間と費用をかけるかは、よく考えた方が良いだろう。

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顎関節を壊して頭部を開くのは、

disarticulate ;関節離断(術)、関節離開(骨を切らない、関節による四肢の切断)

一般的な英語としては、

articulate ; はっきり発音する。はっきり述べる。関節でつなぐ。・・・と関連付ける。P5290062_2

しかし、医学用語では、 

articular は「関節(性)の」という意味だ。

一般用語で、

article ; 品物。記事、論文。項目。

という単語もよく使われる。

そうか!article も articular も「節;つながれたひとまとまり」であり、「節でつなぐこと」か。

文節、一節って言うしね。


Hendra virus感染

2008-08-30 | 感染症

Ben_small オーストラリア、ブリスベンの動物病院 Redlands Veterinary Clinic で働いていた33歳の獣医師が、Hendra virus感染症で亡くなった。

彼は、動物病院に入院していたHendra virusに感染していた馬を治療していて、このウィルスに感染した。

ヘンドラウィルス Hendra virus は、オオコウモリが自然宿主と考えられていて、馬はコウモリの排泄物に汚染された放牧地などで感染すると考えられている。

1994年にやはりブリスベンのサラブレッド厩舎で発生し、14頭の馬と調教師1名が死亡したのが初発例だった。

1995年には馬の解剖を手伝った人が感染し、死亡している。

人は出血性肺炎と髄膜炎を起こす。

もっと詳しい情報はこちら。

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 学生の頃、子牛の下痢が多発している牧場を、抗生物質の治験の採材のために定期的に回っていた。

もう一人の同級生と一緒に回っていたのだが、ある採材の日、彼は研究室に出てこなかった。

私は、熱があって具合が悪かったのだが、なんとか一人で採材をこなした。

 次の日は一日寝込んでしまった。

風邪のように呼吸器症状はなく、下痢をするわけでもなく、ただ熱だけが高かった。

後で、同級生に聞いたのだが、なんと彼も発熱して起き上がれなかったのだと言う。

たぶん、子牛の下痢や肺炎が多発している牧場で、二人とも何かの病原体に感染したのだ。

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 馬は人獣共通伝染病が多い動物ではないと思うし、

オーストラリア固有の野生動物から感染するオーストラリアで数件の発生例しかない感染症を恐れても仕方がないが、

気をつけるべきことは、気をつけたほうが良いかもしれない。

 一番は、疲れやストレスをためず、偏食せずで、自分の抵抗力・免疫力を落とさないことかな・・・・・・

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                 Ben Cunneen獣医師の冥福をお祈りする。

 

 

 


8月の終わりに

2008-08-29 | How to 馬医者修行

P8170340  8月もあっと言う間に過ぎていった。

今年は夏らしい夏を楽しむことも、暑さにだれることもなかった。

 きのうからこちらも結構な雨ふりだが、本州もひどいらしい。

本州の夏は、以前にも増して熱帯化しているようだ。

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きのうは某大学の学生対象のGood Practiceプログラムの日。P8280356

朝、その準備をしていたら1歳馬の疝痛の連絡。

手術の途中で抜け出して午前中は講義。

午後は診療センターで関節鏡手術の見学と、外科実習。

クラブフットの外科治療としての深屈腱支持靭帯切断術。P8280357

第三中手骨、第一指骨縦骨折の圧迫スクリュー固定法。

頭部の神経ブロック。を体験してもらった。

今年は3年生がほとんどだった。

別に、手技をマスターしてもらおうと考えているわけではない。

症例(問題)に遭遇したら、解剖を勉強し、教科書を調べ、文献を読み、経験ある人に教わって、自分でやってみることの意味を、馬の外科手技を題材に理解してもらえたならと思う。

学生さん達を送り出したら、黒毛和牛の帝王切開。

その後、臨床実習生さん達も同じメニューを練習。

片付け終わって、入院馬の治療。

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P8240350マイマイガ。

こうして見ると、たしかにピンク色をしている。


子宮捻転 連チャン

2008-08-27 | 牛、ウシ、丑

P8260351 ホルスタインの子宮捻転。

午前中から分娩徴候があったが、生まれないので診てもらったら子宮捻転しているとの診断で運ばれてきた。

後ろから見て、反時計回り。

数度転がしてみたが捻転を整復できなかった。

胎包を破いて、肢を出すと・・・逆子(尾位)だった。

肢を引いたり押したりしながら時計回りに360度回転させたら、そのまま引き出せた。

なんと子牛は生きていた。

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P8270353 なんと今日もホルスタインの子宮捻転。

昨夜、分娩徴候があったそうだ。

1時間転がしてみたが、捻転を整復できないとのことで来院した。

時計回りに捻れている。

診療所で転がしても整復できないし、子宮頚管も開かないので、立位で帝王切開す ることになった。

P8270354開腹すると捻転はほとんど整復されていたようだ。

しかし、子宮はまだチアノーゼ。

子牛はすでに死亡し、角膜は白濁していた。

このあと母牛が大丈夫か、この乳期に搾乳できるか、子宮や卵巣が回復してまた妊娠できるか・・・わからない。

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分娩、それはまぎれもなく「誕生」の瞬間。

しかし、馬も、牛も、分娩は命がけだ。母も子も。

どんなに医学が進んでも、人の分娩も100%の安全などありえないだろう。

P8260352


球節の側副靭帯断裂 17症例

2008-08-26 | その他外科

 以前、経験した球節の脱臼症例の紹介をしたが、アメリカ獣医師会雑誌に球節の側副靭帯断裂の17症例についての報告が載っている。

Rupture of collateral ligaments in metacarpophalangeal and metatarsophalangeal joints in horses: 17 cases (1999-2005)

     馬の中手指骨関節・中足趾骨関節の側副靭帯断裂 : 17症例(1995-2005)

              Wade A. Tenny, DVM, and Mary Beth Whitcomb, DVM

                                       J Am Vet Med Assoc 2008 ; 233 : 456-462

目的-馬の中手指骨・中足趾骨関節の側副靭帯(CLs)の断裂の特徴を調べること

デザイン-回顧的症例調査

方法-データは診療記録から、発症、経過、臨床症状、超音波・x線所見、治療、そして結果について調べた。その後についての追加情報は畜主か担当獣医師から得た。

結果-外側のCLは11頭の馬で断裂していた。内側のCLは6頭の馬で断裂していた。

超音波検査によりば11頭の馬ではCLの短枝・長枝が同じ側で切れており、6頭の馬では片方の枝だけが切れていた。

ニ軸断裂は見られなかったが、9頭の馬では損傷した球節の、断裂していない側のCLに靭帯炎が認められた。

すべての馬は跛行を示した(跛行の程度は2/5から4/5)。

関節の不安定さは9頭の馬で蝕知された。4頭の馬だけが脱臼していた。

6頭の馬でx線撮影により捻除骨折が判明し、他の2頭では超音波検査で捻除骨折が判明した。

力を加えた状態で行うx線撮影では、10頭の馬で関節の不安定性が認められた。

馬は馬房内で管理され、肢を動かさないようにし(注;キャストあるいはスプリント)、徐々に運動に戻した。

8頭の馬は騎乗に復帰し、2頭は繁殖供用され、2頭は引退し、2頭は安楽死処分され、3頭は受傷後86-139日で良化した。

結論と臨床的関連-急性の跛行を示し、中手指骨・中足趾骨関節が腫脹している馬では超音波検査を行うべきだ。とくに、力をかけた状態でのx線撮影ができないときや、所見があいまいなときには。

発症馬は保存的に管理することができた。

運動目的での飼養についての予後は、今まで考えてこられたより良好かもしれない。

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Photo側副靭帯の長い枝と短い枝の位置については、本文の最初に書かれている。

 中手指骨・中足趾骨関節はよく動く関節で、荷重に耐えるために固定する構造の複雑な組み合わせを必要としている。

内側と外側のCLはこれらの関節を矢状方向にだけ動くように制限している。

それぞれのCLは浅い部分(long)と深い部分(short)を持っている。

長い方は第三中手骨・中足骨の骨端窩の近位に始まり、近位指骨・趾骨に終わっている。

対して、短い方は、骨端窩遠位掌側・足底側に始まり、近位指骨・趾骨の掌側・足底側の突起に終わっている。そこは、長い方の終点のすぐ尾側である。

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P8240349 夏の臨床実習生諸君が活躍してくれている。

しかし、2週間で総入れ替えになると途端に戦力ダウンする。

言い換えれば、2週間いるとみんな要領を覚えて動いてくれる。

麻酔をかけて、毛刈りして、消毒して、手術室から運び出して・・・・

その中で手伝えることをこなせるようになることは獣医師としての知識でありスキルだと思う。