goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

眼瞼裂の縫合のコツは端っこから縫うこと

2021-04-02 | 馬眼科学

馬は瞼をどこかにひっかけて切ってしまうことがある。

たいていは上まぶた。

鎮静し、眼窩上孔でブロックすれば立位で縫える

この日は、耳介神経ブロックと浸潤麻酔も併用した。

まず眼瞼のまつげが生えている側を縫って留める

そうしないで、V字の底から縫ってくると、だいじな眼瞼縁がずれてしまいがちだから。

眼瞼結膜へ糸を出してはいけない

角膜が擦れて傷ついてしまう。

どこにひっかけたか探しておかないと、傷が治りかけて痒くなって、また同じところに擦りつけて、また怪我する馬が居る。

瞼はたいせつな眼組織の一部。だいじな働きをしている。

干からびていても、凍っていても、汚れていても、縮こまっていても、切り取ってはいけない

血行豊富で、縫合してやれば癒合する。

                                                   ////////////////////

この春は今のところ分娩事故や難産疝痛多くないのだと思う。

休み明けで戻ってきたら、子宮穿孔と、横隔膜ヘルニアと、結腸捻転再発、が退院していった。

忙しさの印象は、当番の”当たり”によってちがうんだけどね;笑

 


経過の良くない創傷性角膜炎の羊膜・結膜フラップ

2020-08-11 | 馬眼科学

現役競走馬の創傷性角膜炎。

数日治療したが、経過が思わしくない、とのことで来院した。

やっていなかった自家血清などを加え、点眼回数を増やすよう指示したが、翌日も思わしくなく再来院した。

表層は明らかなメルティングではないが、深くて嫌な感じ。

中央は深く黒い。デスメ膜に達しているなら穿孔する恐れがある。

穿孔したら、眼球、ボールとしてはダメになる可能性がある。

鋭匙で表層を擦って・・・

眼科用メスで格子状に浅い切開を加えて・・・

羊膜を乗せて、縫い付けて・・・

羊膜でカヴァーされた。

眼球結膜を剥がしてきて・・・・

角膜に縫い止めて・・・・

角膜の損傷が治りにくいのは、血行に乏しいから。感染に弱く、修復・再生されにくい。

結膜は血行豊富。

菌(めずらしくは真菌)を抑える免疫が働き、修復を司る細胞やタンパクが運ばれてくるだろう。

                 //////////////////

こちらのボールは娘が推奨のモモを丸ごと使った夏限定ケーキ。

もちろん破裂させて中のドロドロクリームもいただきました;笑

 

 

 


下瞼の腫瘍

2020-04-05 | 馬眼科学

遠いところから乳母として働くためにやって来た重種馬。

目にできものができているので診てほしいと立ち寄った。

下瞼の・・・扁平上皮癌か?

もっと早く診せて欲しかった。

小さければ、まず生検して腫瘍の性質を確認して、

それから根治手術を考える。

しかし、下瞼を全部とってしまうと、眼球が維持できなくなるかもしれない。

立位で生検と、できるだけの摘出を兼ねて行うことにした。

いずれ眼球摘出が必要になるかもしれないが、見えている眼を摘出したくない。

お母さんの周りを子馬がうろちょろ。

可愛い。

                -

お母さんの眼は、扁平上皮癌なら再発するだろうし、

完全に摘出しないと転移していずれ命にかかわることになる。

皮膚移植などで下瞼を再建できるのか?

             /////////////////

”社会的距離” とって下さいね。


デジカメ撮影 眼

2018-05-19 | 馬眼科学

症例の相談でときどき写真をおくってもらうが、あまり写りがよろしくないのが多い。

多くの原因は、暗い馬房の中で撮影するからだ。

写真は光による画像なので、光が撮影対象に当たっていないとまともに写らない。

暗いところで撮影するならフラッシュが必要だが、携帯電話やスマホはバシャっていう光量の多いフラッシュ撮影はできない。

レンズが明るくて、フラッシュが少しは強力な一眼デジカメを使えば良いが、もう一眼レフを持ち歩いている人はほとんど見かけなくなった。

ポータブルデジカメは、それなりに携帯やスマホよりはマシに撮影できるものもある。

                -

眼の症例の写真も、まともに写っていないことが多い。

接写しないと角膜や前眼房のようすがわからないのだが、携帯やスマホでは難しいのだろう。

接写機能やピントあわせの速さはデジカメの機種による。

片手で操作できるようになってないと、一人での往診先では使えないよね。

角膜の白濁と浮腫。

フロレスセインで染まっている部分は角膜上皮が欠損しているので、その損傷が原因だろうとわかる。

                    -

ポータブルデジカメ市場はすっかりスマホに押されて、撤退が相次いでいる。

でも、防水で、落としたりぶつけても壊れ難くて、厳しい撮影条件でもそれなりの写真が撮れるポータブルデジカメにはぜひ生き残ってもらいたい。

                    -

子馬の眼帯に、ストッキネットを使うのは良いアイデアだ。

                  ///////////

撮影に協力的でないヤツを撮る難しさは知ってますとも。

 

 


デスメ瘤だった

2018-01-18 | 馬眼科学

深い角膜潰瘍があったが、抗生物質と自家血清をきっちり点眼して治療していた2歳馬。

眼球が小さくなったように見える、とのことで来院。

もちろん病変部はフルオロセインで染まる。しかし、前眼房へ染まってはいかない。

前眼房は眼房水で膨らんでいるし、虹彩は膨隆していないし、眼の痛みはひどくない。

角膜の病巣は深そうだが、melting は起こしていないし、分離された細菌も抗生物質で対応できるもので、感染はコントロールされているはずだ。

ただ、ごく小さい黒い点がある。

異物が刺さっているようにも見えた。

全身麻酔して角膜を触ってみることにした。そして・・・・

黒い点はデスメ膜だった。

デスメ膜とは角膜の内層で、角膜穿孔する前に突出してくることがある。

膨らんだデスメ膜はデスメ瘤と呼ばれる。

危険な徴候で、角膜を保護する外科的な処置が必要であることが多い。

羊膜と結膜フラップを行った。

                          /////////////////

暖かくなって、雨混じりの雪が降った。

朝にはそれが凍り、そのうえにうっすら雪が乗って凍っているのが見えず、とても危ない。

タヌキが歩いてきて、氷の上で滑って転んだ痕。

馬も転んで骨盤骨折しなければ良いが・・・・・