もう300kgを超えている当歳馬が後肢球節を腫らして跛行したのでX線撮影したら第一趾骨の骨片骨折が見つかった。
まだ雪が積もらず、デコボコのまま硬く凍った放牧地だったので捻挫したのかもしれない。
第一趾骨の底側突起 planter process あるいは第一趾骨翼と呼ばれる部分の骨折だ。
骨片が小さくて関節面に到っていないならそのままでも良い。
もう少し大きくて変位していると取ってしまった方が良い。
しかし、この症例はかなり大きくて、関節面にかかっていて、相当離れてしまっている。
スクリューで固定できれば固定した方が治りも早く、のちのちにも良いだろう。
腫れているが、なんとか底側突起を触知できたので、その上を切開する。
骨片がグラグラ動くのがわかる。こんなことは珍しい。
骨鉗子をかけて骨片を圧迫する。
X線撮影して良い場所に圧迫固定できているのを確認する。
注射針を骨片に刺しておいてX線撮影し、スクリューを入れる位置と角度を決める。
けっこう軸側でかなり遠位の内側へ向けてドリルしなければならない。
タップを切って、
4.0mmの海面骨スクリューで固定した。
ネジの先の方にしかネジ山がないシャフトスクリューなので、手前をグラインドホール(滑り穴)にしなくても圧迫できる。
骨片が小さいので割れてしまうリスクを減らせる。
完全なもとの位置ではないが、放置したり、摘出してしまうより良いはずだ。
術後はハーフリムキャストを巻いた。
good luck!!
//////////////
愛馬の思い出を追って北海道を訪れ、愛馬に縁のある馬に出会い、自馬にして始まった第二の乗馬ライフ。
まだ調教されていない馬が乗馬に調教されていく過程で、オーナーもまた馬のことを知っていく経緯が描かれている。
調教されたある程度の年齢の馬がすべての乗馬の世界ではそういうことは珍しいのだろう。
この辺り(生産地)の人は、ニンジンを食べたことがないほとんどの馬はニンジンを食べようとしないことを知っている。
競馬場でニンジンの味を覚えてきた馬だけがニンジンを食べるのだそうだ。
馬を曳くのも練習がいるし、曳かれる馬の方も慣れる必要がある。
当歳馬や1歳馬を毎日曳いて歩くたいへんさは生産地では当たり前のことだが、乗馬の世界では新鮮なもののようだ。
とても良い経験をされたなと思う。
数日前の話。
朝、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。
15分も遅れてきたので忘れてるのかとあちこち電話した。
どこも役に立つ連絡がつかず、結局、馬が到着してから折り返しの電話があちこちから来る。
午後は獣医師会の会議の予定が入っていたが、1歳馬の疝痛の依頼。
前の日の昼から疝痛だったと言う。
-
ひどく痛いわけではなく、間欠的に痛みが出て仰向けにもなる。
PCV41%だが、乳酸値は2.6mmol/lとかなり高い。
体表からの超音波検査で、左腎臓は結腸に邪魔されて確認できず、その結腸には結腸動脈が見え、その周囲は肥厚している。
食べてない割には小腸に内容が多く、腹水もやや増えている。
「もう開腹手術した方が良いです」と言ったら、オーナーに電話して代わって欲しいと言われたので簡潔に説明する。
「腸閉塞で、このままではダメになる可能性が高く、やれば助かるとは限らないが開腹手術した方が良いです」
やってください。ということなので、すぐ準備して始める。
-
ほぼ予想したとおり結腸左背側変位だった。
結腸が脾臓と左腎臓の間にはまり込む reno-splenic entrapment のだが、そのときねじれて裏返ることが多い。
今回の症例ではそれで結腸動脈が左の体表から見えたわけだ。
結腸は循環障害を起こして結腸動脈周囲は黄色く浮腫を起こしていて、結腸には点状出血した部分や、わずかに筋層が切れた部分もあった。
黄色い腹水も増えていた。
結腸の損傷が進めば予後が危うくなるし、回復までの時間もかかるし、治療費もさらにかさむことになっただろう。
-
自分の馬に治療を受けさせるかどうかは最終的にはオーナーが決めることだ。
何かあったらどこまでの診療をしてもらいたいのか馬を預ける相手に説明しておいた方が良い。
何かあったときに納得できるきちんとした説明を求めるのはオーナーの権利でもある。
そして、納得できる診療を受けさせるのはオーナーの義務でもある。馬は自分では病院へ行けないのだから。
////////////
馬に魅かれて、そして自馬にされた馬は素晴らしい馬で、
ところがその馬は眼の病気を患っていて・・・・
あちこち情報を求めて、私が相談を受けた。
私は、遠慮しないで馬のためにちゃんと眼の検査をできる病院へ連れていってもらうようアドバイスした。
それは、オーナーの権利であると同時に義務ですから、と。
-
それから数年のその馬とオーナーの濃密な時間も書かれている。
その馬への想いがあふれていて、胸が熱くなった。
癌が転移し、高齢馬に多い運動器の障害もかかえている愛馬の馬房の前ですごした夏の時間。
暑くて、ふつうには快適なはずはないのだが、その時間が本のタイトルになったのだろう。
-
そして、疝痛で別れの決断のときが来る。
それもまたオーナーの辛い義務でもある。
-
競走馬の世界はもう少しドライかもしれないが、この本からは人が馬に抱く愛情の強さ大きさを感じさせていただいた。
馬医者にとって忘れてはいけない大切なことだ。
そして、現実問題としては日本の、とくに競馬サークル外の馬医療の現状をあらためて考えさせられた。
これも、日本の馬医者全体の課題でもある。
血液検査では、血液の1滴をスライドグラスに塗り広げて、乾燥・固定・染色し、顕微鏡で観て、白血球を分類して百分比を出すことも行っている。
白血球数は、ほとんど自動でやってくれる血球計数装置で数えられているので、百分比と掛け算をするとどんな白血球が増えたり減ったりしているかわかる。
これは好中球。
ヒトやウマの末梢血の白血球の中ではふつう一番多い。
細菌などの外敵を貪食することなどで免疫の重要な部分をになっている。
しかし、対応しきれない炎症や感染が起こると末梢血中で減ってしまったりする。
ウシでは末梢血中で最も多い白血球。
今は細かく分類されていて、外敵との戦争とも言える免疫において情報伝達したり、抗体産生に関わっていることがわかっている。
外敵を貪食し、分解してその情報をリンパ球にわたす。(どうやって?;学生さん、勉強してね)
免疫の最初の情報戦を受け持つわけだ。
体の各組織の中ではマクロファージと呼ばれる。
馬の好酸球は大きなピンク色の顆粒を持ち、とてもハデ。(ホントは染めているだけで、赤い酸性色素に染まるので”好酸”)
(美しいと思うか、ケバいと思うかは好みだな;笑)
アレルギー疾患とか寄生虫疾患に関係している。
-
うちの検査室では獣医師が顕微鏡をのぞいて白血球百分比を出している。
最近では白血球の分類までやってくれる血球計数装置があるが、やはり古典的な方法の方が精度は良い。
赤血球に寄生するピロプラズマを検査したり、
異常なリンパ球に気づいて白血病を疑ったりも、顕微鏡で観ているからできる。
-
私は学生のとき内科学教室に居たため、さんざん血液塗沫標本を作ったので上手に塗沫標本を作れる。
恩師の一条先生は獣医血液学も専門にしておられ、イヌやネコのパルボウィルス感染症も研究しておられた。
それで、先輩の骨髄液の採取や、骨髄の塗沫標本のカウントも手伝った。
まれに末梢血中にも骨髄球が出てくるが、学生の頃の経験のおかげで骨髄球に驚かずに済んでいる。
白血球百分比を上手に数えるためには骨髄液の塗沫標本も見てみると、骨髄でできてくる白血球の成熟と分化が観察できるので役に立つ。
「あの頃」やったことの価値を思い、今になって感謝している。
/////////
今日は、朝かなりの降雪。
湿った重い雪を除雪。
午前中、当歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。
Tieback&cordectomyの再検査。
午後、鼻の粥腫の切開。
競走馬の腕節骨折の関節鏡手術と蟻洞の処置。
夕方、繁殖雌馬の食道梗塞。
-
日が長くなるのが待ち遠しい・・・・ああ、でもまた忙しい春が来る・・・・暗くてもイイか;笑。
現役競走馬。徐々に右前肢の球節の遠位が腫れてきて、ついに跛行し、X線撮影で第一指骨に大きな骨増勢が見つかったので帰ってきた。
どうしてこんなとこにこんな骨増勢が起きたのかわからない。
伸腱とこすれるだろうから、跛行するならへし折って取り出して削るしかない。
X線撮影したら、こちらは関節内に骨片が見つかった。
激しい競走生活を送り、両前の球節にかなり負担がかかってきたのだろう。
右前肢は総指伸腱上を切皮し、伸腱の内外から第一指骨に到り、骨ノミででっぱりを割って摘出した。
繋靭帯炎もあるので、繋靭帯に押されて折れたのかもしれない。
第二中手骨の骨折部分も摘出した。
それから馬の左前球節の関節内の骨片と軟骨片と増成した滑膜パッドの一部を関節鏡手術で摘出した。
ほかには、この馬の右前の種子骨の遠位には小さい骨片があるが、これは症状につながらないと考えて処置しなかった。
-
アスリートの体は激しく傷む。
回復が間に合わなくなると故障する。
一箇所の大きな損傷が起こることもあるし、あちこち傷むこともある。
外科的に治せるものは処置して、あとは休養とリハビリだ。
///////////
珍しく荒れる年末だ。