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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

去勢後の漿液腫

2024-09-21 | その他外科

去勢後の馬が患部から包皮までかなり腫れてしまい発熱した。

去勢から2週間。

5日間抗菌剤を投与し、もう後治療も終了していたが、突然腫れたとのこと。

肉芽が露出しているので、そこから感染したのかもしれない。

全身麻酔して、傷を広げ、肉芽は切除した。

膿ではなく漿液がかなり溜まっていた。

細菌検査では Streptococcus sp. が分離された。

             ー

私の所では、正中1箇所だけをできるだけ小さく切開して捻転式去勢をしている。

傷を左右二箇所にしたり、傷をできるだけ大きくしたり、皮下織をむしり取ったり、すればするほど出血は多くなり、術後の痛みは大きくなり、そのことが術後の腸管脱出の要因にもなると考えている。

ただ、今回のように、傷が閉じて漿液が溜まってしまった症例があったことは記憶にとどめておきたい。

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釧路市湿原展望台の前に居た、野生?のエゾシカ。

人慣れしているのか、逃げるようすもない。

あれっ?と思ったら、右の飛節遠位がない。

それでも不自由なく暮らしているのか痩せてもないようだ。

私たち馬と牛の獣医師は、まだ断脚して患者を生存させるHow to は持ち合わせていない。

野生動物とは強いものだ。

            ー

環境省湿原湿原野生動物保護センターを見学してから、温泉に入り、キャンプ場へ向かった。

 

 


当歳馬の球節のガングリオン

2024-08-30 | その他外科

当歳馬の球節の背側が大きく腫れて、超音波で観ると結合織の袋状組織ができている。

血腫からガングリオンができてしまったのだろう。

外科的に摘出しないと治らない。

当歳で、球節で、病巣は小さいし、ガングリオンそのものは大きいので摘出はたいへん。

腱を傷つけないように、関節へ破らないように、根気が要る作業だ。

            ー

ブログの右上に、「ガングリオン」と記入し、その右の枠で「このブログ内で」を選択してもらうと、

今までのガングリオン類似症例の記事が出てくる。

1歳馬の腕節が多い

私がガングリオンや滑液腫にこだわる理由も書いてある;笑

競走馬の球節も手術したことがある。

成書の記載も紹介している。

1歳馬の後膝のガングリオン。

            ー

自分でも忘れているのだけれど、いろいろたくさん診てきたものだ;笑

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まだ蒸し暑い日がある。

夏の台風が九州に停滞している。

ツリバナの実がなって、葉が色づき、秋を待っている。

 

 

 

 


毛球症の切開

2024-08-27 | その他外科

1歳馬の肩甲部に腫瘤がある、とのことで来院。

部位としては珍しいが、毛球症(毛巣洞)のようだ。

少しずつ大きくなってきたみたい。

超音波で観たが、毛球症がどのように見えるか知らなかった。

それでも、いかにも、という像だった。

で、やはりそのとおり。

鎮静

除毛、洗浄・消毒

局所麻酔

切開

一部内反している皮膚組織は切除

デブリド・洗浄

縫合

切開以降は、今年卒業した獣医さんにやってもらった。

獣医さんは覚えることが多くてたいへんだ。

ひとつずつ身につけていくしかない。

上達することを楽しみながらやっていけるとイイネ。

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う~ん、これはなんという花でしょう?

 

 


繁殖牝馬の喉嚢真菌症 内頚動脈結紮とmicrocoil 塞栓術

2024-06-13 | その他外科

繁殖牝馬が放牧地で鼻出血し、かなりの血だまりができていた、そうだ。

喉嚢内視鏡検査で、内頚動脈に病巣が確認できました、とのこと。

それは手術適応だし、手術しないとかなりの確率で出血死するが・・・・うちの予定も混んでいる。

中1日で予定を入れる。

           ー

来院してもう一度喉嚢内視鏡検査したら右喉嚢には血液がいっぱいで十分な観察不能。

最初の出血の後も少しずつ出血したのかもしれない。

中隔上にも病巣が見つかった。

中隔は内頚動脈支配域ではないらしい。

しかし、内頚動脈の結紮とマイクロコイル塞栓術で良いだろう。

           ー

マイクロコイルを仕込んだカテーテルを内頚動脈に送り込んで、確認のためのX線撮影。

カテーテル内のワイヤーとその先のマイクロコイルが写っている。

正しく内頚動脈に入っているので、茎状舌骨の背側、喉嚢天井側へ向かっている。

             ー

マイクロコイルをカテーテルから押し出して、再Xray。

マイクロコイル 4 - 2 mm はきれいに丸まった。

これ。

カテーテルは13cm入れたところでも抵抗がなかったし、

マイクロコイルは完全に丸まっているので、

破裂部から喉嚢内に押し出されてしまっている可能性も否定できないが、

内頚動脈切開部からは出血があったのだし、術中に新たな喉嚢出血はないようだったので大丈夫だろうと判断した。

           ー

カテーテルとマイクロコイルの操作は、教えながら若い先生にやってもらった。

私はこの手術をたぶん世界で指折りの頭数やってきた。

経験と技術を伝え残すことが、今の私が一番やるべきこと。

           ー

この馬、麻酔覚醒がひどく悪かった。

自分が立てなかったことに興奮して、壁に突っ込み暴れ回る危ない覚醒だった。

手術前、貧血気味だったことも影響したかもしれない。

でも、この手術を立位でやろうとは思わない。

枠場に立たせて痛いことをするのも、暴れ出せば危険がある。

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かわり葉ヤマボウシ

この葉色は爽やかで涼しげ。

”花”色はこんななので目立たない。

 

 


冬の悲劇 肩甲骨骨折

2024-02-10 | その他外科

出勤したら、昨夜は帝王切開があったそうで入院馬1。

・午前中は飛節OCDの関節鏡手術。

・急患で、生後2日齢の雄子馬の膀胱破裂。

韓国済州島からの研修の先生に助手をしてもらって手術する。

破裂している部位がかなり尾側よりで、縫合閉鎖するのに少し苦労した。

・午後、橈骨骨折が治った黒毛和種子牛のプレート抜去。

プレート固定後7週間。

・夕方、10日前に放馬して側溝へ落ちた1歳馬の肩跛行の診察。

肩関節より近位がひどく腫れている。

普通にポータブルX線装置でDRで撮ったのでは、肩関節が崩れていないことしかわからない。

肩甲骨関節上結節の骨折なら判断できただろう。

大型X線装置で、肩甲骨を撮ったら、肩甲骨が折れているのがわかった。

わかる?

肩甲骨は、肩関節部を除けば薄く平べったい骨で、内外方向で撮影しても形状を描出するのが難しい。

肩甲骨部の出っ張りをかすめるように、腹尾方向から背頭方向へポータブル撮影装置で撮り直した。

肩甲骨の”頸”部分で、完全に折れて変位している。

破片もある。

もう日数も経って、筋肉も収縮し、周囲の傷んだ組織も瘢痕収縮し始めているので、とても整復もできないだろう。

あきらめる。

剖検して、肩甲骨頸部が破片のある斜骨折しているのを確認した。

            ー

肩甲骨体が折れているとX線診断しにくい。

横からではなく、肩甲骨をすかすように撮ると「く」型に折れているのが診断できることがある。

若い獣医さん、覚えておいてね。