馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子牛の骨折プレート固定の実習 in 宮崎大学

2016-10-30 | 講習会

日本の乳牛は140万頭。

そのうち80万頭は北海道に居る。

日本の肉牛は260万頭。

そのうち北海道には50万頭以上が居て、単独府県では一番多い。

しかし、鹿児島と宮崎を合わせると60万頭で北海道より頭数は多い。

そして、九州は北海道より狭いので、九州の肉牛の密度は北海道よりずっと濃い。

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北海道から宮崎へ直行便は飛んでいない。羽田で乗り換えて宮崎空港へ飛ぶ。

千歳から羽田への便はほぼ満席。

赤い帽子やTシャツの広島ファンの姿も多かった。

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持っていったドリルのバッテリーは、預ける荷物には入れられなくて、機内持ち込みにしろ、と言う。

本体についているバッテリーは預けて構わないんだって。ヘンじゃね?

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夜、居酒屋で「日本シリーズ入れて」と言ったら、「宮崎は放送しとらんとですよ。私も観たかとですけど。」

え~っ!!

地元TV局にお金がない、そもそも民放局が2つしかない、とのこと。

どげんとせんといかんな、宮崎。

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講義を聴いても牛の骨折を治せるようにはならない。

話を聞いただけでは内固定手術に自分で取り組もう、とは決断できない。

で、骨折をテーマにするなら実習しましょう、と準備した。

参加した獣医さんたちは10名ほど。実習するには最適の人数だった。

佐賀、大分、熊本、宮崎、鹿児島、石垣島から。

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午前中、簡単に基本を話してからプラスチック骨で器具の使い方と、スクリューを入れて締める練習。

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午後は講義で実際の症例について説明してから、解剖体で実践練習。

脛骨、橈骨、大腿骨、上腕骨へのアプローチとプレート装着箇所を説明した。

x線撮影して骨折の状態を把握する。

皮膚を切開し、骨折部位を露出させる。

整復して、骨鉗子で仮止めする。

ラグスクリューを入れて、仮固定する。

プレート装着位置を最終決定し、プレートを曲げて骨に沿うようにする。

プレートスクリューを基本どおりに入れる。

X線撮影して整復状態、固定状態を確認する。

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内固定手術が手におえないような手術ではないこと、

内固定手術でこそ最も良好な安定した整復と固定ができること、

を実感していただけたようだった。

器具をそろえて取り組みたい、という参加者も居た。

「やってるうちに面白くなっちゃって」という感想もあった。

そう、好きになって、いつもそのことを考えているようになるのが上達する要件だ。

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コニカ・ミノルタのDRをデモを兼ねて使わせていただいた。

骨折の診断・評価・手術にはやはりX線画像は不可欠だ。

内固定手術器材はジョンソンアンドジョンソン・デピュイシンセスで提供していただいた。

そして、準備も片付けもやっていただいた。

感謝!!

本当はこれだけの実習に参加しようとすると、1日5-10万くらい参加費を取られる。国内でも海外でも。

今回は無料。

九州、沖縄で内固定手術で骨折を治してもらえる牛が増えることを願っている。

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宮崎県庁のアコウの大木。

フェニックスだけでなく、北海道とは生えてる樹がちがう。

そして、とても発育が良い。植物の茂りかたがちがう。

楠の並木もみごとだった。

宮崎の人たちはまだ半そで生活。

羽田へ着くと、ほとんどの人は長袖を着ている。

千歳へ着いたら「寒っ!」と声が聞こえた。

駐車場に置いていった車に残していったダウンを着て、さあ家へ帰ろう。

明日から仕事だ。

 

 

 

 

 

 


牛の整形外科

2016-10-27 | 牛、ウシ、丑

馬では「整形外科」はしっかり確立されている。

世界には馬の整形外科を専門にして研究、教育、普及に活動している権威者、教授、馬外科医もいる。

牛ではそこまでニーズがないとか、進歩してないとか、情報がないとか思われがちだ。

私もそうだった。

しかし・・・

Bovine Orthopedics, An Issue of Veterinary Clinics of North America: Food Animal Practice, 1e (The Clinics: Veterinary Medicine)
David E. Anderson DVM MS DACVS
Elsevier

北米の大学では馬外科のチームが牛の内固定手術をやることが多いのではないだろうかと想像していたのだが、どうやらちがうようだ。

書いているのは馬医者には見慣れないFood animalの専門家たちが多い。

私が興味がある内固定の章のいくつかの症例を紹介するなら、

中手骨の長斜骨折(左)。

キャスト固定しても騎乗変位しやすい。

それでラグスクリューでとめて、その上をキャスト固定して治療している(中)。

完璧な骨癒合(右)。

馬とちがって牛ではスクリュー固定で治す骨折はほとんどない、と思っていたが、こういうやり方もあるんだな。

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子牛の橈骨骨折。

骨幹中位の短斜骨折だ。骨折部には粉砕がある。

成長板のようすと、プレートの長さとの比較から早い月齢の子牛であることがわかる。

LCPで内固定している。

もう1穴長いLCPを使えた、とか、

近位から3番目の皮質骨スクリューは、もっと遠位へ向けてlag screwとして効くようにいれたい、とか、

インネンをつけたくなるが(笑)、ほぼ完璧。

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橈骨骨幹中位の長斜骨折。

ブロードLCP2枚で内固定している。

橈側手根伸筋と総指伸筋の間に1枚目のLCPを入れて、2枚目は外側へ入れたんだな。

1枚目(頭側の)LCPが骨の軸とずれている。

2枚のLCPが垂直になっていない。と、インネンをつけたくなるが(笑)、完璧に整復・固定されている。

使用されているインプラント(プレートとスクリュー)だけで、日本で買うと20万以上かかる。

何kgの牛だったかわからないが、成長板が見えているので若牛だ。

長斜骨折なので、ラグスクリュー3本でしっかりとめて、橈骨頭側にブロードLCP1枚を入れる内固定で治せないか、などと考えるが、大人しい牛とは言え崩壊のリスクがあるかもしれない。

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北米で牛の内固定手術がどれくらい行われているかはわからない。

しかし、正確に確実に治すための内固定技術をお持ちの牛外科医がいることは間違いなさそうだ。

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さて、今日から「牛の内固定」の講義と実習に行って来る。

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オラも連れてけ

牛は好物だから

かたづけはオラにまかせろ

 

 

 

 

 

 


鳴く鹿の声聞くときぞ 秋は悲しき

2016-10-26 | その他外科

繁殖雌馬が、牡鹿に角で刺されたらしい。

傷は胸腔へ達している。

この季節、牡鹿は牝を求め、ろくにエサも食べずにさまよい歩き、牡同士角つき合わせて闘い、悲鳴の様な声をあげて鳴いている。

体に泥を塗って黒々として見える。

長い角を付けたその姿は恐ろしいほどだ。

しかし、冬に飢え死にするのは仔シカに次いで牡鹿が多いとのこと。

そう聞くと哀れでもある。

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奥山に もみじ踏み分けなく鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき

猿丸太夫

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奥山なら許せるけど、放牧地でサラブレッドを襲っちゃいけないね~


I have a dream. Someday・・・・

2016-10-23 | 整形外科

致命的骨折の馬が焼却に運ばれてくると、時間が許す限り骨折部の状態を観ることにしている。

もう30年そうしている。

この1歳馬の脛骨骨折は、骨片はあるものの粉砕というほどではなく、

開放骨折ではなく、騎乗変位もひどくなかった。

しかし、充分な強度と安定性がある内固定をするのはかなり難しいだろう。

それでも、いつか、300kgを越えたサラブレッドの致命的骨折も治せる日が来ると思っている。

それは私の時代ではないかもしれないが。

誰かが夢と情熱を持ち続ければ、いつか実現すると思っている。

King牧師の時代、黒人がUSA大統領になる日が来ると誰が信じただろう。

オバマさんが大統領になったら暗殺されるんじゃないかと心配した。

そうならずに8年過ぎようとしている。

トランプ候補を見ていると、USAの社会情勢が進歩したのかどうかわからないけれど・・・・

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今年は急に寒くなった。そのせいか紅葉がきれいだと思う。

濡れ落ち葉には興味のないヤツもいるけど。

 


鼠径部陰睾

2016-10-22 | その他外科

今週は、陰睾の去勢を2頭予定していた。

腹腔内停留精巣、つまり腹腔陰睾だと、手術台に乗せて、吸入麻酔をかけて、腹腔内へ手を入れて精巣を探り出して去勢することになる。

手術室、吸入麻酔器、開腹手術セット、など、それなりの準備をしておかなければならない。

月曜日に来た馬は、手術台に乗せたら鼠径部にある精巣を触知できた。

正常な馬と同様に、正中を切開し、左の異常に小さい精巣を捻転式去勢棒でねじり取り、

右の異常に大きい精巣も同様にねじり取った。

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金曜に来た馬も手術台に寝かせてみると左の精巣が鼠径部に視認できた。

つかんでみても間違いなく精巣のようだ。

吸入麻酔の用意をしていたが、プロポフォールによる維持麻酔に切り替えてもらった。その方が安く済むから。

正中を切開し、左の精巣は、挫滅鋏で精索を鋏んでおいてから吸収糸で結紮して切除した。

右は通常どおり捻転式去勢棒でねじり取った。

やはり、左は発育不良で異常に小さく、右は代償性にか異常に大きかった。

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腹腔陰睾に思えても、しっかり鎮静して触ると鼠径部に精巣があることはかなりある。

さらに全身麻酔すると精巣挙筋が弛緩して出てくるのかもしれない。

鼠径部陰睾の馬は、精索が短いので、捻転式去勢すると捻りしろが足らなくて出血が多いかもしれない。

あるいは周囲の血管を巻き込みやすいのかもしれない。

「玉の小さいヤツ」には注意が必要だ。

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春に栗の苗木を植えた。

花が咲いたと思っていたら、実がなって、栗らしくなった。

もっともスカスカで食べられるようなものではなさそうだ。

オラは栗は生でも食べるゾ。

「ももくり三年かき八年」って言うんだよ。

あと2年待ちな。