馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

顆粒膜細胞腫 2

2008-04-30 | 繁殖学・産科学

今回は、Equine Internal Medicineからの翻訳・要約。

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P4250052 顆粒膜細胞腫GTCTはたいていは片側の卵巣に起こり、ゆっくりと大きくなる。

妊娠中にできることもある。

初回発情で見つけたら、卵巣を摘出すればその繁殖シーズン遅くになって交配できるようになるかもしれない。

これは仔馬を産む時季と、対側の卵巣での卵胞の抑制の程度にかかっている。

外科的にGTCT卵巣を摘出しても、交配できるようになるのに6-8ヶ月かかると考えておいた方が良い。

(引用終わり)

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P4250053 卵巣が異常に大きいからといって、GTCTだと決めてかP4250054からない方が良い。

左は摘出した卵巣。

割ったのが右。

卵巣が血腫化している。

今は超音波診断装置が普及しているので、GTCT卵巣なら多胞性、いわゆる蜂の巣状の構造が確認できる。はず。

しかし、必ず多胞性とは限らないらしい。

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ホルモン測定では前回書いたようにインヒビン測定がもっとも診断力があるようだ。しかし、それも100%ではない。

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Cimg0065 外科的に考えなければいけないのは卵巣の大きさだ。

左のように巨大化していると手術そのものがたいへんだ。

血行の盛んな大きな組織の摘出手術は危険を伴う。

海外の外科医でも7回結紮する。と言っている人がいた。

確実に結紮止血できれば7回も縛る必要はない。

しかし、痛い目にあっているから警戒に警戒を重ねるのだ。

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Dscn7263 P4250051 左くらいの大きさだと手術もしやすい。

手術部位もケン部切開で行われることが多いようだが、

下ケン部、膝ヒダの内側で切開するのが好きだとする外科医もいるようだ。

馬のケン部は狭いので大きく切り広げるが難しいのだ(右)。

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繁殖シーズンはGTCT卵巣も大きくなるし、非繁殖シーズンには小さくなるかもしれない。という情報もある。

しかし、摘出しても正常な発情が来るまで半年以上かかるということなので・・・・・・あまり待っていると次の繁殖シーズンに発情が来るのも遅れてしまうかもしれない。

GTCTが疑われたら、超音波画像診断とインヒビンほかのホルモン測定で診断して、摘出手術が問題なくできる大きさなら繁殖シーズン中でも摘出手術して、次の繁殖シーズンには受胎できるようにする。というのが今のところ最良な選択だろうか。

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P5040357 山にはコブシの花が咲いている。ようだ。

二十軒道路の桜も咲き始めた。ようだ。

明日からガソリンが値上がりするようだ。

花見にも、自家用車の給油にも、行く暇はない(笑)。


GTCT 顆粒膜細胞腫 1

2008-04-29 | その他外科

馬の卵巣腫瘍でもっとも多いのは顆粒膜細胞腫 Granulo Theca Cell Tumor ; GTCT だ。

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以下、Equine Current Therapy 5 ed.からの翻訳・要約。

どんな年齢の雌馬にも起こる。仔馬での発症も報告があるし、妊娠中にも起こる。

顆粒膜細胞腫の馬は行動に変化が起こることがよくある。

種牡馬様であったり、持続性発情であったり、無発情であったりするのは、腫瘍のホルモン産生による。

行動の変化を見せず、腹部の不快感、跛行、貧血など、繁殖に関係しない症状により発見されることもある。

ある報告によると、顆粒膜細胞腫と診断された繁殖雌馬63頭中20頭は無発情であり、14頭は持続発情であり、29頭は種牡馬様行動を示した。

種牡馬様行動は血清テストステロンと関係していたが、持続性発情はエストロジェンの高値と関係していなかった。

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直腸検査では、発病している卵巣は大きくなっており、対側の卵巣は典型的には小さく、非活動になっている。

超音波検査では古典的な多包性の状態が観察できる。しかし、時には固まり状だったり、大きな嚢包状に見える。超音波診断は補助診断として有効だが、多くの場合確定診断とはならない。

GTCT馬はエストロゲンやテストステロンが高値かもしれないが、プロゲステロンはほとんどの場合1ng/ml未満である。

エストラジオールの測定にはあまり価値はない。

種牡馬様行動を見せているGTCT繁殖雌馬はテストステロンが高値の場合がよくあるが、10-50%では正常範囲内である。

正常な発情周期を示す繁殖雌馬のテストステロンは45pg/mlくらいだが、種牡馬様行動を示す雌馬では100pg/mlよりしばしば高い。

McCueはGTCT馬でテストステロンが上昇していたのは54%に過ぎなかったが、87%がインヒビンが上昇していたことを報告し、結論としてインヒビンの方がこの病気のより良い指標になるとしている。

インヒビンはFSHを抑制し、卵胞の発育を阻害する。これが対側の卵巣への負のフィードバック効果として説明されている。

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GTCTに罹患した繁殖雌馬の生命上と繁殖機能上の予後は良好である。

一年のうちどの時季に罹患卵巣を摘出するか、そしてこの腫瘍が存在した期間にもよるが、卵巣の活動は手術から83~392日(平均209日)で再開する。

その雌馬の飼養目的が繁殖供用だけなら、手術の前に、子宮の生検を含めた繁殖に関する検査が推奨される。

(翻訳・要約終了)

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さて、馬の卵巣が異常に大きくなっていたら、どうする?

その話は写真入りでまた今度。

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P4290056  春の日差しの中でアオダイショウが日向ぼっこしていP4290057た。

医学の神様エスキュラピウスの杖に巻きついているのだからヘビは医学の神様の使いなのだろう。

間違ってもいじめたりしてはいけません。

獣医師のマークにはVeterinaryのVがついている。


過長歯 3

2008-04-28 | 歯科・口腔外科

P4280051 左上顎第ニ前臼歯の過長歯。

狼歯、いわゆる「やせ歯」が第一前臼歯なので、この長く伸びてしまっている歯は第二前臼歯。

新しい番号による表示の仕方では左上顎は200番台。第二前臼歯は6番なので、206!

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馬の口の中をうまく撮影するのは難しい。

それは馬の歯科をやっているUSAの獣医師たちも苦労している。

結局、内視鏡を使うのが一番うまく撮れるというのが結論のようだが、歯科治療するときに内視鏡をいちいち用意しているわけではないので、珍しい症例に遭遇しても写真で記録を残せないことが多い。

上の写真は解剖馬の歯。

解剖馬でも口を開けるのも一苦労だ。

頬の肉を切り、舌をはずし(舌の中の舌骨が口を開く邪魔になる)、顎の骨を割らないと馬の口は開かない。

そして、死体を切り刻むのは残酷なようだが、解剖構造を理解し、馬の歯にどんな問題が起こるか知っていて、どうすれば治せるか考えている者だけが治せるのだ。

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Photo_17今日は朝から難産。

頭位、両腕節屈曲、おまけに両後肢が産道に入って来ていた。

(全身麻酔下で、母馬の後肢を吊り上げておいて・・・・

左の絵のようにまず片肢を伸ばして・・・・・

Photo_18もう片方の前肢も伸ばして・・・・・

左の絵のようにして・・・・・・

後肢をできるだけ押し戻して・・・・・

引っ張ってみたが出ないので・・・・・

胸椎で切胎して、後肢を牽引して、後躯を反転させて娩出させた)

上の絵は「河田先生監訳の「獣医繁殖学・産科学」より。

午前中、飛節の離断性骨軟骨症の関節鏡手術。

その後、子宮血管破裂の剖検。

午後も飛節の離断性骨軟骨症。

もう「ごーるでんうぃ~く」は始まってますか?


過長歯 2

2008-04-26 | 歯科・口腔外科

P4260046 過長歯を折るのに使う道具が左。

名前は・・・・・・

ハンドルのところは重くなっていて、スライドするようになっている。

下は伸ばした状態で、上は縮まった状態。

P4260044先はこうなっている。

上のものは押す衝撃で折ることもできるし、引く衝撃で折ることもできる。

下のものは引く衝撃で折るようになっている。

いずれにしても、歯にひっかけておいて、ハンドルを押すか引いてガン!とやると細く尖った部分なら折れる。

誰が考えたのだろうか・・・・・・・そんなに使う道具ではないが、ないとできないこともある。

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Pa250075 カケス。

英語ではparrot mouth. オウムの口。

いずれ臼歯が過長歯になりやすい。

矯正する方法は・・・・・ご相談ください。


過長歯

2008-04-25 | 歯科・口腔外科

P4240047 過長歯。

馬の噛み合わせは、歯が磨り減ることと伸びることのバランスで維持されている。

歯並びが悪くて、こすれ合う相手がない歯は伸びすぎて過長歯になる。

過長歯は口の中を傷つけて噛み出しの原因になる。

これは下顎の一番奥の歯を折った破片。

12 折ったあと確認のために撮ったx線写真が左。

この馬は、もともと上顎が前へ、下顎が後へずれて噛みあわせが悪い。

それで上顎の一番前の臼歯(106・206)の端が伸びすぎる(赤い部分)。

下顎の一番後ろの臼歯(311・411)の後の端も伸びすぎる(黄色い部分)。

黄色い部分を折ったのが、上の写真なわけだ。

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 実はこういう馬は切歯(前歯)も前後にずれていることが多い。いわゆる「カケス」だ。

「カケス」は遺伝すると考えられている。

しかし、馬に高い位置でものを食べさせることで、上顎と下顎がずれることでカケスになり易いと考えている馬歯科医もいる。

だから、できるだけ馬には地面でものを食べさせた方が良いのだと言う。

私は真偽のほどは知らないが、確かに自然では馬は地面の草以外は食べないはずだ。

高い位置の草架や飼葉桶でものを食べさせるのは不自然なのだろう。

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きのうは競走馬の腕節の関節鏡手術に、午後は歯科治療。

小腸閉塞で手術した馬2頭は退院して行った。

今日は、飛節の関節鏡手術に、育成馬の小結腸破裂の診断・剖検、繁殖雌馬の膀胱炎。

結腸捻転で入院していた馬は退院して行った。