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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

分娩による腸間膜裂 空腸と小結腸と

2020-03-31 | 急性腹症

朝、分娩後の不調の繁殖雌馬が来院するとのこと。

来てみたら状態はひどい。

もう倒れそう。

PCV76%、Leukopenia。

一応腹腔穿刺して腹水の検査もする。

多数種の細菌がある。

が、原虫や植物繊維などの消化管内容は確認できない。

それでも、もう予後不良なのは間違いない。

空腸腸間膜が破れ、血行を失った空腸が壊死し、破裂もしていた。

          ー

午前中は、26日齢の子馬の尺骨骨折。

1週間経過を観たが、痛みはよくならず、Xrayでも骨折線が開いてきた。

7孔DCPで内固定。

          ー

その前に来院して待ってもらっていた繁殖雌馬を診察する。

この馬も腹膜炎。

子宮穿孔は確認できなかったが、開腹手術の適応だ。

小結腸の腸間膜が小さく裂け、血行を失った小結腸が壊死していた。

腸間膜の血管を結紮止血しなければならないが、小結腸の腸間膜は脂肪が厚くて血管の走行が見えない。

手術室の照明を消して、無影灯で腸間膜を逆側から照らしてもらう。

すると腸間膜の中の血管が把握できた。

小結腸を切断して内容を洗い出す。

吻合する。

大結腸骨盤曲も切開して大結腸も空にしておく。

それから腹腔内を洗浄する。

2時間ほどで終わったが、すっかり疲れてしまった。

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とうちゃんがいそがしいとオラはひま

さんぽすくなくてげんきあまってしまう

 

 

 


子牛の寛跛行

2020-03-28 | 牛、ウシ、丑

?ヶ月齢の黒毛和種がもう1ヶ月跛行をしている、とのこと。

かなりよくなったが、ある程度から良くならないそうだ。

牛を診ると、左の臀部の筋肉が萎縮している。

これは股関節付近の問題の症状だ。

立位でポータプル撮影してみたが、どこが写っているかさえよくわからない。

何度か撮り直したがやはり診断価値に乏しい。

鎮静剤を投与して、牛を仰臥にし、大型X線撮影装置で撮り直した。

DRにリスホルムブレンデを乗せて散乱線を減らしている。

おやっ、右の大腿骨骨頭頸部が怪しい。

左右の同部位が入る位置で撮影すると、やはり左はすっきりしているのに、右(写真の左側)は大腿骨近位部の成長板が傷んでいる。

大転子周囲にも透過線がある。たぶん出血だろう。

血液検査で炎症像があるとのことで、骨髄炎も類症鑑別に入れる必要があるが・・・・

私は骨折(成長板損傷)だと思う。

牛を仰臥にすればポータブル撮影装置でも診断はできるだろうと思う。

が、大型X線撮影装置とDRとリスホルムブレンデ(グリッド)を使うほど鮮明な画像を撮ることは難しいかもしれない。

参考になればと思い提示しておく。

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あっ シカだ

 


新生子馬の下顎骨折

2020-03-28 | 新生児学・小児科

12日齢の子馬が母馬に下顎を蹴られてひどい折れ方をしている、との連絡。

下顎骨折では、左右とも折れているか?哺乳や採食できるか?が手術の判断の基準のひとつになる。

どうやら両側折れていて、乳を飲むどころではないらしい。

X線撮影すると・・・

これはひどい。

両側折れて、切歯骨部分が完全に変位している。

写真左下が下顎、正中で割れている。

左下顎は奥で開放骨折になっており、口の中へ骨折端が飛び出している。

正中を切開することにした。

左右それぞれを切開したのでは外科侵襲が大きくなりすぎる。

骨鉗子でひっぱると整復できた。

プレートで固定しておくことを考えるともう少し引っ張りたい。

固定している間に下顎が短くなるだろうし。

左右へもきちんと整復できているかどうかわからない。

上下の切歯は崩れていて目印にならない。

顎そのものは腫れてしまっていて形がわからない。

右側は下顎骨が骨膜をかぶっているので、その外から切歯骨まで届くように6孔スモール1/3円プレートを当てて、4.0mm cancellus screw を入れた。

左下顎は骨膜が剥がれてしまっていたが、できるだけ温存して6孔スモール1/3円プレートを腹側に当てた。

切歯骨に入るscrewが、先に入れたプレートへのscrewと互い違いになるようにした。

口の中の傷を縫合した。

              ー

その夜から乳を飲めるようになったそうだ。

感染は避けられないが、抑え込めるか?

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長期デモしてもらっているDR.

韓国製で、このサイズの”ふらっとぱねるでぃてくた”だと350万だそうだ。

よくできている。

骨の画像はとても”硬い”印象を受ける。

好みはあるだろうが、鮮明だ。

パネルは防水だし、取手などの付属品もしっかりしている。

日本のメーカーにも頑張ってもらいたい。

 

             

 


結腸捻転×2 + POI +(空腸+空腸・回腸)+ 膀胱破裂 =

2020-03-27 | 急性腹症

私が休みの日、分娩による小腸腸間膜ヘルニアを手術した、とのこと。

空腸の大半がヘルニアしており、虚血性のダメージもあったが、全部を切除することはできないのですでに壊死している2.2mを切除吻合したということだが・・・・POI(Post Operative Ileus)

                       -

休み明けの日には結腸捻転が来た。

結腸の虚血性損傷は重度。

漿膜面からの色調はかなり回復したが、結腸動脈周囲は損傷が激しい。

そして、骨盤曲切開部の粘膜は完全に壊死の状態。

結腸全体の粘膜もひどく傷んでいる。

あきらめるか?結腸亜全摘するか?

結腸動脈のパワードプラ検査して、拡張期も血流があるのが確認できたので温存することにした。

しかし・・・・ 

               -

なんと同じ牧場で次の夜も結腸捻転が起きた。

それも入院。

               -

きのうは、夕方、子馬の膀胱破裂。

その手術が始まる前に、子馬の疝痛の依頼。

膀胱破裂をさっさと片付けて・・・・

疝痛の子馬は、メッケル憩室腸間膜による空腸回腸の纏絡で、おまけに空腸の別な箇所が巻き込まれて絞められて壊死していた。

2ヶ所切除吻合した。

                -

入院馬が4組。

今朝は4時に起きて検査、治療した。

春だ。

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スノードロップ。

春だ。


経膣分娩が不可能な奇形の難産

2020-03-25 | 繁殖学・産科学

夜中に電話で起こされた。

が、すぐ切れた。

折り返し電話すると、帝王切開するということだったが、牧場がやはり帝王切開まではしない、と判断したとのこと。

夜中の出勤をしたら、もう諦めた馬を運び出すところだった。

後肢から産道に入ってきていて、前肢も産道へ来て、頭は触らない、とのこと。

解剖したら、尾位に見える。

しかし、前肢も産道へ向かっており・・・・

そして異常に細い。

この格好で子宮に入っていた。

首の湾曲、前肢の発達異常と変形。

後肢も形がおかしい。

19歳の繁殖雌馬だ。

もう子宮の中で正常な子馬を育てる能力がなかったのかもしれない。

その馬を帝王切開して助けて、20歳で種付けして21歳で無事分娩させられる、と期待するのは無理だろう。

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東京オリンピック2020の延期が発表された。

仕方がないことだろう。

私はそもそも東京でオリンピックをやるって、どうなの?という派だった。

(手伝って欲しいと言われ、やると決まっているならできるお手伝いはすべき、とも思っていたがそれはまた別な判断)

でも、ことここに至っては、この世界的な困難に打ち勝って、立派な大会として成功させよう!と強く願う。

東日本大震災からの復興のオリンピックというより、

人類が未曾有の困難と闘った記念のオリンピックになるだろう。

それも、来年、コロナウィルスのパンデミックがコントロールされていて東京オリンピックが開催されれば、だ。

頑張ろう!

(って言うか、できるだけ家に居よう!っていうだけだ;笑)

                ー

そして多くの人の命がかかっている。

甘く見ない方が良い。

日本はまだコントロールできているように見えるが、いつ感染爆発するかわからない。

若い人も真剣に捉えた方が良い。若い人だって重症化する可能性がある。

                ー

「アスリートファースト」という言葉も聞くが、私はこの状況では違和感を感じる。

スポーツより大事なことがある。

今は、そういう事態だ。