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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

北獣誌3号(69)2025 重輓馬のLawsonia intracellularis腸症発生牧場の浸潤状況調査

2025-03-22 | 感染症

もう1つ北獣誌2025年3月号から。

こちらは原著論文「日本輓系種にみられた馬増殖性腸症の発生牧場におけるLawsonia intracellularisの浸潤状況調査」

空知家畜保健衛生所からの報告。

昨年(2024)に日本獣医師会雑誌に「日本輓系種にみられた馬増殖性腸症の1例」として、2022年11月に国内の重輓馬で本症の発生が初めて報告されている。

その翌年1月と11月に当該牧場とその近隣の野生動物の調査を実施した報告。

            ー

う~ん、採材が虫食いでわかりにくい。

6厩舎に分かれていたようだが、血液・糞便を採取していない厩舎が2つあり、それとは別に厩舎の環境材料を採取していない厩舎が2つある。

なんで?

結局1月に調べた成馬たちは7頭中7頭で抗体は陽性。

しかし、1月の糞便は12頭(繁殖牝馬7頭、明け1歳馬5頭)すべてで陰性。

ただ、11月の当歳馬6頭(表では1/7となっている)は1頭がPCR陽性。

厩舎環境は、敷料、餌槽、水槽、馬房壁を17箇所調べ、馬房壁の2箇所がPCR陽性。

野生動物は、アライグマ14頭、ネズミ2匹、タヌキ1頭を調べ、近隣酪農場でつかまえたアライグマ2頭がPCR陽性。

             ー

どこからどうやって入ってきたかわからない馬のLawsonia intracellularis感染症だが、重輓馬サークルへも広がってしまったのだろう。

重輓馬生産地域の獣医さんにも、この病気について知っておいてもらう必要がある。

多少の地域的重なりや、人や馬の交流があるのでいたしかたない。

重輓馬も離乳後の当歳馬が感染し、重篤な症状を示すのだろう。

発生が懸念される地域ではワクチンを投与するのが望ましいだろう。

そして、野生動物が媒介していることがこの事例でも確認された。

アライグマ、ネズミが厩舎に出入りしていることは望ましくない。

対策はされているのだろうが・・・・・・

私は、厩舎ではイヌやネコを飼ってはどうかと思う。

イヌはアライグマやタヌキの侵入を阻止し、ネコは厩舎のネズミを減らしてくれると思う。

イヌを放し飼いにしてはいけない、とか

ネコは家の中で飼え、とか

ご意見も、お役所の指導もあるだろうが、街中と田舎ではちがう飼い方が認められても良いのではないだろうか。

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薪棚の中にドングリが隠されていた

誰が隠したんだろう?

この林にはリスはいないと思う

そして隠したまま忘れたうかつ者だ

 


北獣誌3号(69)2025 ”ウェルカムショット”への懸念と鶏での抗菌剤耐性事例と事情

2025-03-21 | 学問

北獣誌の3月号が届いて拝読した。

巻頭には田村豊北海道獣医師会会長の「二次選択薬の慎重使用を考える ーーウェルカムショットと卵内接種ーー」なる論説が掲載されている。

2月号に掲載された子牛への”ウェルカムショット”への懸念を述べた論説の続編である。

田村先生がご自身で前回の論説を要約してくださっている。以下、改変引用。

・ウェルカムショットという用語に抗菌薬の使用を促進するニュアンスがあり、好ましくない

・農場の感染状況によって獣医師の判断で予防的な抗菌剤使用も選択肢になりうること

・しかし、二次選択薬の使用は理由はともあれ避けなければならない

・仮に投与が必要と考える場合は、連用にならないようにインフォームドコンセントを徹底すること

              ー

そして今回の論説では、鶏卵へのセフチオフルの卵内接種が健康な肉用鶏の糞便から分離された大腸菌の第三世代セファロスポリンへの耐性率を急増させた事例を紹介してくださっている。

自動卵内ワクチン接種システムを使って卵内にワクチンを接種するのに、卵表面からの汚染による胎児の細菌感染を抑えるためにワクチン液の中にセフチオフルを混じていたのだそうだ。

養鶏関連の協会が自主規制によりセフチオフルの混入を止めたところ、この耐性は「想像を遙かに超えて」急激に低下した、とのこと。

養鶏関連の協会が自主規制したのは、鶏肉の半数から医療で重要視されるESBL(基質特異型拡張型β-ラクタマーゼ)産生大腸菌が分離されることが大々的に新聞報道され、消費者に関心をもたれることになったからだろう。

自主規制による抗菌剤使用中止が抗菌剤耐性を抑えた良い事例・・・・ではなく、農林水産省の指導に基づく生産者談代の第三世代セファロスポリン使用の自主規制と同時にカナマイシンの販売量が増加しており、肉用鶏由来大腸菌のカナマイシン耐性率が増加している。

               ー

効率性や利便性から抗菌薬を安易に適応外使用することにより、思いもしない急激な薬剤耐性菌の上昇を招いた」事例と述べられている。

(自動鶏卵内ワクチン接種システムにおいて、卵表面の汚染を除去・消毒して、抗菌剤をワクチン混入させる必要がないようにできないのだろうか?)

獣医師は治療上やむを得ない状況になった場合、抗菌薬を適応外使用する認められている認められている。しかし、不適切な抗菌薬の使用が生み出す負の効果も、常に考えて治療することが重要である。

特に二次選択薬は医療に及ぼす影響は非常に大きいものであり、一次選択薬が無効な場合に限定して使用することとされている。

そして、現在、医療でマイコプラズマ感染症の大流行が問題になっていること、2000年頃からマクロライド耐性マイコプラズマが増加していること。しかし、今もって一次選択薬はマクロライド系薬であること、を述べておられ、

動物分野でのマクロライド系薬の使用は慎重になるべきと考える」とされている。

最後の一文は、

牛におけるマクロライド系薬の使用量は、二次選択薬であるマクロライド系薬の承認された頃から上昇傾向にある

               ー

馬の獣医師は、セファロスポリン系抗菌剤はよく使うし、

カナマイシンも使う獣医師がいるし、

仔馬のR.equi感染症ではマクロライド系抗菌剤も使われる。

食肉になることがとても少ないサラブレッドでは食肉としての人への影響はとても少ないと思うが、抗菌剤耐性が進むことで治療効果がなくなることは多くの獣医師が実感している。

獣医師は抗菌剤の慎重で賢明な使用をこれからも心がけていかなければならない。

とても興味深い論説だ。

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ことしは3/20が春分の日。

今日は小雨が降った。

モクレンの花芽はまだまだ小さく固い

 

     

 

 

 


コラーゲン、プロテオアミノグリカン、ヒアルロン酸、そして・・・・

2025-03-19 | 人医療と馬医療

馬が関節部を傷めてしまうことはしばしばあるし、

人も膝をはじめ関節部が痛むことはしばしばある。

体の重要な構造である関節が何でできていて、どういう性質のものか理解しておくことはたいせつ。

治療とまではいかなくても、注射や経口摂取で”カラダに良い”ことが期待できるのか? 

              ー

関節の構造の重要な部分のひとつ、靱帯は約65%は水分、約25%はコラーゲンでできている。

水分を除いた物質でいうと80%がコラーゲンということになる。

軟骨では、水分が80%、コラーゲンが12%、プロテオグリカンが2%

プロテオグリカンとは、上図の中にあるようにグリコサアミノグリカンとコアタンパク質が結合したもの。

ただし代表的なヒアルロン酸(ヒアルロナン)はプロテオグリカンとしては存在していない。

プロテオグリカンの構造(下図)

だいじなことは分子量の多い、高分子重合体であること。

それゆえに水分を保持でき、潤滑性、粘性を維持できる。

グルコサミンは、N-アセチルグルコサミンとしてヒアルロン酸の成分の1つになっている。

            ー

これらの、コラーゲン、プロテオグリカン、グリコサアミノグリカン、ヒアルロン酸、グルコサミンを経口摂取して(飲んで、あるいは食べて)分解・吸収できるか、軟骨や靱帯や腱(美容目的では皮膚も!)の合成が促進されるか?

これらの分子量の大きな物質はペプチドに分解され、さらにタンパク質に分解され、そしてアミノ酸にまで分解されてから吸収される。

残念ながら、コラーゲン、ヒアルロン酸、グルコサミン、コンドロイチンをたくさん摂取しても、そのまま合成されることはない。

ただし、最近はコラーゲンペプチドという低分子量のアミノ酸がコラーゲンの合成を促進する、という情報もあるようだ。

年いくとあちこち痛いでしょう ⇒ 関節の構成成分のコラーゲン、ヒアルロン酸、グルコサミンは年を取ると減少します ⇒ うちの製品には良質のこれらを含んでいます ⇒ うちの製品を摂取したらこんなに良くなりました(あくまで個人の感想・体験で効果・効能を示すものではありません;小さい字で、あるいは音で、最後に)というような、健康食品、栄養補助食品、サプリメントの宣伝にはだまされない方が良い。

              ー

「でも飲んでると調子いいんだよ」とおっしゃる方もいるかもしれない。

placebo プラセボ、プラシーボ効果と呼ばれる医学、薬理学、獣医学、医療上の古典的な現象がある。

これは強力で、医療者自身がだまされないようにすることさえ時として難しい。

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なごり雪が降った

白い花のようだった

すぐにとけて消えた

 

 

 

 

 

 


AO動画 スクリュウとプレートによる内固定は絶対的安定性を提供する

2025-03-11 | technique

こちらは本家AOによる動画。獣医用ではない。

内固定の実習に出たことがある獣医さんは、「あ~、あのプラスチックモデル」と印象に残っているかも知れない。

AO Internal Fixation with Screws and Plates Providing Absolute Stability

lag screw の原理、使い方。

骨折面に垂直に入れないと、骨のズレを作りだしてしまうこと。

screwの形状と使い方。

プレートによるコンプレッションのかけ方。

実践的な脛骨近位骨端・近位骨幹部骨折の固定方法が説明されている。

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今シーズンのスキー・スノボは終了。

地元のスキー場ももう閉まるだろうし、雪があっても雪質が悪くなるし、

別な事情もあって・・・・

スノボのバインは固定スクリュウを緩めておいた。

キツくボードに固定されているので、そのままにしておくとボードが傷んでしまうのだそうだ。

 


Locking Plate Used in Bridging Mode 動画 架橋モードでのLCPの使い方

2025-03-10 | technique

LCPは支柱性を構築することができるので、粉砕骨折部や骨欠損部を架橋する内固定において利点がある。

この動画で紹介されているのは、大腿骨粉砕骨折で、髄内ピンを入れておいて、Locking Dynamic Plate で架橋する方法。

髄内ピンだけだと、荷重に耐えることが難しい(支柱性がない)。

そして、回旋に抵抗することも難しい。

LCP/LHSを使えば、支柱性を構築し、回旋に抵抗することもできる。

Locking Plate Used in Bridging Mode (Veterinary Instrumentation Orthopaedic Technique Overview)

ただし、LCPとLHSに強い力が働くことを認識しておく必要がある。

一度の大きな力で崩壊するか、繰り返される荷重で金属疲労により破損する可能性がある。

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薪の原木を蝕(むしば;虫食む)んでいた 

カミキリムシの幼虫のようだ

割るまではわからない

金属疲労による破損にも似て