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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Dr.Richardsonへのメール

2007-01-31 | 日常

Jacarandaさん

http://horselife.blog9.fc2.com/

本当に残念です。

 私はDr.Richardsonに何度か有益なコメントをいただいたことがあります。

酷い骨折の馬について、そのアドバイスがなければ救うことができなかっただろうというような貴重なアドバイスをもらったこともあります。

その症例報告の最後に謝辞を書いたほどです。

 昨年は、私もまた、難しい骨折の症例を経験し、Dr.Richardsonにアドバイスを求めたいと思いましたが、Dr.Richardsonの忙しさ、プレッシャー、心労を考えると連絡するべきではないとあきらめました。

 出張から帰ってこのニュースを知り、動画を見ようとしましたがうまく行かず、ラジオ放送を聴きました。

Dr.Richardsonの声は乾いているように聞こえましたが、涙をぬぐっておられたと後で知って胸が熱くなりました。

 USAの責任ある地位にいる人は、涙を見せるのは嫌うそうですね。にもかかわらず・・・・

Dr.Richardsonのこの8ヶ月あまりの日々を思います。

 今日、Dr.Richardsonにメールを送りました。

私の英語で伝わるかどうかはわかりませんが、

「あなたと、あなたの努力を、私たちはみんな誇りに思っています。」 と

Barbaropoolinset_1 Barbarostall


Condolence and sympathy

2007-01-30 | 整形外科

 Barbaroが月曜日の朝、安楽死された。

退院間近とも報道されていたのに・・・・

この数週間、左後肢の蹄葉炎が思わしくなく、左後肢にキャストをしたり、右後肢で体重を支えられるように装具をつけたりしていたが、右後肢の蹄の中にも化膿が起こった。

右後肢の中手骨にピンを入れて、右後の蹄で体重を支えなくても良いようにするための手術を土曜日にしたが、両前肢にも蹄葉炎が起こり、ついに諦めざるを得なくなった。

ということらしい。

 残念だ。

 Dr.Richardosonの心中を想い、Barbaroの姿を想い、オーナーの気持ちを想い、心から弔意と哀悼の意を送りたい。

    頭を挙げて彼の地を想い

    頭を垂れて彼の師を想う

 この9ヶ月近くに及ぶ、Barbaroと、Dr.Richardosonと、そして病院のスタッフ、オーナー、そして他の人々の挑戦と呼んでも良いほどの努力は、決して無意味ではなかった。

弔意とともに、敬意を表したい。

Dean_barbaro_1 

  

 


義足を着けた馬が走っている

2007-01-25 | 整形外科

 義足を着けた馬の動画が見られるので紹介しておく。

http://www.nanric.com/wkyt_amputation_video.asp

馬に義足をつける場合の症例の選択、テクニック、術後管理、予後については、いつか調べて整理したいと思っている。

やはり馬の性格が大きな要素で、興奮して無茶をする馬は適応できない。

前肢か後肢か(前肢の方が厳しい)、どの部分から切断するか(義足をつけるための部分が欲しい)、etc.

やはり、義足にあたる部分の皮膚が耐えられるかどうかも重要で、蹄叉(蹄底の一部)を切断肢の先に移植できれば、負重と摩擦に耐えやすくなる。

毎日の管理、看護が必要で、しかも何年も生きられることは少なく、半年とか1年とかで耐えられなくなることが多いようだが、その日々に意味がないとは言えない。

大勢の方がご存知だろうが、videoに出てくる髭のおじさんは Ric Redden 。偉大な人だ。Drredden

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 来週まで修行にでかけるので、馬医者修行日記はお休みです。

 


メラノーマの治療の可能性

2007-01-24 | その他外科

 メラノサイトーマが若い馬の頚部、四肢、体幹の体表に多いことは前回書いた。

何度か摘出を頼まれたことがあり、苦労せず摘出できるし、再発もないようだ。

真っ黒なので、「メラノーマだ」と言う人がほとんどだが、メラノサイトーマとメラノーマは区別しておきたいものだ。

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 後は治療を頼まれるのは、やはり高齢の芦毛馬のメラノーマが排便障害とか、気道圧迫などの機能障害を起こしてきたか、自潰して酷くなってきたときだ。P1240017

しかし、診せられる頃には、手を出しようもなくなっていることが多い。

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以下、翻訳と要約。

 馬のメラノーマにはさまざまな治療方法、外科的切除、凍結療法、化学療法、免疫療法、あるいはそれらの組み合わせなどが用いられてきたが、現在まで成功例は限られている。

 メラノーマが周囲の組織からうまく分けられると思われる症状では外科的切除が推奨されてきた。しかし、馬の耳下腺部には重要な構造が複数あり、メラノーマが小さく、正常な耳下腺に囲まれていない限り、根治的な切除の妨げとなる。P1240007

 凍結療法は単独で、あるいは他の療法と組み合わされて行われる。より大きなメラノーマを外科的に小さくしておくと凍結療法のプローブを正確に当て易くなる利点がある。しかし、耳下腺部にある重要な構造は、凍結療法のこの部分への使用も制限する。

 シメチジン(タガメットほか)は、H2レセプターをブロックする機序により、サプレッサーTcellの活性をブロックし、間接的に免疫を賦活する。しかし、3ヶ月続けても効果がない場合はシメチジン治療は中止すべきだ。P1240011

 馬で用いられる他の治療には病巣内化学療法がある。最もよく使われるのはシスプラチンである。これは、直接DNAと結合し、DNA合成を抑制する重金属化合物で、活発に分裂する細胞を死なせる。

シスプラチンより使われることは少ないが、病巣内免疫療法にBCGの注射も使われる。これは、メラノーマ抗原に対する細胞性免疫反応を引き起こし、メラノーマを退縮させると考えられている。BCGに対する馬のメラニン細胞性腫瘍の反応はさまざまである。P1240004

 人医療では、非常に広域な全身性化学療法剤、とくにデカルバマジン、あるいはデカルバマジンと他の細胞毒性剤の組み合わせが人のメラノーマ、とくに播種性病変に用いられてきた。しかし、NRC(国立腫瘍研究所)は、30の調べられた薬剤のうち、患者の10%以上に満足する反応があったのは2剤だけだったことを報告している。

 腫瘍ワクチンは、人のメラノーマに長い間用いられてきたが、(ほとんどの腫瘍ワクチンを用いた症例と同様)成功は限られている。おそらく、腫瘍の抗原性の弱さと、腫瘍内の抗原発現の不均質性、そして免疫反応から逃れる腫瘍の能力によるものである。

 分子生物学の急速な進歩により、メラノーマの成長に影響を与えることが知られている抗メラノーマモノクローナル抗体やインターフェロンやインターロイキン2のようなサイトカインなどの薬剤の開発が可能になった。

人のメラノーマの治療にはこれらの薬剤が広く使われてきたが、現在まで成功はしていない。

モノクローナル抗メラノーマ抗体にラジオアイソトープを組み合わせるなどといった他の方法も評価を受けている最中である。

(Fintl and Dixon 2001)

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つまるところ・・・・・・状況によっては外科的切除ができる。シメチジン投与はやってみる価値があるかもしれない。

しかし、それらが効果がなければ、他の方法はまだ研究段階というところだろう。

メラノーマができるからと言って、芦毛を「毛嫌い」しなくてもいいんじゃないかという結論になっただろうか・・・・

                                 -P1230032

暗く、黒い話になったようなので、夜明けの写真を載せておこう。

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医学用語の語源

metastasis ; 転移=meta(変化)+stasis(置く、静止)    hemostasis;止血(hemo+stasis)


メラノーマ 黒色腫 melanoma

2007-01-23 | その他外科

教科書的記載 Equine Internal Medicine から

Melanoma 黒色腫P5110014

 メラノーマは皮膚のメラニン細胞やメラニン芽細胞から派生することがあり、良性であったり悪性であったりする。これらの腫瘍は、アラブやペルシュロン種の高齢馬に最もよく認められる。メラノーマの発達と芦毛の毛色の関係は広く認められている。メラノーマは、もっぱら芦毛馬や、年とともに斑に白くなる馬に起こるように思われる。15歳以上の芦毛馬の80%以上はメラノーマを持っていると考えられている。

 病変部は単発だったり複数だったりし、会陰部や尾の腹側表面に最もよく発生する。腫瘍は普通硬く、結節性で、毛に覆われておらず、自潰することもある。ほとんどいつも黒い。白斑が病変の発達に先立つこともある。3つの発育パターンが報告されている。①ゆっくり成長し、転移もしない。②ゆっくり成長し、突然転移する。③成長が早く、最初から悪性。

 診断は臨床症状に基づいて行われる。病変が外見上異様でない限り、診断を確かめるために生検はたいてい必要ない。

 メラノーマが機能障害を起こさない限り治療は必要ない。8時間ごと2.5mg/kgのシメチジン(タガメット)が、ある程度の、あるいは完全なメラノーマの退行を引き起こしたことが報告されている。メラノーマの数と大きさは3ヶ月間治療した馬の50%から90%で減少した。腫瘍が退行したら、毎日の維持治療として1日1回1.6mg/kgが推奨されている。

                   ―                      ―

一般的には P5110013_1

 芦毛で年をとってくると、メラノーマが目立つようになる。「15歳以上の芦毛馬の80%以上はメラノーマを持っている」というのは、調査で確認されて報告されている。

「長く生存すれば、ほとんどの芦毛馬がメラノーマを発症する」と記述した文献もある。

しかし、ほとんどの発育パターンは上に書かれている「①ゆっくり成長し、転移もしない」バターンである。

 教科書に書くのはどうかとも思うが、実際問題としては「生検(生体組織学的検査)は必要ない」。

ああ、芦毛のメラノーマだ。で済むわけだ。

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人のメラノーマとの比較、混乱

 メラノーマ(黒色腫)は人では、皮膚にできる悪性腫瘍の代表のようなものだ。

人病理学から学んできた家畜病理学では、馬のメラニン形成細胞腫は病理組織学的にもまだ整理されていないように思う。

人のメラノサイトーマは私のステッドマン医学英和辞典によれば、「①褐色細胞腫。ブドウ膜実質の色素性腫瘍。②視神経円板の良性メラノーマ。」となっている。

(これについて人医者さんからご指摘をいただいた。褐色細胞腫とは違うもので、やはり良性黒色腫だそうだ。私のステッドマンは、20年前のもので間違っているのかもしれない。誰か新しいステッドマンを持っていたら、どうなっているか教えてください。別にステッドマン医学英和が正しいと言うわけでもありませんが。)

 一方、馬のメラノサイトーマ(メラニン形成細胞腫)は良性の腫瘍で、6歳以下の頚部、体幹、四肢の皮膚に見られることが多い。できるのは、芦毛とは限らない。

馬のメラノサイトーマは典型的な非侵襲型で、外科的切除により容易に完治する。

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非メラニン性メラノーマP5110012

 ややこしい話なのだが、メラニン非形成性メラノーマというのも馬で報告されている。

メラニンも作らず、黒くもないのにメラノーマだというのは、わけがわからないが、組織病理学的には腫瘍中の円形、紡錘形、あるいは類上皮細胞によって非メラニン性メラノーマが疑われる。

そして、特殊な細胞マーカーを用いる免疫組織学的検索によりプレメラノソームが確認されれば、非メラニン性メラノーマということになる。

馬ではわずかな症例報告があるだけだが、犬の口腔内には好発するそうだ。

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高齢芦毛馬のメラノーマ

 しかし、われわれが馬で最もよく見るのは、やはり芦毛のメラノーマだ。

世界保健機関(WHO)は、家畜におけるメラニン細胞腫を melanocytoma( メラニン形成細胞腫)、melanoacanthoma (メラニン棘細胞腫)、 malignant melanoma (悪性黒色腫)に分類している。

この分類で行くと、高齢芦毛馬のメラニン形成腫瘍は悪性メラノーマと言うしかない。

しかし、高齢の芦毛馬のメラノーマは、予後についての観点から、他の動物種のメラニン形成細胞性腫瘍の分類に当てはまらない。

高齢の芦毛のメラノーマでも、1個あるいは数個までの腫瘍塊が比較的孤立して発症し、外科的切除が可能であるものと、複数個の比較的隣接した腫瘍塊が発症し、黒色腫症 melanomatosis へ悪化するため外科的切除が有効でないものとがある。

 発育パターンを見ても、③成長が早く、最初から悪性。であることはまれで、ほとんどの芦毛馬も寿命をまっとうする。

しかし、②ゆっくり成長し、突然転移するパターンはときどき見られる。

この点から、「馬のメラニン形成細胞性腫瘍に”悪性”という用語をもちいると混乱する」とValentineは書いている。

通常の高齢芦毛馬のメラノーマには細胞退化が認められないので、混乱を防止するため局所を侵襲し、早期から転移するものには「退形成性or退化性 anaplastic 悪性メラノーマ」という用語が用いられている。

 Valentineは次のような(分類)システムを提案している。

(1)Melanocytic nevi (melanocytoma) ;メラノーマ 

(2)Dermal melanoma and dermal melanomatosis ;皮膚メラノーマと皮膚メラノーマ症

(3)Anaplastic malignant melanoma ;退形成性(退化性)悪性メラノーマ

ほとんどの芦毛馬のメラノーマは(2)に分類されるべきだろう。

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 馬のメラニン形成性腫瘍は人や他の家畜とは違っていて、高齢芦毛馬のメラノーマを他の動物での印象から悪性メラノーマとするのは間違っている。

しかし・・・馬のメラノーマについて整理しておきたいという私の試みは、成功しただろうか・・・・・・・・

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参考文献

C.Fintl and P.M.Dixon   A revie of five cases of parotid melanoma in the horse.  Equine Vet. Educ. 13(1) 17-24, 2001

(全公獣協ニュース No300 12-20)

B.A.Valentine  The specturum of equine melanocytic tumours. Equine Vet. Educ. 15(1) 24-25, 2003

(全公獣協ニュース No320 13-14)

R.J.Tyler and R.I.Fox   Nasopharyngeal malignant amelanotic melanoma in a gelding age 9 years.  Equine Vet. Educ.15(1) 19-26, 2003

(全公獣協ニュース No319 21-25)

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Equine Veterinary Education は良い雑誌だ。

公獣協ニュースも素晴らしい。

感謝。