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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

側頭骨舌骨関節症の解剖学的理解

2017-01-31 | 馬神経病学

側頭骨舌骨関節症はどのような部分に起こるのか・・・

画像はチクサン出版社カラーアトラス獣医解剖学より。

茎状舌骨は、側頭骨茎状突起と関節している。これは、馬や反芻獣の話。動物によって関節している部分は違うらしい。

側頭骨岩様部の中に、顔面神経管が通っている。

少し下から覗くように観るとこんな感じ。

腹側から観るとこうなる。

側頭骨と舌骨の関節が動かなくなって、茎状舌骨が動くことで側頭骨が折れると、外耳の奥の骨が骨折するというのが納得できる。

薄い骨で構成された、取って着けたような骨の固まりだ。

そして・・・・

側頭骨舌骨関節症で表れる症状は、平衡感覚の障害、耳の下垂、眼瞼の運動障害、鼻の麻痺、下唇の麻痺、舌の麻痺、が多い。

耳の運動、眼瞼の運動、鼻・上唇・下唇の運動を司っているのは顔面神経だ。

その顔面神経が、側頭骨岩様突起の中の顔面神経管を通っているのだから、側頭骨が骨折したら損傷を受けても不思議ではない。

また、中耳炎や内耳炎から平衡感覚が障害を受けたり、側頭骨舌骨関節が関節炎や関節周囲炎を起こしやすいことも理解できる。

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獣医科学生だった頃から、加藤嘉太郎先生の解剖学の教科書を愛用してきたが、さすがに新しい本には新しい本の良さがある。

amazonの書評には、獣医師や獣医科学生じゃない人の評価が載っていておかしい。

さて、昔に獣医科学生だった皆さん、新しい解剖学の本を手に入れてみてはいかが?

カラーアトラス獣医解剖学〈上巻〉
Horst Erich K¨onig,Hans‐Georg Liebich,カラーアトラス獣医解剖学編集委員会
チクサン出版社
カラーアトラス獣医解剖学〈下巻〉
Horst Erich K¨onig,Hans‐Georg Liebich,カラーアトラス獣医解剖学編集委員会

チクサン出版社

今はさらに改訂版が出ている。

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今日は、Tieback&Cordectomy ダブルヘッダー。

1頭は2歳馬。

1頭は4歳競走馬。


arthrodesis of PIP joint 8例目

2017-01-28 | 整形外科

記憶も記録も残しておかなければならない。

記憶の方はかなり頼りなくなってきているので・・・・

この乗馬は障害競技馬なのだろう。

昨年、当初は近位指節関節の変形性関節症はひどくなかったようだが、すっかり贅骨形成も進んでしまった。

これは皮膚切開してから撮ったX線画像。

関節を開けようとしたが、簡単には開かなかった。

関節背側半周の贅骨を骨ノミで割ったがそれでも開きにくかった。

関節面の一部は骨癒合が始まっていたようだった。

なんとか関節面を開き、軟骨を削り取り、3.2mmドリルで浅い穴をたくさん掘った。

背側の骨増勢を削らないとLCPを良い位置におけないので、かなり削った。

LCPを第二指骨に仮止めして、その内外に5.5mmスクリューを入れる位置と角度を決めた。

LCPが正中ではなく外寄りに置くことになり、外寄りは関節貫通スクリューは1本だけにした。

内寄りには余裕をもって2本入れることができた。

LCPの中央の穴に、ロードポジションで5.5mmスクリューを入れて、関節を密着させる。

関節を完全に密着させることはとても大事。

そのことで、術後の痛みも軽減するし、骨癒合も早く達成される。

隙間があると、不安定で、金属疲労でプレートやスクリューが折れかねない。

術前もPIP joint は過伸展気味で、関節を密着させると、やはり過伸展気味になる。

その功罪、是非は考えてみる必要があるかもしれない。

感染には充分に注意する必要がある。

Richardson教授はlimb perfusion や抗生剤を混ぜたPMMAの使用を推奨しているが・・・・

傷を閉じるのも根気と工夫が要る。

これだけの手術をしてもそれほど出血しない。

指の末端であり、血行に乏しいのだ。

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ゴースト&ダークネス [DVD]
マイケル・ダグラス.ヴァル・キルマー
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン

以前から観たかったのだが、BSで放映されていて観ることができた。

舞台は19世紀末だそうだ。日本でいうと明治だね。

あのディネーセンの「アフリカの日々」よりも数十年前だ。

アフリカに鉄道を走らせるために川に橋をかけている現場を人食いライオンが繰り返し襲う。

その2頭のライオンと、工事責任者のイギリス軍大佐と、雇われたハンターの死闘。

主人公である青年将校の成長記であるかもしれない。

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時代と言い、野生動物との死闘と言い、時代と言い、「熊嵐」に通ずるものがあるかもしれない。

ライオンもヒグマも、何かを象徴しているように思うかは、観る者次第、かな。


PIParthrodesis 8例目

2017-01-26 | 整形外科

当番ではなかった朝、相棒と入院厩舎をのぞきに行く。

昨夜は調子悪かった空腸盲腸吻合馬も、今朝は食欲もあり、回復傾向にあるようだ。

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午前中は、脛骨外果骨折の骨片摘出手術。

疝痛馬の来院のために手術開始が遅れたが、手こずらずに済んだ。

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午後は、14歳ハノーバー種の乗馬の近位指節関節変形性関節症DJDの関節固定手術。

例によってLCPと5.5 mmスクリューで内固定するが、準備も、手術そのものも、かたづけもたいへんだ。

前日から数多くの器具を滅菌し、当日は何度も頭の中でシュミレーションし、

1時から診療を始め、手術は開始が1時40分で、2時間かからずに手術は終了したが、覚醒起立は4時半をまわっており、

片付け終わりは6時を過ぎていた。

私はこの手術は8例目。

Richardson先生の来日以降やるようになったら、毎年1-2頭症例がある。

それ以前は・・・・たぶん相談されることもなく、そういう馬はあきらめられていたのだろう。

こういう方法で治すのだ、という確信や、

こうやれば治る、という確信がなければ、なかなか挑戦してみることもできないような手術だ。

そして、手術のコツがどこにあるのかは、文献や教科書を読んだだけではなかなかわからない。

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しかし、まあ複雑な器具だこと。

3.2,4.5,

4.0,5.5

4.3・・・・・と来たら、次の数字は何かわかるかい?

それがわからないようだと、助手さえつとまらないのさ。

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夜明けが早くなってきた。

嬉しいような、悲しいような・・・・・

明日は雨らしいよ。

 

 


1歳馬の回盲部重積

2017-01-25 | 急性腹症

午前中、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

つづいて、ホルスタイン搾乳牛の第四胃右方変位。

昼から、疝痛で死んだ繁殖雌馬の剖検。

事情があって、解体までやって焼却炉に入れる。

たまにこういう作業はやった方が良い。

馬を丸ごと扱えるというのはこういうことだ。

真のホースマンやカウボーイはそうありたい。

本来、畜産とはそういうものだ。

生き物を扱うとはそういうことだ。

スーパーで切り身を買って調理するだけでは料理人とは言えない。

あれっ?なんか話がずれた??

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その最中、1歳馬の疝痛の依頼。

もう疝痛するようになって1週間経つという。

ひどい痛みでないが、超音波検査で小腸のループが見えるし、胃カテーテルを入れると胃拡張の所見があるとのこと。

来院して診察したら、心拍数60、PCV46%、超音波でひどく膨満した小腸が何本も見えた。

開腹したら、案の定、回盲部重積だった。

小腸全体の膨満がひどいので、1ヶ所切開して内容を棄てた。20リットル以上。

重積はなんとか引き抜くことができた。

回腸の一部を盲腸へ側側吻合した。

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当歳馬の秋から、数回は葉状条虫の駆虫をした方が良い。

もうイベルメクチン単体(エクイバラン、エラクエル、etc.)をこの時季の馬にやる必要はない。

駆虫するなら、プラジクワンテルが入った合剤(エクイバラン・ゴールド、エクイマックス、etc.)で駆虫すべきだ。

日高の馬の放牧地は、葉状条虫を媒介するダニでひどく汚染されていると思ったほうが良い。

                        //////

25年前に観たUSAの大学病院での開腹手術。

今のわれわれは、あの頃のUSAの大学病院での開腹手術よりずっと手慣れているし、レジデント達よりずっと上手いと思う。


側頭骨舌骨関節症の角舌骨摘出手術 6例目

2017-01-24 | 馬神経病学

当歳馬の9月から頭を右へ傾げる明け1歳馬。

9月に私も診察していて、前庭障害だと診断し、その後、ステロイド投与をやってみてもらった。

しかし、改善なし。

大学病院でMRIとCTもやってもらって、右の側頭骨舌骨関節が癒合していると診断された。

それが11月中旬。

そして手術することになった。

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頭は右へ傾いているがひどくはない。

しかし、これは視覚で補正しているから。健側の左眼を覆うとひどく傾くのは検査済み。

右瞼の麻痺、右鼻の麻痺、舌の麻痺、はやはり今日は認められなかった。

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明け1歳馬で角舌骨摘出手術をするのは初めてだった。

術創は狭く小さいことが予想された。

それで、というわけでもないが、メガネの上から装着できる拡大鏡を着けて手術することにした。

医療用ではなく、読書専用メガネだが、老眼鏡でもある;笑

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手術はうまくいった。

分岐した動脈を傷つけたが、うまく結紮止血できた。

拡大鏡のおかげで筋膜と神経束を慎重に見極めることができた。

大きな出血をさせることなく角舌骨を摘出できた。

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麻酔からの起立覚醒は、平衡感覚がやられているせいで少し危なさを感じた。

頭がやはり右へ傾いていた。

角舌骨を摘出したことで、舌骨が動かなくなり、側頭骨が骨折することがなくなり、脳神経が回復して、正常な平衡感覚を取り戻すことを期待する。

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おまえ両耳たれてるし、顔の温度感覚、麻痺してるだろ