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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

汚れた外傷をどうやってデブリドするか

2016-07-31 | その他外科

全国の若い獣医さんが集まる講習会に今年も呼ばれて行ってきた。

ヒツジ、ヤギ、ダチョウ、シカ、と馬;笑

講師も臨床獣医師は私だけ。

今年は参加者はNOSAIの獣医師ばかりだった。1名だけ某軽種馬生産者団体から;笑

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馬を診る機会がある人に手を挙げてもらったが、北海道を除けばほとんどなし。

馬に乗ったことはほとんどの人があるようだった。

X線装置がある人は1/3くらい。

ケタミンを使える診療所はゼロ。

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例によって、サラブレッド生産地ではこんな病気や事故があって、こうやって対処してますけど、牛はどうなの?という話をさせてもらった。

馬の外科の話をするなら、全身麻酔ができないなら、ひどい外傷にも対応できないし、開腹手術はできない。

われわれ馬を日常的に扱っていて馬に慣れている獣医師なら立位でできる処置や手術も、不慣れだと立位でやるのは難しいこともある。

「牛はキシラジンでなんとかできちゃうんだけど、暴れる牛を縛り付けて、ホコリが舞う中でやってるのはどうなの?」と尋ねたら、うなづいている人も居た。

今年は子牛の脛骨、皮膚つき、肉つき、を持っていって、脛骨近位骨幹部斜骨折のDCP固定をデモした。

所要時間30分。

子牛の内固定は普及するだろうか・・・・? まずはX線撮影できるように環境を整えて欲しいし、それは若い獣医さんじゃなくて年配者が考えることだ。

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前置きがと~っても長くなった。

汚れた傷をどうやってきれいにするかも外傷管理の重要なポイントだという話もした。

牛も馬も、外傷を負って傷が汚れてしまうと簡単にはきれいにならない。

シリンジに細い針を付けて力強く生理食塩液を噴き付ければ洗浄に必要ないくらいくらの圧が達成できる、などと書かれた文献もあるがウソだ。

そんなことをしても、皮下織に張り付いた泥や毛は洗い落とせない。

イソジンやクロルヘキシジン入りの洗剤でブラシで洗っても汚れは落ちない。組織を変性させるだけ。

「スポンジで洗っている」という獣医さんもいてやってもらったが、スポンジのカスがこびりつくだけだった。

私たちがやっているのは、鉗子で汚れた皮下織をむしりとることだ。

ケンタッキーへ診療見学に行った獣医師も、あちらでもそうやっていると報告していた。

「何してるの?」と訊いたら、「傷の癒合を良くするため」だという答えだったそうだが、それは「こうしないと傷が癒合しない」という回答だったのだろう。

皮下織をつまんだり、むしって傷の癒合が良くなるわけではない。

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これから1ヶ月ほど、画期的な創傷デブリドメントの装置をデモしてもらう。

こんな汚れた傷も・・・・・・

こんなにきれいにできる。

それほど時間がかかるわけではない。

それほど大量の生理食塩液を使うわけではない。

周りもビチャビチャになったりしない。

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外傷を負ったために価値が下がったり、売るのをあきらめなければならない若い馬も多い。

一期癒合させられるなら、装置や消耗品がそれなりの値段しても「わりに合う」のではないかと考えるのだが。


背中の怪我

2016-07-28 | その他外科

1歳馬が洗い場で立ち上がって背中を壁の金具にぶつけて怪我した。

き甲の皮膚が切れて、胸椎棘突起を覆っている棘上靭帯が切れている。

深くポケットになっている部分もある。

枠場に入れて、縫うことにする。

棘上靭帯を0 monocrylで十字縫合する。

私は今まで何頭か胸椎棘突起が衝突する症例で、この部分を切開して骨を削る手術をしてきたので、縫合も経験がある。

皮下織も縫合して死腔を減らす。

皮膚はステントを使ってマットレス縫合した。

背中や尻の皮膚はぶあつい。

x線撮影もして、棘突起が折れていないことも確認した。

棘突起がぶつかっていない例では、実にきれいなものだ。

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きのうは、装蹄師会の研修生が見学研修。

生産地の蹄の諸問題や、獣医師と装蹄師の協力関係の重要性について1時間ほど話を聴いていただいた。

 

 


尺骨粉砕骨折のdouble LCP固定 3

2016-07-28 | 整形外科

例によって、尺骨粉砕骨折のdouble LCP fixationをRichardson教授に評価してもらった。

これは素晴らしい努力であり、よくできているかもしれない。

君のemailから、その繁殖雌馬が立てなかったので君はあきらめたのかと思った。

それは手術ではどうしようもないことで、どんな生き物にも起こる。

長時間の麻酔や、循環不全、その他に二次的に起こる問題だ。

このような症例の修復を成功させる重要な要素で君ができることは、尾側のプレートを通して、近位の破片にスクリューを何本か入れることだ。

(*尺骨突起へ届くように、尾側のプレートスクリューを入れろ、という指摘。しかし、それはとても難しいと思う。

尺骨突起の破片を肘関節の奥から引っ張り出したのは尾側のLCPを装着した後だった。)

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きのうは、夕方、繁殖雌馬の疝痛の来院。

かなり痛くて、直腸検査で腸紐が張っている、ということだった。

しかし、来院したら疝痛は治まっていて、血液検査所見正常、超音波所見正常、直腸検査所見正常、だった。

10時前に別な繁殖雌馬の疝痛の依頼。

来たら立っていられないほど痛い。

血液検査所見PCV47%、乳酸1.8mmol/l。

鎮静剤をうって、ボーッとしたすきに直腸検査したら、膨満した大結腸があり、おまけに肥厚している。

「結腸捻転ですね。やりましょう。」

開腹したら結腸はかなりのチアノーゼで、奥の方でグルンと捻転していたが、なんとか間に合って助かった。

終わって1時半。

朝、7時に当歳馬の疝痛の依頼。きのうの午後からだと言う。

来院したら、腹囲膨満、口粘膜はチアノーゼ+++。

もう助ける方法はない。

剖検したら、回腸の纏絡だったらしく、なんとその部分で回腸は断裂していた。

破裂ではない、腸が千切れていた。

どうしてあまり痛い時間帯がなかったのか不思議だ。

 

 

 


尺骨粉砕骨折のdouble LCP固定 2

2016-07-26 | 整形外科

Dr.Richardsonのアドヴァイスどおりできるだけ破片をsmall screwで留める。

しかし、留めれたのは1,2の2本の4.0mmキャンセラススクリューくらい。

尺骨頭を整復しないと、合わせるものも合わせられない。

11穴ナローLCPを尺骨の尾側に合うように曲げておいて、まず尺骨頭部に留める。3;皮質骨スクリューでLCPを骨に押し付ける。

4;LHSで頑丈に。

成馬の尺骨は仔馬とちがいかなり反っている。LCPもかなり反らせたので、遠位側が浮く。

それを5の橈骨尾側の皮質も貫いた皮質骨スクリューで尺骨遠位に押し付ける。

1本では無理がありそうだったので、6のスクリューも入れて交互に締め付ける。

できれば5.5mmを使えということだったが・・・・忘れた。

5.5mmは太いのでプレートスクリューとしては使いにくいのだ。

みごとにLCPを尺骨遠位に押し付けることができた。

尺骨頭部に7のLHSを入れるが、4のスクリューに当たったので長いLHSは使えなかった。

8,9,10と、遠位・近位交互にLHSを入れた。

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粉砕している中位部の、内外に分かれている骨片をスクリューで寄せておく(12)。

肘関節近くに大きな欠損部がある。肘関節に指を入れるとかなり大きな骨片に触れる。

それを取り出したら、どうやら尺骨頭突起だ。ぴたりと合うように嵌めて、4.5mm皮質骨スクリューで留める(13)。

もう1本、粉砕部から取り出してあった骨片を4.0mm海綿骨スクリューで留める(14)。

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ナロー1枚では、強大な成馬の上腕三頭筋の牽引に耐えられないだろうから、外側にもう1枚プレートを当てる。

Dr.Richardsonは6-7穴で良い、とコメントしてくれたが、粉砕した尺骨中位をまたいで尺骨頭を遠位へ固定するには10穴LCPが必要だった。

近位と遠位、交互にスクリューを入れて固定した(15-19)。

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手術中は何度かマイシリン入り生理食塩液で術創内を洗った。

内固定し終えて、プレートの回りにマイシリン原液をかけてもらう。

アンピシリン・カナマイシンを全身投与している。

死腔をできるだけなくすように縫合した。

皮膚にはガーゼを縫いつけた。

手術時間は4時間だった。

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今日は、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。左右両方。

DDSPの2歳馬の喉内視。来週Tieforward手術することになった。

午後は、私は今週は検査当番。

当歳馬の肢軸異常、両前球節。

タマタマの皮膚を切ってしまった2歳馬の外傷縫合。

かわった腕節剥離骨折の相談。

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世界一のつり橋も見てきた。

はるか下の海面を見下ろすと怖い。

その橋を吊り下げているケーブルの標本。

すごいね~

 

 

 

 


尺骨粉砕骨折のdouble LCP固定

2016-07-25 | 整形外科

繁殖雌馬が他の馬に蹴られて尺骨を骨折した。

発症翌日にx線検査で判明し、メールで画像と所見が送られてきた。発症の2日後に手術することにした。

この症例は手術前にRichardson教授にメールを送ってみることにした。

回答が間に合うかどうかわからなかった。

ひょっとすると、「粉砕骨折なので無理だ」と言われるかもしれないとも考えていた。

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ありがたいことに、すぐに回答をくれて、手術する朝に読むことができた。

これは、かなりよくある形状の骨折で、2枚のプレートを入れるべきだ。1枚は尾側に、1枚は外側に。

・2枚ともナローLCPが好い。ブロードは尺骨の尾側に完璧に位置させるのが技術的にかなり難しい。

・プレートをどうにかする前に、3.5mmのラグスクリューでより小さな破片を注意深く再構築させる。これが重要だ。プレートを当てようとする前に、時間をかけて合わせる。

・外側のプレート用のドリルガイドを使うのには、筋肉を貫く穿刺切開が必要になる。

・ 5.0mmと5.5mmのスクリューをできる限り使う。プレートの最も遠位には、少なくとも2本のスクリューを橈骨の尾側の皮質に効かせる。

・尾側のプレートは長く、尺骨頭の先近くまで届かなければならない。先を超える必要はない。

・外側のプレートはかなり短くて良い。長くても5-7穴。

・ もし可能なら、スリングリカバリー(吊起帯を使った覚醒起立)をする。私たちはこのような馬にはいつもプールを 使って覚醒させる。

・もしこの馬がディープインパクトなら、私を呼べ!!

まじめに・・・・幸運を祈る。難しい症例だが、絶対にできる。

同じような症例を添付ファイルで送る。10年以上前の症例だ。その馬は、フォックスハントに復帰して、引退まで何年も活躍した。

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が、今回の症例は、Richardson先生が送ってくれた症例よりひどいように思える・・・・

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馬はまったく右前肢に負重できない。

患部はひどく腫れていもいる。

私は尺骨骨折も仰臥で手術するのを好む。

アドヴァイスどおりにやろうとするがなかなか難しい。

粉砕骨折は、実際に開けてみるとX線画像で見たよりひどいことが多い。

 尺骨頭部はかなり変位している。

尺骨の中位は粉砕していて、再建しても強度を作り出せそうにない。

尺骨突起がなくなっている。

肘関節の近位に大きな骨片が飛んでいる。

(つづく)

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母の見舞いの合間に、姫路城を観に行った。

何年ぶりだろう?

改修が終わって1年ほどで、とても美しい。

「白くなりすぎた」という感想や意見もあるらしい。

しかし、かつてひどく傾いていたのを直したこともあったそうだ。

まさに再構築reconstructされたのだ。

「暴れん坊将軍」のオープニングで写っているのは実は姫路城だったのだそうだ。

鉄筋コンクリートで創られ、エレベーターで昇れる大阪城天守閣とちがって、かつての柱や梁が残っている天守閣の内部もとても素晴らしく、興味深かった。

石垣の積み方や頑丈さにも感心させられた。

熊本城は、崩れてしまったからね。