馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

DJD5 変形性関節症の症状

2007-06-29 | 学問

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DJDは馬のすべての跛行の1/3以上を占めていると考えられている(左)。

しかし、症状が出た時にはDJDはすでに始まっている(右)。

症状を早く見つける必要がある。

Photo_266間欠的な跛行、

歩様の異常、

Photo_267節の腫脹、熱感、

いつもの運動を嫌がる。

などの症状に気をつける必要がある(左)。

最もはっきりした症状は跛行だ。

う~ん、しかし、DJDの過程が始まっていても調教や競走を続けている馬は多い。

覚悟の上でやっているなら良いのだが、治療しないまま運動を続けるとDJDは悪化していく。ひどい跛行を示さないところは問題でもある。

Photo_268 関節が腫れる、

熱感がある、

跛行する、

運動を嫌う、などの症状があったらDJDを疑う必要がある。

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Djd10001 診断はX線撮影が一般的。

DJDのX線所見としては

骨の変形、骨棘形成、関節腔の狭小化、関節腔の拡大。

と言ってもわかりにくい。

それぞれの関節により特徴的かつ特異なX線所見になる。

腕節に骨膜がでるのも(上)、指骨瘤も、種子骨が横から見て両端が伸びてくるのも、足根骨に骨棘ができるのも、骨軟骨症がある肩関節が変形するのも、み~んなDJDだ。

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Photo_270  関節を守るためには、治療が重要だ。

でないとDJDは進行し、症状は悪化する。

では、どのように治療するかは、また次回。

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今日は種子骨骨折の関節鏡手術。1歳馬の跛行のX線撮影。当歳馬の外傷。

午後から久しぶりの雨だ。


DJD4 関節の損傷

2007-06-28 | 学問

関節の損傷の原因になるのは、

Photo_258正常な使役。 正常に運動しているだけでも関節の損傷はおこることがある。

外傷。関節内の骨折、骨軟骨症、骨嚢包なども外傷性の関節損傷に含まれる。

体型のまずさ間違った装蹄。肢軸の異常や蹄管理のまずさも関節損傷を引き起こすことがある。

高齢。Wbc高齢馬は、とくに原因と思われることがなくても関節損傷が起きていることがある。これは人と同じ。

 関節が損傷を受けると、

血管から白血球が、関節の中へ遊走してくる。

(左)

白血球は関節の中で破壊酵素を放出する。

Photo_259これは、細菌と戦ったり、異物を除去し、損傷を受けた組織を一旦破壊して再構築するためでもある。

われわれは炎症を抑える治療に苦心することが多いのだが、炎症は生体の治癒機転の重要な部分でもある。

しかし、炎症はしばしば過剰であったり、持続しすぎたりして、それ自体が「病気」「障害」となる。

Photo_260 白血球や破壊酵素は軟骨を損傷する。

軟骨の損傷が続けば、修復不能な剥離が起こる(左)。

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さらには軟骨は完全に破壊される(右下)。

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Djd_1 軟骨はx線写真には写らない。

軟骨に損傷があってもx線写真ではわからない。

しかし、DJDによる軟骨損傷はやがて骨膜増勢、骨の変形、骨棘形成、関節の狭小化、etc.へとつながり、X線画像で判別できるようになる。

逆に、X線画像で判別できるようになった時には、かなり進行していると考えた方が良い。

左のX線写真のようになっては、完治は困難だ。

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P6280467  今日は、肺炎の子馬の精密検査。

大腿骨骨嚢包の育成馬のX線撮影とコルチコステロイド局所注入。

その間にセリのレポジトリー用X線撮影6頭。

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コダックCRはフジCRより撮影X線量が要るようだ。

秒数を長くすると手ぶれが問題になる。

それで3辺の長さが違う箱を用意して、それに乗せて撮影することで手ぶれを防いでいる。

カセットホルダーは使い出したら止められない。

怪我をしないように作業することが大事。

安全第一!


DJD3 正常な関節の機能

2007-06-27 | 学問

さて、正常な関節の中で滑膜、滑液、軟骨はどのようにはたらいているか。

Photo_253滑膜

血液を濾過する。

蛋白質を除外する。

ヒアルロン酸を分泌する。

では、その滑膜によって血液から濾過され作られた滑液の働きは、

Photo_254潤滑剤として働く。

望ましくない細胞の除外。

老廃物の除外。

軟骨に栄養を与える。

その滑液に栄養をもらっている軟骨の機能は、

Photo_255 骨を覆っている。

正常な磨耗と損傷を修復し置き換わる。

コイルやスプリングのように荷重や衝撃に耐える。

図にも示されているように軟骨の下の軟骨下骨には神経が分布している。

軟骨が磨り減ったり、剥がれてしまえば、直接痛みの原因になる。

Photo_256 正常な軟骨は硝子(ガラス)軟骨といって、青白く、透明感があり、硬く、しかし弾力がある。

無機物のような質感だが、軟骨細胞でできている。

軟骨細胞は、

損傷した軟骨を活発に再生し、修復する。

Photo_257 2_4 滑液は入れ替えられている。

正常な関節では、軟骨の損失はない。

数百キロの体重を常に支え、走る衝撃に耐え、しかも滑らかに動ける仕組みがここにある。

人では人工関節も使われている。

しかし、金属、セラミックなどで作っても、磨耗が問題で半永久には使えないようだ。

健康な、正常な、生物がいかによくできていることか。

それが、どのように壊れていくかは、また今度。

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P6270463  朝、診療所へ行ったら重種馬の帝王切開を始めるところだった。

午後は、競走馬の関節鏡手術と、セリのレポジトリーに分かれて診療。


DJD2 正常な関節の構造

2007-06-26 | 学問

Photo_248 正常な関節の構造はどうなっているか?

皮膚の下には、血管がある(当たり前)。

しかし、関節の中には血液が循環しているわけではない。

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Photo_249 関節を構成する骨は靭帯で結ばれている。

これが関節をしっかりさせている。

このCGは腕節。橈骨と手根骨の関節。手根骨間の関節の二段が可動性のある関節だ。

X線写真が普及して、骨の並びや形は獣医師でなくても見慣れている人が多い。

関節鏡手術の注文で、「骨膜を全部削ってくれ」などと言われることがある。Photo_250

しかし、腕節の構造の中で、関節腔は限られた部分に過ぎないことを覚えておく必要がある。

関節の外にでた骨膜や骨増勢は関節鏡手術で削ることなどできない。

関節は関節包で包まれている(右)。

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Photo_251

関節包の構造。

関節を包んでいる関節包。血管が走っている。そして、透過性の膜としての滑膜が関節包の最も内側にある。Photo_252

関節の中の骨は軟骨に覆われている。

どうして関節がこのような構造をしていて、どのように機能しているのか、はまた次回。

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 今日は競走馬の腕節の関節鏡手術。

昨年、一度関節鏡手術している馬。

最近、2回目の関節鏡手術が増えてきた。

やはり、初めての症例よりDJDが進行していることが多い。

 午後は肢軸異常で手術した子馬のスクリュー抜去手術。P7260007_2

その後、セリのレポジトリー用の喉の内視鏡検査の録画と34枚のX線撮影。


DJD 変形性関節症

2007-06-25 | 学問

Hpnx0104_2 Xray_5 関節の中で剥離骨折が起きる。関節が腫れて、熱感があり、跛行する。

最近では、関節鏡で骨片を摘出すれば治ると思われている。

しかし・・・・

関節の中に骨片があるとどうして腫れて痛いのか?

骨片を摘出しても痛みがとれない馬がいるのはなぜか?

「骨膜」が出るのはなぜか?

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DJDという言葉が盛んに言われるようになっている。

Degenerative Joint Disease. 変形性関節症と訳されることが多いようだが、チョッと語感が違うかもしれない。

Djdたしかに変形もしてくるのだが、この場合のdegenerative は変形だけを指すわけではないだろう。

Animal Health 社がDJDの治療薬Adequan のコマーシャルのためにつくったCDはよくできているので、その画面でDJDを整理しておきたい。

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Photo_245DJDはどの関節にも起こりうる。

良く見られるのは球節、腕節、飛節である。

とくに多いのは前肢の球節、腕節で、動きの激しい関節ほどDJDを起こし易いと考えられている(右)。Photo_246

DJDの初期には軽度の痛み、炎症、腫脹がおこる(左)。

Photo_247 症状が現れた時には、関節の損傷はすでに始まっている(右)。

そう、関節内に骨折が起きればそのことだけで、出血がおき、腫れるし、痛みが出る。

しかし、それはDJDの始まりでもあるのだ。

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それでは、次回、正常な関節についての話から始めたい。

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P6240451 P6240453 ルピナス。

別の名を昇り藤。

マメ科。

そういうと豆ができている。

強い植物で、荒地で手入れをしなくても育つそうだ。P6240452

十勝平野の北の端、ほとんど人が住まなくなったゴーストタウンのような十勝三叉にルピナスが咲き乱れているの見てから、この花が好きになった。