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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

診療実績2021 喉頭形成術ほか

2022-11-12 | 呼吸器外科

2021年度は、喉頭片麻痺の喉頭形成手術(Tieback) 48頭

披裂軟骨切除(Arytenoidectomy) 2頭

これらは吸入麻酔で。

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ほかの「喉なり」の手術は、

プロポのTIVA(全静脈麻酔)でVCC声帯虚脱の声帯切除 1頭

ワンショット麻酔で声帯切除と披裂喉頭蓋ヒダ切除 5頭

声嚢声帯切除 1頭

無麻酔で、つまり立位でLaserで披裂喉頭蓋ヒダ切除 4頭

EE(喉頭蓋捕捉) 5頭

DDSP(軟口蓋背側変位) 11頭

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DDSPのTie forward はやらなかったんだな。

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からし蓮根を食べて、高速道路で福岡へ向かった。

途中、佐賀県をかすめたらしいのが嬉しかった。

私にとって未踏の県だったからね。

大宰府はにぎわっていた。

さすが学問の神様だ。若い人も多かった。

参道にはスウィーツもいっぱい。

これは紫芋のモンブラン。

ソフトクリームの上に乗せるのを実演してくれる。

賞味期間5分!

 

       


披裂軟骨切除

2022-02-06 | 呼吸器外科

他所でTieback手術を受けたけど、傷が化膿し、喉頭披裂軟骨の外転もゆるんでしまった競走馬。

傷が化膿しているなら、同じ術創からもう一度Tiebackはできない。

もし感染を抑え込もうとするなら、非吸収性の糸や金属を抜いて、周囲をデブリドして、しばらく洗浄や抗菌剤投与を続けなければならないだろう。

Tiebackの術創は、大切な筋肉や神経や血管が走っていて、大胆にデブリドできる部位ではない。

そういう治療を続けても感染を抑え込めるかどうかわからない。

             ー

もう一度競走に復帰させるためにやるなら左側の披裂軟骨切除だろうと判断した。

来院したら、たしかに膿が出ているが、周囲に炎症が及んでいるわけではなさそうだ。

これなら披裂軟骨切除して大丈夫だろう。

             ー

で、喉頭切開と輪状軟骨切開をし、左側披裂軟骨を切除した。

披裂軟骨炎にはなっておらず、軟骨から粘膜を剥がしておいてから切除することができた。

披裂喉頭蓋ヒダと剥がした粘膜、そして腹側では切除した声嚢の粘膜を縫い縮めておく。

それがDucharme(Cornell大学教授で馬の上部気道を専門にしておられる)流。

手術は気管切開して気管チューブを入れて行い、術後は短い留置用の気管チューブに差し替えた。

なんとか競走復帰してもらいたい。

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私は700頭以上Tiebackをやってきたと思う。

化膿したことや、漿液腫ができたことは一度もない。

術後はマイシリンをうってもらうだけ。

「Tiebackで感染が起こる原因は、披裂軟骨筋突起に針を刺すときに、頭側へ針先が出過ぎて食道を刺すからだ」、と

Ducharme先生がおっしゃっていた。

私は左手の人差し指を筋突起の頭側に置いてから筋突起を刺すので、食道を刺すことがなかったのだと思う。

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相棒はかなり元気を取り戻した。

食べれて、出せて、散歩にもまた行けた。

こんな日が1日でも多くあって欲しい。

 

 


当歳馬の鼻翼ヒダ切除

2021-01-05 | 呼吸器外科

当歳馬が鼻が鳴って呼吸がしづらい。

鼻を一時的に広げるようにすると音は鳴らなくなった。

それで、鼻翼ヒダ切除をやることにした。

たしかに、鎮静がかかって、鼻がなっているのを指でひろげてやると音はしなくなる。

全身麻酔して、眼窩下孔でブロックもした。

鼻翼そのものは切開せず、laserで切除する。

出血も少なく、切除できた。

鼻、鳴らなくなるとイイね。

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年の暮れのはなし。

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浅田次郎の短編集。

「お腹召しませ」が面白かったので。

が、こちらは武家ものではなく、忙しすぎる人気作家の・・・・

浅田次郎にかかれば、あらゆるものが善意に解釈され、手練れの文章で語られてしまう。

戦時中に食糧難と檻が空襲で破壊される恐れから飼育員に殺されるライオンも、射殺する飼育員も。

場末の温泉の心中事件も。

ハリウッドのアクション映画のような強盗場面も。

読後感は悪くない。

いつか浅田次郎の手で、このコロナ禍の物語を書いてもらいたい。

 

 

 

 

 


高速運動中の喉頭の虚脱の原因がわかったので5種の外科的介入

2020-07-12 | 呼吸器外科

3歳の喉なりする馬をOGE(Over Ground Endoscopy ; 騎乗運動しながらの喉頭内視鏡検査)したら、異常が見つかったとのこと。

左披裂軟骨小角突起は虚脱して吸気を妨げている。

声帯も軸側(中心部側)へ引張られて気道の腹側を閉塞させがち。

披裂喉頭蓋ヒダも右側が虚脱し、吸気を妨げる。

DDSPも起こすらしい。

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吸入麻酔したら、まず内視鏡下でLaserで軟口蓋を点状焼絡した。

続いて、左側のTiebackをやる。

それから馬を手術台の上で仰向けにして、喉頭切開部を広げる。

甲状軟骨の尾側を鈍性に広げ、胸骨甲状筋の付着部を切断した。

そのまま喉頭切開し、気管チューブが入ったまま声嚢声帯切除した。

そして気管チューブを抜いてもらって、右側の披裂喉頭蓋ヒダをアリス鉗子でつまんできて、披裂喉頭蓋ヒダ切除した。

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左背側輪状披裂筋は術前の超音波検査どおり萎縮していた。

その厚さは針を刺して計測した。

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競走馬は呼吸能力を100%使って競走していることが知られている。

わずかでも気道を制限されると、その競走能力を発揮できない。

サラブレッドは大きな肺を目いっぱい使って空気を吸おうとするので、

喉頭に弱い部分があるとそこを気道へ吸い寄せてしまう。

虚脱して気道を塞ぐ部分があるなら、それぞれをなんとかする外科的方法が研究されている。

しかし、運動中に喉頭がどうなっているかは、OGEをやって高速運動中に何が起こっているか観ないと診断できない。

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川へ涼みに行った。

シャンプー代わりになるかも。

でも、ゴロスリしてブルブル。

ブルブル。

 

 


喉頭”右”麻痺

2020-07-11 | 呼吸器外科

馬の喉頭片麻痺は99%は左に起こるのだが、ごくごくまれに右に起こることもある。

私が今まで診てきた喉頭”右”麻痺は、ほとんどが軟骨の奇形だった。

第四鰓弓の発生の不具合(4 BAD)で喉頭の軟骨や筋肉の付着が異常で、右の披裂軟骨が外転しなくなっている。

1例だけ、頚の付け根の右側を大怪我したことのある馬で、おそらくその外傷で右の迷走神経反回枝を傷つけたのだろう、という馬が居た。

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2歳育成馬が右側の喉頭麻痺だということなので、検査に来てもらった。

内視鏡検査では、やはり右側の披裂軟骨小角突起が外転しない。

超音波検査では、やはり右側の喉頭軟骨の位置関係がおかしいがひどい異常ではなく、Tiebackできる可能性がわかった。

(うちのDr.Sは、馬の喉頭軟骨を立位で、通常のプローブで超音波検査できることを世界で初めて報告した権威者にして熟練者だ)

それで別な日に手術することになった。

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裏返してやれば良いだけ、とはいかない。

Tiebackでは尾側から頭側へ糸をかけるので、右手ではやりにくい。

左手で持針器を扱うことになる。

おまけに軟骨の形状は正常とはちがっている。

奇形がひどいとTiebackできない、とか、Tiebackしても壊れてしまう、とかの可能性もあるが・・・・

お~ちゃんと右側が外転している。

しかし、通常の左のTiebackでも多かれ少なかれ1ヶ月以内にゆるむことが知られている。

軟骨が正常な構造をしていない右側では外転が維持される率はそれより低いだろう。

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91歳と8歳です。

朝いっしょに散歩します。