goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬伝染性貧血

2011-06-30 | 感染症

今日午前中は、馬伝染性貧血の検査のための採血を手伝った。

これは国の指示で、各町村と北海道の家畜保健衛生所が行う事業なのだが、それを地元の家畜防疫員である獣医師が手伝う、ということなのだそうだ。

当歳馬は除いて、つまり生産牧場では1歳馬と繁殖雌馬を採血する。

かつては毎年やっていたのだが、今は各町村5年に1回の検査になっている。

                          -

私が日高へ来たころに比べれば馬の数は減ったし、馬はおとなしくなったように思う。

その頃は、太い(14G?)の採血針を刺して、垂れてくる血を試験管に受けていた。

今は18Gの採血針と真空採血管か20Gの注射針を使うので、ブッスっと刺さなくて良くなった。

その差も大きいと思う。

                          -

もう日本は馬伝染性貧血ウィルスを清浄化できたと思っていたら、宮崎県御崎馬で集団感染が見つかった。

宮崎県では抗体陽性馬を隔離しようとしているようだ。

しかし、吸血昆虫による媒介も考えられるので、隔離で新たな感染が完全に防げるとは思えない。

淘汰すべきなのではないだろうか?

馬伝染性貧血を撲滅するために、馬関係者はたいへんな犠牲をはらい、苦労を続けてきた。

検査方法があいまいだった時代から感染馬だと判定されれば涙を呑んで淘汰してきた。

飼養されている馬は毎年毎年、同じ検査を繰り返してきた。

移動するたび、競馬場へ入厩するたび、費用を払って陰性証明をもらってきた。

そして、やっともう10年近く感染馬が見つかっていない、もう日本の馬の中には馬伝貧ウィルスはどこにも生き残っていない、海外から入ってくることさえ気をつければ新たに感染する恐れはない。

だから、もう毎年の、何年かに一回の、移動ごとの、入厩ごとの検査は必要ないだろう。というところまで来たのに。

                           -

御崎馬は、天然記念物だから。家畜ではないから。というのは、御崎馬の発祥を考えればおかしな気がする。

本当に日本古来の自然の中で生き残ってきた馬ではない。

あくまで人が放して手をかけないで「飼ってきた」のだ。

御崎馬は100頭あまりしかいないそうなので、その1割ほどの馬が伝貧ウィルスに感染していたことになる。

御崎馬自体を守るためにも今、完全な検査と淘汰をすべきではないか。

P9150844


止血剤 ホルマリン

2011-06-29 | 馬内科学

ホルマリンを静脈注射したり、経口で飲ませたりすると止血効果がある。というのを経験的に信じている獣医師も多い。

よく行われているのは牛の血乳症のようだ。

海外の馬の獣医師も、このホルマリンの止血効果?について議論していた。

「実際に効果があった、ある」という獣医師や、「こういう症例ではいつも使っている」という獣医師もいた。

中には、本当にホルマリンに止血効果があるかどうか、血液の凝固機能をホルマリン投与前後で調べたという研究歴を示してくれた獣医師もいた。

しかし、調べた限りではホルマリンは馬の血液凝固機能に有意な作用をしなかったそうだ。

さて、あなたはホルマリンの止血効果、信じますか?

                           -

P7220789今日は、1歳馬のEthmoid Hematoma(右;写真は別症例) のホルマリン注入療法。

これは止血効果を期待しているのではなく、ホルマリンでHematoma 血腫を凝固変性壊死させることを目指している。

続いて、1歳馬の飛節のOCDの関節鏡手術。

続いて、1歳馬の飛節のX線撮影。

午後、3歳馬のTieback&Ventriculocordectomy。

レポジトリー検査で見つかった喉の異常や骨や軟骨の手術予定が増えている。

P6261180_2


止血剤 トラネキサム酸

2011-06-28 | 馬内科学

喉嚢真菌症などで大出血したときに、

「獣医さんに止血剤うってもらったら、なんとか止まったんだけど・・・」

と聞くことがある。

「止血剤」とはまさしく、出血を止めてくれる薬。だと思われている。

では、その止血剤として使われている薬剤は何か?

多くの獣医師がトラネキサム酸を使っているのだろう。

                            -

トラネキサム酸の薬理作用を理解するためには、血液凝固と線溶系という複雑な仕組みを知る必要がある。

が、と~っても面倒で、私も良く知らない。

簡単に説明するなら、

血液は放っておくと固まる。

しかし、血液を棒でグルグル混ぜると、棒にフィブリンと呼ばれるネバネバがくっついて、その残りの血液は固まらない。

棒でかき混ぜることで、血液中のフィブリノーゲンがフィブリンになって取り出されてしまったのだ。

このようにフィブリンで固められた血液の塊ができることで、生き物は出血を止めることができる。

ただ、体中あちこちでちょっと血管が傷つけられるたびにフィブリンができて血管を詰まらせていると不都合なので、線溶系と呼ばれるフィブリンを溶かす仕組みも体に備わっている。

フィブリンにプラスミノーゲンがくっつき、プラスミノーゲン活性化因子(tPA)により活性化されフィブリンを溶かす。

トラネキサム酸は、このプラスミノーゲンの働きを邪魔してフィブリンが溶かされるのを抑える。

                          -

だから、喉嚢真菌症のように、動脈性の出血でジャージャー血が出ているのを「止める」作用はない。

一旦止まった出血が、フィブリンが溶かされることでまた出るのを抑える効果はあるだろう。

                          -

動脈からの出血が止まるのは、一番は動脈が強く収縮するからだろう。

死にかねないほどの出血が止まるのは血圧が下がってしまうからだ。

ひどい出血は死にかねないが、死なない限りは血は必ず止まる。

だから、「止血剤」をうつと、そのおかげで血が止まったようにみえてしまう。

                          -

トラネキサム酸の「止血」効果が、さきに書いたように線溶系の抑制にあるので、外科手術のときにトラネキサム酸を投与したからといって手術による出血が減るとは私は思わない。

いったんできたフィブリンが溶かされてしまうほど長時間の手術や、

体の凝固因子が減少したり、線溶系が亢進してしまうほどの大手術なら別かもしれない。

また、血管を吻合してフィブリンで漏れが塞がれるのを期待するような心臓外科の手術でも、術後の出血を減らすのではないかという報告があったりはする。

しかし、一般の外科手術でトラネキサム酸を投与して効果があるとは私は思わない。

                         ---

学生実習に来たとき、出血性腸炎の仔馬の治療を観た。

そのとき、獣医さんはトラネキサム酸も投与していた。

私は「いいのかな・・・」と思ったのを覚えている。

出血性腸炎ではDIC(播種性血管内凝固)と呼ばれる凝固と線溶系が亢進した状態が起こっている可能性がある。

そこへ線溶系を抑える薬を投与するとDICが進行して病態を悪化させるのではないか?と懸念したのだ。

どちらが正しいのか、いまだに知らない。

                                                                    ///////////////P6281194

今日も手術室のむこうでレポジトリー検査。

関節鏡手術も、結腸捻転の開腹手術も、喉頭片麻痺のTiebackも、

レポジトリー検査よりさっさと早く終わる。


高齢繁殖雌馬のnavicular disease

2011-06-26 | 整形外科

私は若いサラブレッドではnavicular diseaseはほとんどないと思っている。

跛行で診断がつけれないままnavicular Dを見逃しているとも思えない。

しかし、高齢で、蹄角度が悪い繁殖雌馬の慢性跛行などではnavicular D を疑ってみる必要がある。

11 この繁殖雌馬は蹄角度は悪くない。

左前に比べると、右前の蹄の方が蹄角度が高い。

慢性的に痛みがあるせいかもしれない。

しかし、外内方向のX線像で、深屈腱の繋部分に切開沈着と思われる像がある。

navicularの側方向からの形状は 尾側が潰れている。

深屈腱面の皮質の厚さも不均一になっている。12

カセットを踏ませて撮影するnavicularの古典的な方向での撮影では、

深屈腱面は粗造で、稜は磨り減ったように見える。

navicular の内部は、血管孔や骨梁の構造が崩れているのを推測させる。16

右写真は対側肢。

「”す”が入っている」などと表現されることがあるのかもしれないが、

上の写真に比べるとこちらが「健康」「正常」なのがわかる。

18 navicular が蹄関節と重ならないように撮った像。

蹄骨との関節面には小さな骨折があるのかもしれない。

navicular に麻酔薬を注入して神経ブロックしようかと思ったが、考え直して繋部で掌側指神経ブロックした。

跛行は90%消失した。

これで、最後の手段として指神経切断or切除で痛みを無くせることがわかった。

他の蹄に負担がかからないように注意して管理し、

navicular D の蹄はヒールアップして楽にしてやり、

そして、それでも辛くなったときのために指神経切断をオプションとして残しておく。

痛みは防御反応なので、痛みを感じなくしてしまうと病気自体は進行し、最後にはnaivcular が割れるとか、深屈腱が切れるとか、痛みがコントロールできなくなる、などということが起きるかもしれないからだ。

                            ////////

以前、年寄り馬を連れてきたおじさんに、

「この馬いくつ?」と歳を聞いたら、

「まだハタチさ。」との返事だった。

                           ---

今日は、1歳馬の骨盤骨折のX線撮影。

当歳馬の疝痛。胃潰瘍による疝痛のようだった。

夕方、繁殖雌馬の結腸捻転。

P6261193_2生まれて初めて4つ葉のクローバーを自分で見つけた。

でも・・・・・・・ボロボロだ;笑。

アーネストリー!おめでとう!!


獣医師と電気

2011-06-25 | How to 馬医者修行

Photo私の周りを観ていると、どうも獣医さんは電気に弱い人が多い気がする。

静電気が嫌いとか、感電に弱い、とかではなく、電気器具や電気コードの扱いに無頓着なのだ。

                   -

以前、検査に使うヘアドライヤーがひどく断線していたので、直してくれるよう頼んだ。

で、そのドライヤーを使おうとした人がコンセントに差し込んだら、いきなりショートした。

なんと、断線したコードをビニルテープでグルグル巻きにしただけになっていた。

家庭用電気器具のコードは2本の電線からなっていて、お互いは絶縁されていないとショートするというのは常識だと思っていたのだが・・・・

                   -

馬の診療をしていると、コンセントが遠くて延長コードを使わなければいけないことが多いのだが、

電気はコードが長くなるほど電圧が不安定になるし、途中に差込が増えてもリスクが大きくなる。

もちろん1本の延長コードに、消費電力の多い医療器具をいくつも繋がない方が良い。

そして、水で濡れた床の上を延長コードとの接続部を引っ張るなどというのは危ない。

                   -

海外でも、馬用の電動歯鑢の電気コードを馬が叩きつぶして感電した、という事故があったと聞いた。

200v配線だと危険は増すのかもしれない。

日本でも200v配線に切り替えていこうという動きもあったが(最近聞かない気がするが?)、獣医師も含めてもう少し「常識」が普及しないと危ないかもしれない。

                      /////////

Dsc_0506