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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

寄生虫性動脈栓塞

2009-04-30 | 急性腹症

P4290541 もう予定日を過ぎている繁殖雌馬が、血便を出して、死んでしまったそうだ。

剖検すると、盲腸と結腸の粘膜が壊死して、腸内容は出血性。

出血性腸炎や虚血性壊死がひどい結腸捻転に似ている。

しかし、腸捻転は起こしていない。

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P4290543 腹大動脈を開く。

この部分は前腸間膜動脈の起始部。

大きな動脈なのでバイパスはなく、この動脈が詰まると腸管へ血液が送られなくなってしまう。

そして、円虫の仔虫の寄生部位でもある。

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P4290544 腹大動脈そのものでもそれほど動脈壁は厚くない。

動脈の中は当然、滑らかでなければならない。

しかし、腹大動脈から分岐したところで壁が厚くなった動脈瘤があり、内腔は血栓が詰まって血が流れなくなっている。

そして、糸ミミズのように見えるのは・・・円虫仔虫だ。

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今は良い駆虫薬があるが、投与しなければ何の意味もない。

生産地の飼養環境で、馬をまったく駆虫しないで飼うと、もっとも被害を出す寄生虫症はおそらく、この円虫による動脈栓塞だ。

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 寄生虫はいつも馬の能力を落とす。

  寄生虫はしばしば疝痛を引き起こす。

   寄生虫はときどき馬を殺す。

駆虫しましょう。

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今日は角膜浮腫が改善されない症例の角膜掻爬と結膜フラップ。

眼球破裂した馬の再診。

昼には繁殖雌馬の結腸捻転。

午後は育成馬8頭の胃内視鏡検査。

夕方、立たない結腸捻転馬を蹴飛ばして立たす。(Monty先生ゴメンナサイ!)

4月の開腹手術は約25頭。

どうなってんの?


手術予定は未定で決定でない

2009-04-30 | 日常

午前中は・・・

競走馬の第三中手骨の縦骨折のスクリュー固定手術。

約1ヶ月齢の仔馬の疝痛。手術にはならなかった。

子宮動脈破裂を疑う繁殖雌馬の剖検。

大腿骨骨折した当歳馬の剖検。

午後は・・・

手術後の繁殖雌馬の疝痛。再手術は様子を診ることにした。

寄生虫性動脈栓塞で死亡した妊娠馬の剖検。

競走馬の変形性関節症のヒアルロン酸関節内注入。

新生児溶血性黄疸の洗浄赤血球液作製。

夜、分娩後の繁殖雌馬の疝痛。手術にはならなかった。

入院馬の飼い主さんが言った。

「今日は暇だね~」


妊娠末期の開腹手術創保護のためのCMベルト

2009-04-28 | 急性腹症

P4240535 分娩予定日すぎの繁殖雌馬を開腹手術した。

小腸閉塞で、切除も切開もせずにすんだために、手術後も腹圧が減らなかった。

それで、手術室から覚醒室へ運ぶときにCM heal ベルトを着けた。

ふつうの腹帯よりはるかにしっかりしている。

 以前は妊娠末期の開腹手術は術創が心配で躊躇していた。

しかし、

・必要なら結腸切開すれば腹腔内容積を減らすこともできる。

・閉腹は連続縫合するようになって以前より丈夫になった。

 そして

・CMベルトは頼りになりそうだ(笑)

妊娠末期であっても、開腹手術適応なら躊躇しないでやらないと親子とも失うことになる。

写真の馬は術後数日で無事分娩した。

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開腹手術ラッシュはまだ続いている・・・・・・

Dsc_0035


大結腸亜全摘

2009-04-27 | 急性腹症

Hc 結腸捻転で結腸の虚血性損傷がひどいと、結腸を温存しては予後不良になる。

体内に壊死していく組織を残すことになるからだし、

腸内容に触れている粘膜が壊死しているので、細菌や毒素の侵入を許すことになるからだし、

脱水、白血球減少、エンドトキシン血症、SIRS、MODS、MOFS などつぎつぎ起こる問題をクリアできないからでもある。

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P4170519 来院時、痛みで立ち上がれず、PCV63%の結腸捻転馬。

結腸骨盤曲付近の結腸動脈は触れても拍動がない。

カラードップラー装置でも、拍動もなく、血が流れていないのがわかる。

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P4170521 結腸の根元に近い部分、右側結腸の動脈に触れると拍動がある。

カラードップラー機能で調べても、拡張期でも血流が途絶えないしっかりした拍動が確認できた。

PI・RI値も正常。

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Photo_2 結腸を亜全摘した。(写真は別症例)

盲腸結腸襞を切って、創外へ出せる限界で切除した。

その部分でも粘膜はこげ茶色で完全壊死の状態。

壊死が粘膜にとどまれば助かる可能性があるし、筋層や漿膜に至れば助からない。

しかし、やるだけのことをやり、どうやら助けることができたようだ。

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ケンタッキーのある馬外科医は

「いいかア、結腸捻転では結腸は根元まで壊死するんだ。結腸切除なんかしても駄目なんだ。」

と言っていた。

フロリダの馬病院は積極的に結腸切除しているが、結腸切除する客観的基準は持っておらず、切除しなくても助かる症例も亜全摘している。

カラードプラによる結腸の虚血性損傷の客観的評価、そして亜全摘は世界レベル・・・・

かな?

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Csc_0037入院馬3組が帰って、入院厩舎は空。

異常な開腹手術ラッシュだった。

Dsc_0034

寝不足は解消し、疲労感だけが残っている。

フキノトウもすっかり大きくなった。


子宮穿孔か消化管破裂か

2009-04-26 | labo work

繁殖雌馬が分娩翌々日から疝痛を示し、元気食欲不振。

T39.2。P70。末梢血WBCは4500だったそうだが、2回目測ると1800/μl。

腹水のWBCは74000μ/l。

さて、腹膜炎は間違いないが、子宮穿孔か消化管損傷か・・・・・

子宮穿孔なら開腹手術して助けられる可能性大だが、消化管破裂なら厳しい。

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P4260544 腹水を遠心した沈査の染色標本を顕微鏡でP4260548観ると・・・・

白血球に貪食されていない細菌が見える。

まず左は、球菌。

右は大型の桿菌。

P4260550 桿菌や短桿菌、球菌など複数の菌が見えるところもある(左)。

P4260553 かなり大型の桿菌が複数種見える(右)。

これだけ多くの菌種がたくさん見えるということは、、子宮穿孔ではなく、消化管内容による腹膜炎だろう。と推測した。

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P4260552 遠心した上清もなんとなく茶色っぽい。

それも消化管内容による汚染であることを示しているのではないか・・・

しかし、断定はできない。

消化管内容による腹膜炎でも、助かることもあるので・・・・・

可能性があるならと開腹手術したら・・・・・・子宮角の穿孔だった。

わからないものだ。

安楽死を選択しないで良かった。

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腹水が消化管内容を含んでいることをその場で検査できる方法はないものだろうか。

何か方法があるように思うのだが。

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夜中の開腹手術はまだ続いている・・・・・

1頭でも助けられるよう頑張ろう。そのためにここにいるのだから。

P4250540