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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

有茎脂肪腫による空回腸絞扼

2018-01-27 | 急性腹症

朝、4:49に電話。もう起きてるよ。

種雄馬が疝痛がひどい、と言う。22歳。

来院したら、まだ鎮静剤が効いているのに痛い。

心雑音がある。

控えめに鎮静剤を足して、超音波検査したら小腸閉塞像が見えた。

「手術した方が良いです。」

高齢馬なので、有茎脂肪腫がどこかへ巻きついた可能性が高い。

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吸入麻酔を始めたら、心拍がひどい不整。

P波がモニターでは見えない。

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開腹したら、回腸部で肥厚した腸管がループになっている。

その中に塊を感じる。

やはり脂肪腫だ。

かぶっていた腸間膜を破って脂肪腫をむき出し、茎部分を鋏みで切ったら纏絡していた腸管がほどけた。

空腸下部の腸間膜についていた脂肪腫。

回腸は傷んでいたので、切断して盲端にした。

空腸の内容を棄てる。多くはない。

空腸の傷んでいた部分を切り捨てて、盲腸に吻合した。

腸間膜を盲腸、回腸盲腸ヒダ、回腸断端、回腸腸間膜に縫い付けて孔を閉じた。

あとは閉腹。

22歳。

サラブレッドにとっては、ある朝死んでいたら「老衰ですね」となる歳だ。

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診療所の電話が調子が悪い。

見てもらったら、「もう15年も使っていて古いので交換部品もないし、子機だけ取り替えることはできず、親機も他の子機も取り替えないといけない」とのこと。

15年でそんなかい。

60年近く生きてる人間はどうしてくれるんだ;笑

恒例の那須の研修から戻ってきた。

 


頭頚部損傷

2018-01-27 | 馬神経病学

その繁殖雌馬は土曜日の夕方、「収牧しようとしたら様子がヘンで・・・」ということで来院した。

異常に興奮し、四本肢で飛び上がりそうになったり、体をこわばらせたりすると言う。

口粘膜はチアノーゼ。上唇全体が腫れていた。少し鼻血もでていた。

それで居て心拍は40台。

血液検査では大きな異常は無かった。

超音波画像診断で、腹腔、胸腔に著変認めず。

鼻道から喉頭の内視鏡検査では、鼻出血が咽喉頭壁に付いていたが著変認めず。

血ガスで酸素分圧が低いようだったので、入院厩舎で酸素吸入を2時間ほどした。

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翌日曜日は様子は落ち着いたようだった。が、頭は下がり、沈鬱。

血液生化学検査を全項目やったが、ビリルビンが少し高めくらいで、SAA(血清アミロイドA;急性炎症の指標)も0。

上唇の腫れは顎の方へ広がった。

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飲まず喰わずなので、持続点滴を始めた。

3月分娩予定。

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診療室へ連れて来て、再度超音波検査。

喉嚢内視鏡検査では、右の喉嚢の奥の壁に腫れて、赤くなった部位があり、鉗子で触れると痛がった。

顎も押し方によっては身を震わせるくらい痛がる。

外傷性にどこか頭か顎の奥を傷めたのかもと思い始めた。

X線撮影では顎の骨折、頭部の大きな骨折は無し。

持続点滴は3日間で終了した。いつまでも輸液しているわけにはいかない。

が、水を飲まないなら水分を与えなければならない・・・・

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沈鬱、動きを嫌う症状は痛みによるようだと判断し、フルニキシンは連日投与していた。

フルニキシン投与後は少し食欲を見せるようだった。

鎮痛効果を期待してブトルファノールを使ってみた水曜の夜、歩様蹌踉となったのでデキサメサゾンを投与した。        

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木曜、鼻や顎の腫れはかなりひいた。

頭は水平くらいに上がるようになった。

しかし、左右へは頭を動かせるものの、頭を下げたり、挙げたりができない。

昼から倒れて起きなくなった。

ときどき起立意欲は見せる。苦しそうではない。

夕方、鼻カテーテルを入れて電解質液を10リットル投与。暴れるので危なかった。

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早朝も起立していない。昼前は、鼻翼開帳した呼吸で苦しそう。

1週間経過を観たが、良くなってはおらず、もう24時間起立不能なので、あきらめることにした。

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解剖場で、後頭骨と第一頚椎間を穿刺して脳脊髄液を採ろうとしたが、脳脊髄液はまったく出てこなかった。

これはどこか傷めて脳脊髄液が漏れてしまったんだな・・・・・

後頭骨部での脊髄腔。

硬膜の外側に出血がある。

後頭骨右側。

顆傍突起が折れていた。

そこから喉嚢や周囲の筋間に出血がある。

喉頭骨と第一頚椎、第一頚椎(環椎)と第二頚椎(軸椎)の関節は傷んでいるようだった。

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頭部や頚椎のひどい骨折をして、即死したり、そのまま起立不能になる事故はけっこうあるが、

今回の馬は、ひどい骨折まで行かず、頭頚部を傷めたのだろう。

最初はひどい痛みの症状を示し、数日後から徐々に脊髄液が漏れた症状を示したのだろう。

診断が難しい症例だった。

 

 

 


そろそろ疝痛シーズンの始まり

2018-01-22 | 急性腹症

去年の11月、12月と、私は夜間診療がほとんどなかった。

とても平穏な初冬をすごさせてもらった。

例年年が明けると、妊娠末期の繁殖雌馬の疝痛がやってくる。

しかし、今年の1月はそれもほとんどなかった。

それが・・・・・

日曜の夜、2歳馬の疝痛。

空回腸捻転で、盲腸の先にも巻きついて盲腸尖が壊死していた。

回腸を盲端にし、空腸を盲腸へつなぎ、盲腸尖も切除した。

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月曜の今日は、

午前中、2歳馬の去勢。

陰睾だということで、吸入麻酔して開始。

鼠径部陰睾だったようで、開腹手術にはならなかった。

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午後、飛節OCDの関節鏡手術。

それを疝痛の繁殖雌馬が順番待ち。分娩4日後。

結腸捻転だった。

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終わったと思ったら、妊娠末期の繁殖雌馬の疝痛の依頼。

盲腸重積だった。

空腸を腹側結腸へバイパスした。

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そろそろ開腹手術のシーズンの幕開けのようだ。

 


ハミでしゃくってはいけない

2018-01-21 | 歯科・口腔外科

馬がさからうからと、ハミでガシャガシャしゃくる人がいる。

そんなことをしても馬はおとなしくはならない。

かえって、おどおど、落ち着きのない馬になるだけだ。

傷ついた明け2歳馬の口腔内。

左右両方の、チフニービットが当たる部分が、糜爛(びらん;ただれること)して腫れている。

これでは、馬はハミを引かれるたびに痛かっただろう。

それで、頭を動かすとまたハミでしゃくられる。

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こんなことをしていると、たいせつな”ハミ受け”を壊してしまう。

しゃくらない、ハミで懲戒しないことは、狼歯を抜くなんてことより、よほど大切なことだ。

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チフニービットを着けて若馬を扱うことは、すっかり普及しているが、チフニービットの危険と副作用を知っている人だけが使うべきだ。

ハミでしゃくるような奴にチフニーを使わせてはいけない。

社長やマネージャーの責任だ。

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騎乗者や馬牧場従業員の研修や教育でもしっかり教えて欲しい。

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ワンコでもチョークチェーンと呼ばれる首を絞めかねない鎖を使う人も居る。

それも首が絞まって苦しいからしつけになるわけではなく、犬に合図を送るための道具なのだ。

チョークリードの使い方

 

 


デスメ瘤だった

2018-01-18 | 馬眼科学

深い角膜潰瘍があったが、抗生物質と自家血清をきっちり点眼して治療していた2歳馬。

眼球が小さくなったように見える、とのことで来院。

もちろん病変部はフルオロセインで染まる。しかし、前眼房へ染まってはいかない。

前眼房は眼房水で膨らんでいるし、虹彩は膨隆していないし、眼の痛みはひどくない。

角膜の病巣は深そうだが、melting は起こしていないし、分離された細菌も抗生物質で対応できるもので、感染はコントロールされているはずだ。

ただ、ごく小さい黒い点がある。

異物が刺さっているようにも見えた。

全身麻酔して角膜を触ってみることにした。そして・・・・

黒い点はデスメ膜だった。

デスメ膜とは角膜の内層で、角膜穿孔する前に突出してくることがある。

膨らんだデスメ膜はデスメ瘤と呼ばれる。

危険な徴候で、角膜を保護する外科的な処置が必要であることが多い。

羊膜と結膜フラップを行った。

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暖かくなって、雨混じりの雪が降った。

朝にはそれが凍り、そのうえにうっすら雪が乗って凍っているのが見えず、とても危ない。

タヌキが歩いてきて、氷の上で滑って転んだ痕。

馬も転んで骨盤骨折しなければ良いが・・・・・