競走馬は球節を脱臼してしまうことがある。
以前に紹介した球節の側副靭帯の損傷による横方向への脱臼ではなく、球節が沈下してしまうような脱臼を起こすことが多い。
競走中にはものすごい荷重が球節にかかるので、球節を支えている腱・靭帯・種子骨などが耐えられなくなると球節の構造が崩壊してしまう。
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Global Hunter という競走馬が7月4日ハリウッドパーク競馬場でこうなってしまった(左)。
Alamo Pintado Equine Medical Center へ輸送され、球節(第三中手骨・第一指骨関節)の関節固定術を受けた。
球節の関節固定術を行う場合、種子骨や繋靭帯が無事かどうかが手術後の予後や手術の方法に関わってくる。
種子骨と繋靭帯が無事なら背側(球節の前側)から種子骨までスクリューを貫くことも球節を動かなくするための強力な固定になる。
しかし、このGlobal Hunterの場合のように種子骨が割れてしまっていたり、種子骨を第一指骨につなげている靭帯が切れてしまっていると、球節を固定するために種子骨を使えない。
球節を掌側(後ろ側)で支えてくれる組織がないために、その代わりとして第三中手骨と第一指骨をワイヤーでつないで球節を固定する助けにすることが多い。
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2008年にカリフォルニア州立大学デイヴィス校の馬外科医達が、6頭の競走馬の球節の固定術にLCP(ロッキングコンプレッションプレート)を使った成績を報告している。
Clinical Evaluation of the Locking Compression Plate for Fetlock Arthrodesis in Six Thoroughbred Plate for Fetlock Arthrodesis in Six Thoroughbred Racehorses
Ryan S.Carpenter, Larry D.Galuppo, Edwin L.Simpson, Joseph P.Dowd
Veterinary Surgery 37:263-268,2008
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6頭のうち4頭は生存した。
1頭は種雄馬になり、3頭は繁殖雌馬となり妊娠した。
2頭は近位指骨間関節が脱臼したので、手術から16日後と68日後に安楽死されている。
この報告の目新しい点はこのブログでも何度か紹介したLCP(右上)を使っていることと、
太いステンレスケーブル(右)を使っていることで、どちらも球節の固定術に有効な方法だろうということだ。
ただし、LCPはプレートもスクリューも高い。
この6頭に使用されたプレート・スクリューの費用は、$1,396.5~1,907(約14~20万円)。
球節が曲がらなくても、種雄馬になったり、繁殖雌馬になったりはできる。
Global Hunterの回復を祈る。
そして、日本でもこの球節固定術で馬が救命されるようになることを願う。
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本州の梅雨があけても、北海道は曇天が続いている。
しかし、蒸し暑い。
8月の那須の暑さに耐えられるだろうか・・・・・(笑)
スプリンタ-♀がかわいそうです。
この国の娘たちに、誰か救いの手を..(泣)
せめて繁殖の舞台まで、上げてあげてください。
世界で指折りの馬整形外科医達の報告でも、確実に救命できるとは言えないたいへんな手術です。紹介した文献でも手術時間は、150-315分(5時間!)かかる大手術です。しかし、実績のある雌馬は助けようとする価値があると思いますね。
こちらは梅雨があけて暑いです、蒸しはましになりました。
hig先生どうぞご体調お気を付けてくださいませ。
5時間の手術すごいですね!!
経済力だけではなく、やる気や知識、技術の積み重ねなどが、
hig先生はそのすごさとともにそこへの道程がわかっていらっしゃるのだろうと思います…!
これが正しい表現だと思います。
今年は異常です。帰ってきてビックリしました。
どうか、ご覚悟を!!!
内固定技術だけではなく、術後の疼痛管理とか、蹄葉炎対策とか、覚醒時のキャストとか、総合力が問われる手術なのだろうと思います。
しかし、できない理由はありません。
フ、フライパンですか?!エアコンのきいた手術室から出ないようにしましょう;笑。
すごいですね、かなり長いロッキングプレートでスクリューもたくさん打ってますね。
LCPはプレートが厚いと思うのですが、軟部組織が薄い馬の場合は皮膚障害とか大丈夫なのでしょうか?
あと骨癒合が得られた後は抜釘はどうするのでしょう?
興味深いです。
14穴とか16穴が使われるようです。プレートは問題がなければ入れたままでも良いようですが、金属疲労で折れることもあるようです。プレートは1枚ならたいてい皮膚は閉じられますね。馬用の特別分厚いLCPも製造されています。
折損の可能性が高いということなのでしょうか。
球節の掌側から中手骨方向へスクリューを打つことは困難なのでしょうか。
そうするとワイヤーのアンカーにも使えそうですが。
いろいろ困難だらけなのでしょうけれども。
プレートを固定しているスクリューの配置ですとかいろいろ考えさせられます。
指をくわえて(苦笑)
プレートの内外に背側から挿入されているのは、5.5mm皮質骨スクリューです。プレート固定に使われているスクリューは太い方がLCP専用スクリューで、細いのは4.5mm皮質骨スクリューです。
掌側から背側へスクリューを挿入することも可能です。たしかにワイヤーをそれに縛ることもできますね。良いアイデアかもしれません。