馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

格子状の草袋で馬の胃潰瘍の予防をしつつ肥満を避ける

2014-11-30 | 急性腹症

Equine Veterinary Journal に興味ある研究報告が載っていた。

The effect of hay grid feeder on feed consumption and measurement of the gastric pH using an intragastric electrode device in horses : A preliminary report

馬の飼料摂取に格子状飼料袋があたえる影響と胃内電極を用いた胃pH測定:予報

要約

研究実施の目的

  肥満と胃潰瘍は馬に高率に認められる。

 胃の扁平上皮の潰瘍を防ぐための管理変更には飼料給与回数を増やすことや牧草の自由採食がある。しかし、これらを実践すると馬を肥満させる。

目的

 採食された乾草の量、胃内pH、および馬が採食する間に床と乾草袋への活動を比較すること。

研究のデザイン

 横断的実験研究。

方法

 pH電極を胃に挿入して胃内pHを48時間測定した。

 馬は体重の1%の乾草を1日2回給与された。

 馬は24時間、床から、あるいは市販の格子状乾草袋から飼料給与されるようにし、その後の24時間はもう一方のプロトコルに変えられた。

 馬は持続的に録画撮影され、採食、飲水、歩行、佇立、寝ている時間のパーセンテージが算出された。

 2ポイントのデータはペアtテストで比較され、通しでのpHは繰り返し測定ANOVAで比較された。

結果

 馬は、格子状乾草袋に比較して、床で与えられたときに、あきらかに多くの量の乾草を消費した(n=9;P<0.001)。

  2群間で、平均の胃内pH(n=6;P=0.97)、持続胃内pH(n=9;P=0.45)、pH4.0未満だった時間の長さ(n=6;P=0.54)、馬が採食と飲水に要した時間のパーセンテージ(n=9;P=0.52)、歩行あるいは佇立(n=9;P=0.3)、あるいは寝る(n=9;P=0.4)について明らかな差はなかった。

 いずれの群においても、馬は夜にくらべて日中により多く採食に時間を使っていた(n=9;格子状乾草袋P=0.003;床給餌P=0.007)。

結論

 研究に用いた格子乾草袋は馬が採食に使う時間を減らすことなく馬によって消化される乾草の量を減らすことに用いることができるかもしれない。

(引用終了)

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研究にもちいられた hay grid feeder 格子状乾草袋はこれ。

かつて乾草を入れておくカゴ(草架)が馬房の壁の高い所によく付けられていた。

しかし、馬が上を向いて草を食べるのは不自然だし、ホコリが立つので、今は利用しているところは少ないと思う。

乾草を床に置いて自由採食させるのは良いことなのだが、食べたいだけ食べさせると馬は太ってしまう。

このhay grid feeder は、自由採食ほどは食べられないのだろう。格子の穴はかなり小さい。

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この研究では、hay grid feederで長い時間、乾草をゆっくり食べられることで、馬の胃内pHが高く保たれる。という結果が本当は欲しかったのだろう。

どうしてそういう結果がでなかったか、胃内電極の位置などが考察でうんぬんされている。

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馬は1日のうち12-16時間、歩き回りながら採食しているのが本来の生活で、馬房に閉じ込められて、1日数回の給餌を短時間に食べてしまって、

あとの時間はすることがない。というのは不自然で、諸悪の根源になっている。

サク癖や熊癖(ゆうへき)などの悪癖を覚えたり、絶食状態が続くことで胃内のpHが下がって胃潰瘍になりやすいと考えられている。

この研究報告は「予報」ということになっている。

次報で計画どおりの結果がでることを期待したい。

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ワンコも早食いはよくないと考えられている。

早食い防止のための食器なども考案されて市販されていている。

このおもちゃは・・・・・・大型犬には強度が足らなかったらしく、1,2ヶ月で破壊された。

今のところ数ヶ月もっているのはこちら。

おきあがりこぼしになっていて、ただ押したり転がしたりするだけではエサはでてこない。

倒しながら転がせば数個ずつフードが出てくる。

でも、なんだか観てるとイライラしてよけい胃潰瘍になりそうな気もする・・・・・・笑。

 

 

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馬を窒息死から救う方法

2014-11-25 | 呼吸器外科

今日は、

繁殖雌馬の副鼻腔蓄膿。

顔の変形はないので副鼻腔は閉塞してはいないが、x線検査で副鼻腔に曇りがある。

副鼻洞が閉塞し、原因菌が耐性菌になる前に外科処置をした方が良いだろう。

1月分娩予定の馬だが、円鋸手術は立位でできる。

前頭洞に孔を開けたら、膿性漿液があふれでてきた。

円鋸孔からファイバースコープを入れて内部を観る。

ひどく肉芽増勢したりはしていなかった。

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ついで、呼吸で異音がして息苦しい繁殖雌馬。

内視鏡検査すると案の定、重度の披裂軟骨炎。

永続的気管開窓術をすることにした。

3月分娩予定なので立位でやる。

全身麻酔しても妊娠の維持にとってリスクはないと思っているが、

ただでさえ数%流産のリスクがある時期だ。

しかも食欲をなくすくらい呼吸困難の馬だ。

全身麻酔して手術したあと流産したら、麻酔したことを後悔するかもしれない。

立位で気管開窓術をすると上向きで手術するので首が痛くなるし、血だらけになるが仕方がない。

気管軟骨を4個部分切除した。

気管粘膜は切り取らず、皮膚に縫合した。

気管を皮膚に開窓しておくのに邪魔になる筋肉は部分切除した。

馬は鼻でしか呼吸ができないので、鼻道を閉塞させる病気が起こると窒息してしまう。

喉頭の病気でも、今回のように窒息してしまう。

気管切開してやることで馬を窒息死から助けることができる。

窒息死は悲惨な死に方だ。

馬の数が少なく、専門の馬臨床家が居ない地域でも馬を窒息死させないように気管切開・気管開窓手術をしてやってもらないか?

立位でできる手術だし。

という話を来年2月に岡山での日本獣医師会年次学会でしようと思っている。

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午後、

1歳馬の肩関節のOCD。

夕方、

当歳馬の胸膜肺炎の剖検。

夜、

1歳馬の疝痛。

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相棒はこのブロンズ像にも激しく反応した。

「ポートランディア」

レイモンド・カスキー

単におねえさん好き?

 

 

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当歳馬の大腿骨顆の病変

2014-11-24 | 整形外科

9月に転倒して左後肢が負重困難になった当歳馬。

その後、少しずつ回復してきたのが、ここ2週間は悪くなったとのこと。

臀筋の萎縮はなし。すると、骨盤の大きな骨折は考えにくい。

しかし、股関節内での円靭帯付着部の骨折は可能性があるかな?と考えた。

それと、腰椎、仙椎、は撮影してみたい。

骨盤に異常がなければ、膝も良いX線画像を撮ってみる必要がある。

股関節に異常は見当たらない。

腰椎にもわかる異常はなかった。

大型x線撮影装置で撮影したら、大腿骨顆に異常が見つかった。

関節面が不整で、骨質がおかしい。吸収像と硬化像が入り混じっている。

別な角度で撮影してみると、どうやら外顆のようだ。それも珍しい。

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Lameness in Horses 6th ed.によれば、

Femoral Condyle Lesions 大腿骨顆の病変

病因

大腿骨顆の病変は馬の年齢に基き大きく2つのカテゴリーに分けられる。

子馬の感染性あるいは発育上の病変と、成馬の骨軟骨症の病変である。

子馬については、Hanceらが大腿骨顆に3つの異なるカテゴリーの病変が起こりうることを示している。

TypeⅠの病変は感染によるものであり、感染性関節炎や骨髄炎において軟骨下骨の融解が表層にある。

TypeⅡの病変は大腿骨顆表面の50%未満に骨の不整が見られる。

TypeⅢの病変は広範な不整があり、ときには薄い骨片を有する。

その研究の著者らはTypeⅡとⅢの病変は成長期の整形外科疾患あるいは血管障害(vascular insult)のある形態なのかもしれない、と結論づけている。

 成馬の大腿骨顆の骨軟骨病変はほとんどいつも内顆に起こる。

それらの病変は通常、外傷性に起因すると考えられている。

しかし、凹みがあったり、平坦化していたりというような、顆の形状の異常であるので、起因においていくつかの病変は成長期に認められるものであるかもしれず、悪化していく恐れがあり、これらの障害をおこしやすい馬がいる。

(引用終了)

簡単に大腿骨顆のOCDだとは書いていない。

この部分の骨軟骨の損傷は、子馬の後膝のひどい細菌性関節炎で診ることが多い。

予後は良くなくて、剖検すると大腿骨顆が骨も軟骨もボロボロになっている。

その経験から、vascular insult (血管傷害)があるのではないかと考えられているのだろうと思う。

                   ---

insult

侮辱、無礼、<医>障害(の原因)、発作  リーダーズ英和辞典

<古>攻撃  リーダーズプラス

侮辱、侮辱的言動、無礼、<医>損傷、傷害、発作、傷害の原因  ジーニアス英和辞典

傷害、発作  ステッドマン医学大辞典

                  ////////////

「幼いキリン・堅い土」

淀井敏夫

ほんもの以上に首や手足が長く、顔も細く小さく表現された仔キリン。

急激に細く長く成長しなければいけない動物は、成長期の整形外科的疾患も多い、とするなら、

キリンはどうなのだろう?

 

 

 

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馬医者の怪我 BEVAの調査成績

2014-11-23 | How to 馬医者修行

馬の診療の危険性は話題になることはあってもきちんとした調査は行われていないように思う。

それでは業界内では暗黙の了解であっても、業界外の人にはわかってもらえない。

また、業界内部でも適切な対応がとられていくことにならない。

いつも怪我人がでると、

ヘルメットやプロテクターや安全靴を着けたらどうだ、と言う話が出るが、しばらくすると忘れられ元のままだ。

馬の馴致がたいせつだとか、以前よりは馬が大人しくなったとか言われるが、馴致され大人しくなった分、以前ならできなかったことをしたり、以前なら鎮静剤や麻酔をしてやった手技をそれなしでやるのでは危険はそうそう減らない。

馬を抑えている者の技量が大切だとはわかっていても、業界がかける人件費は増えているとは思えず、経験の浅い者と診療しなければならない状況は以前より増えている。

油断したとか、本人が悪い。という指摘もあいかわらずだ。誰かが怪我をしてもその状況が説明され、事故防止に役立てられるということはない。

イギリスではBEVA(British Equine Veterinary Association;イギリス馬獣医師会)が調査を行い、それについてのレポートがVeterinary Recordに載っている。

                           -

調査成績から抜粋して紹介する。

620名の馬獣医師が2013年の9月から11月に質問に答えた。

30年馬獣医師として働くうち、7-8回診療を妨げられるような怪我を経験することが示された。

この結果は、馬の獣医師であることが、イギリスの他の民間の職種、建設業、刑務官、消防隊員より怪我をする率が多いことがわかった。

怪我の種類と状態は、

内出血、骨折や裂傷が多かった。

部位では肢(29%)、ついで頭(23%)であった。

主な原因は、後肢で蹴られる(49%)、ついで前肢で叩かれる(11%)、つぶされる(5%)であった。

これらの怪我の1/4近くが病院へ行かねばならず、7%は意識を失っていた。

最悪の部類の怪我のうち38%は乗馬を診療しているときに起きていた。

しばしば(48%)その怪我が起きたときに馬を扱っていたのは馬のオーナーあるいは診療依頼主だった。

(抜粋引用終了)

                       -

この文章の最後は、BEVAの重職者の、

「BEVAは公的機関、獣医科大学、大手雇用主と協議しながら馬を診療する獣医師がひどい怪我をするリスクをへらす施策を進めていく」

という言葉で締められている。

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さて、日本ではイギリスとだいぶ怪我の状況もちがうように思う。

また、生産地、競馬場、乗馬施設などで状況はことなるだろう。

そして、日本ではこのような調査は行われていないし、職域を越えて調査を行う機関、協会もない。

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先のVeterinary Recordの文章は、全文の翻訳が公営競馬獣医師協会の公獣協ニュースに掲載される予定だ。

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またバターが不足して手に入りにくくなっているらしい。

クリスマス前だからお菓子・ケーキ業界はたいへんだ。

日本の牛乳は半分以上を北海道で生産している。

酪農家の減少を大規模化、多頭数搾乳が補ってきた。

しかし、その大規模化も頭打ちらしい。

100頭以上搾ろうとすると莫大な設備投資と運営資金が必要とされるし、それはもう家族経営の規模をはるかに超えている。

しっかり収益がでるなら継続していけるが、飼料費高騰や、TPPや、産乳制限や、自由化など、先行き不安があれば個人の負債ではやっていけない。

百姓貴族(3)
荒川 弘
新書館

荒川弘さんの「百姓貴族」第3巻。

酪農や、農業や、北海道への愛情が一杯詰まっている。

「鋼の錬金術師」の作者はやはりすごい人だったんだな、と思う。

仕事(農業)しながら漫画を描く時間を作り出すコツ・・・・・「寝なきゃいいじゃん。」 

オソロシイ

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当歳馬の臼歯の異常

2014-11-22 | 歯科・口腔外科

当歳馬が物を口の中に溜めて、そのうち噛み出ししてしまい、痩せてきたという。

こういう子馬はたまに相談される。

どういうわけだか切歯を擦り合わせても臼歯が届かなくなっているらしい。

この子馬も、鼻と下顎を持って横にゴリゴリ擦り合わせてみても臼歯が擦りあう感じがない。

X線撮影してみるとこんな感じ。

臼歯はやはり届いていない。とくに奥の臼歯は上下の間が空いてしまっている。

切歯を削る。そのことで臼歯が届くようになるはず。

臼歯も形を整えた。

かなり好い感じになった。

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「のどちんことはなのあな」

堀内正和

のぞいてみなければわからない。

のぞいてみただけではわからない。

X線撮影とか・・・・内視鏡とか・・・・

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