馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

大晦日2020 COVID19の年に

2020-12-31 | How to 馬医者修行

今年は歴史に残る年になってしまった。

COVID19により何がもたらされ、何が失われたのか・・・

せめて悔いのないような行動をしていきたい。

学会もなく、講習会もなく、会議もオンラインで、忘年会も慰労会も懇親会もない。

長くなると人との接触の少なさによる弊害が出てくるだろう。

メールでしかやり取りしたことがない人を信頼できるか?

せめてテレビ電話でも使うようになれば良いのだろうか?

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今の大学生も可哀想だ。

オンライン授業で課題が山ほど出されるし、友達もできない。

臨床実習で外部へ出ることもできない。

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COVID19がこれほど蔓延した背景には増えすぎた地球の人口や、

人が自然環境を破壊して生活域を広げたことや、

激しく地球上を移動することがある。

都会、人口密集地、で感染は広がり、それが地方へもたらされる。

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私の地域も、馬のセリで人が集まるし、札幌との行き来も多いのだが、北海道の中でも指折り感染者が少ない地域のようだ。

”市”がない数少ない地域なのが幸いしているのかもしれない。

(北海道の中で、”市”がないのは、日高と檜山だけ、たぶん)

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このvideoは、なかなかよろしい。

https://www.nosaido.or.jp/promotion-video/

田舎で、小さいコミュニティーの中で、動物相手の仕事をするのは楽しいよ。

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来年がいくらかましな年になりますように !!

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寒波襲来のようです。

荒れる地域もあるようです。

家で家族とすごしましょう。

 

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第7章 研究倫理・不正について その2

2020-12-30 | How to 馬医者修行

 

の最後の章。

研究不正には

fabrication  ねつ造

falsification  改竄

plagiarism  盗用

がある。

頭文字をとってFFPと呼ばれる。

          ー

私はJournal of Equine Science のeditor をしている。

今年、海外からの症例報告投稿で、plagiarism された投稿があった。

担当をお願いしたreviewer が見つけてくれたので、盗用論文を審査したり、掲載してしまう、といったことにならないで済んだ。

日本の馬科学といった狭い、ほとんどが顔見知りだったりする世界ではなく、海外からも投稿があるようになると、十分警戒しないとならない。

今は、論文の盗用をチェックしてくれるサーヴィスがあるようで、編集員会ではそれ以降、盗用をチェックして担当編集員に送ってくれている。

          ー

日本の医科学は、STAP細胞事件や、降圧剤の治験の不正ですっかり世界的信用を無くしている。

循環器の領域では、欧米のreviewerに、理不尽なコメント付きでrejectされることさえあるとのこと。

情けない話だ。

          ー

臨床研究で、思ったような結果が出なかった場合に、

①都合の悪い結果を出さない

②有意差の出たアウトカムを過度に強調する

③問題症例を省く

④比較対照を変える

⑤あとから仮説を変える

これらは外科医の臨床研究手法として蔓延している。

明らかな不正ではないが、「不適切な行為」または「spin」とされる。

          ー

臨床研究の中でも個人情報は慎重に扱わなければならなくなっている。

私も、心臓冠動脈の血流量測定の臨床研究の検体として、自分の画像が使われることの同意書にサインしている。

今、コロナ対策でも、個人情報保護と情報公開の感染防止効果の相反が課題になっている。

地域の感染者数の発表があっても、年齢、性別、地区などが”非公表”だと、自分の警戒度を上げる参考にならない。

感染者や、感染者の家族、果ては直接コロナ感染症に対応して医療者への差別などは論外だが、

社会全体への貢献と、個人情報保護の必要性は、慎重に判断されるべきではないだろうか。

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長く紹介してきた「外科系医師のための 手術に役立つ臨床研究」本多通孝先生、も今回で終了。

3500円。

たいへん読みやすく書かれている。

臨床研究をやっている、やってみたい、やろうとしている大動物臨床獣医師にも一読を広くお勧めしたい。

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さて、通常業務終了。

1年の終わりだ。

もう掃除も片付けもする気力もない。

でも症例の整理だけはしておきたい。

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当歳馬の毛を刈った部分。

皮膚は濡れないし、風もそうそう通しそうにない。

保温性は良さそうだ。

注射部位をアルコール綿花で拭いても皮膚はきれいにならないし、たぶん濡れてもいない。

冬毛のワンコや馬に降った雪は溶けない。

熱が逃げていない証拠だ。

 

 

 

 

 

 


舌裂傷 ほとんど切断・・・・

2020-12-29 | 歯科・口腔外科

年末の日曜日。

午前中はTiebackを2ヶ月前にやった馬の披裂軟骨切除。

Tiebackをやる前から披裂軟骨炎であることはわかっていた。

それでもTiebackをやってみたが、手術時には披裂軟骨を外転させることはできなかった。

もう披裂軟骨の形状がおかしくなり、関節が動かなくなっていたのだろう。

披裂軟骨切除は、Tieback後の方が結果が良い、という報告もある。

披裂軟骨切除しても筋突起は残すので、いくらかでも外転させるテンションが残っていた方が良い、あるいは良い症例が含まれる、ということかもしれない。

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披裂軟骨切除が終わる頃、放馬してチフニーで舌を切ってしまった1歳馬が来院。

立位で縫おうと思ったが、ひどく奥で切れていて、おまけに切れ方がひどい。

包帯で舌を縛って引っ張り出して縫うのだが、包帯が滑って切れ目を引張ると完全に千切れてしまうだろう。

切断部より先は色調も紫がかっている。

全身麻酔することにした。

腹側にある血管は露出しているが、かろうじて2本とも残っている。

すごい奥でしょ。

1 monocryl によるステントを用いた垂直マットレス縫合に、

0 monocryl による十字縫合を加えてある。

腹側へもぐるりと切れていた。

朝、ウォーキングマシンから出すときに雪で滑って放馬したのだそうだ。

4日間乗れていなかったので元気があまっていた。

夕方まで水も与えないよう指示した。

翌日の夜まで餌はなし。

舌を失わずに済むかどうか、年明けまでわからない。

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こいつらは生まれたばかりの子牛の舌を齧ることがあるらしい。

馬でも、放牧地で産んだ、なんて話しを聴くが、新生子馬が襲われたとは聞いたことがない。

母馬が守るのかもしれない。

 

 


手術に役立つ臨床研究 第7章 研究倫理・不正について

2020-12-28 | How to 馬医者修行

 

最後の第7章は研究倫理・不正について。

その最初に、HTA;Health Technology Assessment  医療技術評価 が紹介されている。

医療技術を実践する際の医学的・社会学的・経済学的そして倫理的問題を体系的で、透明かつ公平にまとめていく学際的過程・・・

難しいが、「泣くな研修医」の研修医クンが、生活保護受給者で高齢の末期胃がんの患者さんの治療で悩んだり、

ブラックジャックによろしく」に提示されている医療現場での諸課題も、この「評価」の対象だろう。

UKでは、医療技術評価機構である NICE; National Institute for Health and Care Excellence は医療技術の評価に経済評価も含めていて注目されているのだそうだ。

さらには、Citizens Council report として、市民会議で議論し、報告書を出しているのだそうだ。

簡単に結論や合意が得られることではないのだろうが、今のままでは医療は破綻する。

何が良い医療なのか、医療に何を望むのか、社会全体で死生観も含めて議論を始めるべきときだと思う。

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臨床研究もまた背景には社会情勢があり、医療上の倫理もまた社会の中のものでなければならない。

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NOSAI獣医師は、必要最低限の治療をしなさい、と教わる。

対症療法より原因療法を優先しなさい。

治らないと思ったら治療するのを止めなさい。

高額治療は慎重に。

薬剤選択は安い薬から。

限度超過すると診療所経営も圧迫するよ。

などなど。

”経済動物”だから、ということで、獣医療はある面、ヒト医療より進んでいた部分があったのかもしれない。

しかし、家畜共済制度の運営の仕方や、畜産業の規模が大きく変化すると、その大動物診療も変らざるを得ない。

大動物臨床でも、あらためてHTAが必要だろうと思う。

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先日の吹雪。

1時間ほどで止んだのだが。

前も見えない。

この地域では珍しい。

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研究とは眼をこらして先を見ることなのかもしれない。

 

 

 

 


E.V.J.

2020-12-27 | 学問

E.V.J.

Equine Veterinary Journal

UKの馬獣医学の学術誌で、世界中で読まれている。

学術誌の格を表すimpact factor は獣医分野では指折り高い。

ことしMitsuishi 発の学術論文がEVJに掲載された。

馬の背側輪状披裂筋の体外経皮超音波画像診断手技:

安静時内視鏡検査との比較、そして筋の大きさと超音波輝度の評価

「のど鳴り」はサラブレッドにとって大きな問題で、しかし、治療方法はTieback がgold standard とされている。

Tiebackの成績は数多く報告されているが、決して満足のいくものではない。

手術するか、温存するか、「のど鳴り」する馬の評価は、長らく安静時の内視鏡検査で行われてきた。

近年ではOver Ground Endoscopy で高速騎乗運動中の喉頭の様子が評価できるようになっている。

その原因となる背側輪状披裂筋の萎縮と変性そのものは、特殊な経食道内視鏡を使えば超音波画像で評価することが報告されている。

しかし、そんな経食道内視鏡検査に使う特殊な超音波プローブなんて誰がもってんの?;笑

この検査のためだけに買うか?

特殊な経食道超音波プローブがなくても、技術を磨けば背側輪状披裂筋を汎用されるリニアプローブで観察することができる。

この手技で背側輪状披裂筋を観察することで、喉頭虚脱を起こす直接の原因である背側輪状披裂筋の変性と萎縮を評価できる。

安静時の内視鏡グレードがⅢ以上の馬は、右に比べて左背側輪状披裂筋が薄いこともわかる。

手術中に、実際に左背側輪状披裂筋に針を刺して測った筋の厚さと、超音波画像で測定した厚さも相関した。

              ー

この技術は、馬臨床家が馬の喉頭の構造を超音波で評価することの普及につながるだろう。

多くの馬獣医師が持っている超音波プローブで、馬の喉頭の軟骨の形状、筋の萎縮や変性、を評価できるのだ。

馬にとってとても大きな問題である喉頭片麻痺(反回神経障害)についての、臨床応用価値の高い研究成果だ。

重箱の隅ではなく、メインディッシュである。

世界中の馬臨床家がこの論文を読み、この技術を身につけ、さらなる調査研究報告、症例報告も出るだろう。

素晴らしいことだ。

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かつてMitsuishi をDavis や New Bolton Center のようにしたいと思った。

もちろん全く同じにではない。

同じ方向を向いて、同じ質の輝きを放つ、ってことかな。