第三中手骨の疲労骨折の立位でのスクリュー固定と骨穿孔術
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昨年12月の獣医麻酔外科学会でのDr.Bertoneの講演の内容はStanding Surgeryだった。
鎮痛剤、鎮静剤、麻酔薬、麻酔方法の進歩で、以前では考えられなかったような手術が立位でできるようになっている。
なにも枠場へ入れて、馬を縛り付けて手術するわけではない。
Dr.Bertoneも言っていたが、枠場へ入れるとかえって馬が枠場にもたれてしまうことがある。
それで、枠場へは入れず、鎮静剤と神経ブロックと浸潤麻酔で手術する。
鼻捻子は好む人とそうでない人が居るようだ。
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競走馬の第三中手骨は、調教・競走で強い負担がかかり、それに耐えられるように徐々に骨皮質が厚くなることが知られている。
調教を強くしていく進め方を、骨が丈夫になっていく以上に早くしてしまうと、骨が負担に耐えられなくなって亀裂骨折を起す。
その程度の軽いものがソエだと考えられているのだが、ひどい場合はX線撮影ではっきりと骨折線が見えるほど折れてしまう。
こうなるとなかなか骨折線が消えないようだ。
骨も生きている組織ではあるのだが、皮質骨は血行が盛んな臓器ではない。
骨が傷つけられたり、骨が厚くなっていくために、骨膜が骨に巻かれていて骨増生を起すのだが、皮質骨内部では働きようがない。
で、治癒を促進するために、スクリューで骨折線を抑えたり、骨折線を貫くようにドリルで孔を空ける。
ドリルで孔を空けると、その孔はやがて皮質骨で埋まり「生物的螺子」として骨折線を固定してくれる。
海面骨まで至ったドリル孔からは血液や骨髄液が骨折部位に漏れてきて、骨折を修復する因子や幹細胞が働いてくれるらしい。
2ヶ月経ったらスクリューはまた立位で抜く。
さらに1ヶ月経ったら運動を開始する。
発症あるいは手術から4ヶ月経って骨折線やドリル孔が埋まっているのが確認されたら、フルの調教に戻ることができるはず。
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今日は、立位で上顎切歯の抜歯。
枠場に入れず、鎮静と、鼻捻子と、Stableizerと、眼窩下孔でのブロックを併用した。
午後は浅屈腱炎の超音波診断。
球節へのヒアルロン酸注入。
競走馬の喉頭内視鏡検査。
入院馬が1頭。
巻きっぱなしと言っても、観察もしなくていいわけではない。
キャストをした肢も反対側の肢も痛くないか?
キャストの近位や、反対肢が急に腫れたりしてないか?
キャストの表面に漿液が染み出したりしてないか?
馬が熱もなく快適かどうか?
朝夕よく観察する必要がある。
肢の内側と外側を切る人が多いが、内側は切りにくいので、私は前と後を切る方を好む。
ギプスカッターは写真のように持つ人が多いが、頚の細い部分を持って強く押し当てられるように設計されているんじゃないだろうか?
ギプスカッターは回転しているわけではなく、振動しているだけなので、硬い物は切れるが、柔らかい物は切れないようにできている。
まあ、しかし、馬の肢は筋肉や脂肪がないので、強く押し当てると皮膚が切れてしまう。
(アキレス腱を切って入院していた人が、キャストを外すとき、看護師さんに「当たっても切れませんから大丈夫ですよ~」と言われたが、切られた。と笑って?いた。)
長くキャストを巻く時は、蹄尖部が磨り減るので、蹄の修理や処置で使うスーパーファーストやエクイロックで蹄尖部を固めてやると長持ちするのだが、この馬では使わなかった。
それで、蹄尖が露出して、キャストの中で球節が動く要因になっただろう。
キャストが正しく巻かれていない(蹄を露出していたり、球節が屈伸する角度に固定していたり)と、1週間もしないでキャスト擦れを起すが、
キャストを正しく巻いて異常がなければ、4週間前後は巻き換えたりしないで大丈夫だと思っている。
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危ない骨折だったので、吊起帯も使った。
骨折馬覚醒用のプールは望むべくもない。
吊起帯は買って良かった。
骨折線が外側皮質に抜けて開いてしまった。
(骨折線とはx線画像診断から来た呼び名なのだろう。立体でとらえれば必ず骨折面なはずだ。)
縦骨折のように見えるが・・・・・
背外側-掌内側方向で撮影してみると、掌側のピースが割れているのがわかる。
ということは、第一指骨の近位関節面は中央で内外に割れてしまっているのではないのか?
掌側外側1/4ほどが割れただけなのか?
骨折線(面!)をできるだけ正確に把握しておかないと、的確にスクリューを入れられない。
骨折線(面!)を見逃して、スクリュー固定すべきところを固定しないと、粉砕してしまうかもしれない。
肢の正面から、今度はすこしうち上げる角度で撮影した。
これで、第一指骨の背側(前側)が近位側の辺縁として写っている筈だが・・・骨折線(面!)が見えている。
つまり、第一指骨の近位を内外に分ける骨折面は背側にまで至っているのだ。
このような骨折がもう少し悪化して、粉砕骨折になれば、側副靭帯と関節包を切開して、球節を脱臼させて、関節面から骨折線(面!)を観ながらスクリューを入れることを考えなければいけなくなる。
しかし、それでは競走復帰は望めない。
掌側の大きなピースをしっかり固定すること。関節面をできるだけしっかりあわせること。粉砕骨折に悪化するのを防ぐこと。を目標にスクリュー5本で内固定した。
スクリューの1本は、背側の骨折線(面!)を固定するように挿入した。
粉砕骨折に悪化しないようにという点では、さらに2本くらいスクリューを入れるのが望ましいかもしれないが、スクリューヘッドやスクリュー先端の骨膜増勢も起こるので、5本でとどめた。
開いてしまっていない縦骨折だとあまり長い期間のキャスト固定は必要ないかもしれないが、この症例では骨癒合するまで
キャスト固定しておく必要がある。
もちろんキャストは、体重を中手骨部へ逃がせるように、蹄尖まで覆う。
キャストの中で球節が動かないように、屈曲・伸展しないように第一指骨と中手骨が直線状になるようにキャストを巻いた。
後肢の外側蹄壁が割れてしまった。
割れた蹄はもうくっつくことはないので、裂蹄の処置はそれ以上割れないようにすることしかない。
この馬の場合は、完全に割れて剥がれてしまっているので・・・・・
切除してしまった方が良い。
このまま残しておくと、変に剥がれて蹄冠まで裂けると困るし、残しておくと内部が感染しかねない。
血が止まり、傷がそれなりに治まり、痛みがなくなるまでは、包帯で巻いておいたほうが良いだろう。
装蹄師にして獣医師であるDr.Scott Morrisonも講演で同じような症例を見せていたので、
「どういう処置をして、予後はどうか?」訊ねてみた。
「切除してしまう。包帯を巻いておく。予後は良好。」
私とまったく同じ答えだった。
安心した(笑)。