馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

Veterinary Surgery誌の論文タイトルに思うこと 2024

2024-09-13 | 学問

新しい Veterinary Surgery 誌を見て驚いた。

「英国の馬群における腔内軟部組織損傷併発のない掌/底側輪状靱帯拘縮の治療としての腱鞘鏡ガイド下の掌/底側靱帯切断の治療成績」

まあ、なんと長いタイトル。

そして、Outcome 治療成績 が内容だとするタイトルになっている。

               ー

「前十字靱帯症に関連した半月板裂を関節鏡視下縫合で治療したイヌ43頭の短期的治療成績」

これも Outcomes とまとめられている。

こちらの outcomes は複数形。

              ー

「透視装置下順方向管骨ピンニングで治療した管骨骨折のイヌ15頭とネコ2頭の治療成績」

これもタイトルが長い。

何を、どうやって治療した、治療成績、と書こうとすると、タイトル内に重複が出てくる。

そして outcomes は複数形。

              ー

「15頭のネコにおける特発性乳糜胸のヴィデオガイド下胸腔鏡治療の治療成績」

これも outcome くくり。

              ー

全論文がこの形式のタイトルで書かれているわけではない。

「12頭のイヌにおける膵臓新生物の腹腔鏡視下切除」

これはすっきりしている。

             ー

これらの論文は CLINICAL RESEARCH という分類にされている。

CASE REPORT 症例報告と分類されている論文もある。

「変更傍脊椎切開経由傍顆結節骨折片摘出による頭振戦の外科治療:1頭の成馬における詳細な解剖的そして外科的記述」

1例報告だから case report なんだろう。

これもタイトルは長ったらしい長い。

           ー

「脈管輪異常の胸腔鏡治療による8ヶ月齢のベビードールヒツジ1頭の慢性逆流の改善」

こちらも case report 症例報告で、1例報告。

             ー

CLINICAL RESEARCH 臨床研究としての論文は CASE SERIES 症例集積としてではなく、調査研究として書け、あるいは、タイトルは調査内容を示すものにしろ、という編集方針になったのだろう。

しかし、case series 複数例の症例報告であっても、著者が書きたいのは治療成績だけとは限らない。

獣医外科学の最高峰の学術誌であっても、読者が読みたいのは手術成績だけとは限らない。

どのような馬にその疾患が多かったのか、であったり、

どのような症状であったのか、あるいは何が問題で手術が選択されたのかであったり、

手術手技や、手技におけるオリジナルの工夫であったりする。

ほとんどの論文が Outcome とタイトルをまとめてしまうのは、どうなの?と私は思う。

            ー

「冷却したネコ腸管と新鮮なそれは、腸管切開部漏洩圧試験あるいは全層厚計測において差がなかった」

こういう結果そのものを文章で示してしまうタイトルは、私は好ましいと思う。

ある時期に見かけるようになったけど、あまり流行らなかった。

 


蹄関節炎からのStaphylococcus aureus の分離

2024-09-08 | labo work

10日ほど後肢の”砂のぼり”で跛行している繁殖牝馬。

蹄球部へ自潰して良くなるかと思われたが、球節周囲まで腫れて、負重困難になった。

蹄関節炎を起こしていた。

その関節液から・・・・・

血液寒天培地に白く盛り上がったコロニー。

周囲に完全溶血環がある。

不完全溶血環はない。

私たちは、牛の乳房炎から分離される Staphylococcus aureus のコロニーは見慣れているのだが、コロニーの外観がちがう。

しかし、ラテックス凝集反応で陽性。

コアグラーゼ・ポジティブ staphylococcus だ。

コアグラーゼは、血漿を凝集させる酵素。

フィブリンを固めて病巣の周りに壁を作るので膿瘍化し、治癒しづらく、治療が難しくなる。

病原性も強いので、関節周囲炎も起こし重篤化していることが多い・・・・

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そのStaphylococcus aureusの抗菌剤感受性試験。

ペニシリン、アンピシリン、セファゾリン、セフチオフルはsensitive だが、

テラマイシンはresistant 、

そしてエンロフロキサシンもよろしくない。

ちょっと意外。

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図書館にあったので借りてきて読んだ。

香山リカさんは、コメンテーターとしてTVに出ておられるのをときどきお見かけしたことがある。

新聞のコラムを連載しておられるのも読んでいる。

語り口も、発言内容も、書かれることも、とても優しい。

むかわ町穂別の診療所に赴任されたのも知っていた。

その経緯がわかって面白かった。

私と同い年だったんだな・・・・

恐竜好きも共通点;笑

しかし、なんとも軽やかな方だ。

「へき地」に住んでいる人は、「へき地」とは呼ばれたくないだろうけどね。

 

 

 

 

 

 


黒毛2ヶ月齢子牛の中足骨粉砕骨折のキャスト固定

2024-09-08 | 牛、ウシ、丑

2ヶ月齢の黒毛子牛が中足骨を粉砕骨折している、と午後に相談。

DRでX線撮影しながら、複数の獣医師で対応できるように、来院して治療することを提案した。

ひどい粉砕骨折だが、フルリムキャストで治癒できる可能性が大いにあるだろうと判断した。

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応急処置しないまま、敷料の上に大人しく座って来院。開放骨折にならなくて幸いだった。

中足骨近位部は骨幹端まで亀裂が入っている。

粉砕部は細かい破片が多く、lag screw で再建するのは無理だ。

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蹄尖にドリルで孔を開けて、ワイヤーを通し、それを牽引する。

2重にしたストッキネットを通し、飛節と球節にはエバウールシートを当てる。

5のファイバーグラスキャスト材を2本、

4を1本巻く。

蹄尖も覆われて、数週間は露出しないように。

              ー

巻き終わったらX線撮影。

角状変形もなく、骨折端(複雑だけど)の接触も悪くない。

下巻きとして綿包帯を使っていないので、キャストは中足骨に沿っていて変位を抑えていることに注意。

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10頭くらいのペンで他の子牛と人工哺乳で育てられていたが、柵を跳び越して骨折していたそうだ。

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子牛は立たないまま、またトラックに乗せられて帰って行った。

体重を測るのを忘れた;笑

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帰ってから子牛は立ち上がるようになり、起立後のX線撮影をされたが、大きな変位はなく、キャスト固定は維持されていた。

4-6週間で骨癒合するだろうと期待している。

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輸送のために応急処置するならEhmer sling が有効だったのではないかと思う。

Ehmer sling (demonstrated on a donated canine cadaver)

 


当歳馬の球節のガングリオン

2024-08-30 | その他外科

当歳馬の球節の背側が大きく腫れて、超音波で観ると結合織の袋状組織ができている。

血腫からガングリオンができてしまったのだろう。

外科的に摘出しないと治らない。

当歳で、球節で、病巣は小さいし、ガングリオンそのものは大きいので摘出はたいへん。

腱を傷つけないように、関節へ破らないように、根気が要る作業だ。

            ー

ブログの右上に、「ガングリオン」と記入し、その右の枠で「このブログ内で」を選択してもらうと、

今までのガングリオン類似症例の記事が出てくる。

1歳馬の腕節が多い

私がガングリオンや滑液腫にこだわる理由も書いてある;笑

競走馬の球節も手術したことがある。

成書の記載も紹介している。

1歳馬の後膝のガングリオン。

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自分でも忘れているのだけれど、いろいろたくさん診てきたものだ;笑

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まだ蒸し暑い日がある。

夏の台風が九州に停滞している。

ツリバナの実がなって、葉が色づき、秋を待っている。

 

 

 

 


盲腸結腸重積は葉状条虫症 予防するには葉状条虫対策をするしかない

2024-08-27 | 急性腹症

1歳馬の疝痛。

かなりひどくて、発見して2時間ほどで来院し、超音波で重積が確認され即開腹。

盲腸結腸重積だった。

発症してから早いので整復できるかと思ったが、1時間ほどがんばってもほとんど抜けてこなかった。

そのうち右背側結腸が破裂してしまいあきらめた。

          ー

解剖場ではなんとか整復できた。

葉状条虫が大量に寄生している。

それも盲腸全体に。

それで、盲腸が肥厚し、動きがおかしくなって、反転し、結腸に飲み込まれるのだ。

            ー

開腹手術中はあれほどがんばっても整復できなかったのに、死亡後には整復できたのは、麻酔中でも腸壁に収縮があるからかもしれない。

次回はブスコパン(ブチルスコポラミン)パドリン(プリフィニウム)

を投与してやってみよう。

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盲腸結腸重積を救命する外科手技はともかく、

発症させないようにするためには牧場の葉状条虫対策が必要だ。

この1歳馬は1.5ヶ月前にイベルメクチンとプラジクワンテルの合剤を投与していたそうだ。

その前にはイベルメクチンを投与している。

・葉状条虫はプラジクワンテルに耐性を示し始めているのかもしれない。

・濃厚汚染されていると、駆虫してもまたすぐ大量寄生するのかもしれない。

・きちんと駆虫剤を飲み下さなかった可能性もある。

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そして、もう駆虫薬だけに頼った寄生虫対策は無理がある。

放牧地とパドックが、葉状条虫に汚染されないよう対策する必要がある。

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私が退勤する道で側を通る牧場さんは、いつもその時刻に放牧地に軽トラックを止めて、馬糞を拾っている。

偉いな~ と感心して見ている。

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今日は、台風接近で雨と風のようだ。