馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

消毒?その前に掃除、その前に片付け

2024-04-24 | 感染症

日曜日、めずらしく入院厩舎が空になったので、馬房を掃除する。

馬房の端に積まれた敷き藁を別の馬房へ移す。

高圧洗浄機で壁についた下痢便を落とす。

ブラシで擦るよりは落ちるし楽だが、水圧の当てようによってはペンキが剥がれ、コンパネが削れる。

それでも落とせない汚れもある。

床はワラと便と尿がこびりついている。

高圧洗浄機で洗うと落ちるが、汚れが壁に飛び散る。

床と壁は交互に洗わないと。

壁のクモの巣とホコリが張り付いている。

これも高圧洗浄機で吹き飛ばす。

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この季節、新生子馬の敗血症(関節炎)も多い。

分娩馬房の洗浄、消毒に注意しないと新生子馬が次々に感染することになる。

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ロドコッカス感染症もかなり出ている。

感染子馬からの痰や便は次の子馬の感染源になる。

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これからはロタの下痢も流行する。

種付けに子馬を連れて行くのは十分に注意した方が良い。

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この季節、生産牧場は寝る暇もないほど忙しい。

それでも感染症や伝染病が出たら、もっと忙しくなる。

消毒?その前に掃除を。そして、効果がある掃除をするためには片付けないとできない。

Salmonella やコクシジウム症が出た牧場、病院、厩舎を衛生管理するのは専門的な知識と経験が要る。

Clostridium, Clostridioides など芽胞菌で汚れると洗浄、消毒するのは至難の業だ。

しかし、畜産には必須の技術だ。

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消毒というと、すぐ「消毒薬は何が良いでしょう?」と言う話になる。

有機物があると消毒の効果などないというのは基本事項として習うこと。

消毒の前に十分洗浄しなければならない。

ロドコッカスは土壌にいる、増殖できる、となるとパドックを消毒しようか、と言う話もでる。

土を消毒するなんて無理で無意味。

やるならパドックの土の入れ替えだろう。

土は植物を育てることさえできる有機物と細菌の複合体。

 

 


子牛の脛骨骨折はプレート固定で治せる

2024-04-20 | 学問

私は2003年から牛の骨折のプレート固定手術を始めた。

馬の骨折をなんとかできないか、と本を読み、器材を揃え、少しずつ症例に対応してきたのを牛にも応用できると考えたからだ。

馬では治せるかもしれない、というのが現状だが、

子牛だと、1例も失敗せずに治してこれた。

2016年までは。

しかし、牛の骨折治療では、経済性との葛藤がつきまとう。

少しでも長いプレートを使うのがセオリーだが、使うscrew 1本にもコストがかかる。

ダブルプレートすればインプラント(プレートとスクリュー)代はほとんど倍になる。

LCP/LHSを使いたい症例でも、DCPの3倍以上の値段を考えると躊躇してしまう。

それでも、子牛の骨折ならこの程度のプレート固定で治る、という経験を重ねてきた。

2016年に1例失敗して、手技を考え直した。

2020年まで、脛骨、橈骨、上腕骨をプレート固定し治してきた。

その経験は広く日本の牛臨床獣医師に知ってもらい、

プレート固定の技術が普及すれば、今まで治せないとあきらめられていた子牛の骨折も治せるようになる、

と考えて、日本語で症例報告を書いた。

日本獣医師会雑誌へ投稿したが、悪戦苦闘した。

和文・英文併せて20編以上の症例報告や研究論文を書いてきたが、こんなに時間がかかったことはない。

タイトルさえ自分の思い通りにならなかったが、まあそれでも形になった。

多くの方に読んでいただきたい。

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論文を書くというのはガーデニングと共通する部分があるかも

土づくりをし、苗を植え、水をやり、肥料をあたえ、日の恵みを受け、

大きく育った枝を剪定し、

それでやっと花が咲く

見てもらわないと意味がない

 


疝痛開腹手術続き 必要のないdeja-vu

2024-04-20 | 急性腹症

午後、もう2週間疝痛が続いている1歳馬。

超音波で右腹腔を診たら、盲腸重積像が見えた。

手術室が空くのを待って開腹手術。

          ー

その夜は、そのあと1歳馬の結腸右背側変位の開腹手術があって、

さらに、繁殖牝馬の結腸捻転の開腹手術があったそうだ。

          ー

そして、朝出勤したら、繁殖牝馬の疝痛が来ます、とのこと。

来院したら馬運車の中で立てない。まず採血だけする。

なんとか起こして、診療室へ入れて、超音波検査だけやって開腹手術。

結腸捻転だった。

          ー

それから2頭ほど来たのだけ・・・・何を診たのだったか・・・・

午後、予定の関節鏡手術。

そのあいだに2週間不調が続いている1歳馬の診察。

胃潰瘍の内視鏡検査のために絶食して来院しているが、超音波検査で小腸の膨満が見えた。

小腸閉塞なのだ。

胃潰瘍があっても、それは小腸閉塞が続いていることによる二次的な障害の可能性大。

これも開腹手術。

回盲部の重積だった。

          ー

その間に、8日前にも疝痛で来院した繁殖牝馬の診察。

胃潰瘍の内視鏡検査のために来院したが、超音波で小腸の閉塞像が見えた。

1ヶ月ちょっと前に分娩している繁殖牝馬だが、もう痩せても来ている。

これも開腹手術した方が良い。

先の開腹手術が終わるのを待って、開腹手術。

もう既視感 deja-vu で何が何だか覚えていられない。

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今年、3月は31頭の開腹手術だった。

子馬の膀胱破裂は除く。

4月、17日までで14頭の開腹手術だったので、ちょっとペースは落ちたんじゃないの、と思っていたら、

これで19日間に20頭を超えてしまった。

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盲腸重積、回盲部重積は葉状条虫症。

エクイバランゴールド、エクイマックスなどプラジクワンテル含有剤で駆虫できるはずだが、

ちゃんと口に入らなかったんじゃないの?と思われる症例が続いている。

駆虫の際にはちゃんと馬が飲み込んでいるか確認を!!

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ウメが開くのはまだか

毎年 季節はめぐり 花は咲くけど 待ち遠しい

既視感はこういうものにして欲しい

 

 

 


回腸盲腸重積の診断と外科的介入 でも、それより大切なのは予防

2024-04-13 | 急性腹症

もう1週間も疝痛が続いている1歳馬。

小腸の膨満が確認されている、ということなので、疑うのは回盲部重積。

超音波画像診断で・・・・・

見えた。

盲腸の中にある重積像。

回盲部は盲腸の内側、体の中心側にあるので、体表からの超音波検査では映せないことが多い。

この馬は絶食状態で盲腸の容積が小さく、そして気体もなかったので描出できたのだろう。

これで確定診断として良いだろう。

開腹しても、回盲部は術創から外へ出せないし、目視することもできない部分だとされている。

それでは手術しにくいんだよ・・・・・

重積している回腸はひっぱたら盲腸から抜けた。

入り込んでいた部分は絞められていたので白いが復活するだろう。

回腸を盲腸へ側々吻合してバイパスする。

翌日には退院して行った。

          ー

回盲部重積は葉状条虫症だ。

この春、回盲部重積や盲腸結腸重積の症例が続いている。

葉状条虫の駆虫をしましょう。

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シメさん、「 エサ台を独占しないで 分けて下さい 」とシジュウカラ

の図

 

 


新生子馬の肋骨骨折の内固定

2024-04-12 | 新生児学・小児科

3日齢の子馬が肋骨骨折と胸腔内出血があるとのことで来院。

早期胎盤剥離だったので、急いで引っ張り出した、とのこと。

それ自体は仕方がないことだ。

子馬は貧血もしているので、輸血をしてから肋骨の整復と固定手術をすることにした。

私は15年前に1頭経験がある。その時は結束帯で固定した。

新生子馬を診たら、肋骨が折れていないか左右で1本1本よく触ってみなさい、

ということになっている。

肋骨骨折がある子馬にはときどき遭遇するが、手術しましょう、となることは少なかった。

手術しなくてもそれなりに治っていくし、

子馬の状態がよろしくないと、全身麻酔で手術するにはリスクがあるからだ。

X線画像では診断しにくい。

超音波画像と触診の方がわかりやすいかも。

この子馬は周囲の腫れがひどい。

肋骨が4本折れて、腹側の骨折端が内側へ落ち込み、over ride していた。

今回は、肋骨の骨折端それぞれに2つずつ孔を開けて、2 の吸収糸を通して結紮で固定した。

ワイヤーで縛ろうとすると肋骨が割れてしまいがち、

プレートとスクリューだと抜かなければならないかもしれず、化膿したらやっかいだ。

結束帯より丈夫な縫合糸の方が遊びなく結紮できる、かも。

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これは別な日、多発性細菌性関節炎と骨髄炎であきらめた2週間早く生まれてしまった新生子馬。

肋骨骨折もあった。

もう3週齢を超えていて、肋骨骨折も固まっているので触診ではわからない。

この子馬も4本折れていたようだ。そして、1本は変位がひどかった。

しかし、肺には傷ついた痕はないし、胸腔内出血の痕もなかった。

手術した子馬より肋骨骨折自体は軽症だったのだろう。

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ことしも庭に現れた福寿草。

植えたものじゃない。

増やしたいけど、いじればかえって消えてしまうかも・・・・

手を出すか、温存でいくか、その判断が難しい。