馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

獣医学教育用模型

2023-09-24 | How to 馬医者修行

獣医学向け教育模型、が今は売られている。

海外製品を輸入しているのだろうと思う。

・生きた動物や死体を実習用にそろえられない。

・生きた動物や死体では、腐る、汚れる、臭う、が付きまとう。

・生きた動物を実習に使うのは動物福祉上好ましくない。

が理由で、こういう模型が必要とされているのだろう。

観て、触って、だけではなく、静脈注射、気管挿管、直腸検査、難産介助、などが練習できるように工夫された模型もある。

注射を練習する部位などは、中のチューブ(血管のかわり)に液体が入れられるし、何度も刺して傷むとその部分を取り替えられるようになっている。

某大学で、ウマ用の模型のいくつかをみせてもらったのだけど、よくできているな、と感心した。

冷たく硬い樹脂でできているのではなく、シリコンで覆われていて、手触りが温かく柔らかい。

観る、見せる、だけでなく、触って、扱うことが考えて造られているのが感じられた。

しかし・・・

高い。so expensive !!

桁が違うんじゃないかと思うほどの値段。

そして、やはり本物とは違う。

先週、実習に来ていたS君には、腕節骨折の馬で、

「腫れてるだろ? 熱があるのわかる?」

と腕節を触らせた。

馬の全身模型は 258万2800円だそうだ;笑 1/3モデルで。

馬の前肢模型は 50万6000円。

砲骨ってなんだ・・・・ああcannon bone 管骨の誤訳か。

でも模型は熱をもたない。病変部が腫れてもいない。

              -

難しい時代になってきているんだな、と思う。

以前、学生をうちに寄こしませんか?と提案したことがあった。

1週間5名ずつ、1年のうち半分25週を当てれば125名に本物の馬と牛の診療現場を体験させられる。

そのことの値打ちすら理解してもらえなかったんだろうな。

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視診、触診、画像診断して

静脈注射して

馬を運んで (本物は模型より重いよ)

術野消毒して

関節穿刺して

関節鏡手術を始める

気管挿管して

静脈留置して (本物の血が出るよ!)

動脈留置して

血ガス測定、心電図、ガスモニター付けて (実物だから変動するよ!)

尿道カテーテル入れて

それらをやりながら、頭をフルに回転させる。

模型も好いけど、模型じゃね。

 

 

 

 

 

 

 


化膿性腎炎 致死性の夏バテか?

2023-09-17 | 馬内科学

前夜、40℃の発熱をした繁殖雌馬が、翌朝、朝飼いを食べてから死んだ、ということで剖検。

口粘膜チアノーゼ。

実習生たちに、チアノーゼとは。それが起こる馬の死因について説明しながら解剖する。

まだ4年生なので、説明が最初からになり、時間がかかる。

4年生に、方程式を使わず算数を教えるのはたいへんでしょう?

             -

心臓、肺に点状出血。

心嚢液も多かった。

腸間膜根部、結腸動脈根部にひどい膠様浸潤。

「膠」って見たことないよね。「にかわ」ってね~、と解説する。

わかったかどうか知らん。

前夜、発熱があったことを考えると純粋な突然死ではない。

急性心臓死ではないだろう・・・

             -

腹腔臓器を観る。

腸内容は多くない。

そういうと、繁殖雌馬にしては細い。

腎臓が・・・・ひどく大きい。表面でこぼこ。

包膜をめくると、表面にあるのは数ミリから1cmまでの膿瘍が多発し、それぞれ膿があふれてくる。

腎臓を割ると、膿瘍が密発している。

化膿性腎炎だ。

右の腎臓も探すが、同じように化膿している。

             -

この繁殖雌馬は不受胎だった。この春は分娩したらしい。

どこが原発病巣かはわからない。

体調が悪く、この夏の暑さも堪えたのだろう。

血液検査でもしていれば炎症像に気づいたかもしれないが、治療して成功するとしたらごく初期だけだっただろう。

化膿性腎炎はめずらしい。

私は数例しか診たことがない。

しかし・・・・

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この日は当歳馬の突然死も剖検を頼まれていた。

また実習生に説明しながら剖検する。

口粘膜は貧血色とチアノーゼ。

胸腔の胸椎沿いに点状出血。

腸間膜根部に膠様浸潤。リンパ節腫大。

腎臓は・・・割ってみると、皮質に数ミリの膿瘍密発。

なんと、この当歳馬も化膿性腎炎だ。

どこかから細菌感染し、血流に乗った細菌が糸球体にトラップされ、腎臓を化膿させた。

めずらしい病態が1日に2頭も来るなんて・・・・

この記録的に暑かった夏と関係するのではないだろうか。

免疫も落ち、新鮮な水も飲めない放牧地で長くすごし、尿量も減り、細菌を洗い出せなかったのではないか。

そういうと、この9月はフレグモーネも多いようだ。

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宿直の夜をすごす職員住宅で、ロボット掃除機を使い始めた。

すっごい好い!

ブラシを振り回しながらあちこち床を行ったり来たりしてゴミを吸い取ってくれる。

物にぶつかると右往左往するが、またどこか行く所を見つけて進む。

部屋をつなぐ戸やドアを開けておくと、別な部屋にも入って掃除してくれる。

玄関の段差からは落ちないで、玄関の向こうの部屋へも入って、掃除して、戻って来る。

結構うるさいし、足元をうろうろ動き回るので、私が家を出るときにスイッチを入れて掃除を始めさせる。

すると家中を掃除した後、ちゃんと充電場所へ戻っている。

(一度、床に置いたバッグに乗り上げて止まってたけど;笑)

まるで生き物のようで、そしてなんとなく可愛い。

そして、驚くほどホコリとゴミを吸い込んでいる。

もっと早く使えば良かった。

 

 

         


言葉は難しい 重複表現

2023-09-08 | How to 馬医者修行

「馬から落馬する」は、やってはいけない重複表現の例としてよく挙げられる。

原文というか、フルバージョンがあって、

「いにしえの昔の武士のさむらいが 山の中なる山中で 馬から落ちて落馬して 女の婦人に笑われて 赤い顔して赤面し 家に帰って帰宅して 仏の前の仏前で 短い刀の短刀で 腹を切って切腹した」

というのだそうだ。

ちょっとくどい;笑

             ー

会話の中では、ある程度は許されるというか、聞き取りミスを避けるために意識して重ねて言うこともあるように思う。

ただ、文章表現では避けなければいけないだろう。

そして、学術論文ではレフリーや編集員に指摘されたりする。

気になっているのは・・・・

             ー

「体重が重い牛」

これはどう思いますか?

子牛ではなく、育成牛や成牛など体重が重い牛では、ヒト用プレートでは強度が不足する・・・・という風に使いたい。

この「体重が重い牛」以外、わかりやすい表現を思いつかない。

しかし、重複表現ではあるのだろう。

「重」が重なってるし;笑

             ー

そもそも、「脛骨骨折」も重複表現ではないだろうか?

「骨」を「骨折した」と言っているわけだから。

「骨」を重ねるのではなく、「尺骨破折」などとするのが文法論理上、日本語として正しいのではないでしょうか。

う~ん、日本語は難しい。

                                              ー

英語でも同義語反復 tautology は避けるべきとされる。

ただ、母国語ではないと、通じているかどうかわからないので別な表現で重ねて言いたくなるし、

学術論文でもいくつかの表現を用いることで概念を創っていきたいがゆえに、おなじ概念の言葉を複数使いたいことがある。

plate fixation

plating

plate osteosynthesis

統一しろとか、どう違うんだ、とか指摘されることもあるのだが、

言葉とか、文章表現とかにかかわる本質的な問題が問われているように思う。

問題が問われる・・・・も重複か・・・・笑

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重ならないように間隔をあけて

それでも自分のを先に食べて

ほかの奴の飼い桶をねらう

 

 

 

 


蠢く回虫

2023-09-04 | 急性腹症

関節鏡手術が終わった昼前、当歳馬の疝痛の依頼。

夜間放牧していて、朝厩舎に入れたら痛くなった。

激しくて鎮痛剤無効。

心拍54.

立てない。

胃tubeで逆流ほとんどなし。

超音波で小腸膨満。

5月生まれ。

「駆虫は?」

「してない」

じゃあ、回虫症だろう

これくらいやることやって、てきぱきと連絡をくれると準備と手配をして待てる。

           -

立てないので毛布に載せて馬運車へ運び込んだのだそうだ。

来院しても立たない。

横臥して立たない馬を立たせるには頭を飛節の方へひっぱるんだよ。

すると伏臥になって、飛節が曲がって、立ち上がる。

成馬じゃ力が要るけど、子馬ならできる。

           -

開腹したら予想どおり空腸が重積していた。

中に回虫が透けて見える。

重積も抜けた。

引き抜こうとするより、反吻側から押し出すのがコツ。

            -

(切った腸管、蠢く回虫の写真;見たくない人は注意。

駆虫してない馬屋さんは見といて)

飼い主さんを手術室に入れて観てもらった。

だから駆虫しなきゃだめだって言うんだよ。

          -

切断部からフルモキサールを吻側へ入れて、吻側へ推送した。

蠢く回虫は、吻合中に縫い目から這い出てくる

麻酔から覚めたら、今度は口から飲ませるようにフルモキサールを溶かしてシリンジに入れて渡しておいた。

           -

入院させずに帰ってもらう。

翌日から少しずつ哺乳させる。

他の子馬を駆虫することがだいじ。

           -

駆虫後、他の子馬からも回虫が排泄されたそうだ。

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朝、夕はようやっと涼しくなった。

スズメたちの食欲は・・・かわらないかな。

 


余裕のある日のはずが疝痛つづき

2023-09-01 | technique

朝、出勤したら現役競走馬が疝痛で来院していた。

前日、競馬場から帰ってきてずっと痛い、とのこと。

「輸送による便秘じゃないの?」

直腸検査で骨盤曲の便秘が確認された。

超音波検査では有意な異常所見なし。

電解質液にモサプリド(消化管運動促進剤)を入れて経鼻投与する。

「入院しますか?帰りましょうか?」

PCVは高くない。

持続点滴は要らない。

帰って、ペインコントロールしながら便秘解消の治療を続けてもらうことにした。

           -

現役の競走馬が、夏の休養に帰ってきていて、調教中に眼をぶつけて眼球破裂してしまった。

来院したが、眼球破裂、虹彩脱は一目瞭然。

視力の維持も、眼球のボールとしての維持も難しいだろう。

ひどい衝撃がかかって眼の中の構造も壊れているし、

眼球内の出血も多いし、

眼圧が維持されてないので網膜も剥がれるし、

強い炎症が起こって全眼球炎を起こすからだ。

地方競馬は、登録馬が片目の視力を失ったときに出走できるかどうか、規則が競馬場によって異なるようだ。

主催者に問い合わせてもらうのがいいだろう。

           -

繁殖雌馬が疝痛で来院。

興奮しやすい馬で汗びっしょりになって疝痛症状を示した、とのこと。

来院したら疝痛症状なし。

乳酸値は高めだが、PCVはWNL(within normal limit ; 正常範囲内)。

大丈夫でしょう、帰りましょう。

           ー

午後、時間をずらしてもらって競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

           ー

夕方、レポジトリーで発見された1歳馬のEE(喉頭蓋捕捉)のlaser 手術。

           -

そのあと、朝から疝痛症状を示している当歳馬が来院。

細め、初仔だから?

ロド感染症治療歴あり。

WBC20,000超。

超音波検査で小腸完全膨満像。

強い前掻き。

「開けましょう」

空腸上部に食べた物が詰まっていた。

触感、そして透かして観て回虫は含まれてない。

詰まった内容をもみほぐし、反吻側へ推送する。

できるだけ擦ったり、しごいたりしたくない。癒着の原因になるから。

子馬はときどきこういう小腸の単純閉塞を起こすことがある。

親の糞塊だったり、植物繊維だったり、毛(たぶん尻尾の)だったりする。

一晩入院してもらうことにする。

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関節鏡手術だけの予定で余裕のある1日になるはずが、急患つづきの1日だった。

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暑さは少し和らいだけど・・・・・

いつもの北海道のさわやかな9月になるんだろうか・・