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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

膝 乳牛の前十字靱帯断裂

2025-04-23 | 牛、ウシ、丑

私が牛の膝の前十字靱帯損傷で記憶があるのは、かつての釧路NOSAIの先生方の手による、この一連の研究発表

もう40年前の調査で、調査研究の手法も、診療データそのものも、調査研究の結果のまとめ方も、この”論文”のそのものも、”old” ではある。

ただ、あの時代に、乳牛の十字靱帯を診断し、ちゃんと記録を残し、疫学的データから病理解剖まで行った努力と成果はすばらしいものだと思う。

私は大動物臨床獣医師に成り立ての頃、この壮大な調査研究発表を聴いたのでとても印象に残っている。

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牛の前十字靱帯断裂がかなりの症例数があること

診断技術があれば、他の起立不能や跛行と診断できること

突発事故ではなく、損傷の積み重ねで断裂に到ると思われること(発生疫学的にも病理解剖からも)

しかし、加齢以外の発症要因は不明

            -

というようなことが印象に残った。

乳牛の飼い方は北海道でもこの40年の間に大きく変わってきた。

一戸当たりの飼養頭数は数倍に増え、牛のつなぎ方もスタンチョン(牛の頚を挟む)からフリーストールやスーズバーンの牛舎が増えた。

放牧は・・・・どうなんだろう。減ったのか? 見直され、また少し増えているのか?

前十字靱帯断裂は、単純な突発事故ではないにしても、牛舎の構造や牛の飼い方に大きく影響を受けると推察される。

それと、搾乳月齢に達するまでの育成期の扱いも影響しているかもしれない。

若いときに放牧されて十分に運動した牛は筋肉も骨も良く発達し、運動器が丈夫なのではないだろうか。もちろん靱帯も。

            ー

さて、最近の乳牛の「前十字靱帯断裂」はきちんと診断されて、診療と事故の記録として残されているだろうか?

増えているだろうか? 減っただろうか? 原因が把握され、予防の努力がされ、成果が出ているのだろうか?

40年前の釧路の獣医さんたちの熱意に今も感心し、敬意を表する次第である。

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大きくなりすぎたレンギョウの株を掘りあげて、移植した。

たいして大きい木ではなく、せいぜい小灌木なのだが、腰が痛くなった。

働いていた頃には4月にこんなことしてられなかったのよ。

そもそも4月に植え替えるのが良いかどうかは別にして;笑

 

 

 

 


膝、その複雑な構造と機能 比較解剖学的に

2025-04-14 | 馬臨床解剖学

膝についてだいぶ勉強した。必要があって・・・

先々月にも紹介したが、このYoutubeの動画はとてもよくできている。

Equine stifle joint

膝関節は、3つに分かれているし、

半月板という他の関節にはない構造物がある。

関節腔は、特に外側大腿脛骨関節には遠位に広がるrecessと呼ばれる腔がある。

recessとは、休み時間、奥まった所、(心の)奥(底)という意味だそうで、わかりにくいが床の間や彫刻をはめ込む壁の凹みもそう呼ばれると知るとなんとなくわかる気がする。

いずれにしても、構造が複雑でわかりにくい。

           ー

動物種による差は少ない関節のように思う。

ヒトでも、牛馬の大動物でも、小動物でもわりと似た構造をしている。

たとえば肘関節は、ヒトと四足歩行動物はかなり異なった構造になっている。

肘関節は前肢であり、腕を器用に使うサル類と四足歩行の動物の違いかも。

足根関節(飛節)は牛と馬でも骨の形がかなり違う。

ヒトの膝が他の動物と大きく違っている点は、大腿骨と脛骨の角度だ。

ヒトはこの大きく伸展した膝関節の角度のおかげで、直立できる。

           ー

ヒトは直立したまま歩いたり走ったりできるように進化してきた。

ヒトの運動能力が動物より劣っているとはよく言われることだが、必ずしもそうでもない。

例えばヒトは42.195kmを2-3時間で走れるが、こんな持久力はない動物も多い。

体操競技やバレエ、ダンス、水泳は、ヒトがサル類に属しているゆえの運動能力だが、短距離、中距離を走る能力もヒトはなかなかのものだと思う。

           ー

ただ、ヒトは走る、走らないに関わらず、かなり膝に故障が起きる。

ヒトの運動器障害に膝がどれくらいを占めているかは、対象とする年齢層や生活様式にもよるので難しい。

ただ、高齢化社会になったこともあって「膝関節症クリニック」などが流行っているのはご存じのとおり。

直立歩行するようになったこと。足根関節以下をべったり地面に着けてほとんど膝だけでクッションをとって歩いたり走ったりするようになったヒトでは膝は大きな負担を受けていると言ってもいいだろう。

           ー

馬でも跛行の中で膝が原因のものがどれだけあるか?は、ヒトと同じく対象とする馬によって大きく異なる。

一般には、馬の跛行の原因は前肢に多く、近位部よりは遠位部に多い。そして蹄による跛行も多い。

特別なことがなければ後肢の跛行であっても「膝を跛行の原因として疑わない」、という競馬場や乗馬の獣医さんもいる。

しかし、腫れや熱感がなくても膝に原因があって跛行をしている馬は少なからずいる。

膝の構造を知って、その機能について考えておくことは、各動物の膝について理解を深めてくれるかもしれない。

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シカはねえ~

走るというより跳んでるよね

故障は起きないのか?

起きていると思うな

大きな牡シカが跛行しているのを観たことがある

ひどくなったら・・・・・クマの餌になるんだろう

 

 


歴史を操ってきたのは何? サピエンス全史

2025-04-01 | 図書室

もう第三次世界大戦は始まっている、という人もいる。

ロシアはウクライナに侵攻して欧米民主国家群と対立し、

イスラエルはテロを受けた反撃でイスラム国家群と戦闘し、

USAは自国第一主義、かつ反民主主義的な利己的、独善的大統領がトップにいる。

「第三次世界大戦はもう始まっている」と言ったのはローマ法王だ。

            ー

ユヴァル・ノア・ハラリのサピエンス全史が世界的なベストセラーになっている。

それを漫画にした本を図書館で見かけたので読んでみた。

「歴史の覇者」編

歴史を操るのは誰?というのが命題になっているが、つまり、何が歴史を動かしてきたか、歴史を操ってきたのは何か?を示そうとしている。

TVショウを舞台にしている。原著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏も登場する。

イスラエル人の歴史学者。ゲイでヴェジタリアンだそうだ。

「私こそが歴史を操ってきた」と主張する人物が登場する

歴史はサイクル、周期的に繰り返すのだという主張。これはよく言われることだ。

ミスターランダムが主張するのは歴史とは偶然だということ。たまたま。

クラッシュウーマンが主張するのは歴史は衝突と力によって動いてきたということ。

しかし、いずれの主張もこのTVショウの評論家の完全な支持は得られなかった。

必ずしもそうなってこなかった、という事例が世界史の中でピックアップされて解説される。

           ー

レディ・エンパイアが主張するのは、帝国主義。

大きい国、強い国が、小さい国、弱い国を侵略し支配し抑圧することで歴史は作られてきた、という主張。

今も続いていて、評判が悪い。だが・・・・・

           ー

キャプテン・ドルが主張するのは、貨幣が歴史を支配してきたのだということ。

物々交換に始まって、貨幣価値経済に移行し、今や硬貨でも紙幣でもなく実態のない信用経済で世の中は廻っている。

歴史を動かしてきたのは経済だという主張。

           ー

スカイマンは歴史における宗教の重要性を語る。

採集狩猟生活をしていた頃はアニミズムが各集団で信じられていた。

偶然や自然現象に翻弄される生活だったから多神教が整合性があったのだろう。

しかし農耕文明が始まって、自然の一部、そして収穫や貯蔵を人が左右できるようになると一神教が生まれてきた。

すべてのことは絶対神の御心のままに、となった。

そして、多神教は他者の信仰に寛容だが、一神教は唯一の神を信じているのだから他者であっても違う神を信じることや違う方法で信仰することに厳しい。

宗教の名のもとに、多くの戦争や殺戮が行われてきた。

日本はちょっとちがうことも紹介されている。

しかし、日本も軍国主義に宗教を利用した。

さて、この漫画は「サピエンス全史」の一部にすぎないようだ。

次巻は科学がとりあげられるらしい。

歴史を学ぶことで、現代を知り、未来を予測できる。

新刊が出たら読んでみたい。

漫画でね;笑

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夜明けが早くなった

この冬、この地域は雪が少なくて冬を越しやすかっただろう

 

 

 

 

 

 


北獣誌3号(69)2025 重輓馬のLawsonia intracellularis腸症発生牧場の浸潤状況調査

2025-03-22 | 感染症

もう1つ北獣誌2025年3月号から。

こちらは原著論文「日本輓系種にみられた馬増殖性腸症の発生牧場におけるLawsonia intracellularisの浸潤状況調査」

空知家畜保健衛生所からの報告。

昨年(2024)に日本獣医師会雑誌に「日本輓系種にみられた馬増殖性腸症の1例」として、2022年11月に国内の重輓馬で本症の発生が初めて報告されている。

その翌年1月と11月に当該牧場とその近隣の野生動物の調査を実施した報告。

            ー

う~ん、採材が虫食いでわかりにくい。

6厩舎に分かれていたようだが、血液・糞便を採取していない厩舎が2つあり、それとは別に厩舎の環境材料を採取していない厩舎が2つある。

なんで?

結局1月に調べた成馬たちは7頭中7頭で抗体は陽性。

しかし、1月の糞便は12頭(繁殖牝馬7頭、明け1歳馬5頭)すべてで陰性。

ただ、11月の当歳馬6頭(表では1/7となっている)は1頭がPCR陽性。

厩舎環境は、敷料、餌槽、水槽、馬房壁を17箇所調べ、馬房壁の2箇所がPCR陽性。

野生動物は、アライグマ14頭、ネズミ2匹、タヌキ1頭を調べ、近隣酪農場でつかまえたアライグマ2頭がPCR陽性。

             ー

どこからどうやって入ってきたかわからない馬のLawsonia intracellularis感染症だが、重輓馬サークルへも広がってしまったのだろう。

重輓馬生産地域の獣医さんにも、この病気について知っておいてもらう必要がある。

多少の地域的重なりや、人や馬の交流があるのでいたしかたない。

重輓馬も離乳後の当歳馬が感染し、重篤な症状を示すのだろう。

発生が懸念される地域ではワクチンを投与するのが望ましいだろう。

そして、野生動物が媒介していることがこの事例でも確認された。

アライグマ、ネズミが厩舎に出入りしていることは望ましくない。

対策はされているのだろうが・・・・・・

私は、厩舎ではイヌやネコを飼ってはどうかと思う。

イヌはアライグマやタヌキの侵入を阻止し、ネコは厩舎のネズミを減らしてくれると思う。

イヌを放し飼いにしてはいけない、とか

ネコは家の中で飼え、とか

ご意見も、お役所の指導もあるだろうが、街中と田舎ではちがう飼い方が認められても良いのではないだろうか。

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薪棚の中にドングリが隠されていた

誰が隠したんだろう?

この林にはリスはいないと思う

そして隠したまま忘れたうかつ者だ

 


北獣誌3号(69)2025 ”ウェルカムショット”への懸念と鶏での抗菌剤耐性事例と事情

2025-03-21 | 学問

北獣誌の3月号が届いて拝読した。

巻頭には田村豊北海道獣医師会会長の「二次選択薬の慎重使用を考える ーーウェルカムショットと卵内接種ーー」なる論説が掲載されている。

2月号に掲載された子牛への”ウェルカムショット”への懸念を述べた論説の続編である。

田村先生がご自身で前回の論説を要約してくださっている。以下、改変引用。

・ウェルカムショットという用語に抗菌薬の使用を促進するニュアンスがあり、好ましくない

・農場の感染状況によって獣医師の判断で予防的な抗菌剤使用も選択肢になりうること

・しかし、二次選択薬の使用は理由はともあれ避けなければならない

・仮に投与が必要と考える場合は、連用にならないようにインフォームドコンセントを徹底すること

              ー

そして今回の論説では、鶏卵へのセフチオフルの卵内接種が健康な肉用鶏の糞便から分離された大腸菌の第三世代セファロスポリンへの耐性率を急増させた事例を紹介してくださっている。

自動卵内ワクチン接種システムを使って卵内にワクチンを接種するのに、卵表面からの汚染による胎児の細菌感染を抑えるためにワクチン液の中にセフチオフルを混じていたのだそうだ。

養鶏関連の協会が自主規制によりセフチオフルの混入を止めたところ、この耐性は「想像を遙かに超えて」急激に低下した、とのこと。

養鶏関連の協会が自主規制したのは、鶏肉の半数から医療で重要視されるESBL(基質特異型拡張型β-ラクタマーゼ)産生大腸菌が分離されることが大々的に新聞報道され、消費者に関心をもたれることになったからだろう。

自主規制による抗菌剤使用中止が抗菌剤耐性を抑えた良い事例・・・・ではなく、農林水産省の指導に基づく生産者談代の第三世代セファロスポリン使用の自主規制と同時にカナマイシンの販売量が増加しており、肉用鶏由来大腸菌のカナマイシン耐性率が増加している。

               ー

効率性や利便性から抗菌薬を安易に適応外使用することにより、思いもしない急激な薬剤耐性菌の上昇を招いた」事例と述べられている。

(自動鶏卵内ワクチン接種システムにおいて、卵表面の汚染を除去・消毒して、抗菌剤をワクチン混入させる必要がないようにできないのだろうか?)

獣医師は治療上やむを得ない状況になった場合、抗菌薬を適応外使用する認められている認められている。しかし、不適切な抗菌薬の使用が生み出す負の効果も、常に考えて治療することが重要である。

特に二次選択薬は医療に及ぼす影響は非常に大きいものであり、一次選択薬が無効な場合に限定して使用することとされている。

そして、現在、医療でマイコプラズマ感染症の大流行が問題になっていること、2000年頃からマクロライド耐性マイコプラズマが増加していること。しかし、今もって一次選択薬はマクロライド系薬であること、を述べておられ、

動物分野でのマクロライド系薬の使用は慎重になるべきと考える」とされている。

最後の一文は、

牛におけるマクロライド系薬の使用量は、二次選択薬であるマクロライド系薬の承認された頃から上昇傾向にある

               ー

馬の獣医師は、セファロスポリン系抗菌剤はよく使うし、

カナマイシンも使う獣医師がいるし、

仔馬のR.equi感染症ではマクロライド系抗菌剤も使われる。

食肉になることがとても少ないサラブレッドでは食肉としての人への影響はとても少ないと思うが、抗菌剤耐性が進むことで治療効果がなくなることは多くの獣医師が実感している。

獣医師は抗菌剤の慎重で賢明な使用をこれからも心がけていかなければならない。

とても興味深い論説だ。

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ことしは3/20が春分の日。

今日は小雨が降った。

モクレンの花芽はまだまだ小さく固い