馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

尺骨骨折はLCPかDCPか?

2023-02-26 | 整形外科

 

馬の骨折症例に向き合うとき、あらためてこの本はいい本だ。

AOのHPでの情報入手も好いが、この本にはより詳しい記述もある。

そして、難しい症例になれば、How toはいくつかあり、意見も選択肢も複数持つべきだ。

(牛の内固定をやりたい獣医さんたちも、この本を手に入れて勉強すると良いと思う。

すべての章が牛にも役立つわけではないが、応用問題を解いておくことが牛での実践に役立つと思う。)

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このEquine Fracture Repair の尺骨骨折の章は、この本の監修者であるAlan Nixon先生が直々に書いておられる。

私は2015年の香港AO advanced course でお世話になった。

この本では、尺骨骨折はDCPよりLCP固定が優位だ、とはっきり書かれている。

typeⅣ(粉砕骨折)の再建のためのLCPの使用。

(A)手術前のX線画像は尺骨頭部の近位尾側部へと延びている骨折面を示している。

(B)9孔LCPによる修復。スクリュー挿入の順を番号で示した。

1=最初の皮質骨スクリューはプレートを骨に押し付けている。

2=2番目の皮質骨スクリューはプレートを通して、lag screw となっているが、骨折を圧迫する力をかけている。

3=3番目の皮質骨スクリューは別の骨折線を圧迫するようにlag 法で挿入された。

4-9=Locked screwsは骨折をより強く安定させている。

 抗生物質含有ポリメチルメタアクリルレート(PMMA)シリンダーがインプラントの周りにあることに注意(矢印)。

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尺骨はこういう鍵型に折れることがパターンとしてある。

そこから亀裂が延びていて、TypeⅣ粉砕骨折だ、としているのだが、「骨片が3つ以上あること」という粉砕骨折の古典的な定義にはあてはまらない。

しかし、この骨折は慎重に、comminuted nature 粉砕骨折としての性質を持っていると認識して固定した方が良いのだろう。

そのことで、

LCPを使っている。

尺骨頭部に入れたscrewはしっかり長いスクリューを使っている。

ただ、double plate にはしていない。

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ひとつには、Nixon先生は成馬の尺骨骨折を扱うことが比較的多かったのでLCPの優位性を説くのだろう。

私たち生産地の馬外科医は当歳馬の尺骨骨折を手術することが多く、

すると尺骨も薄く小さいのでDCPの方がscrewを入れやすく、そしてLCP/LHS固定の頑丈さがなくても大丈夫なことが多い。

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尺骨にLCPを使うに当たっては、注意しないといけない点がある。

(D)この遠位から3本目のscrew(矢印)はやや外側を向きながら橈骨へ入っている。

橈骨外側の皮質に内側から当たっているが、削る、というほどではなかったようだ。

この馬は無事に治った。

しかし、こういう悲劇的な結果につながることもある。

この馬では遠位2本のLHSが橈骨外側の皮質に入ってしまった。

そして、その結果として橈骨骨折が起きた。

う~ん、この程度の損傷で、骨折につながってしまうのか、とも思う。

尺骨は薄い骨なので、もともとプレートを載せるのが難しい。

そして、LHSはLCPが固定されると、それに垂直にしか入らない(角度が固定される)ので、自由度はない。

LCPを載せるときに充分に注意をしなければいけないのだが、compression をかけると位置が変わるし、

遠位部は筋層も深くなるので、目視、触知しにくい。

LHSを入れないのなら、LCPを使う価値はない。

だから、私はDCPで固定できるなら尺骨骨折はLCPではなくDCPでやりたいと考えている。

しかし、粉砕しているのなら別だ。

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忙しくなってきた。

午前中は、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

分娩予定日寸前の繁殖雌馬の疝痛。

メッケル憩室腸間膜による空腸回腸捻転だった。

その手術の最中に分娩後8日の繁殖雌馬の結腸捻転。

その手術が終わる前に、黒毛の尾位難産の依頼。

後肢2本はすぐに引き出せたが、横胎向気味になっていて出てこない。

途中で母牛は倒れてしまった。

引っ張る方向を変えたらなんとか出せた。

が、今度は母牛が立たない。

「しばらく放っておきましょ」

牛はいじけてしまうと余計に立たなくなる。

2時間後、なんとか立ち上がって帰って行った。

            ー

ときどきゴジュウカラもやってくる。

林の中で、樹の幹を跳ね回り、頭が下になっても気にしない元気者。

ゴジュウカラもシジュウカラもいるけど、ロクジュウカラはいないんだよね;笑

 

 

 

 

 

 

 

 

 



6 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2023-02-26 11:27:26
 スクリューがもたらす脆弱性ということでしょか?
 神は細部に宿る。細部とはいえないことかもしれませんね。
 標本として残しておくとは。

 >いじけてしまうと余計立たなくなる
  気力と体力がなくなっちゃったんですか?助けてもらえてよかったね、牛さん。
 
 オレンジ色のヤマガラは来ますか?人をあまり恐れないので観察が楽しいです。
 昨日、猫にびっくりして窓に雀が。怪我はしたようですが飛んでいきました。
 警戒心の本質について想いをめぐらす。
 白鳥も渡りの準備を始めて晴れた日は賑やかに飛んでいます。
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>はとぽっけさん (hig)
2023-02-27 04:18:13
尺骨からスクリューがはみ出してはいけないし、橈骨の皮質を削ってはいけない、ということです。しかし、やりがちでしょ、ということで警告になっています。

立たない牛を立たすには、一気にやらないとダメなことが多いです。いじけるというか、自信をなくすのか、そうなるとしばらく放っておくしかありません。

ヤマガラもまれに来ます。オレンジ色がきれいですよね。
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Unknown (zebra)
2023-03-04 08:18:58
大変難しい手術なんですね。
術後折れた症例を見る限り、尺骨のアーチはかなり弾性的に機能しているのではないかと感じます。
プレートで弾性を損なった分の応力が集中するのではないでしょうか。
他の症例に比べスクリューの長さも不足気味に思えます。
橈骨に至るスクリューは肘関節に近いところで長いLHS一本でプレートの横滑りを阻止して、それより遠位は正中めがけてコンプレッションかけるではダメなんですかね。

脅かして起こす限界は何秒なんでしょうね。
それ以上は伏せた方が得、と判断しているのかもしれません。
しかし症例は閉鎖神経やらいろいろ伸ばしているように思えます。
もしそうなら即時の回復は期待が難しいですね。
ステロイドを即打った方が神経浮腫増悪させずという話もあるみたいですが、そこまでの踏ん切りもつかずです。私は笑
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>zebraさん (hig)
2023-03-04 19:21:29
生産地だと子馬の尺骨骨折が多くて、よく治るので甘くみがちですが、成馬の尺骨骨折はなかなか難しいです。他の骨と同じで、粉砕している率が高く、強大な力がかかります。

残念ながら、このしばらく立てなかった母牛は翌日死んでしまいました。帰ってからは草を食べたりしていたそうですが、子宮破裂していたか、大きな血管が切れていたか・・・
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Unknown (zebra)
2023-03-05 06:09:09
子馬だとよく治るんですか。
殆ど牽引力しかからないんですかね。

動脈切れて血圧が急低下し立てなくなったけど、それは止まり帰ったけど低酸素に耐えられずといった所なんでしょうか。
帝王切開で目撃した人いないんですかね。
レアな症例はないことはないの証明なので挙げてほしいものです。
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>zebraさん (hig)
2023-03-06 05:08:49
体重を支えるために圧縮される骨ではありません。引っ張られるためのレバー・取っ手だと考えています。

立ったりへたり込んだりを繰り返しましたから、大出血で、という感じではありませんでした。年齢のせいで剖検できませんでした。
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