あちこちの講習会などを聴くと、未だにロドコッカス感染症が生産牧場にとって大きな問題であることを感じる。
生産地の獣医さんたちも、ロドコッカス肺炎の治療に苦慮している。
しかし、みんなピントがずれていると私は思う
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ロドコッカス感染症を減らすためには、生後1ヶ月以内の子馬を感染から守ってやらなければならない。
先日、話した牧場も毎年ロド肺炎に困っている、と言う。
「去年、肺炎で治療していた子馬を入れていたパドックに、生まれたばかりの子馬を放しているでしょ?」
と訊くと、そうだ、との答え。
子馬は、生まれて早い時期ほどRhodococcus equi に感染しやすい。
ロド肺炎に感染した子馬は、糞便中にも大量のRhodococcus equi強毒株を排泄している。
Rhococcus equiは土壌菌で、土壌の中で生存しつづけられる。
去年、ロド肺炎子馬が汚した厩舎脇のパドックに新生子馬を放すのはRhodococcus equiに感染させるために入れているようなものだ。
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パドックを消毒した方が良いか?と訊かれることが多いが、土を消毒しようとするのは無理だ。
汚れたパドックは客土して、草を生やしておくのが良い。
子馬はその上で寝るからね。
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厩舎の中も洗浄、消毒した方が良い。
ロド肺炎の子馬は、咳をして大量の喀痰を厩舎の壁をはじめいたるところにつける。
乾いてホコリとして厩舎内で舞い上がるし、子馬は馬房内の壁をベロベロ舐める。
分娩馬房も使う前にきちんと洗浄・消毒すべきだ。
でないと、次から次へ出産してくる赤ちゃん馬を感染させることになる。
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すぐに、消毒薬は何が良い?とか消毒薬は何はダメ、とか言う話になりがちだが、
消毒より掃除・洗浄することの方がだいじ。
これは獣医師でさえ、それも感染症・伝染病を扱う獣医師でさえ誤解しているか、実践的な認識が足らない。
ホコリまみれ、汚れだらけの厩舎を消毒しようとしても無駄。
その前に、洗浄しなければならない。
有機物が残ったまま有効に消毒する方法はない。
そして、洗浄するためには、その前に厩舎を片付けて掃除しなければならない。
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ロド肺炎の子馬の多くは、生後1ヶ月以内、それも生後1-2週間以内に感染している。
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ロド肺炎の子馬が発症してくるのは30-45日齢だ。
「もっと遅くになった」という人が居るが、それは感染の初期を見逃している。
子馬が咳をしてロド肺炎として治療を始めるときに血液検査は強い炎症像を示している。
もっと前に感染し、潜伏期間を経て、化膿性肺炎が始まり、それが肺膿瘍になり、気管の中にRhodococcus equiがいっぱいの粘液が溜まり、ゴロゴロいって咳をするようになって、から、治療が始まることがほとんどだ。
潜伏期間は感染実験で10-13日。
実験馬のほとんどが発症するような菌量に暴露させないと実験にならないのでこの潜伏期間だが、自然感染ではもっと少ない菌量に暴露されているので、野外例の潜伏期間はもっと長いはず。
化膿性肺炎が始まるときに子馬は発熱する。小さな化膿性病巣が集まって肺膿瘍になるのに2-3日。
獣医さんがロド肺炎を診たときに、X線撮影や超音波検査で肺を調べると、膿瘍が確認できることがほとんど。
つまり、多くの症例は肺膿瘍ができるまでの感染初期を過ぎてから”初診”されている。
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はっきりした症状が出ないと獣医師に診療依頼しないし、獣医師もはっきりとした症状がないと検査も治療もしない。
それもその牧場にRhodococcus equiを蔓延させる。
ロド肺炎が毎年のように出る牧場の子馬は、ほとんどがRhodococcus equiに暴露される。
そのほとんどの子馬の肺に膿瘍ができる。
それでも、丈夫な子馬は自分で耐えて後遺症なく育っていく。
しかし、弱かったり、体調を崩すと肺膿瘍は大きくなり、化膿性肺炎がぶり返す。
それから治療が始まると、簡単には治らない。
膿瘍だよ?膿のかたまりだよ?切開したり排膿させたりできないんだよ?
簡単に治るわけないでしょ。
早く治したかったら、早期に治療すべきだ。
検温だけでは早期発見できないのなら、30-45日齢の子馬を血液検査や超音波検査でスクリーニングすると。良い。
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Rhodococcus equiに感染した子馬は気管内に強毒株をいっっぱい持っている。
咳をすればそれで馬房やパドックを汚す。
喀痰を飲み込んでいるので、糞便中にも強毒株が増えている。
当然、パドックはじめ放牧地もRhodococcus equi強毒株で汚れる。
その子馬は丈夫で、自分の力で悪化せずに発育しても、弱い子馬、幼い子馬は発症する。
重症化した子馬の治療に何十万もかけるより、もっと軽症の子馬を早期発見して治療した方が良いし、
なんなら早期発見のための検査に費用をかけた方が良い。
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トミー・リー・ジョーンズが登場するあのコマーシャル・シリーズは好きだ。
https://youtu.be/f9CoqIVXCUU
トミーリージョーンズの不機嫌な顔が面白いし、日本の現在を風刺していて、それでいて温かい。
コンセプトが秀逸なのだろう。

私もどういうわけか(笑)東京オリンピック馬術競技を馬外科医として手伝いに行くはめになった。
スポーツにはしばしば感動させてもらい、エネルギーをもらってきた。
まあ、その代償かな;笑
4年に一度じゃない、一生に一度だ、し。