日曜日の夕方、4ヶ月の黒毛が脛骨骨折した、との連絡。
月曜の午前中の診療をキャンセルして手術することにした。
鉄の添え木を当てて、石膏ギプスを巻かれて来た。
それなりに骨折肢の保護にはなっていた。
生乾きの石膏ギプスはギプスカッターでは切れないし、粉だらけになるので嬉しくないけど。


X線撮影して、手術適応であることを確認した。
手術台に載せて、吸入麻酔を始める。
ギプスを外してX線撮影しなおした。

脛骨近位骨幹骨折で、ピースが2つ以上あり、その他に亀裂が伸びていて骨折部が長い粉砕骨折だ。

今までの経験からdouble plates fixation した方が良いと判断した。
ブロードプレートとナロープレートの組み合わせが良いだろう。
100kgを超える子牛の脛骨長斜骨折をナローDCP2枚で内固定してうまくいったこともあるが、
完全な整復ができ、lag screws をしっかりきめれた粉砕していない骨折だった。
今回の症例は、きちんと整復してもそれだけの強度を骨に期待できない。
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尾側にあったピースはlag screwをうってピッタリ留めることができた。
こういうピースは、大きな骨体をしっかり整復してやると自然にはまり込んでくれることもあるが、
今回の症例は粉砕骨折で、骨膜も大きく破れていて、ピースが自然にはまることはなかった。
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大きな骨体どうしを合わせるのは難しくなかった。
術前の応急処置のおかげでもあっただろうし、
最初からdouble plates fixation するつもりで大きく切開したためでもあっただろう。
内側やや頭寄りに11穴ブロードDCPを当ててみる。
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近位と遠位には骨鉗子を着けてある。
指で骨を掴まないで、できるだけ器具を有効に使った方が良い。
そして、DCPを当てて、骨鉗子でDCPと骨をいっしょに掴む。
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整復reduction と仮固定がうまくいけばプレート固定手術は半分できたようなものだ。

あとはscrewをどんどん入れていけばいい。
骨幹端には6.5mm海綿骨screwを使いたい。
どのscrewも対側皮質も貫くbi-cortical で挿入したい。
しかし、それは慎重にやらないと失敗する。
遠位から4本目のscrewは、対側皮質に開けたドリル穴にうまく入らず、対側皮質を押してしまって割ってしまっているのがわかる。
外側には骨欠損部がある。
粉々に破片が飛んでいて、ピースを固定することはできない。
術前の外-内X線画像で骨幹近位に亀裂がある。
内からのDCPだけだと強度が作り出せないし、術後に固定が崩壊するリスクがある。
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計画どおり、頭側外寄りにナローDCPを当てることにした。

double plates fixation には、それゆえの難しさがある。
2枚のプレートは、screw holes が互い違いになる位置に当てなければいけない。
わかってはいたが、ドリル孔が先に入れたscrewの何本かに当たってしまった。
短いscrewを手前の皮質だけに効かすようにした(mono-cortical)。

近位部は内側に寄っているように写っているが、実際は脛骨稜の外側に当たっている。
一番近位の6.5mm海綿骨screwも成長板を貫いてはいないようだ。
繁殖雌牛にする予定の牛なので、成長板を跨ぐ内固定をしていなければプレート・スクリューは抜かなくても良い。

牛の骨折プレート固定の講習をしていると、
「傷はどうやって閉じるンですか?」
と訊かれることがある。
牛の獣医さんは、肢の外傷縫合や手術をすることが少ないからだろう。
「縫って閉じるんです」「できるだけ死腔が残らないように」
筋肉同士に糸をかけて縫合するのはお勧めしない。
筋肉は収縮しなければならないし、糸で締めれば裂けてしまう。
粗性結合組織や皮下織を縫い合わせれば傷はしっかり寄せられるはず。
もちろん皮膚もしっかり縫い合わせる。
傷を閉じる前に、プレートの周りにマイシリン原液をかけるのと、局所注射してもらっている。
手術中の落下細菌を殺してくれるはず。
手術中は15分に1回程度、マイシリン入り生理食塩液でフラッシュしている。
麻酔時間は2時間31分。
ギプスをはずし、術野を消毒するのに手間取ったので、手術時間は2時間ほどだろう。
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手術後、子牛は一度は立ち上がった。が、倒れてしまったので、そのままトラックに運び込んで帰ってもらった。
キャストは必要ない。
キャスト無しで生活できることも、子牛にストレスを与えず、成長を遅らせたりしない点で骨折内固定手術の大きなメリットだ。
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今日もきれいな夕焼けだった。