馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子牛の骨折プレート固定実習 10年目研修

2019-10-31 | 牛、ウシ、丑

朝、ほとんど高速自動車道を走って江別へ。

2時間ほどで着く。

そのあたりを散策した。

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例によって、講義してから4グループに分かれて実習。

午後も講義してから実習。

どういう訳か順調に進み、午前中に脛骨骨折のプレート固定は完成したし、

午後も、上腕骨や大腿骨のプレートをうまく完成させられた。

DRでできを確認した。

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北海道では、牛の獣医さんも骨折内固定の研修を受けていて、子牛が骨折しても手術してでも治してもらえる。

というふうになったらいいな、と真剣に期待している。

まだまだ難しいのは承知の上だ。

 


黒毛和牛4ヶ月90kgの脛骨近位骨幹粉砕骨折のdouble plates fixation

2019-10-23 | 牛、ウシ、丑

日曜日の夕方、4ヶ月の黒毛が脛骨骨折した、との連絡。

月曜の午前中の診療をキャンセルして手術することにした。

鉄の添え木を当てて、石膏ギプスを巻かれて来た。

それなりに骨折肢の保護にはなっていた。

生乾きの石膏ギプスはギプスカッターでは切れないし、粉だらけになるので嬉しくないけど。

X線撮影して、手術適応であることを確認した。

手術台に載せて、吸入麻酔を始める。

ギプスを外してX線撮影しなおした。

脛骨近位骨幹骨折で、ピースが2つ以上あり、その他に亀裂が伸びていて骨折部が長い粉砕骨折だ。

今までの経験からdouble plates fixation した方が良いと判断した。

ブロードプレートとナロープレートの組み合わせが良いだろう。

100kgを超える子牛の脛骨長斜骨折をナローDCP2枚で内固定してうまくいったこともあるが、

完全な整復ができ、lag screws をしっかりきめれた粉砕していない骨折だった。

今回の症例は、きちんと整復してもそれだけの強度を骨に期待できない。

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尾側にあったピースはlag screwをうってピッタリ留めることができた。

こういうピースは、大きな骨体をしっかり整復してやると自然にはまり込んでくれることもあるが、

今回の症例は粉砕骨折で、骨膜も大きく破れていて、ピースが自然にはまることはなかった。

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大きな骨体どうしを合わせるのは難しくなかった。

術前の応急処置のおかげでもあっただろうし、

最初からdouble plates fixation するつもりで大きく切開したためでもあっただろう。

内側やや頭寄りに11穴ブロードDCPを当ててみる。

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近位と遠位には骨鉗子を着けてある。

指で骨を掴まないで、できるだけ器具を有効に使った方が良い。

そして、DCPを当てて、骨鉗子でDCPと骨をいっしょに掴む。

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整復reduction と仮固定がうまくいけばプレート固定手術は半分できたようなものだ。

あとはscrewをどんどん入れていけばいい。

骨幹端には6.5mm海綿骨screwを使いたい。

どのscrewも対側皮質も貫くbi-cortical で挿入したい。

しかし、それは慎重にやらないと失敗する。

遠位から4本目のscrewは、対側皮質に開けたドリル穴にうまく入らず、対側皮質を押してしまって割ってしまっているのがわかる。

外側には骨欠損部がある。

粉々に破片が飛んでいて、ピースを固定することはできない。

術前の外-内X線画像で骨幹近位に亀裂がある。

内からのDCPだけだと強度が作り出せないし、術後に固定が崩壊するリスクがある。

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計画どおり、頭側外寄りにナローDCPを当てることにした。

double plates fixation には、それゆえの難しさがある。

2枚のプレートは、screw holes が互い違いになる位置に当てなければいけない。

わかってはいたが、ドリル孔が先に入れたscrewの何本かに当たってしまった。

短いscrewを手前の皮質だけに効かすようにした(mono-cortical)。

近位部は内側に寄っているように写っているが、実際は脛骨稜の外側に当たっている。

一番近位の6.5mm海綿骨screwも成長板を貫いてはいないようだ。

繁殖雌牛にする予定の牛なので、成長板を跨ぐ内固定をしていなければプレート・スクリューは抜かなくても良い。

牛の骨折プレート固定の講習をしていると、

「傷はどうやって閉じるンですか?」

と訊かれることがある。

牛の獣医さんは、肢の外傷縫合や手術をすることが少ないからだろう。

「縫って閉じるんです」「できるだけ死腔が残らないように」

筋肉同士に糸をかけて縫合するのはお勧めしない。

筋肉は収縮しなければならないし、糸で締めれば裂けてしまう。

粗性結合組織や皮下織を縫い合わせれば傷はしっかり寄せられるはず。

もちろん皮膚もしっかり縫い合わせる。

傷を閉じる前に、プレートの周りにマイシリン原液をかけるのと、局所注射してもらっている。

手術中の落下細菌を殺してくれるはず。

手術中は15分に1回程度、マイシリン入り生理食塩液でフラッシュしている。

麻酔時間は2時間31分。

ギプスをはずし、術野を消毒するのに手間取ったので、手術時間は2時間ほどだろう。

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手術後、子牛は一度は立ち上がった。が、倒れてしまったので、そのままトラックに運び込んで帰ってもらった。

キャストは必要ない。

キャスト無しで生活できることも、子牛にストレスを与えず、成長を遅らせたりしない点で骨折内固定手術の大きなメリットだ。

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今日もきれいな夕焼けだった。

 

 

 


細菌性関節炎後の骨関節症

2019-10-22 | 整形外科

3ヶ月前から股関節の細菌性関節炎を患っている当歳馬。

一時はかなり良くなっていたが、近頃は跛行が続き、寝起きも不自由だということで、股関節のX線撮影のために来院。

立位でポータブル撮影装置で撮ってみた。

なんとか、股関節臼と大腿骨頭は写るが、判然としない。

後肢を広げたり、屈曲させてやってみたいところだが、どうも後肢を広げ難いようだ。

全身麻酔して、仰臥でポータブル撮影装置で撮ってみた。

200kgほどの当歳馬なのだが、腹背V-Dだと散乱線がおおくて肝心の股関節周辺が曇ってしまう。

結局、リスホルムブレンデを入れて、大型X線撮影装置で撮ってみる。

股関節臼の形状がおかしい。

尾側が写らない。

もう数ヶ月にわたる病状だし、現在の症状を観ても、競走馬に成れるとは思えない。

あきらめて剖検することになった。

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右;悪くないほうの大腿骨頭。

正常な方の股関節臼。

患側の大腿骨頭。

丸くなく、ザラザラしていて、軟骨は薄く、もろく、不均一。溝もある。毛羽立っている部分もある。

刃物を当てると、容易に削れる。

患側の股関節臼。

尾側の関節縁にバケツの柄状に割れた痕?がある。

関節面の中央に溝がある。

軟骨は粗造で、薄く、不均一。

X線画像も、剖検での様子も、思ったよりひどくない、というのが印象。

しかし、症状はひどい。

細菌性関節炎も、離断性骨軟骨症も、骨嚢胞も、関節内の骨折も、最後はDJD変形性関節症との闘いになる。

そして、それは完勝はできない闘いになる。

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10月はじめ、20cmもないほどの赤ちゃんヘビが診療室に入ってきた。

しっぽを持って、外へ逃がしてやった。

お~っ、だいぶ大きくなったじゃないの。

君は股関節は要らないんだね。

 

 


やってみよう関節鏡 part2

2019-10-22 | How to 馬医者修行

日曜日は「やってみよう関節鏡」の第2班。

それぞれの関節の解剖は、教科書で勉強しても3Dで頭に入っているわけではない。

それだとX線撮影もなかなかうまく行かない。

決まった角度でX線撮影できるようになっても、特別な工夫をした角度の撮影は想像がつかない。

広い関節、狭い関節、そして関節を取り巻いている関節包や靭帯の構造を意識できると、関節穿刺や関節洗浄もしやすい。

「腫れている」のを触診しても、それが関節腔なのか、関節周囲なのか、腱鞘なのか、わかりやすい。

馬の獣医師が関節を扱うことはこの30年たいへんに増えたのだと思う。

それには関節鏡手術の普及が大きな役割を果たしてきた。

体験しておくことの意味は大きいと思う。

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さあ、ラグビー応援しに帰ろう!!

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負けちゃったけど、楽しませてもらったし、感動した。

サッカーにはない善さがある文化と伝統になっている。

準備して鍛錬を重ねれば今まで行けなかったところまで行けることを見せてもらった。

ありがとう!!

 


第一趾骨縦骨折のスクリュー固定

2019-10-20 | 整形外科

第一趾骨が短く縦骨折した2歳馬。

獣医さんはスクリュー固定手術を勧めたが、キャスト固定で治す選択がされた。

キャストで管理していたけど少しずつ亀裂が延びているのが確認された。

スクリュー固定手術することになった。

よく狙って・・・・

このタイプの骨折だと、このくらいがBEST position かな、と私は考えている。

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術後はキャストは巻かずに麻酔覚醒・起立させた。

後肢にハーフリムキャストを巻くなら、吊起帯を使った方が良い。

そこまでしなくても、良いだろうと判断した。

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研修センターは基礎”は”しっかりしていた。

ベタコンは無し。

そして、基礎も掘り起こされ、更地になった。