もともと牛の手術で執刀することは多くなかったし、
最近は手術全体でも執刀することは大幅に減ったのだけれど、
たまたまその年は子牛の腸閉塞の開腹手術を執刀することが何度かあった。
1年間に4頭経験し、たまたまなのかもしれないけれど4頭とも助かった。
それぞれの経験はこのブログに書いて記録し紹介したこともある。
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他の地域でも牛の腸閉塞の手術が行われているかと思ったがほとんど情報はない。
牛地帯の獣医さん数名に尋ねてみたが、あまりやってない、との回答ばかりだった。
(あとで、けっこうやります、助かります。という獣医さんにも出会った)
(九州には100頭ほどの症例成績が報告されているのも見つけた)
PubMedで検索したがやはり症例報告は数少ない。
成書を調べようとしたが、牛の臨床の本はあまり蔵書してない。
それで借りたりして成書の牛の腸閉塞の記載を調べた。
しかし、開腹手術による予後は良好だとは書いてない。
そもそも牛の腸閉塞の手術はたいへんだ、と言うようなことは書いてある。
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それなら1年間に4症例経験して、4症例とも治った、というのは症例報告しておく価値があるかもしれない、と考えた。
手遅れにせずに相談してもらうことを普及させる一助になるかもしれない。
他の地域でも積極的に腸管手術することを促進できるかもしれない。
で、書き始めた。
4症例でも書くのはたいへんな部分もある。
カルテを引っ張り出してコピーをとり、
抜け落ちている記録は担当の獣医さんに連絡をとって尋ね、
症例の写真や超音波画像を探してきてフォルダにまとめる。
成書の記載から現在の獣医学での認識を総括し、
考察につかえる文献の記載を整理しておく。
そして、書いて投稿するのだが、北海道獣医師会雑誌も校閲が入る。
受入れる部分は受け入れ、意に沿わない部分は反論する。
で、掲載された。
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学会で口頭発表する獣医さんもけっして多くはない。
発表しているメンバーを見ても限られた獣医さんが、と言ってもいいかもしれない。
学術論文や症例報告として文章にする臨床獣医師はもっと少ない。
しかし、文章にしておかないと学会抄録しか公式記録に残らない。
やがて自分の記憶さえ薄れていく。
ましてや他の人にとっては過去、であり、検索しようとしても探し出せない。
症例報告を残せるのは臨床獣医師だけだ。
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自分では優れた症例報告が書けたと思っているわけでもないし、
渾身の学術報告と思っているわけでもないのだけれど、
書く過程の中でずいぶん勉強にもなった。
そして、なんと、

令和2年度の北海道獣医師会雑誌の優秀論文賞をいただいた。
いや~こっぱずかしい;笑
謹んでお受けし、協同報告者の先生方、畜主をはじめ協力していただいた方々、校閲していただいた先生方に感謝したい。
そして、症例報告や研究論文を書こうという大動物臨床獣医師が増えてくれたら嬉しい。
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その背中は緑にキラキラ輝いているし、
裃を着けたような姿はかっこよくもあるのだが、
秋に家屋へ侵入してくるのと、臭いので嫌われている。

日が短くなり、肌寒さを感じるようになった。
秋だ。