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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

そもそも胎便停滞とは 2

2013-04-30 | 急性腹症

胎便停滞について Equine Neonatal Medicine から。つづき。

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胎便停滞は雄仔馬で起こり易いことや、妊娠期間が340日以上であった仔馬で起こり易いことが示唆されてきた。

著者の知る限り、出生時の浣腸の予防的使用は胎便停滞や胎便便秘を予防するとは思えない。

胎便停滞の仔馬は飲乳意欲をなくし、排泄しようといきみ、すこし背を丸めた特徴的な立ち方をし、しばしば尾を振り回す。

指を入れると直腸に胎便に触れるかもしれない。

疝痛、腹囲膨満、呼吸数増、落ち着きの無さ、心拍数増、がよく報告される臨床症状である。

消化管の蠕動音は普通は聞こえ、閉塞の信頼できる症状ではない。

胎便は普通、腹部単純あるいは増影X線撮影や超音波画像により判断される。

より重度の閉塞では、大量のガスが閉塞部より近位の大結腸に貯まる。

膀胱破裂が胎便停滞でいきみすぎる仔馬で起こるかもしれない。

さらに、広げられた粘膜の損傷は細菌の侵入と二次的な敗血症につながる。

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この著者も、

To the author's knowledge, prophylactic use of an enema at birth has not been shown to prevent meconium retention or impaction.

著者の知識では、出生時の1回の浣腸の予防的使用は胎便の停滞や便秘を予防するとは思えない。

と書いている。

しかし、胎便停滞すると、膀胱破裂しやすいかもしれないとか、全身性の感染を起こし易いかもしれない。と書いている。

膀胱破裂はともかく、全身性の感染の誘因になることについては実証されうる根拠はないのだろうと思う。

胎便停滞した仔馬が感染を起こし易かったとしても、この著者も書いているように、もともと弱い仔馬や感染があった仔馬が胎便停滞の症状を示したのかもしれない。

 これは、私の、それも根拠のない推測だが、仔馬が自分で努力する自然なお産は胎便の排泄をうながすのではないだろうか。

難産では子宮の中で胎便を排泄してしまう仔馬がいる。

それは羊水の胎便による汚染と誤嚥につながるので望ましいことではないが、低酸素と運動が胎便排泄の要因になるのだろう。

初乳の吸引もそうだが、人に引っ張り出されるお産ではなく、自分で這い出てくるお産の方が胎便が出やすいのではないだろうか?

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分娩は、監視カメラで見るだけにして、厩舎へ行くのをやめたという牧場もある。

母馬が神経質になって子馬を寄せ付けなくなったりすることがなくなったそうだ。

仔馬に浣腸をするのをやめた牧場もある。

別に胎便停滞が増えはしないそうだ。

さて、「慣習」「伝統」はときに見直してみる必要がある。

どう思いますか?

                       /////////////

朝、電話で起こされた。

てっきり入院馬の輸液がなくなったのかと思ったら、

ぜんぜん別な仔馬の疝痛の依頼だった。

来院しても転がりまわってただ事ではない痛がり方。

22日齢。

フルニキシンを投与して効かず、

メデトミジンで鎮静しても、覚めたらまた痛い。

しかし、血液検査でひどい異常はなく、

超音波でも蠕動亢進のみ。

ロタは陰性。

ブチルスコポラミンで過剰な蠕動を抑える方法もあるが、膨満してくと嫌なので投与せず様子を観る。

発症から2時間半。

痛みはケロッと落ち着いた。

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Dsc_2512

今日は日中、冷たい雨。

きのう、おとついは風が強かった。

寒いゴールデンウィークだ。

仕事しなければいけないんだから、せめて晴れて暖かい好天であって欲しい・・・

あんまり好い行楽日和だと、それはそれで恨めしいんだけどね;笑。


そもそも胎便停滞とは 

2013-04-29 | 急性腹症

今日は、1歳馬の飛節軟腫の診察。

てっきりOCDがあるだろうと思ったらX線検査異常なし。

続いて、1歳馬の上顎切歯骨骨折と歯肉損傷。

鎮静、眼窩下孔ブロックして、立位で縫合する。

午後、軟口蓋裂の当歳馬の内視鏡検査。

その後、1ヶ月齢の仔馬の下顎骨折のプレート固定手術。

夕方、15時間齢の仔馬の疝痛。

胎便停滞のようだった。

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さて、忙しさにかまけて中断していた胎便について考えるシリーズ。

現在、もっとも信頼するに足る馬新生児学の教科書だと思っている Equine Neonatal Medicine から、「胎便停滞」について。

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胎便停滞

 胎便は新生仔馬の、粘着性のキャラメルのように固まった糞便で、消化管の分泌物、嚥下された羊水、そして?がれた細胞の残骸でできている。

30頭の仔馬についてのある研究では、胎便の総量は仔馬の体重の1%あった。

ほとんどの仔馬は初乳を初めて飲むとすぐに胎便を排泄する。初乳は緩下剤として、そして胃結腸反射の刺激として働く。

(gastrocolonic reflex  食べると出したくなる「あの」反射だね;笑)

胎便のほとんどは生後12時間以内に排泄され、ゆるく黄色い「乳の」便に変わる。

しかし、新生仔仮死、未熟、敗血症、脳症のような病気を持っていると通過は遅れることがある。

胎便停滞は充分な量の胎便を排泄することの失敗を暗示していて、それにより結腸の閉塞の症状を起こしている。

痛み、排泄しようとするいきみ、そして腹囲膨満で、胎便が詰まった部分の近位の消化管にガスが二次的に貯まっている。

(つづく)

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P4294192

 出生後の疝痛のほとんどは胎便停滞によるものだ。

腸管の奇形による疝痛ではないか緊張するが、たいていは胎ある程度胎便が通過しているので、奇形による閉塞ではないことが見当がつく。

胎便停滞なら、治療法は浣腸しかないと考えている。

しかし、仔馬はとても弱く、いろいろな問題を抱えていたり、新たに二次的な問題を抱えこんだりしやすい。

生産牧場の多くが予防的に浣腸をしている理由もそこににあるのだろう。                        

                         //////

P4294185 とうちゃん

今週はオラにサービスする週らしいゾ

「い~え

この仕事についてから

ご~るでんうぃ~くは関係ありませんっ!!」


結腸腸間膜裂

2013-04-28 | 急性腹症

P7192552 この繁殖雌馬は、現役競走馬のとき他の施設で小腸閉塞で開腹手術を受けている。

繁殖雌馬になって疝痛で開腹手術したら、結腸の腸間膜が裂けていて結腸がメビウスの帯のように捻れたことによる結腸閉塞のようだった。

結腸の腸間膜を縫合したのだが・・・・・

1年以上経って再発した。

3度目の開腹手術をしたら、また結腸の腸間膜に孔が開いていた。

(写真)

癒合しなかったのか、また裂けたのか・・・・

今度は非吸収性のモノフィラメント縫合糸(プロリーン)で縫合した。

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そして、翌年分娩したが、その翌日またまた疝痛。

4度目の開腹手術。

P4054054 前より裂孔は小さいが、同じことになっている。

非吸収性モノフィラメントの糸は癒合した腸間膜の中に残っている。

裂けたと思われる部分は、癒合したあとがあり、

それがまた裂けたようだ。

結腸壁の漿膜に縫い付けたと思われる部分では、漿膜が剥がされたように薄くなっている箇所もあった。

どうやら、この馬の結腸腸間膜は、癒合してもまた裂けてしまうようだ。 

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仕方がないので大結腸亜全摘を行うことにした。

結腸捻転と違い、結腸は血行障害を起こしていないので、結腸動脈はものすごい血流量で波打つほどに拍動している。

それを何重にか縫合止血して、腹側結腸と背側結腸を切断し、2層縫合で吻合した。

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手術を終えたのが午後3時。

夜、前掻きするようになった。

夜中、前掻きし、横臥した。

心拍数は60と術後としては多くはないが、口粘膜は貧血気味。

フルニキシンとブトルファノールを投与するが、1時間もしないでさらに疝痛を示す。

超音波で検査すると、腹腔に腹水が多い。

術創から血様漿液が滴下している。

4度目の開腹手術で腹壁が薄く、結合織化しているので閉腹には気を使ったが密着させられなかったのだろう。

結腸動脈から出血しているか??

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再開腹を決断した。

腹腔内には血様腹水があり、3リットルほど吸引できたが、新たな出血はなかった。

止血してあった結腸動脈も見た目は異常なし。

小結腸の中に血便が溜まっていた。P4064057

これは吻合部で腸内へ出血したのだろう。

それももう既に止まっているようで鮮血便ではない。

P4064058 昼間の手術では触っていない小腸壁にかなりの点状出血がある部分が数箇所あった。

術後のDIC???

小腸内容を盲腸へ推送し、盲腸をガス抜きし、結腸吻合部の通過を確かめ、小結腸の血便を推送し、閉腹した。

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供血馬を連れてきてもらって、5?採血し輸血する。

心配したが、麻酔中も覚醒もさほど問題なかった。

入院厩舎へ戻ったのが朝5時。

術後は、疝痛もなく食欲も出た。

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しかし、退院してからも不調が続いたようだ。

それでも、回復した。

私たちは魔法使いではない。

簡単に治せたり、救えたりできるわけではない。

                     ///////////

P4284179 あら~

どうしたの

可愛く、おとなしくなっちゃって~

            


疝痛万来2

2013-04-28 | 急性腹症

朝、繁殖雌馬の疝痛の来院。

立っていられないほど痛い。

PCV60%超。

即、開腹手術。

結腸捻転だった。

                          -

昼は血液検査業務。

2時には午前中予定していた陰嚢ヘルニアを疑う仔馬の診察。P4274169

「ひどくはない」「まだ手術はしなくて良いと思う」と聞いていたが・・・

陰嚢ヘルニアではなく、皮下に腸管がたくさんある。

腹壁が大きく裂けたことによるヘルニアだった。

大手術になった。

                          -P4274174

その後、予定していた妊娠末期の繁殖雌馬の2度目の開腹手術。

予想したとおり小結腸閉塞だった。

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その間に、難産も来院。

膣穿孔も起こしていたようだ。

                          -

これらの間に、胎便停滞らしい仔馬の疝痛の依頼。

胎便停滞なら原因治療は浣腸しかないし、こちらには浣腸している人手がない。

血液検査の問い合わせもあった。

結果はFAX してあるし、こちらは診療室と手術室を離れる暇もない。

ほかに外傷の連絡。

関節炎の処置の依頼。

                        ///////////

P4224131

オラ、せんたくものにいたずらしないで

イイ子で待ってたのに

とうちゃんおそくまで帰って来なかった

ハラへったし

サンポもなしだったから

ガウガウしてやった


忙しい朝

2013-04-26 | 日常

入院馬が2頭居て・・・・

1頭は経過思わしくなく・・・・

夜、輸液を補充したが厳しい。

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明け方4時過ぎ、電話で起こされる。

入院馬かと思いきや、きのうからの1歳馬の疝痛。

その後すぐに入院馬も「思わしくない」連絡。

運び出して、剖検する。

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退院する方も検査と治療。

5時半。

開腹手術の準備をしながら検査する。

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開腹手術は8時前には終わった。

今朝は相棒と散歩に行けなかった。

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午前中、繁殖雌馬の歯科治療。

全身麻酔下で、斜歯を削り、過長歯を折り、すきまを拡張する。

続いて、2歳馬の「肩跛行」。

神経ブロックで見当をつけ、X線撮影する。

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午後は血液検査。

その後、4歳競走馬の喉頭片麻痺のTieback&Cordectomy

完全に左背側披裂輪状筋がなくなっていた。

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Bakayaro