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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

ある結腸捻転

2016-06-29 | 急性腹症

今日は、

1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

私は今週は検査当番。

午後も飛節OCDの関節鏡手術。

その最中、繁殖雌馬の疝痛の来院。

夜間放牧明けで、朝飼いはきれいに食べて(どうして食わすの!?)、

昼前に2回目の飼い付けにいったら(どうしてそんなに食わすの?!)ひどい疝痛で、

鎮痛剤も鎮静剤もほとんど効果がなく、

午後1時半に来院した。

PCV54%、乳酸値5.8mmol/l。

20歳で、今年はとまっていない(受胎しなかった)。

来年はもう種付けするつもりはない、とのこと。

それでは手術対象にならない。

直腸検査すると、結腸紐がひん曲がって緊張し、結腸壁も厚い。

超音波画像診断でも、結腸の肥厚が確認された。

あきらめることにした。

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ここからは剖検写真です。

見たくない人は見ないように。

左が頭側。骨盤曲が頭側へ行っている。

盲腸が頭側左にある。

大結腸と盲腸が入れ替わるように捻れている。おそらくは前回り。

これだけ大きく開腹しても、捻転を直すのは大事業。

これでまともな位置関係になった。

盲腸と結腸の基部は右側にあり、結腸の走行は、右腹側結腸、左腹側結腸、左背側結腸、右背側結腸となる。

いつも手術のときのように両後肢の間へ大結腸を出したところ。

結腸の粘膜は基部でもほぼ壊死の状態。

これでは手術しても厳しかったかもしれない。

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白内障の1歳馬の診察。

夕方、牧柵を飛び越えて陰部から半腱半膜様筋を怪我した1歳馬の縫合処置。

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さくらんぼが生っている。熟すと黒くなるようだ。Black cherry?

ケンタッキーで大きな被害をもたらした奇病の原因は、ブラックチェリーに大発生した天幕毛虫の毛を馬が食べてしまうことにあったようだ。

ケンタッキーではパドックの周りのブラックチェリーを多くの牧場が切り倒した、とも聞いた。

さて・・・・

 

 

 

 


球節底側の骨軟骨片

2016-06-26 | 関節鏡手術

球節が腫れるのを繰り返している1歳馬。

X線撮影で底側に骨片らしきものが写った、とのこと。

どこから欠けたか、剝がれたかわからない。

球節底側に関節鏡を入れたが、フィブリンがいっぱいあって関節腔内が見え難い。

まずはそのフィブリンを引っ張り出す。

関節内にかなりの出血があった痕だ。

フィブリンを取り出しているうちに、遊離体になった軟骨片があったので摘出した(下写真の左)。

第三中足骨の矢状稜の端に出っ張りがあった。

圧迫するとどうやら動くようなので、剥がして摘出した(右)。

X線撮影して、それが矢状稜の近位に写っていた骨片であったことを確認する。

矢状稜の底側の近位部のOCDだったのだろう。

軟骨が剝がれた部分と、剥がれかけて残っていた部分があり、軟骨が剝がれたときに出血したのだ。

種子骨の関節面には関節可動方法へ走る線状創が何本もあった。

遊離体になった軟骨と出っ張った部分が傷つけたのだ。

これで症状も落ち着くだろう。

中手骨・中足骨の矢状稜は、掌側や底側にもOCDが起こることがあるとされているが、手術でこんな大きな骨片を摘出したのは初めてだ。

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日曜日の今日、

ほかに腸炎の仔馬の来院。

蹄葉炎の繁殖雌馬の深屈腱切断手術と削蹄。

仔馬の肢軸異常の蹄エクステンション装着。

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アスファルト舗装道路の端のわずかな土の上に生えているこの植物は何だろう?

草のようでもあり、コケのようでもある。

花らしきものも咲く。

葉も花も、色が変わるのよ。

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ドゥラメンテ、どうした、心配だね。

 


6月の雨が止んだら

2016-06-25 | 急性腹症

きのうは、夕方、当歳馬の疝痛の来院。

腹囲膨満して、転がるほど痛い。

しかし、立っていられないほどではない。

血液検査所見はそれほど悪くない。

「下痢便をした」とのこと。

しかし、ロタは陰性。

蠕動は亢進していて、ガスと液体の移動音が聴こえる。

超音波画像診断では、小腸も大腸も液で膨満しているが、蠕動がある。

腸炎による疝痛だろうと判断して入院厩舎で様子を観る。

その日2回目のフルニキシンを投与したが、入院馬房で滾転する。

トリメトプリム・サルファを静脈内投与した。

                       -

その仔馬は手術しないで様子を観ることにしたので、前日から疝痛を示す繁殖雌馬を検査に来院してもらう。

「朝は食べさせたら転がるほど痛がった」とのこと。

PCVは40前半。乳酸値は1.2mmol/l。

超音波検査では、左下腹部から正中あたりで中程度に膨満した小腸が見える。

少し肥厚してもいる。

右腎臓の脇の十二指腸も拡張しているが、盛んに動いている。

収縮した小腸も見える。

朝から絶食しているので、胃内視鏡検査をしたら無腺部にかなりの胃潰瘍があった。

上位小腸の閉塞で胃拡張を起こし、二次的に胃潰瘍ができたのだろうと推察する。

わずかに見える肝臓の右葉には高エコー像が散在している。何だ?

近位空腸炎を想定して、絶食絶水で、持続点滴で水分給与し、メトクロプラミドも点滴することにした。

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夜9時過ぎ、電話で呼ばれる。

どちらかの馬の状態が「悪くなったのか?」と思ったら、別な繁殖雌馬を開腹手術したい、とのこと。

10日前にも疝痛で来院した馬。

「食い過ぎですよ」と言ったはずなのに・・・・

PCV58%、乳酸5.6mmol/l。

夜7時に夜飼いに行って見つけたとのこと。しかし、ひどく痛かったらしく、あちこち擦りむいている。

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手術準備しているときに、別な牧場の繁殖雌馬の診療依頼。

「これから開腹手術するところなので、1-2時間は対応できません」と断ったら、「じゃあ後で・・・」と言うので、

「他所へ頼んだ方がいいです」と応える。

1・2・3時間くらいが生死の分かれ目なのだ。

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急いで開腹したが、大結腸はチアノーゼがひどい。

引っ張り出して、結腸骨盤曲を切開して、内容を捨てて、後ろ回りに360°回転させて捻転は完全に整復したが・・・・・・

青紫が、赤紫になっただけ。

透けて見える漿膜の中は暗赤色をしている。

骨盤曲の切開部の粘膜も色調が悪く壊死の状態。

結腸動脈周囲は出血し、浮腫を起こし、動脈の拍動はあるものの弱い。

結腸根部にも健康な部分は残っておらず、結腸亜全摘しても厳しい。

あきらめて解剖場で根部を切開してみたが、やはり粘膜、粘膜下織、筋層まで損傷がある。

腹側結腸も背側結腸も・・・・

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その手術中に、別な牧場の繁殖雌馬の疝痛の依頼。

もうあきらめなければ、と決めていたところなので、来院するように指示した。

その馬は来院したら、痛くて立っていられない・・・どころか転がりまわって近づけないほど。

血液はPCV52%、乳酸値4.3mmol/l。

急いで開腹する。

結腸捻転だが、結腸の損傷は中程度。

内容を抜いて、捻転を整復したら色調はほとんど回復した。

終わって、入院厩舎に輸液を用意して、夜中の1時半。

夕方から入院した当歳馬はガスが抜けて疝痛が治まり、夜のうちに帰って行った。

小腸閉塞の繁殖雌馬も疝痛もなく、調子良さそうだ。

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朝、いつもより遅い朝食を食べようとしていたら、「疝痛馬を開腹したい」との電話。

昨晩、連れて来たかった疝痛馬で、他所でも引き受けてもらえなかったらしい。

PCVは70%を超えており、チアノーゼもある、とのこと。

助かる可能性はないので、あきらめるように指示する。

ダメなことを確認するためだけに開腹手術するべきではない。

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すっかり生い茂り

背が伸びて

穂が実った雑草の群れ。

もう夏草の様相だ。

数日雨が続いたので、「この雨が止んだら疝痛のラッシュが来るぞ」と思っていた。

口にするのは恐ろしいので言わないけど。

このブログには書いといたでしょ。食べさせすぎるなって。

腹へっても食べ過ぎはダメよね~


尺骨骨折の診断

2016-06-20 | 整形外科

今日は、

2歳馬の胸下の血腫切開の後にできた腫瘤の切除。

と思っていたのだが・・・・

胸下に血腫ができて、3週間経って切開したら血様漿液が出た。その後、1ヶ月経ったが、塊状に残っているので切除したい、との経過。

触られるのを嫌がるようなので、すぐに全身麻酔する。

吸入麻酔でなくて、プロポフォールによる静脈麻酔で維持できるだろう。

手術室ではなく、倒馬室でエアマットに仰臥位で乗せる。

触ると弾力があるので、まだ液が溜まっているかも?と思ったら、案の定、袋状組織になっていた。

皮膚は舟型に切除し、袋状組織は切り開いてしまったので、その船底にあたる部分を摘出する。

腕節や球節などの血腫形成のあとにできた滑液腫の摘出とかわらない。

関節のそばや、滑液嚢のそばだと、滑液腫と呼びたいところだが、胸の下なので、関節も滑液嚢もない。

血腫のあとの袋状結合織と言うしかないかもしれない。

内容は黄色く濁った液とフィブリンだった。(膿でなくてよかった!)

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続いて、前日から跛行している当歳馬の診察。

かなりの跛行だが、負重できる瞬間もある。

肘は落ちていない。

しかし、肩甲骨のあたりが腫れているように思える。

昨日は体温39℃、フルニキシン投与したのに今日は38.8℃、とのこと。

肩甲骨、上腕骨、肩関節を立位でX線撮影するが異常なし。

超音波で、肩甲骨、上腕三頭筋、腋下を観るが、骨折所見も、血腫も、ない。

肩関節の関節液も増量していない。

上腕二頭筋滑液嚢も滑液増量なし。

肘関節を観たら・・・関節液とは性状が違うが増量しているように見えた。

消毒して、穿刺したら血液が出てきた。部位を変えて刺しても血液が出てくる。

それで、肘関節をX線撮影したら、尺骨骨折が判明した。

何のことはない。最初から肘もX線撮影すれば良かったのだ。

尺骨骨折すると肘が落ちるような典型的な跛行を示すことが多い。

尺骨は上腕三頭筋で肘を引きあげるためのレバーの役目を果たす骨だからだ。

上腕三頭筋あたりが腫れて見えたのにもだまされた。

おそらく、上腕三頭筋を緊張させると痛いので、他の筋肉で腋を閉めて、上腕三頭筋は弛緩させているので、腫れて見えたのだ。

尺骨の骨折線は開いていないので、4-5日後に再度X線撮影してもらうことにした。

開いてこなければ保存療法で治癒する。

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それから、当歳馬の疝痛。

超音波画像診断装置で、小腸の完全な膨満が確認できた。

開腹手術したら空腸纏絡だった。

損傷部の末端で切断して、損傷部を廃液ホースに使って腸内容を捨てる。

健常部の末端で切断し、先に切断した回腸と端々吻合した。

あとは腸間膜を縫合して、腹腔内のサイトカインをいっぱい含んでいるだろう腹水をできるだけ洗って、閉腹する。

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今日は大雨で、午後に予定していた重種仔馬に蹄エクステンションを着ける処置は延期してもらった。

蹄が濡れて湿っていたのでは樹脂の接着が悪い。

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このブログには何度も書いてきた。

もう馬回虫をイベルメクチンで駆虫しようとするのは無理だ。

と言っても、牧場は薬剤名を覚えていないことが多いので、獣医師が牧場ごとにきちんと指導・指示してあげた方が良い。

「虫の居所が悪い」「腹の虫がおさまらない」などの言葉が残っているのは、昔の人も寄生虫が悪さをしているのを知っていたのだろう。

おそらく、具合が悪くなった人が、寄生虫を吐いたり、便に寄生虫が出てくることがあったのだろう。

この業界に獣医師が居る価値は、正しい情報を普及させることにもあると思う。

 

 


会議の翌日の土曜日

2016-06-18 | 日常

きのうは北海道獣医師会の代議員会だった。

けっこうもめる。

大雨の日で、すごしやすい室温だったが、狭い会場に50代60代のおじさんがびっしり詰め込まれて、厳しい意見のやり取りを聴いているのは不快指数の高いこと;笑

日本人ももっとディベートやディスカッションを習って身につければ、明るく楽しく前向きに討議を進められるようになるのだろうか。

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今日は、午前中、十勝から来た乗馬種の1歳の飛節OCDの関節鏡手術と去勢。

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きのうは、やはり他の地域から重種馬の疝痛が来たそうだ。

開腹したがすでに盲腸破裂していた、とのこと。

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それで、翌日にずらされた症例。

7週齢の仔馬の蹄内の化膿。

どうしてこうなったのかわからない。

両後肢。

このあともっと蹄尖を切り広げた。

化膿は蹄骨を溶かし、蹄底を浮かせ、蹄球近くまで広がっていた。

仔馬は感染に弱いし、骨も蹄組織も柔らかい。

感染、あるいは化膿したら、早くドレナージ(排膿or廃液)してやらないと、ひどいことになりかねない。

ある程度の深さになったら、装蹄師・削蹄師さんには無理で、獣医師が対応しなければならないと思う。