この秋は、子牛の骨折内固定の講習であちこちへ出かけて、すっかり意識がそちらへ行ってしまった。
本業に戻らないと (って馬の開腹か?;笑)
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腸管手術したのに、術後も疝痛を示すPOI (Post Operative Ileus 術後イレウス)は外科医の悪夢だ。
Florida大学のDavid E. Freeman教授のグループが、空腸絞扼の外科手術後の早期の再開腹について書いている。
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Response to early repeat celiotomy in horses after a surgical treatment of jejunal strangulation
空腸絞扼の外科手術後の馬における早期再開腹への反応
Veterinary Surgery, 2017; 46: 843-850
要約
目的: 空腸絞扼で手術された馬での早期の再開腹後の予後を求めること。
研究のデザイン: 回顧的症例調査。
動物: 空腸空腸吻合によって絞扼性の空腸病変を外科治療行った馬(n=14)と切除しなかった馬(n=8)で、術後の胃液逆流(POR;Postoperative Reflux)と術後疝痛(POC;Postoperative Colic)、あるいはそのどちらかにより再開腹した馬(n=22)。
方法: 再手術前の症状を示した時間、手術時の所見と治療内容、そして結果について診療記録を調べた。
長期間追跡は、電話での聴き取りで生存を記録した。
手術のタイミングへのPOCとPORの影響を分析した。
長期間の生存はKaplan-Meier分析により検定した。
結果: 最開腹は最初の手術後、中央値57時間で、症状の始まりから16.5時間で行われた。
そして、POCがあった馬は、PORがあった馬に比べてより早かった(P<.05)。
全部で22頭中3頭が麻酔中に安楽殺された。
1回目に空腸空腸吻合を行った11頭のうち全部で9頭が、吻合部の問題によって元の吻合部の切除を必要とした。
切除していなかった8頭では、2回目の手術は切除(4頭)あるいは減圧(4頭)であった。
再開腹は、PORを示した馬16頭中13頭で成功した。
再開腹でPOCは全頭(n=9)で取り除かれた。
全部で19頭が麻酔から覚醒し、全頭が生存して退院した。
2回の手術は同じ腹部正中切開で行われ、術創感染が17頭中13頭で診断され、ヘルニアが感染した術創13のうち4頭で起こった。
生存期間の中央値は90ヶ月であった。
結論: 再開腹によってPORかPOCあるいはその両方を取り除くことができる。
そして再手術はPORを悪化させることはないと思われた。
今回の調査での再開腹の判定基準は、空腸絞扼の術後のPOCとPORを治療するガイドラインとなりうる。
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私の経験と似通っていると思う。
1回目の開腹手術が終わる。
たいていはそれで疝痛が消えるが、術後も不快感が続くことがある。
あるいは、絶食中は順調だが、食べさせ始めると疝痛を起こしたりする。
蠕動を亢進させる薬を点滴したり、リドカインを投与して様子を観るが、駄目なら2回目の開腹を考えることになる。
最初の手術から57時間、これはちょっと遅いか。
症状開始から16.5時間、これは内科的対応とその反応を観ることを思えば早いか。
疝痛を示す症例POCで、逆流を示す症例PORより早いのはそうだろう。
逆流には胃カテで対応できるが、疝痛が続くなら早く開けなければならない。
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22頭のうち3頭は再手術中にあきらめて、残りの19頭は退院できた。
これは良い成績だが、短期間に2回開腹すると癒着しやすいし、術創のトラブルも多くなる。
それでも、2回目であろうと、やらなければならないときはやらなければならない。
馬の腸管手術について、次々と成績をまとめておられるDavid E.Freeman先生に心から敬意を表する。
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この文献に紹介されている2回目の開腹をせざるを得なかった病変。
空腸局部的な緊縮。
腸間膜の裂孔で絞扼されていたのを整復した87時間後。
最初の手術ではこの緊縮の徴候はなかった。
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空腸空腸吻合部での通過障害。
A, 吻合部(矢印)の吻側が膨満している。
B, 同じ部位を開けると吻側の内容物と、反吻側の暗色になった粘膜(右側)が見える。
38時間前の最初の手術時はこの粘膜は正常だった。
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空腸の、血栓のできた静脈と、それに関連した赤と青に変色し水腫を起こしている梗塞部(白矢印)。
最初の手術から12時間後。
最初の吻合部は黒矢印で示されている。
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腸間膜の血腫による牽引のために、腸間膜が短くなって空腸空腸吻合部(矢印)が捻れた。
その血腫は33時間前の最初の手術時には創外へ出せたが、2回目の手術時には不可能だった(左が吻側)。
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2回目の開腹手術をしなければならなくなるいくつかのパターンがおわかりいただけただろうか。
最初の手術に問題がなくても、術後の腸閉塞が起こることは十分ありうるのだ。
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麻酔から覚醒した19頭のうち18頭で6ヶ月以上の追跡が可能だった。
18頭のうち17頭は6ヶ月後には生存していた。
1頭は手術から12ヶ月後に放牧地で死んでいるのが発見された。原因不明。
もう1頭は手術から18ヶ月後に疝痛の検査中に直腸損傷し安楽殺された。空腸空腸癒着が剖検で見つかった。
他の4頭の安楽殺の理由は、手術後6ヵ月後のひどい疝痛(1ヶ所の癒着が空腸10cmの絞扼した)、30ヶ月後のひどい疝痛(剖検なし)、72ヵ月後の事故、92ヶ月後の蹄葉炎とCushing病、であった。
残りの12頭は術後6-108ヶ月は生存しており、中央値は90ヶ月であった。
2頭の繁殖雌馬は手術時に妊娠5・6ヶ月であり、退院から1ヶ月以内に2頭とも流産した。
1頭は以前の活動(レベル4のドレッサージ)には戻らなかった。調教中の軽度の疝痛によるものであった。
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つまるところ、22頭再開腹し、3頭は術中にあきらめ、半年以上生存して”無事”だったのは12頭あまり。
(30ヶ月生きていたら、ひどい疝痛、おそらく癒着でもあったのだろうが、2年以上経っているから例えば繁殖雌馬なら仔馬を産めたかもしれないし、競走馬だって競馬できたかもしれない。)
(72ヶ月後の突発事故を2回の腸管手術と関連付けるのは無意味だろう。92ヶ月後の蹄葉炎による安楽殺も御同様。)
2回目の開腹をしなければならない場合、予後は当然1回ですんなり治った場合より厳しくなるが、必要ならやるしかない。
私の患畜は、繁殖雌馬が多く、たいていは妊娠中だ。
なんとか生き延びてお腹の子だけでも産ませることができれば、そしてできれば育ててくれれば、開腹手術で救命した価値があると考えている。
あとは牧場やオーナー側の判断だ。
よく「腹の子だいじょうぶだろうか?」と訊かれる。
母馬が生きる死ぬなのに腹の子を心配してどうする。やらなければ母子ともに死ぬ。
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おいで~って呼んで、
すぐに戻って来るなら、
もっと自由に散歩してやれるんだけどね。